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オークなんて瞬殺だよね?……チート能力があればね。

 「シンジ、今大丈夫?」

 エルが俺の作業場に顔を出す。

 後ろからはレムとリオナもついて来ている。

 3人一緒とは珍しいな。

 「あぁ、どうした?」

 俺は作業を止めて、エル達の方を向く。

 「ウン、あのね……ん、それなぁに?」

 何かを言いかけたエルだが、俺が作っていたものを見て聞いてくる。

 まぁ、この世界じゃ見かけない形のものだから気になるんだろう。

 「これは俺の武器……のつもりだったんだけど……。」

 そう言って俺はソレを一つ手に取る。

 この世界にはない武器……銃だ。

 コルトパイソン357マグナム6インチバレルを思い出せる限りイメージして、土属性の初級魔法『創造模型(クリエイトモデル)』を使って作ったものだ。

 金属と鉱石で出来ているグリップを握り構えてみせる。


 「いつも使ってるボウガンみたいなものですか?」

 レムが聞いてくる。 

 「まぁ、そんなものだよ。」

 実際にはかなり違うが、引き金を引いて弾(矢)を撃ち出す、という意味では似たようなものだろう。

 「ただ、これは魔法を撃ち出すんだ。」

 俺はそう言ってグリップを見せる。

 「ここに魔結晶が埋め込んであるだろ?この周りの小さい魔結晶は其々の属性石で……。」

 俺はエル達に説明していく。

 グリップに刻まれた六芒星の魔法陣の頂点に、火・水・風・土・光・闇の魔結晶が埋め込まれ、中央の大き目の魔結晶が、各属性を増幅し集束する役目を持っている。

 後は使用者が其々の属性の魔力を流すことでその属性の魔法が撃ち出されるというものだ。


 「凄いじゃない。流石全属性持ちね。」

 そう、全属性を持っている俺なら、これを使えば各属性の魔法が使えることになる。

 それどころか、混合魔法すらも撃ち出せる……理論上は。

 「そう……なんだけどな……。」

 「何か問題でもあるの?」

 リオナが、俺の表情を見て訊ねてくる。

 「……見てもらった方が早いかな。」

 俺はコルトパイソンを握り魔力を込め、作業場の端に用意した的に狙いを定める。

 『炎弾(ファイアー・ブリッド)

 火属性の魔法を撃ち出す……が、銃口の先からは小さな炎が出ているだけ。

 「……『着火(ティンダー)』?」

 エルがそう聞いてくる……。

 銃口から出ているのは『着火(ティンダー)』と大差ない炎だ。

 ……これでは単なるライターかチャッ○マンだ。


 「次、風属性な。」

 俺はそう言って再び的に向かって魔力を込めて放つ。

 『風弾(エア・ブリッド)

 しかし、銃口からは風が吹き出ているだけ……先程火属性を使ったからか少し暖かい。

 人は、これを「ドライヤー」と呼ぶ……。


 『水弾(アクア・ブリッド)

 他よりは少しマシだった。

 なぜなら、ちゃんと水が飛び出して行ったからだ。

 しかし、これは『水鉄砲』と変わらない。


 『土弾(アース・ブリッド)

 ……これは銀玉鉄砲だな。

 水属性と同じ子供の玩具だ。


 『光弾(ライト・ブリッド)

 周囲が明るく照らされる……懐中電灯だな。


 『闇弾(シャドウ・ブリッド)

