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吊り橋効果って……本当にあると思いますか?


 ……ン、ッツ……。

 痛みで意識が戻るが、何かに押さえつけられているようで体の自由が利かない。

 「ッツ!」

 両腕を左右に思いっきり引っ張られる。

 その痛みで完全に覚醒する。

 そして目を開けた私が見たのは、醜悪な姿のゴブリン達。

 「いやっ!放すのだ!」

 必死にもがくが数人がかりで押さえつけられている為、身動きが取れない。


 ペチャペチャ……。

 私の手を掴んでいるゴブリンが私の腕を舐める。

 ゾワっと、鳥肌が立つ。

 「いやっ、やめて!」

 いやだ、気持ち悪い……。

 私がもがくのを見て、下卑た笑い声が室内に響く。

 

 一回り大きなゴブリンが、私の目の前に来る。

 ……まさか、ホブゴブリン!?

 通常のゴブリンより全ての能力に於いて上回り、それなりの知恵も回る、ゴブリンから進化したホブゴブリン。

 ホブゴブリンが群れを率いると、その脅威度は何倍にも膨れ上がる。

 見たところ、この室内にはホブゴブリンが5匹はいる。

 この事を知らずにシンジたちが中に入ってきたら……何とか知らせないと。

 しかし、私が冷静でいられたのもここまでだった。


 ビリリッ!

 ホブゴブリンが私の胸元を掴んで、服を引き千切る。

 私の胸があらわになる。

 いやだ……誰にも見せたことなにのに……こんな奴らに……。

 悔しさと羞恥で涙が浮かぶ。

 それを見た他のゴブリン達の歓声が一際高く上がる。


 興奮したゴブリン達が私に群がってきて、残った衣服を引きちぎっていく。

 いやだ、イヤだ……。

 足を掴んでいるゴブリン達が舐め回してくる。

 ヌメっとした感触が嫌悪感を増大させる。

 ……イヤっ、やめてっ!

 私の身体覆っている布がすべて取り除かれる。

 両足を左右に広げられて、大事なトコロが丸見えになっている。

 「いやっ!やめてっ!やめてっ!いやぁーーーーー!」

 私が泣き叫ぶたびに、ゴブリンたちの歓声が上がる。

 

 それほど大きくない、胸の形が変わるぐらいに揉みしだかれる。 

 「やめてよぉ……ヤダよぉ……。」

 目の前にゴブリンの醜悪なモノが押し付けられる。

 ウグッ……息が出来ない……シンジ……助けてよぉ。   

 「ゲゲゲッ!」

 歓喜の声を上げたホブゴブリンが私の両足を掴んで近づいてくる。

 嫌だ!それだけはイヤっ!

 私は必死になって暴れるが、ゴブリン達を更に興奮させるだけだった。

 ホブゴブリンが近づいてくる……。


 「イヤぁ―――――――――――っ!」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「ミリア待ってろよ!すぐ行くからな。」

 俺はミリアを連れて行ったゴブリンを追って洞窟の中に飛び込む。

 入り口付近では20匹ばかりのゴブリン達が倒れている。

 俺はそれらを無視して、奥へと進む。

 洞窟はそれほど深くないように見えたが、入り組んでいて道がわかりづらい。

 しばらく進むと、完全に見失ってしまった。


 「くそっ!何処だ!……」 

 俺は、薄暗い洞窟を見通すかのように、目に力を込め辺りを見回す。

 すると、ぼーっと洞窟のイメージが浮かんでくる。

 ……これはっ?

