ゴブリンとオークって、存在がR18だと思いませんか?
「あの奥……だよね?」
「あぁ、俺が聞いた情報だと、あの洞窟の奥が遺跡への入り口のはず……何だが。」
エルの問いかけにアッシュが応えるが、歯切れが悪い。
ここから見える洞窟の周りには、50匹を超えるゴブリンの群れ。
たぶん洞窟の中に巣をつくっているんだろう。
「よし、ココは一旦引こうか。」
俺はそう皆に告げる。
「折角ここまで来たのにか?」
アッシュは不満そうだ。
「アッシュ……ゴブリンとはいえ、あの数を相手に何の策もなしで立ち向かえるのか?……俺には無理だな。それともお貴族様ならできるのかな?」
「……っ。」
アッシュが言葉に詰まる。
「シンジ!アンタバカなの?」
俺の言葉にエルが怒る。
「悪ぃ、言い過ぎた。」
そう言えば、エルも貴族……それも王族だったっけ。
「取りあえず戻るぞ。」
そして俺達は数キロ離れた場所にベースキャンプを作る。
「あのゴブリンの群れをどうにかしない事には先に進めないってことなのだ。」
ミリアが珍しくまともな事を言う。
ガキッ!
いきなりきた刃を寸での所で受け止める。
「おまっ!いきなり何するんだ!」
「シンジ様は今、私をバカにするような事を考えていたのだ!」
って、何でわかった?
ウゥーっと唸りながら、俺を睨みつけるミリア。
「悪かったよ。・・・・・・後様付けは辞めてくれ。」
ミリアを家で住まわせるようになった翌日、学園ではすでに噂になっていた。
まぁ、朝の諍いはそれなりに目立っていたからな。
それが一緒に登園してきた上、ミリアが「様」をつけて呼ぶのだから、噂好きの女生徒達の間では色々な憶測が飛び交い、あっと言う間に広がった。
しかも、噂の真偽を確かめに来た女生徒に「シンジ様の家に住まわせて貰ってるのだ。」なんて言うものだから、女生徒の間では「純真無垢なミリアを騙して手込めにし、夜な夜な調教している、鬼畜エロシンジ。」と言うのが、学園内における俺の評判になってしまった。
その後、急に旅にでたので、今頃どんな噂が広まっている事やら・・・・・・。
「でも……『あなたはシンジ様に買われたのだから、ちゃんと様付けで呼ばないといけません』ってシェラ御姉さまが……。」
うぉい!
「シェラ?……ちょっとコッチヘいらっしゃいな?」
あ……。
俺がツッコむ前に、シェラがエルに連れていかれる。
……ウン、ココはエルに任せよう。
「冗談はともかくとして、どうすかなぁ。」
「魔法で一掃できないのか?」
俺が考え込んでいると、アッシュがそう言ってくる。
「エクスプロージョンとか、上級魔法が使えれば、それもありだけどな。」
エルもシェラも中級魔法までしか使えない。
エルの中級合成魔法の『大爆流渦』なら、それなりの効果はあるかもしれないが、殲滅まではムリだ。
「しかし……。」
アッシュが焦ったように呻く。
「落ち着けよ……正直な所、お前自身はゴブリン相手に、同時に何体までなら相手が出来る?」
俺の言葉に、アッシュが押し黙り、しばらく考えた後に口を開く。
「そうだな、客観的に考えてみたが3~4匹ってところだな。」
そう言った後は黙り込んでしまった。
冷静になってみれば、あの集団に向かって行けば、同時に相手取るのは3~4匹じゃ済まないという事はわかるだろう。
アッシュの腕なら10~20匹程は屠ることが出来るだろうが、そこまでだ。
その間にゴブリンの持つ武器がアッシュの身体を何度かかすめるだろう。
ゴブリンたちは武器に毒を塗る。
瓶の中に様々な毒虫を入れ、その中に糞尿や腐敗した死体等を入れて作るゴブリン毒。
その傷口から入った毒が全身に回り、動けなくなるまでにはそれ程の時間は必要ない。
