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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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トラブルメーカーっていうのは主人公の必須スキルですよね?

 「こんばんわ。待ってたわよ。」

 俺が部屋の中に忍び込むと、声をかけてくるカリーナさん。

 うーん、気配は出来る限り消したはずなのに、なぜ簡単に見破られるのだろう?

 「こんばんわ。遅くなりました。」

 「ウム、領主を待たせるのはお前位なものだぞ。」

 俺が挨拶を返すと、クロードが笑いながらそう言った。

 

 「じゃぁ、お詫びに商談から始めましょうか。」

 俺は御茶うけに持ってきたクッキーをメイドさんに渡し、プリンをテーブルの上に出す。

 「ん?このプリンを売り出すのか?」

 「これは単なるお土産ですよ。食べたかったでしょ、どうぞ。」

 俺は二人にプリンをすすめる。

 「ウム、美味しいな。レシピを教えてもらうわけにはいかんのか?」

 「教えるのは構わないんですけどね……これ玉子からできてるんですよ。玉子の買い占めをやられると、ちょっと……。」

 「そうか……。」

 俺の言葉に、非常に残念そうな顔をするクロードさん。

 

 「そこで相談なんですが、この領都の側で玉子の生産をしませんか?」

 「どういうことだ?」

 「玉子の生産地は、ここから馬車で5日ほど行ったところにある、メリィの村。そのそばにある「魔の森」で村人たちが拾い集めてくる。森には魔獣がいるため長居は出来ず集められる数には限りがあり、また、鮮度を保つために冷却の魔法を使える者を雇うか、特急便にて運ばなくてはならないため輸送費がかかる。その為玉子の売価が高くなる……そうですよね?」

 「その通りだ。だがそれが?」

 クロードさんが怪訝そうに聞いてくる。

 「その玉子が、近隣の村で生産出来たらどうなります?」 

 「……それは、安く仕入れることが出来るな。」

 「ですよね?加えて、このプリンのような玉子を使ったレシピが広まったら?」

 「玉子の需要が多くなる……か?」

 クロードさんは状況は分かるものの、それが商談とどうつながるのかが分からないようだ。


 「俺達は、近々王都に行こうかと思うんですよ。そこで、玉子を使ったレシピを広めたらどうなりますかね?」

 「そうか、王都で玉子の需要が高まれば、近隣の領地から買い上げることになる。ここは王都から3日と近いから、この領都で玉子の生産をしていることが伝われば……。」

 はい、正解です、よくできました。

 俺は心の中で拍手をする。

 森で拾うより、飼育に成功すれば生産量はぐっと跳ね上がる。

 大量の玉子が溢れれば、街の人もそれほど負担なく気軽に玉子を手に入れられる。

 また、それだけあれば王都に販売するだけの量も賄えるだろう。

 仕入れ値が安いので、他所より安く販売しても十分元が取れるというわけだ。


 「しかし、どうやって生産する?玉子を産んでいるのは空を飛ぶ鳥だとか?捕まえるのも一苦労だぞ。」

 「そのあたりは俺に考えがありますが、まずは現地に行って調査してこないといけないと思うんですよ。ここで相談なんですが、領主の館にちょくちょく遊びに来るような、暇を持て余している冒険者に、玉子の調査と生産の指名依頼を出しませんか?」

 俺はニヤリと笑って、クロードさんを見る。

 クロードさんも俺を見てニヤリと笑う。


 「そうだな、さっそく明日にでも依頼を出しておこう。しかし、依頼料はどうする?」

 「そうですね、金銭はいりませんので、玉子の生産時に条件をつけさせてもらう事でどうですか?」

 「どういうことだ?」

 「玉子が沢山生産できるのに、今まで通りの値で卸されたんじゃ、意味がないですからね、高くならないような条件を付ける事と、後は私の方に一定量優先的に回してもらうって感じですかね。」

