表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/144

「合い挽き肉」の事を「逢引き肉」だとずっと思ってました。……どんな肉なんだよ!

 ……ここは……?

 ぼんやりとした思考が段々クリアになってくる。

 ……そうだ、あの時トラップが作動して……。

 って、エルはっ!

 完全に意識が覚醒した俺の目の前にある、エルの顔。

 かなりのドアップだ……少し顔を前に突き出せばそのまま唇に触れることが出来るぐらいの距離……。

 そして、俺は身動きが取れずにいる……またこのパターンか。

 ただ、今回はエルも身動きが取れない状態だ……。

 少しだけ動く首を回して辺りを見てみると、そこらに白い塊が転がっている。

 そして俺達も首から下が白いもので覆われている。


 ……うーん、これはスパイダー系の魔物に捕まったらしいな。

 不幸中の幸いなのは、エルが目の前にいるって事か。

 しかし、近い……。

 最近は色々な事があったから、大人びたと思っていたけど、こうしてみると、年相応の幼さを残しているのがわかる。

 無理をさせたくないと思うのは俺のエゴだろうか?


 「ン……、ンッ……。」

 おっと、エルが起きるか?

 「……ん……ここは……?」

 「おはよう、エル。」

 「ん……おはょ……って!なんでっ!」

 エルが暴れ出す。

 近いんだから、暴れるなっての。

 「おい、エル、静かに!」

 スパイダーに気づかれたらヤバイ。


 「何で……こんな……ちか……ンぐっ……。」

 これ以上騒がれたらホントにマズいので、俺は仕方がなくエルの口を塞ぐ。

 動かせるのが顔だけなので、俺の口で塞ぐしかなかった……これは不可抗力だ。

 「んっ……ん……。」

 エルは最初はジタバタしていたが、そのうち大人しくなる。

 大人しくなったところで俺は唇を離す。

 「落ち着いたか?魔物に気づかれたくないからそのまま大人しくしててくれ。」

 「うん……。」


 「今の現状だが、どうやら俺達はスパイダー系の魔物に囚われているらしい。この白いのは、たぶん蜘蛛の糸だ。」

 「えーっと、このままだとどうなるの?」

 「餌として食われるか、卵を産みつけられるか……どちらにしても気持ちのいい未来じゃないことは確かだ。」

 「だったら、早く逃げないと!」

 「だから、落ち着けって。」

 「アンタはこの状況でよく落ち着いていられるわねっ!」

 「まぁ、空間魔法を使えば脱出は容易だからな。今はとりあえずエルが起きるのを待ってただけだ。」

 「……そう、脱出手段があるのね。……良かった。」

 エルが小さく呟く。

 「エルも起きたし、サッサと逃げますか……『空間転移(ディジョン)』」


 空間転移(ディジョン)は数メートルとは言え、物質の有無を問わず移動できる。

 だから蜘蛛の糸から抜け出すのは簡単だ……と思っていた時期もありました。


 じ~……。

 「えっと……。」

 じ~……。

 「あのぉ?」

 じ~……。

 ……エルの視線が痛い。

 「脱出は容易……じゃなかったの?」

 すぐ目の前のエルがそう言う。

 「……脱出は出来ただろ?」

 そう、スパイダーの巣穴からの脱出は出来た。

 そして俺達は今、巣穴の外で転がっている……糸に巻き付かれたまま。


 「……衣類や装備もそうだし、手をつないだりしていれば他人だって転移できるんだもんな……巻き付いている糸も一緒に転移しても不思議じゃないよな?」

 俺はエルん同意を求めるが……。

 「言いたいことはそれだけ?」

 ……エルの視線が冷たい。


 ◇


 「ふぅ、やっと自由になれたわ。」

 「時間かかって悪かったな。」

 結局、俺の火魔法『|着火≪ティンダー》』で手の周りの糸を燃やし、ある程度自由になった所で次元斬(スラッシュ)を使って糸を切り刻んでいったのだ。

 「悪くないわよ……私の魔法じゃ脱出出来ないのは事実だし……ありがとう。」

 エルが小さな声でお礼を言ってくる。

 「……ところでさ、アレどうする?」

 俺は少し離れたところから俺達の様子を窺っている物体を指さす。

 「……逃げれると思う?」

 「いや……あっちの方が速いだろ?」

 俺は物体……巨大蜘蛛を見て言う。

 体長は1m位なので、俺達よりは小さいが、それでも十分巨大と言えよう。


 「……シンジが食べられている間に、逃げれないかなぁ?」

 「囮になれと?」

 酷い姫様だ……。

 

 「まぁ、出来るところまでやってみますか。」

 俺は剣を構える。

 