 撃ち出した先がほんのりと陰る……意味不明だ。


 「な、分かっただろ?」

 武器を作ったつもりが、遊び心溢れる便利グッズに……。

 「あ、アハハ……。」

 「えーと……。」

 「でも、おにぃちゃん、これ便利ですよ。」

 レムが、光魔法をつけたり消したりしている。

 中央の魔結晶には増幅だけでなく、魔力を溜めておく機能も持たせているから、魔力量が少ない者や、属性を持っていない者でも、少しなら使える様になっている。

 「そうね、旅の間には重宝するんじゃないかしら?」

 エルが慰めるように言ってくる。

 ……便利グッズと割り切ろう。


 「そんな事より、何か用があったんじゃないか?」

 俺はエルに聞いてみる。

 「あ、そうそう、リオナたちと採集に行こうと思って、ギルドに寄ってみたんだけどね……。」

 なんでも、急ぎの依頼でオーク討伐があったそうだ。

 オークの討伐ぐらいなら普通なら急ぎ案件にはならないはずだが、どうやら被害が大きく、悠長な事は言っていられない状態らしい。

 「それでね、オーク討伐を頼めるランクの冒険者が出払っていて、動けるのは私達ぐらいなんだって。」

 要は、俺とエルにオーク討伐に行って欲しいという事らしい。

 「……他にいないんじゃしょうがないよな。」

 駆け出しの頃ならともかく、今ではオークは何度も討伐してきているし、いくつか試作したアイテムもあるので、試し打ちにはちょうどいいか。

 俺は準備すると、詳しい事を聞くために、エルとギルドへ向かう事にした。


 ◇


 「シンジさん、エルフィーさん。よろしくお願いします。」

 ギルドに入った途端、受付のお姉さんが駆け寄ってきて、頭を下げてくる。

 まだ受けると決めたわけじゃないけどな。

 この街に来た当初は、ガラの悪い奴らに絡まれもしたが、その後の依頼達成の実績を見て絡んでくる奴は少なくなり、いつのころからか、領主がバックについたという噂が流れ出すと、絡んでくる奴は皆無となった。


 おかげで、エルとリオナ、レムの3人だけで出入りしても、それほど心配する事は無くなり、最近では、もっぱら3人で採集依頼を受けていたりしていたらしい。

 作業場に籠りっきりで、気づかなかったよ。


 「で、そのオーク討伐についての詳細は?」

 「はい、ここから南に行った、ミュウの村付近でゴブリンの被害が相次ぎまして……。」

 「ゴブリン?オークじゃなくて?」

 「えぇ、最初はゴブリンの被害という事でした。それでEランクの冒険者たちが討伐に向かったところ、ゴブリンだけじゃなくオークの群もいたそうで。」

 オーク討伐はEランクの冒険者では難しいだろう。

 当然その冒険者たちは何もできずに戻ってきて、オークの群に率いられたゴブリンの群という事で、新たに依頼が出たという事らしい。

 

 しかし、群れか……。

 オーク数体ならそれほど脅威でもないが、群れになっていて、しかもゴブリンまでいるとなると……。

 「まずはその村まで行ってみて様子見だな。俺たち二人だけでムリそうならそのまま帰ってくる。それでいいなら依頼を受けるがどうする?」

 俺は受け付けのお姉さんにそう条件を付けたが、それでもいいという事なので、俺達は早速ミュウの村へ向かう事にした。


 ◇


 「さて、どうするかなぁ。」

 俺は眼下を見下ろしてそう呟く。

 俺とエルはミュウの村につくなり、被害状況やゴブリンの巣の場所などを聞き出して、すぐ行動を起こした。

 そして、ゴブリンの巣があると言われる山間の向かい側の小高い岩山で、様子を窺っている所だ。

 眼下にはほら穴を中心にゴブリン達がたむろっている。

 その数は20~30ぐらいだろうか。

 ゴブリンだけなら何とかなりそうではあるが……。

 俺はその奥の洞穴を注視する。

 しばらくすると、数人のオーク達が出てきて、ゴブリン達に何やら指示を出している。

 やがて、オークから何かを聞き終えたゴブリンは、5~6人の仲間と共に駆け出していく……向かった先は村の方だ。


 「エル、とりあえず、先回りして、アイツらを迎え撃つぞ。」

 俺はエルにそう言うと、ゴブリン達を追う事にした。


 キィンッ! キィンッ! ザシュッ!

 俺の剣がゴブリンの胸を斬り裂く。

 その一撃で、立っているゴブリンは居なくなった。

 「はぁはぁ……。」

 俺は息を整える。

 ゴブリンぐらいであればコレくらいの数は何とか対処できるけど、オークとなったら2~3体までが限界だな。

 ゴブリンでも、この倍の数に来られたらお手上げだ。

 

 「大丈夫?」

 エルが声をかけてくる。

 「あぁ、これくらいなら大丈夫だ。たぶんこいつらは、オークの指示で村を襲いに行く奴らだろうな。何時まで経っても帰ってこなければ次の奴らが来るかもしれないな。」

 そこまで言って俺は思いつく。

 なにも馬鹿正直に巣を襲撃する必要はない。

 「エル、さっきの所で見張っていて、ゴブリンがまた動くようなら連絡をしてくれ。」

 