 「それくらいなら、生産者特権という事でいくらでも可能だろう。」

 「あ、だったら、アリスの身柄を一定期間確保させてもらうのは……。」

 俺がそう言うと、いきなり場の空気が変わる。


 「お、お前、アリスを狙っていたのか!」

 クロードさんが怒気を孕んだ目でこっちを見てくる。

 「んー、アリスを嫁に出すのはまだ早いかなぁ?上の子で我慢しない?」

 カリーナさんもそんな事を言ってくる。

 「ち、違いますよ!」

 俺は慌てて二人に否定する。

 「王都に行くとき、一緒に連れて行けないかなぁって思ったんですよ。一応リオナとレムも連れて行くつもりなので、レムの遊び相手に丁度いいかと。」


 実際、レムはアリスと会えるのは嬉しいらしいが、場所が領主の館だとどうしても気後れしてしまうらしい。

 なので、一緒に旅をすれば、旅の間は気兼ねなく付き合えるだろうという、俺の配慮だ。

 そのことを説明すると、二人は一応納得してくれた。

 クロードさんは、まだ少し疑っているみたいだったけど……。 


 まぁ、なんだかんだで、商談は成立した。

 商談が終わったことを見計らって、カリーナさんが声をかけてくる。

 「それで、本題は何なのかしら?まさか今の話をする為だけに来たんじゃないでしょう?」

 「そうですね、幾つか、相談したいことがありまして……。」

 俺は、居住まいを正して、頭を切り替える。

 「まず、あなた方の所にグランベルク及びハッシュベルクの情報は入って来てないでしょうか?」

 「情報と言っても……何が知りたいのかしら?分かってると思うけど、言える事と言えない事が有るのよ?」

 カリーナさんが困ったように言ってくる。

 「それは分かってますが……知りたいのは、グランベルクで何か事件が起きていないか?後は、ハッシュベルクの現状……特に王女に関して何か情報が流れてないか?という事です。」

 俺はカリーナさんに、ギルド便で出した手紙の返事がまだ来ない事を話す。

 ギルド便は情報の迅速さを大事にするため、特殊な方法が用いられており、通常の半分の期間で相手に届く。

 そのため利用料も高くなっているので、返信は普通便を使ったとも考えられる。

 しかし、俺達がこの街に来てから4か月以上が過ぎている。

 いくらなんでも、そろそろ返事が来ないとおかしい頃だ。

 

 返事が来ない理由としていくつか考えられる。

 まず一つは、単純に遅れているだけ。

 行きもしくは帰りの便で何らかのトラブルが起きていたりする場合だ。

 この場合なら、もう少し待っていれば解決する。


 次に、俺達の手紙を相手が見ていない場合。

 これは二つの場合が考えられる。

 まずは、何らかの意思が働いて、相手に手紙が渡ってない場合。

 これはギルドがそう言う事をするとは考えられないから、ギルドに圧力をかけている者がいる……つまり、俺達にとっての敵が存在するという事になる。

 または、相手が手紙を見れない場合。

 考えたくはないが、すでに死亡しているとか、もしくは捕われている、逃げ出している等で、手紙を見ることが出来ない状態……この場合は、やはり敵がいる可能性があり、またアイツらが助けを待っているかもしれない。


 最後に、俺達と同じように別の場所に飛ばされて、ギルドのある街へ辿り着けていない場合だ。 

 これはもうどうしようもない。

 手広く情報を集め、相手から連絡の連絡を待つしか方法がない。


 「いずれにしても、グランベルクに行くか、この場で待つかを決めなければならないんですよ。」

 ただ、どっちが正解かとハッキリ言えないのが決断をためらわせている原因だ。

 なので、少しでも情報が欲しい。

 判断材料の一つとしてハッシュベルクの情報も欲しい。

 まだ、王女を追いかけている派閥があるのならば、近寄らない方が賢明だ。

 その場合、ここよりもハッシュベルクに近いグランベルクに行くのも避けたほうがいいという判断材料になる。


 「その事もあって、王都には行かなきゃいけないなとは考えているんですよ。」

 情報は大きな街ほど集まりやすい……当たり前の話だ。

 商談の件はそのついで、色々世話になったのでお礼の意味も込めている。

 