 『次元斬(スラッシュ)!』

 巨大蜘蛛に向けて剣を振りながら空間魔法を唱える。

 見えない刃が、巨大蜘蛛の足を斬り裂く。

 「出来た……。」

 「シンジ、凄いじゃない!」

 エルがびっくりしたと驚きの声を上げる。


 遺跡で見つけた研究資料の中に、魔法について書かれていたものがあった。

 所々かすれていて解読は難航したが、要は「魔法はイメージだ」という事が書かれていた。

 イメージがしっかりしていれば、わずかな魔力でも、威力が増すと。

 曖昧なイメージの中級魔法より確固たるイメージが出来ている初級魔法の方が効果が高いと言うような事が書いてあったのだ。

 なので、剣で斬り裂くイメージ、距離に関係なく斬り裂くイメージで次元斬(スラッシュ)を放ってみた。


 その結果が、目の前の状況だ。

 次元斬(スラッシュ)により前脚が二本切断され、バランスを崩した巨大蜘蛛。

 そのまま残った脚も同じ様に斬り裂いていく。

 「ん?待てよ?」

 俺は全ての足を斬り取られ、身動きが出来なくなった蜘蛛を見て、ふとある事を思いつく。

 試してみようと剣を仕舞い、腕を振るって次元斬(スラッシュ)を放ってみる。

 クマなどが爪で引き裂くイメージだ。


 巨大蜘蛛の胴体に爪で引き裂かれたような傷が出来る。

 次元斬(スラッシュ) 次元斬(スラッシュ) 次元斬(スラッシュ)

 とどめを刺すべく、何度も次元斬(スラッシュ)を唱える。

 やがて蜘蛛は動かなくなる。


 「シンジ、終わった?」

 「あぁ、終わったよ。」

 「さっきの凄かったよ、どうしたの?」

 エルが先程の魔法について聞いてくるので、魔法はイメージによって左右されるって事を教えてやる。

 「……だから、俺の魔法の威力も上がったってわけだよ。」

 「そうなんだ……確かに脚を一撃で切り落としてるもんね……ほら、この脚の直系15㎝はあるんじゃないの?」

 「えっ……?」

 15㎝……ですか?

 蜘蛛の身体についた傷を調べる……。

 大体10~15㎝位の傷がついている。

 「1.5倍!1.5倍も威力が向上したんだぜ!」

 俺はそう言ってみるが、悲しさを増長するだけだった。


 「ま、まぁ、1.5倍って凄いよね。金貨100枚だったら150枚になるんだもんね、50枚も増えるんだよ……アハハ……。」

 エルの笑い声が渇いている。

 「……銅貨1枚だったら、銭貨が5枚増えるだけだけどな。」

 「……。」

 エルが黙り込む。

 「……。」

 俺も黙り込む。

 しばらくの間、俺達の間に妙な空気が流れていた。



 ◇


 「取りあえず、この辺りで野営の準備でもするか。」

 俺達は、あれからあてもなく森の中を彷徨っていた。

 辺りが薄暗くなってきたので、適当な広場を見つけて野営の準備をする。

 火をおこし、食材などを出すと、エルが早速調理の準備を始める。

 俺はその間に寝床用のテントと簡易シャワーテントを出して設置する。


 「シンジの能力はショボいけど、その『無限収納(ポーター)』だけは誇っていいわよ。おかげで快適な旅ができるわ。」

 エルがそんな事を言う。

 「ショボくて悪かったな……これでもそれなりには使えるんだぞ。」

 「そうだったわね、じゃぁ、その能力で、食材の下ごしらえお願いね。その間にシャワー浴びさせてもらうから。」

 綺麗に並べて揃えられた食材を指してエルが言う。

 「はいよ。ゆっくり浴びておいで。」

 スパイダーの糸に絡められたり、地面に転がったりしていたので、べとべと、泥だらけで気持ち悪いはずだ。

 俺も、エルの後でシャワーを浴びよう。

 「覗いたら刺すよ♪」

 エルはべぇーっと舌を出してそう言うと、シャワーテントの中へ入っていった。

 やれやれ……。

 俺だって男だ。

 エルみたいな魅力的な女の子といて何も感じないわけがない。

 ましてや、不可抗力とはいえ、さっきまであんなに密着していたわけだし、その上で、あんな可愛い仕草を見せられると、何か……こう……モヤモヤしてしまう。

 「えぇい!くそっ!」

 俺はそんなやるせない気持ちを食材へとぶつけていく。

 「えいっ、えいっ!」


 …………。

 …………。


 「……ねぇ、それどうするの?」

 いつの間にかエルがシャワーを浴びて戻ってきていた。

 まだ濡れている髪の毛と、上気して赤く染まっている頬が、妙な色っぽさを醸し出している。

 エルが指さす方を見ると、俺の想いをぶつけた結果のミンチが山ほどできていた。

 「これはだな……。」

 どうしよう、このミンチの山……。

 ……ミンチを使った料理と言えば、アレしかないか。

 「あぁ、ちょっと変わった料理を作ろうと思ってな。」

 まさか、青春のリビドーをぶつけていたら、こうなったなどとは言えない。

 「変わった料理?」

 「俺の元いた所では人気No.1の料理さ。」

 そう言って俺はミンチを手に取りこね始める。

 用意されていた食材を手あたり次第刻んでいたため、肉だけじゃなく野菜なども程よく混ざっていてちょうどよい具合になっていた。

 エルは不思議そうに俺の手元を見ている。

 

