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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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終わりよければ……?

 「えっと、これは一体……。」

 マスティル領で俺達が目にしたもの……それは、ゲイル、アレクを中心としたマスティル軍総出の出迎えだった。

 ……まぁ、それはいいとしよう。

 しかし、何故既にグラドス将軍の処刑が終わってるわけ?

 民衆も、諸手をあげて歓迎してるし……これ、俺達の必要なくね?


 「いえ、全ては帝国のお力があってこそ、ですわ。」

 中央より進み出てきた少女が、俺の呟きに答えてくる。

 「申し遅れました、私はミュウナと申します。この度は我がマスティル領を助けていただき有難う存じますわ。」

 そう言って俺の前に跪き臣下の礼を取った後、振り返り民衆に向かって話し出す。


 「皆様、此方におられる方が我が領地を救っていただいた、皇帝陛下であらせられるシンジ様ですわ。」

 ミュウナの声に、民衆の歓声が大きくなる。

 「これより、此度の約定に基づいて、マスティル領は帝国の傘下に入ります。そして私も皇帝陛下の元に降る事になります。皇帝陛下の言う事には絶対従順ですので、必ず従ってくださいね。」

 民衆の中で騒めきが起きる……そしてその騒めきは段々と大きくなってくる。

 ……マズいな、暴動になるか?

 俺はいつでも戦闘態勢に入れるように準備する。

 「しかし安心してください!皇帝陛下は無体な事を押し付ける、元領主のアビセルやグラドス将軍の様なお方ではありません。私達の為により良い統治をしていただけることを信じています。皆様も、私と同じようにシンジ様を信じてついて行ってください。」


 「うぉぉぉぉぉーーーーーー!」

 ざわめきが歓声に変わる。

 中にはミュウナの名を叫ぶ奴等もいる……この子、この年で民衆の掌握術を習得してやがる。

 「……末恐ろしいですわね。」

 アイリスが小声で呟いてくる。

 「そうだな。」

 彼女は民衆の不安を取り除き盛り上げる事によって帝国への抵抗感を取り除いて統治しやすくし、そしてその手腕を俺に見せつける事で自分の価値を見せつける……中々考えている。

 そして彼女の恐ろしい所は、それだけに留まらず、民衆の前でああいう物言いをすることで、皇帝(俺)は暴君ではないというイメージを前面に押し出し、自分の身を守ろうとしていることだ。