 「そうね、そう言う事なら、王都で情報を集めたほうがいいかもしれないわね。……ギルドへの紹介状は書いてあげるわ。後、ハッシュベルクについては、内乱で国が2分したという以上の情報は入ってこないわね。これは王都でも一緒だと思うから期待しないでね。」

 俺はカリーナさんにお礼を言う。

 これで、ここでやるべきことは全て済んだ。


 「それで、いつ出る予定なの?」

 カリーナさんが聞いてくる。

 「玉子の件もあるから、そっちを先にやりますよ。その間に準備もして……大体1ヶ月後ぐらいですかね。本格的な冬が来る前には行って帰ってきますよ。」

 王都までは馬車で3日ほど、それほど遠い距離じゃない。

 向こうでどれくらい滞在するかにもよるが、道中含めて10日も見ておけば充分だろう。

 俺がそう言うと、クロードさんが大丈夫か?と聞いてくる。

 「お前は、行く先々でトラブルを起こしそうな気がするからなぁ?」

 向こうでの滞在がトラブルで伸びるんじゃないかと心配らしい。

 「その時はアリスやレム達を先に帰しますよ。あの子達を危険な目に合わせたいわけじゃないし。」

 「そうだな、何かあればすぐ連絡をするといい。」


 その後は、二人と他愛の無い会話を楽しんだ後、領主の館をそっと後にした。


 俺が家に帰ると、部屋ではエルが一人で待っていた。

 「レムを構わなくていいのか?」

 「今日の分は十分堪能したわよ。」

 おれが軽口をたたくと、そんな風に返して来る。

 「それで?」

 「それでとは?」

 エルが何を聞きたいのかはなんとなくわかるが、とりあえずとぼけてみる。」

 「とぼけないでよ。カリーナさんと話をしてきたんでしょ!……今後の事とか……。」

 まぁ、ウチのお姫様は馬鹿ではないらしい。

 ちゃんと現状を理解してるって事か。


 「あぁ、クロードと話をしてきた。2~3日中にベガスを捕まえに行くぞ。」

 「ベガスって?」

 突然の事に混乱する、エル。

 俺は玉子生産の事について話してやった。

 「それは素敵ね。玉子が毎日好きなだけ食べれるとなったらみんな喜ぶわよ。」

 エルも乗り気になってくれてよかった。


 「で?……それだけじゃないんでしょ?」

 エルが詰め寄ってくる……どうやら誤魔化されなかったらしい。

 「あぁ、玉子の件にカタがついたら王都へ行こうと思う……表向きは王都観光(・・・・)だよ。」

 「そう……。」

 エルはそれを聞いて、黙って頷く。

 「王都での情報を集めたら、行動する……と言っても、冬が明けてからになるだろうけどな。」

 俺の言葉に、エルはほっと一息つく。

 エルも決断しなければならないというのは分かっているのだ。

 だけど色々な言い訳をつけて先延ばしにしてきたが、もう、先に延ばすのも限界だというのも理解していただろう。

 でも、とりあえず春まで時間があると聞いて、一安心したのかもしれない。

 ……正直、集まった情報によっては、冬が来る前に動かなければならなくなるかもしれないんだけどな。


 「まぁ、とりあえずは玉子の生産について考えようか。明日には指名依頼が出るはずだから、ギルドに行く。その後は、色々準備で街中を駆けずり回る事になるから、覚悟して置けよ。」

 「ウン、分かった……。」

 エルはそう答えるが、部屋から出ていこうとしない。


 「どうした?明日は早いからもう休んだ方がいいぞ?」

 俺はそう促すが、エルは動こうとせず、しばらくしてから、ぼそっと小さな声でつぶやく。

 「ねぇ、今夜、一緒にいちゃダメ?」

 この子は、いきなり何を言い出すんだ?