ゴブリンたちにしてみれば、仲間がどれだけやられようが、一人の振るった武器が相手をかすめれば、それでいい……それが数を頼みにするゴブリンたちの戦い方だ。
「広範囲魔法と、弓矢で遠くから削って行くしかないよね?」
いつの間にか戻ってきていたエルが会話に加わる。
「時間はかかるが、それしか方法は無いか。」
エルの言葉にアッシュも同意する。
「このまま帰るっていうのはどうだ?」
俺はそう提案してみる。
「シンジ様はゴブリン如きを恐れているのですか?」
エルにやられたのだろうか……グルグルに縛られて転がされていたシェラが、挑戦的な口調でそう言う。
「恐れているとか、そんなんじゃない。数が多い事を気にしているんだ。」
「ゴブリン如きがどれだけ束になろうとも、物の数じゃないですよ。私とミリアで一掃しますとも。」
「お前は馬鹿かっ!2~30匹程度じゃないんだぞ。あそこに見えただけで50匹以上。外回りに行っている奴や洞窟の中に隠れている奴もいるかもしれないんだ。孤立無援の状態で囲まれてみろ、あっという間に敗北だ。それに、分かっているのか?ゴブリンたちの捕まった女の末路を。」
ゴブリンに捕まった女は、直ぐには殺されない。
そのまま巣へと連れ去られ、ゴブリンたちの慰み物になるのだ。
昼夜を問わず死ぬまで永遠に凌辱され続ける……一説によると、死んでも体が硬くなるまで凌辱が続くと言われている。
その状況を想像したのか、流石のシェラも黙り込む。
「へぇー、シンジは私達の事を心配してくれてるんだぁ。」
その場の雰囲気を変える為だろうか、茶化したような声音でエルが言う。
「プークスクス、シンジったら、それほどまでに私のコトが好きなのねぇ。」
更に茶化してくるが、悪いけどここはノッてやれない。
「当たり前だろうが!俺は、あの二人に約束したんだ。お前を守るって。……俺は貴族じゃないからな、お前を守る為なら、どんな卑怯な手でも使うし、敵に背を向ける事だって厭わない。」
俺の真剣な声に押されたのか、エルの顔から茶化すような表情が消える。
「そう……シンジの気持ちは嬉しいわ。でも、私は貴族なのよ……今までそんな事を考えた事もなかったけど……ね。……ここから半日の所に村落があるわ。あのゴブリンたちがこのまま数を増やして行ったら、近い内に襲われるわね。それがわかっていて、見ない振りして帰るなんてことは、私にはできないわ。だって、それが『貴族の務め』でしょ?父様が言ってたことは、そう言う事じゃないの?」
毅然とした声で、態度で、エルが言う。
王侯貴族のあるべき姿を、エルは体現し、その道を歩んでいこうと決めたのだろうか。
「シンジ……あなたが何と言おうと、私はゴブリンと戦うわ。私を守るというなら……考えなさい!私を守ってゴブリンを殲滅する策を!」
……このエルに、ここまで言われたんじゃ、俺も覚悟を決めるしかないかぁ。
「分かった。ただし、俺の指示には絶対従う事。これだけは約束してくれ。」
「ウン、……ごめんね。無茶言ってるのは分かってる……でも、……。」
エルが、先程とは打って変わって、しおらしく頭を下げている。
俺はそんなエルの頭を撫でてやる。
「少しだけ、時間をくれよな。」
「ウン、なるべく早くね。」
「えっと、結局どうなったんだ?」
じっと見つめ合い、それはかとなくいい雰囲気になっている俺達に割り込むように、恐る恐るアッシュが訊ねてくる。
そんなアッシュに「よくやった」という視線を向けるシェラと、「空気を読むのだ」と少し軽蔑した視線を向けるミリア。
俺は、アッシュの方をポンと叩き、軽く告げる。
「取りあえず、ゴブリンを殲滅する。頼りにしてるからな……壁役。」
「おいおい……。」
俺の言葉に情けなさそうな声を出すアッシュ……ウチの唯一の壁役だから仕方がないだろう?
