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硬いだけじゃダメなの……って何が!?

 「一旦このあたりで休むか。」

 俺は森の中程の程良く開けた場所に出たところでそう提案する。


 「そうだな。まだ先は長いしな。」

 アシュレイがすぐさま乗ってくる。

 顔色もよくないし、ちょっとハードだったか?


 『着火ティンダー

 拾い集めた木切れに魔法で火を点ける。

 火が大きくなってきたところで、追加の薪を投入すると、あっと言う間に燃え上がり大きな炎になる。

 「へー、凄いもんだな。」

 そんな俺の作業を、横で感心するように見ているアッシュ。

 「見ているのも構わないけど、横になってたらどうだ?」

 アッシュの顔色はかなり悪い。

 「イヤ、大丈夫だ。」

 アッシュは俺の横に座り、そう言った後はずっと黙り込んでいた。

 

 俺も黙ったまま火の調節をしている。

 エルは、心得ているよ、とばかりに少し離れた場所で調理を始める。

 シェラとミリアは肉の調達に行っている。


 「なぁ、俺はさ……。」

 黙り込んでいたアッシュがボソッと語り出す。

 「もっと出来ると思っていたんだ。・・・・・・だってそうだろ?学園の中で、剣で俺に敵う奴は数人しかいない。冒険者登録してからはそこそこ討伐依頼も経験した。だから・・・・・・。」

 「だから今回も余裕だと思ってたか?」

 「・・・・・・。」

 俺の言葉にアッシュが黙り込む。


 アッシュが気にしているのは、ここに着くまでにあった襲撃についてだ。

 道中の弱い魔物に関しては、アッシュだけでなく俺にも出番は無かったのだけれど……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 『疾風斬エアスラッシュ!』

 飛びかかってきた2頭のウルフを、シェラの魔法が一掃する。

 それを見た他のウルフ達は一目散に逃げ出す。

 「他愛のない・・・・・・。」

 「シェラさん、あまり魔法の無駄撃ちしなくても・・・・・・こっちに回してくれればいいんだぜ。」

 「これ以上ケダモノを、ひめ・・・・・・エル様に近付ける訳には行きません!」


 さっきから現れる魔獣は、全てシェラが1撃か2撃で屠っている。

 なのでアッシュがそう言いたくなる気持ちは分からなくもないが、今はまだシェラに任せておけばいい。

 アッシュも何度か討伐依頼をこなしたこともあると言っていたので、そのあたりのことは理解しているだろう。

 単純に暇つぶしの軽口だと、この時はそう思っていた。


 「ストップ・・・・・・前方に複数の気配・・・・・・ウルフ系だと思う。」

 俺が注意を促している間にも奴らは近付いて来て姿を現す。

 ウルフファングの群だ。

 中に数頭タイガーウルフが混じっている。

 「気をつけろ!混じっているぞ!」

 基本、群をなす種族の中に同系統とは言え別種が混じることはない。

 もしあるとすれば、それは・・・・・・。

 「ヘンっ、あいつがリーダーだろ?頭をつぶせば……。」

 「バカッ!まだ早い!」

 俺が止めるまもなく、リーダーに向かって飛び出すアッシュ。


 「バカシンジ!何やってるのよ!」

 「悪い!」

 エルが今にも放とうとしていた広範囲魔法を、空に方向を変えて放ち、魔力を散らす。

 直ぐ、個別攻撃出来る魔法に切り換えて、援護の体勢に入ってくれる。

 「ミリア、ウルフ達をエルとシェラに近付けるな!」

 「了解なのだ!」

 ミリアがエル達の前にでて、飛びかかろうとするウルフファング達を、斬り裂いていく。

 死角から飛び込んでくる個体は、エルとシェラの魔法が打ち落とす。

 こっちは問題なさそうだ。


 俺は前方に目をやる。

 3頭のタイガーウルフに囲まれ身動きがとれないアッシュ。

 それを少し離れた後方から悠然と見守る、群れのリーダー。

 最初はタイガーウルフの変異種かと思ったが、他の個体に比べて一際大きいし、毛並みが違う……。

 「クソッ、風牙狼かよ!」


 風の属性を持つウルフ種の中でも上位に位置するモンスターだ。

 自由冒険者組合が定めたランクではCランクだが、群れを率いている場合、危険度はBランクまで跳ね上がる。

 「アッシュは下が……れないか。」

 代わるがわる飛び掛かってくるタイガーウルフの攻撃を辛うじてしのいでいるが、このままでは時間の問題だ。

 俺は腰に差したナイフを抜き、柄を60度曲げる。

 シャキン!シャキン!……と軽快な音がして、ナイフの形状がボウガンに変わる。


 バシュッ!バシュッ!バシュッ!