 「えーっと、どういう意味か理解している?」

 「ウン、分かってる。シンジがいいなら私もいいよ。」

 そう言いながら、その声は震えている……無理して、どうするんだよ……。

 「どうなっても知らないぞ?」

 「ウン……。」

 エルはそう呟くと、先にベッドにもぐりこむ。

 「はぁ……。」

 あんな顔で震えてる女の子に手を出せるかよ……ったく。

 俺は理性を保てるようにと願いながら、ベッドに入る。


 「……服、脱いだほうがいい?」

 俺がベッドにもぐりこむと、エルがそんな事を聞いてくる。」

 「そのままでいいよ。」

 俺はそのままエルを抱きしめる。

 最近、夜は冷え込むんだ、湯たんぽ代わりになってもらっても罰は当たらないだろう。

 「……しないの?」

 「何を?」

 「……エッチな事。」

 エルは震えながらそう聞いてくる。

 「そんな震えて怯えてる子に手を出せるか。朝までこうしててやるから、黙って寝ろ。」

 「…………ありがと。」

 しばらくの沈黙の後、エルはそう呟いた。


 俺の腕の中のエルはしばらくの間、身体が緊張していたが、やがて、すぅすぅという穏やかな寝息と共に、身体の力が抜けていった。

 レム達との生活はエルにとってかけがえのない、楽しいものだったと思う……と同時に逃げ場所だという自覚もあったに違いない。

 だからレムを構い倒した、リオナと口喧嘩もした……今だけだからと思って。

 ……エルが望めば、このままここで暮らすというのもアリなんだけどな。

 だけど、それはエルにとっては選べない選択肢なんだろうということも分っている。

 そんな事を考えているうちに、俺もいつしか深い眠りに落ちていった。


 ◇


 ……動けない。

 気づくと俺は何かに押さえつけられていた。

 「ウフフ……目が覚めた?今気持ちよくしてあげるからね……。」

 妖艶な表情を浮かべたエルが、そう言って俺の体を触る。

 俺の身体は素直に反応している。

 「あれぇ、これは何ですかにゃぁ?」

 俺の身体の反応を見て、足元にいたリオナが声をかけてくる。

 「可愛いですにゃ。」

 元気になった俺の一部分をリオナがやさしく包み込む。

 うぅ……このままでは理性が吹っ飛びそうだ。

 「あれ?辛いのかなぁ?可愛ぃ。」

 そう言ってエルが俺に口づけてくる……ダメだぁ!


 ……俺は、パッと目を覚ます。

 「きゃっ!」

 目の前にエルがいた。

 急に起きた俺と目が合ってびっくりしたらしい。

 「お、起きたんだ……おはよう。」

 顔を真っ赤にして挨拶をしてくる。

 まぁ、昨日精神的に弱っていたとはいえ、自ら一緒に寝ようなんて言ったのだから、かなり恥ずかしかったのだろう。

 俺が弱ってた時はエルに助けられたんだから、お互い様なんだけどな。

 「さ、先に行ってるね。」

 エルはそう言ってそそくさと部屋を出ていく。


 俺はその後姿を黙って見送るが、脳裏には先程の夢が…………しかし、エルとリオナの二人に襲われる夢を見るなんて……エルを抱きしめていたから、あんな夢を見たんだな。

 今度からは自重しよう。


 「シンジ様―って、もう起きてる。……ギュってしようと思っていたのに。」

 「リオナ、おはよう。……すぐ下に行くよ。」

 「はい、お願いします……って、シンジ様顔が赤いですよ?熱でもあるんじゃないですか?」

 そう言って俺の額に手をあてる。

 「だ、大丈夫だからっ。着替えるからっ!」

 俺はその手を振りほどいてリオナを追い出す。

 まさか、さっきの夢のあられもない姿のリオナを思い出していた、何て言えるわけがない。

 

 ウン、さっさと着替えて下に降りていこう。

 やることは一杯あるんだからな。

 


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