妹属性は万国共通です!
少し短めです。
……ん……?
息苦しさで目が覚める。
体を動かそうとするが、何かにしがみつかれているようで動かせない……。
目を開けると、目の前にはエルの顔。
スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。
その両腕、両脚は俺をしっかりホールドしている。
……またこのパターンか。
俺を抱き枕か何かと勘違いしているんじゃないか?
こうも同じことが続くと、いい加減対処にも慣れてくる。
俺が声をかけて起こし、エルがびっくりして俺を叩くところまでが、お約束のパターンだ。
ただ……慣れたと言っても、朝からこういうのは、部分的に辛いものがある。
「大体、無防備すぎるんだよ、分かってるのかな?……はぁ、これは早めにホームを探さないとな。」
俺は誰にともなく呟いた。
「なんの話?」
突然声がかけられる。
「うわっ!起きてたのか?」
目の前のエルがぱっちりと眼を開けていた。
「ウン、今起きたところだよ。で、何の話?」
エルが言う。
ちなみにエルの手足は俺をホールドしたままだ。
「あのぉ、エルさん?起きられたのなら離して頂けると……。」
「寒いからイヤ!」
「イヤって……ね、このままだと色々と大変なわけで。」
「えー、何が大変なのかなぁ?分からないなぁ?」
エルがニタニタした顔でそういう。
こいつは分かって言ってるな。
「ほら、俺は健康な男の子なわけで、こう言う事されると……わかるだろ?」
「えー、わかんないよぉ?」
エルはクスクス笑っている。
「だからさ……。」
「……いいよ。……しても……。」
俺が言いかけるのを遮る様にエルがそう言い、目を瞑る。
えっと……これは……。
間近で目を瞑り、軽く唇を突き出している女の子がいて……これは……。
俺は意を決して口を近づける……。
「なーんてねっ!」
突然エルは目を開けて俺から離れる。
「期待した?期待したでしょ?ばぁーか♪」
エルは笑いながらそそくさとベットから出ていく。
取り残された俺は、やるせない気持ちを思いっきり枕にぶつけるのだった。
◇
「あー、やっと見つけた!」
食事を終え、冒険者ギルドに向かうと、ギルドの入り口に見覚えのある少女……レムが立っていた。
「昨日いつの間にか姿を消しちゃうから、困ったんだよ。……はい、これ、ありがとう。」
そう言って手にしていた収納バックを手渡してくるレム。
中には数枚の銀貨が入っている。
「あ、それは昨日の素材の買い取り額です。」
そう言ってくるレムの顔を見て、俺とエルは顔を見合わせ、互いに頷き合う。
考えることは同じみたいだ。
おれは銀貨を1枚抜き取り、残りを収納バックに戻してエルに渡す。
エルはそれを受け取ると、そのままレムに差し出す。
「あなたの取り分よ。昨日言ったでしょ、案内の代金だって。」
そう言うエルに対し、大きく手を振って固辞するレム。
「そんな!こんなにも貰えません、多すぎます。」
「多くないわよ。これから2~3日街の中や近くの森を案内してもらいたいし、危険料込みよ。それから、その収納バックはあなたが持っていなさい。色々運ぶのを手伝ってもらうからね。」
エルの言葉に、しばらくためらった後、ハイと、小さく頷いてくれた。
「早速色々と案内を頼みたいんだが、今日は大丈夫か?」
「はい、今日は特には……。」
「じゃぁ、とりあえずギルドで用事を済ませてくるから、少し待っててくれ……エルの相手をしてくれると助かる。」
「行きましょ。」
俺が言うと、エルはレムの手を引いて、ギルドに隣接している酒場へと入っていく。
果実水でも飲んで待っているつもりらしい。
俺はレムの事をエルに任せて、ギルドの受付に向かう。
「いらっしゃいませ……あ、昨日の……シンジさんでしたか?」
「あぁ、マスターいるか?手紙のお願いと例の買い取りの件で話があるんだが?」
「お手紙の件は窺っておりますのでこちらで処理させていただきます。買い取りにつきましてはしばしお待ちください。」
受付のお姉さんはそう言うと、どこかへと、連絡をしている。
その間に俺は届けて欲しい手紙とあて先を用意する。
「では、手紙は確かにお預かりいたしました。隣の部屋でギルドマスターが待っていますので向かっていただけますか?」
俺は受付のお姉さんにお礼を言い、ギルドマスターの待つ部屋へと向かう。
部屋の中には、ギルドマスターの他に二人の男がいた。
どうやら鑑定士らしい。
俺は言われるままに、収納していた戦利品を出していく。
絵画にアンティークな置物、装飾品等。
使わない武器屋防具なども出していく。
山になる戦利品を見て、ギルドマスターも、鑑定士の二人も無言のまま動かない。
「こ、こんなにあるのか?」
「価値が分からないものもあったので根こそぎ持って来たからな。」
嘘である。
いくつか、俺が作って処分するにできない魔道具も混ぜてある。
鑑定士が、鑑定をしている間に、俺はギルドマスターと買い取りの取り分について話を進める。
結局、いくつかの魔道具以外は全部売る事にし、総額金貨200枚となった。
かなりの金額だが、市場ではもっと高値で取引されるものらしいので、ギルドとしてもホクホクだそうだ。
「また、掘り出し物があったら頼むぞ。」
ギルドマスターがそう言って笑顔で見送ってくれる……何とも現金な話だ。
ちなみに、俺が作った魔道具は意外といい値が付いていた。
鑑定士たちは「年代が新しいので骨董価値はない」と言いつつ、性能がずば抜けているため、これくらいの値はつくだろう、と、高値を付けていた。
……魔道具作って売るのも考えてみようかな?