 あのように言っておけば、俺が無理やり彼女をどうこうすることは出来ないと踏んでいるのだろう。

 実際、この状況で彼女の扱いを酷いものにすれば、俺の評判も地に落ち、マスティル領民の心証も悪くなり統治が難しくなる……そこまで考えての先程の行動。

 アイリスの言う通り末恐ろしいと言わざるを得ないだろう。


 ……が、このまま彼女の思い通りにしておくのも面白くない。

 と言うより、世の中そんなに甘くないという事を知っておくのも彼女の成長の為には必要だろう。

 「末永く、よろしくお願いしますわ。」

 ニッコリと俺に笑いかけるミュウナに、俺も笑顔を返す。

 「覚悟も決まっているみたいで何よりだ。俺のものになる証拠としてこれに着替えるといい。」

 俺は用意しておいた衣装と着替え用のテントを出し、リディアにフォローを頼んでおく。


 「えぇ―――――ッ、何ですのこれっ!」

 テントの中からミュウナの叫び声が聞こえてくる。

 「こ、これでよろしいでしょうか?」

 恥ずかしそうにテントから出てくるミュウナを、民衆の前に押し出す。

 「「「「うぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!!」」」」

 民衆から大歓声が上がる。

 その先陣を切っているのはアレクとゲイルさんだ。

 「陛下、素晴らしいです!一生ついていきます!」

 アレクが感極まって俺にそんな事を言ってくる。

 当のミュウナは、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしてモジモジしている。

 そしてその仕草が、民衆のツボにはまり、さらなる大歓声が上がる。


 「何なんですか、この衣装は!」

 ミュウナが涙目になりながら訴えてくる。

 「何って、ミュウナの為にあつらえた特別仕様の装備だが?」

 俺が応えると、ミュウナが泣きながら訴えてくる。

 「なぜこんな装備なんですかっ!嫌がらせですかっ!」

 ミュウナの体を覆う純白のワンピースは光を受けるとキラキラ輝いている。

 トップスの部分は体にぴったりとフィットしていて、年不相応なボディラインを際立たせている。

 ミニのスカート部分はふんわりと裾が広がっていて、彼女が動く度に、ふわりふわりと裾が翻る。

 そのスカートの一部を押し上げる様に、可愛い尻尾が覗いていて、首には鈴がついたチョーカー、そして彼女の頭には可愛らしい三角耳が……。

 そう、あの禁断されしチャームアイテム『にゃんこだニャン♪』を改変したものだ。


 「嫌がらせなんて人聞きが悪いな。他にはない特別仕様の逸品ものだぞ?」

 そう言って俺はミュウナの装備の説明を始める。

 「まず、そのワンピースだが素材はアルラウネからとった極上のスパーダ―シルクとミスリル銀の金属糸が用いられている。その素材の特性上、軽く柔らかく肌触りが良い上に魔力伝導率も高く、耐刃、耐熱、耐寒効果に加え、非常に高い魔法防御力がある。」


 すげぇーーー!

 最高だな!

 うぉぉぉぉぉ―――、ミュウナ様サイコー!


 民衆から歓声が上がる。


 「そして首にあるのは『耐性のチョーカー』……一応隷属の首輪の機能が一通りあるが、あんな武骨なものつけていたくないだろ?第一可愛くない。」

 俺がそう言うと民衆が一斉に頷く。

 「他にも各種状態異常に対する高い耐性が付与されているだけでなく、ミュウナの身を守る防護結界が状況に応じて展開される様になっている。」

 

 おぉぉぉぉーーーー!


 民衆の歓声が大きくなる。


 「そして、そのネコミミには通信・検索・鑑定など情報収集に欠かせない機能が付与されている上、ミミそのものが魔力を蓄える『魔力タンク』の役目を持っている。……どうだ?素晴らしいだろ?」

 「だったら、この尻尾は何なんですか?」

 俺の説明に、納得いかないという表情で聞いてくるミュウナ。

 「それは、単なる飾りだ、だが自分の意思で動かせるんだぞ。」

 俺がそう言うと真っ赤になって叫ぶミュウナ。  

「飾りならいらないじゃないですかっ!これがスカートを捲り上げて、見えそうで恥ずかしいんですっ!」

 「何を言ってるんだ?その尻尾があるから、この衣装の完成度が高まるんじゃないか。いらないなんてそんなことないぞ……なぁ、そう思うだろ?」

 俺は民衆に問いかける。

 

 そうだ!その通りだ!

 流石、皇帝様だぜ!分かってらっしゃる!

 ミュウナ様の尻尾、サイコー!

 うぉぉぉぉーーーー!

 ミュウナ!ミュウナ!ミュウナ!……


 「はい、ここで、シンジにさっき教えた誓いの一言を言うのですよぉ。」

 リディアがミュウナにそう告げる。

 「うぅ……ホントに……。」

 ミュウナがリディアを見る。

 リディアは大きく頷いている。

 「うぅ……ご主人サマ、精一杯ご奉仕するニャン♪」

 握った拳を顔の横に持ってきて軽く曲げながらそう言ってくる。


 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーー!

 ミュウナ様サイコー!

 帝国万歳!皇帝万歳!……

 ミュウナ!ミュウナ!ミュウナ!……

  

 民衆の盛り上がりが最高潮に達する。

 自分でこうなるように煽っておいてなんだが……こいつら大丈夫か?

 