 風の中級魔法に『風の囁き(ウィスパード)』というものがある。

 これは遠く離れた相手に、自分の声を届ける魔法だ。

 遠くと言っても限界はあるし、相手の場所をしっかりと認識していなければいけない上、一方通行だという制約はあるものの、こういう時には非常に役立つ魔法だ。


 エルに見張ってもらい、出てきたゴブリンを俺が各個撃破していく。

 あの巣の規模なら多くても4~5回の襲撃でゴブリンは全滅するだろう。

 そうすれば残るのはオークだけとなる。

 無暗矢鱈と突っ込むよりは建設的な策だと思う。

 

 俺が説明をすると、エルは「わかったわ。」と言って見張りの為に先程の岩山へと戻っていった。

 「さて、と……。」

 俺は次の襲撃に備えて体を休めながら、アイテムの確認をし、次の作戦を立てる。


 ゴブリン達は知能が低いから、愚直に同じことを繰り返す。

 なので、次の奴らも、このルートを通る事は間違いない。

 俺は、辺りを一回りすると、ある地点で土魔法を使って穴を掘った。

 何回か繰り返すと、それなりに大きな穴になる。

 そしてその穴に水魔法でたっぷりと水をため、表面に力場を発生させる。

 これで、上に乗っても落ちることはない。

 念のため、上から軽く小枝や落ち葉などをばらまき、遠くから見れば周りと何の変化もないようにしておく。

 要は落とし穴だ。

 そして俺は近くの木に登って身を隠し、エルからの連絡を待つ。


 (ゴブリンがそっちに向かったわ。数は10匹。)

 しばらくすると、風に乗ってエルの声が聞こえてくる。

 俺は木の上で気配を殺しつつ、ゴブリン達がやってくるのを待つ。

 やがてゴブリンの集団が視界に入る。

 奴らは呑気に、げたげたと笑い合いながら近づいてくる。

 

 先頭のゴブリンが落とし穴の上に乗る……まだだ、もう少し……。

 他のゴブリン達も後から続く……今だ!

 ゴブリンたち全員が落とし穴の範囲に入った所で、俺はフィールドに注いでいた魔力を止める。

 力場がなくなった事で、ゴブリン達はいきなり支えをなくして穴の中へと落ちる。

 

 『氷結(フリーズ)!』


 俺は穴の中の水を凍らせる。

 これでゴブリンの氷漬けの出来上がりだ。

 暫くすれば息が出来なくなって生命活動が止まるので、それまで放置しておけばいい。

 俺は場所を変え、ゴブリンの通るルート上で同じことを繰り返していった。


 「んー、そろそろゴブリンは打ち止めだと思うんだけどなぁ。」

 あれから数回同じことを繰り返してゴブリンの息の根を止めてきたが、そろそろゴブリン達は全滅じゃないかと思う。

 こういう時、俺からエルに連絡を取れればと思うが、生憎俺は『風の囁き(ウィスパード)』が使えない。

 「今度、魔道具で作ってみるか。」

 以前遺跡から発見した古文書に「付与魔術(エンチャント)」についての研究資料があった。

 まだ、半分ほどしか読み進めていないが、確か、魔法をモノに付与する研究成果が書かれていたはずだ。

 それを基にして『風の囁き(ウィスパード)』をエンチャントすることが出来れば、双方向のトランシーバーみたいなものが作れるかもしれない。

 そんな事を考えていると、エルから連絡が入った。


 (もうゴブリンは居ないみたいよ。でもオークの動きがおかしいのよ。一度こっちに戻ってきて。)


 ◇


 「あ、シンジ、無事でよかった。」

 俺の姿を見るなり、エルは抱きついてくる。

 顔色は青ざめていて、心配でたまらないという表情だった。

 「出て行ったゴブリンが戻ってこなくて、何回か送り出すだけだったから、きっと上手くやっていると信じていたけど……。」

 俺がエルに返事を送れない為、状況の確認が出来ない様に、エルもまた一方的にメッセージを送るだけで、俺の状況がわからず、心配をしていたらしい。

 今回は良かったが、お互いに心配し合って、勝手に動いた結果、ミスに繋がる、という事が起きそうで怖い。

 二人だけの場合、この方法は出来るだけ避けた方が良さそうだ。

 