収納バックなんて1個で金貨数十枚ぐらい稼げそうだし。
俺が商談を終え、酒場の方へ赴くと人だかりが出来ていた。
何だろうと思い覗いてみるとエルとレムを遠巻きに眺めている人だかりだった。
エルはレムを膝の上に乗せ、後ろから抱きかかえるようにして、パフェをあーんとしている。
レムは羞恥に顔を真っ赤にしつつもエルに逆らえず、成すがままになっている。
まぁ、見てるだけなら、なんともほっこりとする絵柄だ。
周りの人達もそうなのだろう。
まるで娘や孫を見守るような視線を向けている。
これは邪魔をしないほうがいいなと思いこっそりと離れようとするが、レムに見つかってしまう。
「あ、シンジさん!助けて下さぁーい。……エルさん、ほら、シンジさんが来ましたよ。」
レムが、抜け出そうと必死に俺が来た事をアピールしている。
見つかってしまったので、仕方がなくエル達の方へ向かう。
エルに抱っこされているレムが可愛い。
……いいなぁ、俺も餌付けしてみたい。
そんな事を思った俺は、エル達の目の前に座ると、スプーンを受け取り、パフェを掬う。
そしてそのスプーンをレムに差し出す。
「あーん」
「シンジさんまでっ!」
……だって、思わず餌付けしたくなるくらい可愛いんだから仕方がないだろ?
エルだって、満足そうに頷いているし。
◇
「もぅ!もぅ!恥ずかしいんですよっ!」
俺達は冒険者ギルドを後にし、商業ギルドへと向かっている。
その道すがら、レムはぷんぷんと怒っていた。
「でも、レム可愛いし、私妹が欲しかったんだぁ。」
エルがレムの頭を撫でながらそう言う。
「だからって、あんな人が一杯見てるところで……恥ずかしいですよ!」
「人が見てなければいいんだ?」
「うっ……エルさんは恩人だしぃ……少しくらいなら……。」
レムがぼそぼそと呟いている。
その姿がツボにハマったのか、エルがレムをギュっと抱き締める。
「ところで、シンジさん、商業ギルドへは何しに行くんですか?」
エルに抱きしめられたままレムが聞いてくる。
「ホームが借りれないかって言うのと、この街の流通状況を調べに……かな?」
今朝みたいなことが毎日続くと、俺の身が……というか理性が持たない。
後、この街には2~3か月は滞在することになるので、金策の為にも流通状況は知っておきたい。
俺たち二人だけだと討伐依頼は少々厳しい。
幸いにも、軍資金はあるので、これを元手に何か商売を初めてもいいかもしれない。
需要の高いものを安く仕入れて高く売るのが商売のコツだから、状況把握が出来ているかいないかで大きく変わってくる。
「そう言う事なら、早く行きましょう。」
レムが、なぜか乗り気で案内の足を速めるので、俺達も早足でついて行くことになった。
◇
……結局、商業ギルドでは何もできなかった。
ホームに関しては、手頃な物件がない事、空きはあっても、紹介者がいないため売ることは出来ないなど、今の俺ではどうしようもない理由によって購入することは叶わなかった。
流通状況についてはギルド員ではないため教えることは出来ないと言われ、ならギルドに入るというと、紹介者がいないから無理と言われた。
結局、それなりの有力者と顔を繋がないと、何も出来ないという事を思い知らされる結果となった。
これは、細々と冒険者ギルドの依頼を受けつつ、生計を立てていくしかないな。
その後、俺とエルはレムを伴って近くの森へと行き、薬草などの採集や、ウルフファングなどを狩って日銭を稼いだのだった。
◇
俺達がシャンハーの街に居着いてから2週間が過ぎた。
街中の様子にも、それなりに慣れ親しみつつある。
街を廻り、森に行って採集と狩りをして日銭を稼ぐ。
空いた時間は、魔道具の作成をしたり魔法の練習をしたり……と、特に変わり映えのないゆったりとした毎日を送っていた。
今日もいつもの様に、起き抜けにエルにからかわれた後、宿の食堂で食事をとっていると、レムが駆け込んでくる。
あれから、レムには毎日のように付き合ってもらっている。
レムも、俺達と一緒なら安全に薬草の採集や食材確保が出来ると喜んでいた。
なので、今日もレムがここに来ることは何の問題もないのだが、様子が少しおかしい。
「レム、慌ててどうした?」
俺はレムに訊ねる。
「はぁ、はぁ……シンジさん、エルさん、お願いです……助けてください。」
レムは、息を切らせながらそう言った。