 アッシュの背後から飛び掛かろうとしていたタイガーウルフの首筋に、細い金属の鏃が突き刺さる。

 一瞬、ビクッっと痙攣した後、その場に倒れ込むタイガーウルフ……まずは一頭。

 アッシュは、背後で何やら音がしたのは気づいたようだが、他の2頭の相手の必至で、確認する余裕すらないようだ。

 俺は、ボウガンに鏃をセットし直し、リーダーの風牙狼を牽制しつつ、アッシュに向かっているタイガーウルフに対し、魔法を放つ。


 『水の浮き球(ウォーターボール)

 水属性の初級魔法の一つで、精製した水を一所にまとめる魔法だ。

 大体は、大き目の瓶などに水を溜めるのに使われるもので、もちろん殺傷力なんかはないに等しい……このままでは。

 俺が放った水玉は、バスケットボールより一回りぐらい大きく、それがふよふよ~とタイガーウルフに向けて進んでいる。

 魔力を感知したのか、一瞬警戒する素振りを見せたタイガーウルフだが、危険性が無いと判断したのか、すぐさま、アッシュの方へと向き直る。

 

 ただ、その一瞬の隙をついて、アッシュが体勢を建て直せただけでも、この魔法の効果があったというべきなんだろうが……。


 『物質転移(トランスポート)!』

 

 俺は、その水玉をタイガーウルフの顔へ転移させる。

 「グガッ!」

 一瞬の浮き声が聞こえたかと思うと、頭部全体を水玉に覆われたタイガーウルフがジタバタともがいている。

 首を大きく振るが、そんな事ぐらいでは纏わりついた水玉を引きはがすことはできない。

 やがて、動きが緩慢になり……動かなくなる。


 「クッ!『力場発生(フィールド)』」

 2頭目のタイガーウルフがやられるのを見て、リーダーの風牙狼が動き出す。

 動きを止めるために、空中に力場を発生させるが、難なく躱す風牙狼。

 「アッシュ、その1頭は任せた!」

 バシュッ!バシュッ!バシュッ!

 俺は残りのタイガーウルフには構わず、風牙狼に向けてボウガンの引き金を引く。

 しかし、3本の鏃の内、二本は躱され残りの1本は、風牙狼が纏った風の壁に弾かれる。

 

 「風の加護か……厄介だなぁ。」

 シェラがよく使う奴だ。

 こっちにも風使いがいる為、その効果の程はイヤって言うほど知っている。

 自分たちが使うには頼もしいが、敵が使うとなると、これほど厄介なものはない。

 遠距離からの物理攻撃は殆どが弾かれる。

 アイテム類なども、身体に届く前に分散させられる。

 残るは魔法攻撃だが、加護そのものが高レベルの魔力抵抗の壁となっているので、効力は半減してしまう。 

 しかも、シェラの攻撃魔法は風に特化しているため、役に立たない。 

 となると、エルの光魔法だが……。

 

 『星振りの矢嵐(スターライトレイン)

 空から無数の光が矢となって風牙狼に降り注ぐ。

 流石の風牙狼も全てを躱しきることは出来ず、動きが鈍くなる。

 しかし、致命傷には程遠い。

 「エルッ!」

 「ゴメン、私じゃとどめ刺せない。」

 雑魚はすでに一掃したのだろう。

 エルとシェラ、ミリアが近くまでやってくる。

 「イヤ、大丈夫だ。大技じゃなくていいから、牽制していてくれ。」

 俺は少しの間、エルとシェラに風牙狼の相手を頼む。

 「ミリア、アッシュを助けてやってくれ。二人がかりなら大丈夫だろう。」

 「分かったのだ。」

 シュンッ!っと、ミリアが一飛びでアッシュの元へ行き、タイガーウルフを牽制し始める。

 ミリアがタイガーウルフの攻撃をかわし斬り付ける。

 タイガーウルフの意識がミリアに向いたところで、アッシュが斬り付ける。

 ウン、いいコンビネーションだ。

 あっちはもう大丈夫だろう。

 