 この感覚には覚えがあった……あの時、王宮で壁の向こう側を覗いた時と似た感覚だ。

 その感覚を意識し、イメージに身をゆだねる。

 ………。

 「わかった。」 

 しばらくして、俺はその感覚を理解する。

 これは空間属性のスキルの一種だ。

 俺はその感覚に導かれるまま洞窟全体をイメージする。

 ぼーっと洞窟内部の道筋が見えてくる。

 ……ただし、自分を中心に10M位の範囲を超えると、見えなくなる……ここでもしょぼさが現れるのか、と思ったが、見えないよりは何倍もマシだ。

 俺はそこに探査魔法を重ねるイメージを思い描く。

 すると、ミリアのいる方向がなんとなくわかる。

 「こっちか!」

 俺はそのイメージに従って走り出す。


 くねくねとした道を行ったり来たりしているうちに、段々ミリアの気配が近づいてくるのがわかる。

 そして一番近づいたところは……行き止まりだった。


 この壁の向こう側にミリアがいるのは間違いないが、そこに行く為には一度戻って大回りしなければならない。  


 ……イヤぁ……

 ……シンジ………けて……


 壁の向こうから、微かにミリアの声が聞こえる。

 「ミリアッ!」

 戻っている時間はない。

 俺は壁に手をついて力ある言葉を唱える。 


 『空間転移(ディジョン)


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「イヤぁ―――――――――――っ!」

 俺が飛び込んだ目の前で、ミリアが襲われている。

 その光景が2年前のあの時と重なる。


 「お前らぁっ!」

 プチッ……。

 俺の中で何かが切れる。


 『次元斬(スラッシュ)


 目の前の一際大きいゴブリンの首筋に向けて空間魔法を放つ。

 大きいゴブリンの首筋が切れて、勢い良く血が噴き出す。

 俺は剣を抜いて、ミリアを押さえつけているゴブリン達に斬りかかる。

 時々アッシュに教えてもらっているが、まだまだ使えないただ振り回すだけの俺の剣術……、それでも威嚇の効果はあったようで、ゴブリン達がミリアから離れる。

 

 俺はミリアを背に庇い、ゴブリン達と対峙する。

 普通のゴブリンに交じって、一回り大きい個体が4体……。

 「ホブゴブか……。」

 俺の剣の腕では、ホブゴブリンを相手にするだけで精一杯だろう。

 

 乱戦になったら勝ち目はない……ならば!

 『次元斬(スラッシュ)

 目の前のホブゴブリンの首筋が斬り裂かれ、そこから勢いよく血が噴き出す。

 「グ……ガッ……。」

 そのまま自分の血の海に沈むホブゴブリン。

 それを見たゴブリン達がひるむ。


 『水浸しの地面(ウォータープール)!』

 俺は水の魔法をゴブリンの足元に向けて放つ。

 ただ単に水たまりが出来て、足元を濡らすだけの水の初級魔法。

 突然足元が水浸しになったので警戒するゴブリン達だが、それ以上何も起きないので、ホッと安堵の表情に変わる。

 

 『氷結(アイシクル)!』

 俺はその水に氷の魔法をかける。

 これも初級魔法だ。

 水を冷やして凍らせる……ただそれだけの魔法。

 しかし、突然動けなくなったゴブリン達は混乱している。

 その混乱の隙をついて、俺はゴブリン達を斬り捨てていく。


 しかし、ホブゴブリンには効かなかった様で、奴らは力任せに足を引っこ抜き、自由を取り戻している。

 

 『水の浮き球(ウォーターボール)

 俺は水玉を出し、ホブゴブリンに投げつける。


 『物質転……』

 俺が次の魔法を唱える前に、ホブゴブリンは持っている棍棒で、水玉を散らす。


 俺の魔法はショボい故に、工夫が必要だ。

 その為、どうしても即時性に欠ける。

 なので、今回みたいに冷静に対処されるとどうしようもない。

 残っているのはホブゴブリン3匹……動きさえ止めることが出来ればな。


 俺はこのショボい空間魔法を使っていて気づいたことがある。

 ショボいとは言っても物魔両耐性を無効化するこの魔法は、人間、もしくは人型の相手なら、十分脅威になりえる。


 例えば『空間転移(ディジョン)

 飛べる範囲が10M無いと言っても、相手の後ろに回り込むだけなら10Mも必要ない。

 目の前にいた獲物が急に消えたと思ったら後ろから刺される。

 かなりの達人でも避けるのは困難だろう。


 例えば『次元斬(スラッシュ)