「安心しろ、ゴブリンは男を捕まえないし。」
「そうなのか?」
俺の言葉に、安堵の表情を見せるアッシュ。
「あぁ、ゴブリンは男は捕まえない……その場で嬲り殺しにするだけだよ。」
俺はニッと笑ってそう告げてやる。
「ダメじゃん!」
がっくりと項垂れるアッシュ。
しかし、どうするかなぁ……。
この人数じゃぁ、まともに向かって行ったら全滅するだけだしなぁ……。
「シンジ様、とりあえず休憩するのだ。」
ミリアが、カップに入れたハーブティを差し出す。
お茶から立ち昇る、鼻腔をくすぐるような甘い香り……。
「カミル茶なのだ、鎮静作用があるので落ち着くのだ。」
ミリアが、そう言う。
こう見えてミリアは、薬草やハーブなどに詳しく、こういったハーブティなどを入れるのが上手かったりする。
本人に言わせれば「ポーションの調合と変わらないのだ。」と言うが……。
まぁ、美味しいから良しとしよう。
その甘い香りを楽しんでいると、不意にある事を閃く。
お茶を飲む手を止めて、脳内でシミュレートする……。
……いけるかもしれない。
「皆、作戦が決まったぞ!」
◇
「最終確認をするぞ。」
俺は皆の顔を見回す……が暗くてよく見えない。
時間はとっくに夜中を廻っている。
夜行性の魔物以外はとっくに寝静まっている時間だ。
ゴブリン達も同じで、かなりの数が洞窟内へ入っていったのを確認している。
今洞窟の外にいるのは30匹前後ってところか。
焚火を囲みつつ、辺りを警戒している。
「まずは俺が、このアイテムを洞窟内に打ち込む。そうしたら、シェラはすかさず風を洞窟内に送り込め。」
俺はそう言って手の中のアイテムを見る。
拳大ぐらいのちょっと歪な球体だ。
これは壁に当たると同時に破裂して、中の粉末が飛び散る仕掛けになっている。
この粉末を少しでも吸い込めば、身体が痺れて動けなくなり、徐々に体力を奪っていく。
これを風魔法で洞窟内に蔓延させれば、後は動けないゴブリン達に止めを刺すだけだ。
「これが破裂した時の音で、外のゴブリン達が気づくだろうから、そこにエルの範囲攻撃をぶち込む。混乱に乗じてアッシュとミリアは斬り込んで行って欲しい。俺とエルはそれを援護する。」
シェラの手が空いたところで、俺も前に出る予定なので、それほど時間をかけずに外は制圧できるだろう。
制圧した頃には、洞窟内に毒が充分回っているだろうから、止めを刺しに中へ入っていけばよい。
「大丈夫だとは思うが、万が一って事もあるから、洞窟の入り口からは距離を置くようにしてくれ。」
洞窟内が、複雑に入り組んで居たり、想定以上に奥行きがあった場合、毒が回りきらないことも考えられる。
それでも入り口付近に来れば、毒を吸い込むことになるから、それほど心配は無いはず……洞窟内の情報を得る時間がなかったのが悔やまれるが、今更だな。
「……ポーションは飲んだか?」
俺は再度確認をする。
俺がさっきみんなに配ったのは状態異常から体を保護する解除ポーションだ。
これを飲んでおかないと、洞窟に入った途端、俺達も毒にやられる事になる。
気休め程度ではあるが、ゴブリン毒にもある程度は対抗できるだろう。
闇の中で頷く気配がある。
「大丈夫そうだな……じゃぁ、行くぞ!」
俺はこの為に急遽作成した弩に麻痺毒玉をセットする。
急ごしらえなので、1~2発撃ったら壊れるだろうが、これを洞窟まで運んでもらえれば、用済みだから問題はない。
俺は弦を目一杯引き絞り、狙いをつけて……放つ!
弾は狙い違わず、洞窟の入り口から数メートル中に入った所で破裂する。
『爆烈風!』
すかさず、シェラが風魔法を唱える。
突風が洞窟の中へと吹き込んでいく。
『流星嵐!』
エルの光魔法だ。
無数の光の粒子がゴブリンに降り注ぎ、その身体を貫いていく。
止めを刺すには至らないが、それでもすぐには動けないダメージを与えている。
「うおぉぉぉぉ―――――!」
アッシュとミリアがゴブリンの群れに向かってツッコんでいく。
目の前のゴブリンを斬り伏せ、その横を薙ぎ払う。
返す剣で斬りかかろうとしていたゴブリンの腹を貫き、斬り捨てる。
何だかんだと言っても、アッシュの剣捌きは、あの年にしては一歩抜きんでている。
囲まれないように位置取りをしながら次々と切り捨てていくアッシュ……冷静になればゴブリン如きでは相手にならない。
一方、ミリアと言えば、変わった形の小剣……カタールが一番近い形状か?……を両手に持ち、ゴブリンの攻撃を躱して、背後から斬り裂く。
斬り付けてくるゴブリンの剣を、左手の小剣で受け止め、右手の小剣を腹に突き刺す。
そのままジャンプして、別のゴブリンの背後に立ち、斬り裂いていく……。
動きが早くて、眼で追うのがやっとだ。
前衛二人の働きは目覚ましく、瞬く間にゴブリン達を斬り伏せてその数を減らしていく。 この様子だと、俺の出る幕は無いかな……。
しかし、その時俺の視界の端で、ミリアが崩れ落ちるのが見えた。
「ミリアッ!」
洞窟の入り口から手が伸びてミリアを抱きかかえ、中へと連れていくのが見えた。
「シェラッ!エルを頼む!」
おれは、シェラに声をかけると洞窟に向けて走り出した。