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祭りの後って物悲しいけど、次への始まりって思えば楽しくならないですか?

「バトルスタート!」

 街のあちらこちらで「ぐらんぶる」の試合が行われている。

 その様子は各所に備え付けられた大型のスクリーンにも映し出され、試合に参加していない人たちも、その様子を見ては一喜一憂している。


 またある所では、互いのカードを見せ合っての自慢大会や、お互いの欲しいカードを指定してトレードなんかも行われている。

 

 また、商人たちはこれを機に新しいカードの入ったパックなどを大々的に売り出し、その売り上げを大きく伸ばしている。

 屋台は、祭りの賑わいに加え、他の街にはない珍しい食べ物などもあり、これもまた大盛況だ。

 街の人々は、つい先日までの陰惨な争いを忘れたかのように明るく笑顔があふれている。


「大盛況ですわね。」

「あぁ、準備は大変だっただろうけど、この様子を見れば報われた気がするんじゃないか?」

「本当に、その通りですわね。」

 隣を歩くアイリスが微笑みながらそう言った。


 俺は、初日はクリスと、翌日はエレナと、そして昨日はリオナとレムと一緒に街中をめぐりつかの間のデートを楽しんでいた。

 そして今日はアイリスの番と言うわけだが、彼女は俺と一緒にただ歩くだけで楽しいという。

 最初は俺に遠慮しているのかと思ったが、彼女の表情を見ているとそうでもないらしく、心から楽しんでいるように見える。

「シンジ様を独り占めに出来る時間は貴重ですからね。それに執務ばかりでこうやって街中をゆっくりと見て回る機会は少ないですからね、楽しいですよ。」

 そう言いながらそばに寄ってきた子猫を撫でている。

 一見普通の子猫に見えるが、この子もマオの配下だ……ただ猫語は分からないのでレオンかマオがいないと意思の疎通を図る事が出来ないが。

 

 俺達は収納から刺身を出すとその子猫に与える。

 子猫はにゃぁと一声鳴くと、刺身を咥えて去っていった。

 俺達はそれを見送り、再び歩き出す。


「こうして外部から来る人々をみていますと、色々な事に気づかされますわ。そういう意味でもこの祭りを開催できたことは良かったです。」

「そうだな、気づいた事は次回に活かせばいいんじゃないか?」

「次回って、またやるんですか?」

「第一回って謳っているからまたやるつもりなんだろ、リディアは。」

「クスッ、そう言えばそうですね。」

 俺とアイリスは笑い合う。


「あしたはエルさんでしたよね?大変そうですよ。」

 アイリスがくすくすと笑う。

「大変って、何が?」

「それは明日のお楽しみですよ。今日は私の事を考えてくださいね。」

 そう言ってアイリスがギュっとしがみ付いてくる。

「そうだな。」

 俺とアイリスはその後も街中をめぐり、祭りの帝都を楽しむのだった。


 ◇


「大変って、こう言う事かよ。」

 俺は目の前でバトルを繰り広げるエルとその対戦者を見て溜息をつく。

 エルが皇帝の婚約者という事は、実はあまり知られていない。

 もちろん名前などは広がってはいるが、皇帝陛下の婚約者「エルフィーネ」と目の前の「エルフィー」を結び付けて考える人はまずいない。

 エルはそれを利用して、この大会中、街中を飛び回って大暴れしていたらしい。

 その圧倒的な強さとその眩いばかりの美貌が相まって、エルの名が街中に広がるのはあっという間だった。


 そして、この大会5日目ともなると、残っているのは腕に覚えのある奴等ばかりで、そういう奴らが、強く、美しい女性であるエルを見ればバトルを挑んでくることは、考えてみれば当たり前の事だった。


「しかし、うっとおしぃ。」

「あはっ、ゴメンねぇ。すぐ終わらせるから。」

 エルはその言葉の通り、挑んできた挑戦者を瞬殺する。

 そしてまた俺とのデートに戻るが、しばらくすると新たな挑戦者が現れてキリがない。

「だぁぁぁぁっ!」

 そして俺はキレた。

「お前ら、そんにバトルがしたいなら俺が勝負してやるぜっ!」


 この大会は「ぐらんぶる」の魅力を広めるという目的もある為、試合を見て興味を持ちカードを買うと言った新規ユーザも多数いる。

 そしてカードを持ったのなら試合をしてみたいと思うのが人のサガだ。

 その為、スターチップを持っていなくても、飛び入りの野良試合をする事が出来、運営委員会も推奨している。

 そして野良試合に関しては互いの合意が必要となるのだが、試合を勝ち残っている奴等は野良試合をしてもスターチップが増える訳でもないので、自身にメリットが無いと試合を拒否する手合いが多い。