 物魔両抵抗を受けずに10㎝の傷が作れるのならば、頸動脈、大動脈、心臓、脳神経等を切裂けばいい。

 ホブゴブリンにやったように首筋から10㎝も切れば容易に頸動脈に届く。


 ただ、座標固定に時間がかかるため、動き回っている相手には狙いが定めづらいと言う弱点も存在するが。


 『力場発生(フィールド)

 『力場発生(フィールド)

 『力場発生(フィールド)

 『力場発生(フィールド)


 俺はこっそりとホブゴブリン達の足元に力場を作る。 

 このまま真っすぐに向かってくれば力場に躓くことになる。 


 『落とし穴(ピット・フォール)

 『落とし穴(ピット・フォール)

 『落とし穴(ピット・フォール)

 『落とし穴(ピット・フォール)

 『落とし穴(ピット・フォール)

 『落とし穴(ピット・フォール)


 更に周りの地面を掘る。

 避けたところで落ちる位置を狙って掘る。


 そしてボウガンに火炎瓶をセットする。

 

 様子を見ていたホブゴブリンの1匹が、武器を振り回しながらこちらに向かってくる。

 そして、見えない何かに足を取られてつんのめる。

 その隙を逃さず、ゴブリンの首に剣を突きたてる。

 ……後2匹。


 1匹のホブゴブリンは、仲間がやられたのを見て、一歩後ろへと、後ずさりしたところで落とし穴に嵌まる。   

 

 そして、もう一匹は、俺の剣がホブゴブリンに突き刺さったままなのを見て、飛び掛かってくる。

 思いっきり跳躍しているので、足元の罠には引っかからない。

 しかし……。

 「空中では逃げ場がないんだよ!」

 俺は飛び掛かってくるホブゴブリンの心臓部に狙いを定め、魔法を放つ。

 

 『次元斬(スラッシュ)

 空に浮いた状態では躱すことも出来ず、その心臓部がパックリと切裂かれ動きを止める。

 ドサッ!

 そのまま地面に落ちて動かないホブゴブリン。

 ……後1匹。


 俺は先程落とし穴に嵌まったホブゴブリンを見る。

 穴から出ようともがいている、奴の頭に向けて、ボウガンを撃つ。

 設置されていた火炎瓶が勢いよく飛び出し、ホブゴブリンの頭に当たって小瓶が砕け散り、中の液体がばらまかれる。

 と同時に、その液体に火が付き、ホブゴブリンは炎に包まれる。

 「ウガァーーー。」

 呻きながら暴れまわるが、身体の半分以上が埋まっているため、碌に身動きが取れないまま炎に包まれ焼かれていく。

 

 『次元斬(スラッシュ)

 暴れるホブゴブリンの喉元に向けてスラッシュを放つ。

 ヒュー…… 。

 風を切るような音がしたかと思うと、暴れたいたホブゴブリンは次第に力を失っていき、やがて動かなくなる。


 「取りあえず……終わったか……ミリア、大丈夫か?」

 俺は座り込んでいるミリアに声をかける。

 ……全裸なので目のやり場に困る。

 「…ヒック……ヒック……シンジぃ……。」

 ミリアが抱き着いてくる。

 さっきまではショックの方が大きかったようだが、危険が去って落ち着いたことで感情が戻ってきたんだろう。


 「シンジぃ……シンジぃ………。」

 泣きじゃくるミリアがしがみ付いて離れない。

 まぁ、この方が俺も見なくて済むので助かるが。

 俺はミリアの身体を優しく抱きしめ、その頭を撫でてやる。



 「シンジ!ミリア!大丈夫!?」

 そこへ駆け込んでくるエル。

 その後ろからはシェラとアッシュが続いてくる。

 