 「それで状況は?」

 「ウン、あれ見て。」

 俺はエルが指さした方を見る。

 3匹のオークが洞穴を出たり入ったり、周りをウロウロしたりしている。

 「ゴブリンが全然帰ってこないから、流石におかしいと思っているみたい。さっきからあんな感じでウロウロしてるの。」

 「うーん、オークの数が分からないからなぁ。」

 洞穴の中に何匹いるか分からないのが難点だ。

 いっその事以前やったように洞窟の中に、何かぶち込んでみるか。


 「そうだな、やるだけやって、ダメそうなら逃げよう。……エルはいつでも援護の魔法をかけれるように準備していてくれ。」

 俺はそう言って、収納からコルトパイソンを取り出す。

 「それ、朝見せてくれた奴?」

 「あれとは違う奴だよ……まぁ、見てな。」

 俺は外に出ているオークの頭を狙って引き金を引く。

 バシュッ!

 撃ち出す音と共に、凄い勢いで鉱石の塊がオークの頭を目掛けて飛んでいき……オークの頭を突き抜けていく。

 ……勢いが強すぎるか?

 まいっか、後で考えよう。 

 バシュッ! バシュッ!

 俺は続けて、他のオークに狙いを定めて撃っていく。

 あっという間に、外に出ていた3匹のオークは息絶える。

 

 「凄い!何それ!?」

 エルが驚いているが、説明は後だ。

 俺は続いてボウガンを取りだし、油の入った液体をセットする。

 バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ!

 狙いは違わず、洞穴の入り口から少し中に入った所まで油まみれになる。

 俺は最後に火炎瓶をセットして撃ち込む。

 

 ボワッ!

 壁に当たり砕け散る小瓶から周りの油に火が付き、洞穴の入り口全体が炎に包まれる。

 「エル、軽く風を送ってやってくれ。」

 「分かったわ。……『烈風(エアシュート)』」

 洞穴の前で風が吹き荒れ、炎と共に洞穴の中へ吹き込んでいく。

 俺は、次々と火炎瓶を放つ。

 炎はドンドン大きくなり、洞穴の奥へ奥へと運ばれていく。

 

 「後は、オーク達が焼け出されるのを待つだけだからちょっと休憩しようか。」

 俺はエルに声をかける。

 「洞穴の奥まで炎届いているかな?」

 「見た感じ、そんなに深くなさそうだから、届いてなくても熱でやられると思うぞ。」

 「それならいいけど……あ、そうだ。さっきのは?」

 「これか?」

 俺はコルトパイソンをエルに見せる。

 「これは俺の世界にあった兵器で、本来なら火薬……って言っても分らないか。爆発する力で鉄の塊を撃ち出すものなんだよ。」


 当初は火薬の作り方なんて知らないし、実現は不可能だと思っていた。

 だけど、爆発の力……魔法を使えば撃ち出せるんじゃないかと考えたが、爆発系の魔法は火属性の中級以上なので俺には使えない。


 魔法がダメなら科学の力で!……ってだから火薬の作り方が分からないから、と思考が堂々巡りしている時、外で雷が鳴り、そこで電気というか電磁力……つまりレールガンの事を思いだした。

 詳しい仕組みは分からないけど、そこは魔法の力。

 イメージはハッキリしているので、そのイメージで作ったら、ちゃんと思った通りの動作をするものが出来上がった。

 ただ、今の状態では負荷がかかり過ぎて、実用には程遠い為、魔法を撃ち出す方に考え方をシフトしていたのだ。

 実際、この試作品も、負荷がかかり過ぎてもう使えなくなっている。 

 

 「へぇー、凄いんだね。」

 エルはそう言うが、あれは分かっていない時の顔だ。

 「まぁ、とにかく、今は色々試しているってところだよ。」

 俺はそう言って話を締めくくる。

 そんな話をしているうちに、炎の勢いもだんだん弱くなってきたので、俺達は様子を見るために洞穴に近づくことにした。


 洞穴の近くでは、炎は収まったもののまだ熱が衰えず、近づくのはもう少し時間をおいた方が良さそうだ。

 「エル、下がれっ!」

 その場から離れようとしたとき、洞穴から気配を感じたので、俺は咄嗟にエルの腕を掴み後ろへ投げる。

 そして剣を抜き、敵に備える。

 洞穴から、一際大きなオークが姿を見せる。

 体のあちらこちらから煙が上がり、五体満足というわけでも無いが、その眼は殺気でギラついている。


 「オークキング……。」

 俺の口から、そんな言葉が漏れる。


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