 風牙狼か……厄介な相手だ。

 エルとシェラの魔法により、近づくに近づけないでいるが、それでも少しづつ距離が詰められている。

 『次元斬(スラッシュ)

 俺が放った次元斬(スラッシュ)は風の壁をものともせず、風牙狼の身体に傷をつける……10㎝程度の軽い傷だが。

 

 エルたちの攻撃は、加護によって半減される。

 俺の攻撃は加護を突き抜けるけど、元々ショボい。

 「せめて動きを止めることが出来れば……。」

 考えろ……考えるんだ……。

 俺はエルたちと風牙狼の戦いを見ながら何か突破口がないか考える。

 

 シェラの放つ正面からの魔法は左右に交わす……エルの多面攻撃に対しては、動きを止め、全体の抵抗力を上げて耐えているようだ……。

 その動きを見て……ふと閃く。

 こうして……こうきて……ウン、これならいけるかも。


 「エル、シェラ、そのままで聞いてくれ。」

 俺は、風牙狼を倒すための策を伝える。

 「……うん、分かったわ……『ウォーターレイン!』」

 エルの魔法で動きを止める風牙狼。


 今だ!

 『物質転移(トランスポート)!』

 

 風牙狼の足元の土を別の場所へと移動させる。

 当然風牙狼は穴の中に落ちることになる。

 すぐさま土魔法で穴を埋める……結果、首だけ出して埋められた風牙狼の姿がそこにあった。

  

 『次元斬(スラッシュ)

 『次元斬(スラッシュ)

 『次元斬(スラッシュ)

 俺は風牙狼の首筋へ、次元斬(スラッシュ)を叩きこむ。

 浅い傷でも同じところへ叩き込んで行けばだんだん深くなる。

 10回以上撃ち込んだところで、ようやく風牙狼の息の根が止まった。

 

 「シンジ様ー、凄いのだ!」

 ミリアとアッシュが戻ってくる。

 「なんか、ミリアに様付けされると気持ち悪い。」  

 「気持ち悪いとは、酷いのだー!」

 「アッシュ、大丈夫だったか?」

 俺は喚くミリアを無視してアッシュに声をかける。

 「あ、あぁ、大丈夫だよ。」

 「ならよかった。一息入れたら先へ進むぞ。」

 アッシュの顔色が悪いのが気になったので、HPポーションおよび状態回復ポーションを渡しておく。 

 「じゃぁ、ちょっと素材回収に行ってきますね。」

 そう言ってシェラは、まだ喚いているミリアを引きずって連れて行く。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺は落ち込んでいるアッシュに何と声を掛けようか迷う。

 気持ちは分かる・・・・・・っていうのは簡単だけど、正直いうと分からないからな。

 ただこういうのは、向こうの世界でもよく見た光景だ。

 一番最近のは高校に入ってすぐにあった定期テストの結果がでたときだったか?

 