 「エル、一応大丈夫だ。」

 ミリアの姿を見て、何があったかを悟るエル。

 俺は一度ミリアを放しエルに任せる。


 「エル、シェラ、悪いがケアを頼む。」

 俺はそう言って、テントと簡易シャワールーム、着替えや食材などを出すと、エルがミリアを促してシャワールームの方へ入る。


 「俺達は少しの間、この周りを調べてくる。」

 俺はシェラにそう告げると、アッシュを促してその部屋の外へ出る。

 俺達男がいないほうが気も休まるだろうというのと、他にゴブリン達が隠れていないかを確認する為に俺達は各部屋を調べて回る。

 

 「なぁ、ミリアなんだが……その……大丈夫だったのか?」

 アッシュが聞いてくる。

 下世話な好奇心ではなく、仲間の事を思っての言葉だというのはわかるので俺は答えてやる。

 「ギリギリだったみたいだけどな。何とか間に合った。でも……。」

 ……あの時と同じだ。

 俺はまた助けられなかったのだろうか。

 

 「そっか……何か力になってやりたいが……この間はミリアのお陰で吹っ切れたからな。」

 アッシュがそう呟く。

 先日、冗談でミリアに「アッシュを慰めて励ましてやれ」って言った事を、ミリアは律儀に実践したらしい。

 「なら、普段通りに接してやることだな。変に気を使う方が傷つく……何もなかったんだからな。」

 俺はそう言いながらミカ姉の事を思い出す。

 そう、何もなかったのに、周りの同情と言う名の好奇心に晒され傷ついた女の子……。

 「普段通りが一番だよ。」

 俺はそう呟いた。


 ◇


 あれから3日が過ぎた。

 ミリアを助けた部屋から、さらに奥にある広めの部屋に俺達はとどまっている。

 ゴブリンの残党狩りと後始末、遺跡の入り口の探索、そしてミリアが精神的に落ち着くのを待っていた為、時間がかかってしまった。

 

 色々片付き、ようやく落ち着いたところで、遺跡の入り口らしき隠し扉が見つかったので、今夜はゆっくり休み、明日この先へ進むことに決まった。


 「シンジ様……少し話したいのだ。」

 俺がテントの外で不寝番をしていると、ミリアが隣に来て声をかけてくる。

 「どうした?早く寝ないと、明日起きれないぞ?」

 「大丈夫なのだ。私はいつも早起きなのだ。」

 務めて明るく、そんな事を言ってくるミリア。

 「大丈夫なのだ……里を出る時、散々聞かされてきたのだ。だから覚悟は出来ていたのだ……でも、いざとなると怖くて……怖かったのだ……。」

 俯くミリアの肩を抱き寄せる。

 ミリアは俺にしがみつき、顔を俺の胸に当てる。

 「怖かった……もうダメだと思ったの……でもシンジが来てくれた……私を助けてくれた……ありがとうなのだ。」

 ミリアはしばらくの間、俺から離れなかった。


 やがて、ミリアが顔を上げる。

 思いっきり泣いて気が晴れたようだ。

 俺を見るその顔はすっきりとしているように見えた。

 「助けてくれてありがとうなのだ。ちゃんとお礼を言ってなかったこと思い出したのだ。」

 そう言って笑うミリアの表情からは先程迄の暗さは消えていた。

 きっと、彼女なりに折り合いをつけたのだと思う。

 笑えるなら、それでいいと思った。


 「貸し、一つな。」

 だから、俺はいつもの様に笑いながら言う。

 「仕方がないのだ……取りあえず借りておくのだ。でも……。」

 ミリアが、不意に俺の唇を奪う。

 ミリアの腕が俺の首に回り、ギュっと抱きしめてくる。

 しばらくしてミリアが離れる。

 「取りあえず利子は返したのだ。」

 にっこりと笑顔で言い、べぇーっと舌を出したかと思うと背中を向けて、テントの中へと行ってしまった。


 「なんだかなぁ……。」

 俺は、先程迄ミリアが触れていた唇に手をやり、そんな事をつぶやくのだった。


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