 「丸くして……潰すの?」

 「あぁ、平たくするんだ……やってみるか?」

 「ウン……。」

 俺はエルに教えながら、ミンチをこねて、伸ばして形を作っていった。


 ◇


 「なにこれ!美味しぃ!」

 エルは、初めて食べるハンバーグに驚嘆の声を上げる。

 実際には少し焼き過ぎて焦げたのもあるんだが、そんな事は関係なかったようだ。

 以前肉団子を作った時に、ミンチにする習慣がないという事を聞いていたので、ハンバーグも食べたことがないのは分かっていた。

 いつか食べさせてやろうとは思っていたが、ここまで感動してくれると作った甲斐があると言うものだ。

 「本当は、もっと調味料があればよかったんだけどな。」

 ハンバーグにかけたのは、ハッシュベルグで一般に普及していたケチャップによく似たソースだった。

 意外とハンバーグに合ったので良かったが、もう少し別の味付けも試してみたい。


 「お代わり!」

 エルが空になったお皿を出してくる。

 ……と言うか、さっきからハンバーグしか食べていないよな。

 「こういうのも美味しいぞ。」

 俺はパンを取り出して二つに切り、レタスによく似た野菜の葉を敷いて、その上にハンバーグをのせる。そしてソースを少し欠け、野菜をのせて残った半分のパンで挟む……ハンバーガーの出来上がりだ。

 俺はそれをエルに渡す。

 「えっと……これは?」

 エルは差し出されたそれをどうやって食べればいいか分からないようだ。

 「こうやって食べるんだよ。」

 俺は同じものを作って、齧り付く。

 それを見たエルは、恐る恐ると言った感じで、ハンバーガーに口をつける。

 パクリ……もぐもぐ……

 「……!美味しぃ!」

 その後は、一気に齧り付いて食べていく。

 どうやらハンバーガーもお気に召したようだ。


 なんか、懐かしいな。

 エルが一生懸命食べている姿を見て、俺は元の世界にいる妹達の事を思い出す。

 複雑な事情が絡んで、碌な食事もなかった施設で、俺やミカ姉は妹達の為に、色々工夫して食事を作っていた。

 残った野菜くずや、パンの切れ端なんかでも、調理の仕方によってはそれなりに美味しく食べることが出来る。

 まぁ、俺は味よりも量を増やすことに重点を置いていた気もするが。

 そんな俺の拙い料理でも、妹達はいつも「美味しい」と言って食べてくれていた。


 ◇


 「さて、これからどうする?」

 「どうしようか?」

 俺とエルはこれからの事について話す。

 とはいってもここがどこかも分らないので、途方に暮れる以外やる事が無いのだが。

 「取りあえず、ココがどこかを把握しないとな。」

 「そうね……出来れば明日ぐらいにはこの森を抜けたいわね。」

 「当面の目標としては、村か街に行ってここがどこかを知るってところか。」

 「後はギルドがある街を聞かないとね。」

 「森を抜けたら、それなりに大きい街が目の前だった……だと助かるんだけどな。」

 「そんなに都合よくいかないでしょ?」

 「だよなぁ。」

 俺達は顔を見合わせて、はぁ……と大きなため息をつく。

 

 「焦ってもしょうがないし、のんびり行こ。」

 「そうだな。」

 幸いと言っては何だが、旅や野営には充分慣れているし、『無限収納(ポーター)』のお陰で食材や資材、野営道具などには事欠かない。

 焦る要因はどこにもないのだ……シェラたちを心配させているという点を除けば。


 「どちらにしても明日だな。俺はシャワーを浴びてくるから、エルは先に寝ていろよ。」

 本来の野営であれば、襲われないように交代で番をするところだが、この周りは位相をずらした結界を張ってあるので、誰も入り込むことはできない。

 俺達が遠出をするようになってから当たり前のようにしている事なので、エルも不寝番などを気にした事はない。

 ……こういう所が、他のメンバーとパーティを組むことが出来ない理由にもなってるんだよなぁ。

 そう言う意味では、アッシュとミリアは都合のいい存在だった。

 無事戻ることが出来たら、一緒にやっていくことも考えた方がいいかもな。

 俺はそんな事を考えながらシャワーを浴びて、汚れを落としていく。

 

 シャワーを終えて、焚火の所に戻ると、エルが寝ていた。

 きっと、俺を待っていて、そのまま寝てしまったのだろう。

 「ま、いいか。」

 起こすのも忍びないので、毛布を取り出しかけてやる。

 そして俺もそのそばに腰を下ろす。

 この地方は比較的温暖みたいで、夜になってもそれほど冷え込んでいない。

 これぐらいなら風邪をひくこともないだろう。

 俺も毛布を取り出して、エルの傍に身を寄せる。

 

 「何とかなるさ。」

 俺は物心ついてから幾度となく口にしてきた言葉を呟くと、そのまま眠りに落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