 なので俺はこいつらを釣る餌を用意する。


「俺に勝った奴は先着1名でこいつをくれてやる。」

 俺はそう言って1枚のカードを取り出すと、それを見た群衆が騒めきだす。

 当然だ、この大会に向けた新発売されたNEWカード、それもSSRの『皇帝』だ。

 誰もが欲しがる垂涎の一枚……それをエサにすれば対戦者は山の様に群がってくる。

「その代わり、負けた奴は今日一日エルに対戦を申し込むことを禁ずる!」


 横暴だ!と言う声も上がったが、そこに居合わせた運営委員が認め正式に賭けが成立する。

 そして俺はエルに群がるゴミどもを一掃すべく、バトルへと赴くのだった。


「ふはははは!甘い、甘いなぁ!」

「くそっ!あんな手があるなんて……。」

「フン、出直してくるがいい!」

「ぐわっ……。」

「お前の相手はこれで十分だ!」

「ご、ゴブリンに負けたぁ?」


 俺は、後から後から湧いてくるゴミどもを一掃し続ける。

「何だかんだって言ってもシンジさんも楽しんでますよねぇ。」

「お陰で私達はスターチップの荒稼ぎが出来るけどね。」

 エルとリディアが、他のプレイヤーの挑戦を受けて返り討ちにしている。

 俺がバトルを始めたせいでデートは中断、エルは俺の試合を観戦していたんだけど、俺に負ける前ならエルに挑戦しても問題ないはず、と各プレイヤーたちがエルに挑戦し始めたのだ。

 俺はと言えば、目の前のプレイヤーを葬り去らねばならず、エルを止める事が出来ない。 エルは俺が動けないので暇つぶしに試合を受けるが、その際に「スターチップ全部かけるなら」と言う鬼のような条件を出し、結果スターチップを失った敗残者たちを次々と量産していた。

 エルとのデートを邪魔されないために始めた筈なのに、なぜかデートを中断して二人ともバトルをしている……おかしい、なぜこうなった?


 結局、その日は大会の終了時間までバトルを続けることになり碌に街を回れないまま、エルとのデートが終了したのだった。


 ◇


「第一回ぐらんぶる公式御全試合、その栄光ある優勝者はミカエル=ワイズマンさんです!おめでとうございます!!」

 広場で表彰式が行われている。

 ひときわ高く作られた壇上には今回の優勝者が、運営の人から花束と商品のレアカードを受け取っていた。

 レアカードは俺も持っているSSRの『皇帝』だ。

 ちなみにエル達のSSRカードも作られたが、たとえカードとは言えエル達の姿を他人に渡す気は毛頭なく、SRと時と同じくエル達以外の手には渡らないようにしてある。

 この事を知ったコレクターたちから文句が出そうだが、そんな事は知った事ではない。

 そう、グランブルは俺が開発した……つまり俺がルールブックなのだ!


「シンジさんがまた悪い顔してますねぇ。」

「シンジ様もお疲れなんですよ、今はそっとしておきましょう。」

 そんな会話がなされている中、セレモニーはドンドン進行していく。

 表彰式の後は運営委員会からグランブルについての今後の展開などが発表され、会場は大いに盛り上がっていく。

 最後に、運営からその場にいる人の中で希望者に大会記念のカードを配って締めくくられた。


「終わっちゃったねぇ……。」

 誰もいなくなった広場をテラスから見下ろしてリディアが言う。

「まぁ、2~3日はお祭りムードも残るだろうけど、すぐに日常が戻ってくるよな。」

「でもお陰でみんな活気づきましたし、明日から意欲を持って働いてくれますわ。これもリディアさんのおかげですよ。」

「そ、そうかなぁ、えへへ……。」

 アイリスに褒められて、リディアは照れている。

 たぶんリディアの本音は自分が楽しみたいからやっただけ、なのだろうから褒められると居心地が悪いのだろう。

 そうと知りながら俺もリディアに追い打ちをかける事にする。

「いや、リディアはすごいよ。俺も民達を活気づける為に何か祝い事を大々的にやってお祭みたいにしようと考えていたんだけど、何分予算が厳しくてな……リディアが先にやってくれたおかげで助かったよ。ありがとうな。」