 ソイツは中学までずっとトップだったと、高校でもトップを取ると言っていた。

 入学してから、そいつはずっとそのことを鼻にかけていた。

 本人は間違いなくトップをとれると思っていたに違いない。


 しかし、テストの結果は57番目……それがソイツの実力だった。

 それなりの努力はして、それなりの力はあったのだろう。

 県下有数の進学校で偏差値もトップレベル、その知名度は近隣にも伝わっており、一学年400人を超えるエリートが集まる学校。

 その中で二桁番台ならば誇ってもいいと俺は思うのだが、ソイツは納得しなかった。


 ソイツは今のアッシュと同じ顔をして、そして俺に向かってこう言ったんだ。

 「何故、お前の方が上なんだ?ズルをしたんじゃないか?・・・・・・孤児のお前なんかが俺より頭がいい訳ない!」


 別にズルをしたわけでも贔屓にされていたわけでもない。

 強いて言うなら、ソイツが言った通り「孤児だから」だ。

 施設に娯楽といえる物は殆ど無い。

 勉強以外に時間を潰す方法がなかったって事だけだ。


 そして「孤児だから」この先、生き抜くためには、目に見える結果が必要だった。

 そう言う意味では「学校」と言うシステムは楽だったと言える。

 何と言ってもテストで結果だけ出せばそれでよかったから。


 しかしこの世界では、力がない事は搾取され続けると言うことに匹敵する。

 そして、魔法・スキルと言った不平等な才能・・・・・・努力だけでは乗り越えれない壁をどう打ち破るのか。

 そして、逆に才能だけでは乗り越えれない壁も存在する。

 ・・・・・・・つくづく不条理な世界だと思う。


 向こうでも、こっちでも、なにも持っていない俺は、生き抜くためにはあらゆる物を利用し、出来ることを鍛え上げるしかなかった。

 ショボい力しかないならば、それを活用することを考える。

 正直言えば、エルでさえ利用していると言っても過言ではない。

 立場や力と言ったことだけでなく、エルを守ると決めた事、それすらも「この世界で生き抜く」為のものかもしれない。

 守ると決めた気持ちに嘘偽りはないが、その目的を持つことで、この世界に抗って生きるための指針になっていることも間違いないのだ。

 

 そんな俺だから、アッシュの様に己の才能を拠り所にし、それを打ち砕かれた奴の気持ちはわからない。


 「まぁ、最初は誰でもそんなもんだろ。おまえは運がいいよ、次がんばろうぜ。」

 だから俺に言えることはこれくらいだった。

 「運がいいか・・・・・・次って言っても俺の力じゃどうにもならんだろ。」

 あー、ヤサグレてんなぁ。

 

 「なに甘えた事言ってんのよ!次があった幸運に感謝して、自分に出来ることを精一杯やりなさいよ。・・・・・・そんな事も分からないなら、今からでも帰った方がいいわ。」

 エルが、俺達の会話を聞きとがめ、会話に割り込んでくる。

 「大体ね、学園長が言ってたでしょ。一つのミスが大惨事につながる。大半の者が自分の命を授業料としてそれを知るって。そう言う事を少しでもなくすためにこの学園を作ったんだって。アンタは運よく「次」に繋ぐことが出来た。だったらその意味を考えなさいよ。」


 エルの言葉はアッシュに深く突き刺さった様だ。

 「次に繋ぐ意味か……。」

 アッシュはそれっきり黙り込んでしまった。

 まぁ、しばらくは一人にしておくのがいいだろう。

 俺はエルを連れて、少し離れた場所へ移動する。


 「シンジ、ゴメン……出しゃばっちゃった。」

 「助かったよ、ありがとう。……ああいう時なんて言っていいかわからなかったからな。」

 「でも……。」

 「アッシュなら大丈夫さ。」

 俺は言い過ぎたと、落ち込むエルの頭を撫でてやる。


 「じぃーーーーー。」

 「いいなぁ……なのだ。私もなでなでしてほしいのだ。」

 いつの間にかシェラたちが戻ってきていたようだ。

 エルは顔を真っ赤にして俯いてしまっている。

 「あ、ミリア。あそこで落ち込んでいるバカを慰めて、立ち直れたらなでなでしてやってもいいぞ。」 

 半分冗談で言ってみた。

 そうしたら「行ってくるのだー!」と言って走って行ってしまった。

 まぁ、それで立ち直ってくれれば安いものか。

 あんまりウジウジされても、後が困るからな。

 「はぁ、取りえず食事の用意をしますね……先行き不安なのは気のせいでしょうか?」

 シェラが去り際にボソッとつぶやく。

 とりあえずは、アッシュに立ち直ってもらったうえで、連携の練習かな。

 遺跡につくまでに、形に出来るといいけどな。

 

 「「はぁ……」」

 俺とエルは同時にため息をつくのだった。

 


※ 誤字報告ありがとうございます。

仕事の合間に読み返して、誤字に気付くのですが、開拓後には忘れていることが多かったり(^^;

なので、大変助かっています。

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