 「ミュウナのおかげで帝国が受け入れられたようで助かったよ、ありがとうな。」

 民衆たちが解散し、領主館に戻ってきたところで、俺はミュウナにそう声をかける。

 「それは良かったですね……何で私がこんな目に……予定と違うじゃないですか……。」

 ミュウナがヤサグレていた。

 「ところで、真面目な話、お前らは心から帝国に仕えてくれる気はあるのか?」

 俺はミュウナ、ゲイル、アレクなど、その場にいるマスティルの主だった家臣たちに声をかける。

 「恐れながら、皇帝陛下、我々は今も昔もミュウナ様に忠心を捧げた身でありますれば……。」

 アレクの言葉に、皆が一斉に頷く。

 要は俺の言葉よりミュウナに従う……と。

 ミュウナを見ると、周りを見回した後、一歩前に出て俺と向き合う。

 「シンジ様……我らを……マスティルの住民達を他の帝国の人々と同じように扱ってもらえるのでしょうか?」

 「反旗を翻そうとしないならな……まぁ、それは他の奴等も一緒だけどな。」

 俺の答えを聞いてミュウナは跪き首を垂れる。

 「ならば、私ミュウナは身も心もシンジ様に捧げることを誓います……だから、皆もシンジ様の言葉は私の言葉と思い忠誠を誓って欲しい。」

 後半は他の者達に向けての言葉だった。

 その言葉を受け、マスティルの家臣達は一斉に跪く。


 「皆の忠誠確かに受け取った。これからは出自に関わらず帝国の為、自分たちの守るものの為に存分に力を振るって欲しい。」

 俺の言葉に、皆は一斉に深く頷いた


 ◇


 それからの1週間は慌ただしく過ぎていった。

 南方連合のグランベルク出征から始まった動乱も、今回の件でようやく片付いたと言える。

 なので、動乱のどさくさに紛れて色々起こした件をまとめて整理しなければならなく、その処理に大忙しだった。

 特に『帝国』に関しては、最初『方便』のつもりだったのが、今となっては『方便』としてなかったことに出来る訳もなく、対外的にもはっきりさせる必要があった。

 その為、各地と連絡を取り合う必要があり、転移陣の利用や設置、細かい取り決めなど俺自身で動く必要があり、お陰で帝城内の改装もほとんど進んでいなかったりする。


 一番大きな問題は帝国としての立ち位置。

 クリスを助けるためにグランベルクを降伏させた形をとったのだが、俺としてはグランベルクを支配するつもりなどないのだが、サウシュの街に帝城を建ててしまった事もあり、何らかの体裁を取り繕う必要があり、その話し合いにかなりの時間を費やすことになった。

 

 そして色々と協議を重ねた末、帝国の形態は各国の主権を尊重する帝国連邦制。

 主国であるミーアラントを中心にアシュラム、グランベルク、ベルグシュタットが属国として帝国を形作るのだが、各国は基本的に独自自治権を持ち、実質は同盟国と何ら変わりない。

 ちなみにベルグシュタットは「仲間に入れて欲しい」と、リディアを通したラブコールがとてもウザかったため、入ってもらうことにしたのだった。


 帝城と帝国の直轄地の関係もあり、サウシュの街を含むグランベルクの南方地方とマスティル、ミランダの一部を新たにミーアラントの領土とし、残りの領地はグランベルクに返却する事にした。

 それに伴い、旧ミーアラント領はアシュラム王国に割譲、グルリア山脈はレオンたちに自治権を持たせたままベルグシュタットに管理権を渡すことにして、飛び地がないように整理した。

 かなり面倒ではあったが、今やっておかないと後々面倒になる事が目に見えていたから仕方がない。

 ただ、旧領地の住民達については、移住を希望する者があれば受け入れることで各国の話し合いは終わっている。


 ミーアラント自体の組織改革も手を付ける。

 トップはもちろん皇帝である俺、その下にエル達婚約者5人を置く。

 彼女たちは其々俺の代役をやってもらうことになるので、俺の次に発言権があるのは当然という事でここまでは何の問題もなく決まったのだが……。

 人手不足という事もあり、それ以外が中々決まらなかった。

 結局、宰相と言う名の面倒押し付け責任者にゲイルを、旧マスティル領を中心としたウェストサイドの管理責任者にアレクを、旧ミランダ領を中心としたイーストサイドの管理責任者にカチュアを置き、後はそれぞれの責任者に丸投げすることにした。

 ……面倒だったからじゃないよ?

 自分と一緒に働く仲間は自分で決める方がいいと思うんだよ。

 俺がそう言うと、皆はなぜか冷たい視線を向けてきたが……。


 そして、ミュウナとアリーシャはネコミミ姿で、俺の直属として色々な事を手伝ってもらうことになる。

 彼女たちは実務能力もさることながら、その愛らしい姿で俺を含めた皆を和まし癒してくれるのにも一役買っていた。


 ……対抗心を燃やしたリディアが封印されしアイテムを復活させようと東奔西走するのはまた別のお話である……。


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