「もぅ……シンジさんまでぇ……褒め過ぎですよぉ。それにこんなにうまくいったのはアイリス達皆の協力があっての事だしぃ、褒めるなら皆を褒めないと。」

 リディアが真っ赤になりながらもそう言ってくる。 

「そうだな、皆のおかげだ、ありがとうな。」

 夕陽の柔らかな日差しを浴びて、皆の髪が煌く。

 皆の笑顔を見ていると、なんだか胸の奥が暖かくなってきて、そして気付く。

 そうか、これが家族なんだな、と……。


 家族のいなかった俺が異世界で愛しい人と巡り合い、新しい家族を作っていく……。

 そう、これが俺がずっと求めていたもので、これから守り抜いて行かなければならないものなんだ。

「シンジ泣いてるの?」

 エルが傍に寄ってきてそう囁く。

「泣いてないよ、幸せを噛み締めていただけさ。」

「そう、ならいいけど……ずっと一緒だからね。」

 エルはそう言って背後から俺を抱きしめてくれる。

「あぁ、ずっと一緒だ。」

 俺はそう言うと、二人の顔が近づき、そして……。


「あぁ―――――、抜け駆け禁止ですぅ!」

 リディアが俺達の間に割って入る。

 それに気づいた他の子達も抱き着いてきて俺は揉みくちゃにされる……が、それすらも幸せの象徴なんだと思うと嬉しくもあった。



 ◇


「そう言えば、シンジ様が考えてらしたお祝い事って何ですの?予算が厳しいとかおっしゃってましたが。」

 皆が落ち着きを取り戻し、新しく入れ直したお茶を飲みながらアイリスが聞いてくる。

 かなりの経済効果があったとはいえ、続けてお祭りをするわけにもいかないので、アイリス的には予定を立てておきたいのだろう。

「あぁ、帝国も正式に樹立したし、周りのゴタゴタも落ち着いたし、南方連合の方は今のところ動きを見せていないからな、区切りをつけるのにちょうどいいかなと思って……。」

 皆は黙って俺の言葉を待っている。

「だから……その……俺達の結婚式をだなぁ……大々的にやろうかと……。」

「アイリス、すぐに予算案を建てるのですぅ!」

「分かってますわ!クリスさんとエルさんは招待客の選別をお願いしますわ。エレナは食材の確保ですよ!」

 俺の言葉が終わらない内に騒然となる。

「ちょ、ちょっと待てって、結婚式は延期だよ!」

 俺の言葉を聞いて、一同がピタッと止まる。

「延期って……どうして?」

 エルが聞いてくる……だから、そんな顔で睨まないで。

「当たり前だろ、大きなお祭りが終わったばかりなんだ。少なくとも半年は間を置かないと国民の負担も大きいし、何よりありがたみが薄れる。」

 そう、お祭などは日常の中にたまに起きる非日常だから楽しいのであって、日常になってしまえば興奮も喜びもなくなってしまう。


「うぅ……こんなことなら大会何か開催するんじゃなかったよぉ……。」

「半年ですかぁ……。」

「いや、このタイミングなら、来年、帝国の創立祭を兼ねてやるのが一番いいかもな。」

「さらに伸びましたよぉ……。」

「まぁまぁ、一年あれば入念に準備が出来ますわ。前向きに考えていきましょう。」

 打ちひしがれる者が多い中、アイリスは真っ先に立ち直り、そう言いながら皆を慰めている。

「そう言えばそうだね。早速準備に入らないとね。」

 やけにあっさりと立ち直る皆を見て、俺が不思議そうな顔をしていると、クリスがそばに来て教えてくれる。

「普通、貴族の婚儀と言うものは告知してから半年ぐらい先に行うのが普通なんですよ。それが王族ともなれば1年ぐらい先になるのはよくある事ですから。」

 なるほど、そういうものなのか。

 俺は納得しかけて、気づく。

「じゃぁさっき皆が慌てて準備しようとしたのはおかしくないか?」

 俺がそう言うとクリスは静かに首を振る

「おかしくありませんよ、シンジ様が私達を婚約者として発表してから半年以上たってますしね。」

 そう言ってクスリと笑う。

 成程、婚約者として発表=婚儀の告知っていう事か……この世界、まだまだ分からないことが多いな。


「そんなわけで、これからも末永くよろしくお願いしますわ……旦那様♪」

 そう言ってクリスは俺の頬に軽く口づけをしてから皆の方へと移動していく。

 皆がワイワイと話し合っているのを見て……皆が笑顔である事を見て「ま、いっか」と呟く。

 皆の笑顔を見て暮らす事……それが俺の望みなのだから。



 それから1年後……俺は5人の花嫁と共に戦場を駆け抜ける事になるのだが、それはまた別のお話……。

        


 この物語は、一応ここで完結します。

まだまだこの先の設定もあるのですが、自分の中でまとまり切れていない為、ここで終了することに決めました。

 この先に関しては自分の中で区切りがついたら執筆しようと思います。

 短い間でしたが応援ありがとうございました。

 次回作も応援よろしくお願いいたします。

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