まずは足元を固めるのが基本ですよね?
「さて、時間だな。」
俺はカードを放り投げて部屋を出て行こうとする。
「あ、待ってよ、まだ勝負ついてないじゃない。」
エルが文句を言ってくるが、俺の知った事ではない。
「うぅ……折角勝てそうだったのにぃ。」
ミオランダ領に対し30分の猶予塩感を与えたがために、中途半端に時間が余ってしまったので、どうしようかと悩んでいたらエルからカードに誘われたのだ。
俺達がやっていたのは『ぐらんぶる』と言うカードゲームだ。
カードにはモンスターや英雄たちの絵柄が書かれており、それぞれに数値がついている。
まぁ、トレーディングカードゲームのようなものだ。
以前懇意にしていた商人にカードゲームの話をしたら、大変乗り気になり、俺もつい調子に乗って、どういう風にするかとか、細かいルールなどを決めたりとかしてしまった。
そして最近急激に人気をあげてきたこのカードゲーム、高い戦略性が必要とかで、各国の騎士たちや王族、貴族の間で出し流行していた。
俺としては庶民の子供たちが気軽に遊べるようにしたかったのだが、如何せん射幸性のあるこのゲームはどれだけお金をつぎ込んだかで有利不利が出てくる。
尚、このカードは俺が作成するマジックアイテムなので複製が出来ない。
だからこそ、レアカードには希少価値があり、噂ではカードにお金を使い過ぎて破産寸前まで追い込まれた貴族もいるとかいないとか……。
なので、湯水のようにお金を使える貴族たちから広まるのは仕方がない事だろう。
帝都が完成したら、カードのテコ入れをして、弱いカードでも戦術次第で勝てるようなシステムにアップデートさせるか。
新しくカードを作る事にもなるので、商人たちは大喜びで売り出してくれるだろう。
また、売り上げの10%を俺がアイディア料とカードの作成料としてもらっている為、俺自身の利益にもなるから、どんどん流通させてほしい。
元々、庶民の子供達にも手軽に遊べるようにと、低価格で販売してるものだ。
ゲームをするために必要な最低限の枚数……16枚入りのスターターパックが大銅貨3枚……300Gで設定してある。
カード3枚入りのノーマルパックが銅貨3枚……30Gなのでやや割高だか、スターターパックには必ず1枚R……レアカードが入っているから、長い目で見ればお得なのだ。
そしてお金をかけてもいいよと言う人たちの為にSR……スーパーレアカードが1枚必ず入っている10枚セットのブースターパックを銀貨5枚……5000Gで販売している。
こちらは半分冗談で設定したつもりだったが、貴族たちの間では、これがバカ売れしていて、市場では手に入りづらく転売までされているという。
一度、様子を見に行ったが、その時の転売価格は金貨2枚まで跳ね上がっていたから、ブームと言うのは恐ろしいものだと驚愕したのを覚えている。
現在流通しているのはSR30種、R50種、UC150種、C250種の計480種だ。
最初はもっと少なかったのだが、人気が出るにつれて、商人たちからの提案もあり、また俺自身が調子に乗っていたので、気づいたらこんな数になってしまった。
ダブりやすいようにレア度が下がるにつれて1種のカードに対しての数が多くなるように作成したため、そう簡単にはフルコンプ出来ない様になっている。
しかも、ナイショではあるが、SR30種の内5種は、各1枚づつしか作成してなくて、しかもそのカードはエル達が各1枚づつ持っている為、世間に出回っていないので事実上フルコンプは不可能だ。
……よく考えると、その貴族が破産しそうになったのって俺の所為か。
「後でアイリスに相手してもらえよ。」
「あの子強すぎるのよ!」
「そんなこと知るか。」
実はリディアとエルはぐらんぶるに大ハマりしていたりする。
最近ではカードを大人買いしようとするので禁止令を出したほどだ。
アイリスもそれなりに興味があるみたいで、カードを集めたりしているみたいだが二人ほどではない。
しかし、とにかく強いので、それが二人の射幸心を大いに煽っている原因にもなっていたりする。
カードが多ければ強いってわけでもないと、俺もアイリスも言うのだが二人は聞く耳を持ってくれない。
商人たちが来る度にカードをねだってくるので商人たちも大喜び……この国、これで大丈夫なのか?と心配することもしばしばだったりする。
「とにかく、そろそろ時間だからな。これが終わればリディアも帰ってくるから、リディアに遊んでもらえよ。それより、エルも早くいかないと間に合わないぞ。」
「はぁーい……そだ、アリーシャも仲間に入れよう。」
……こうやって広がっていくんだなぁ。
俺は布教活動の恐ろしさを垣間見た気がした。
◇
「さて、時間だな。」
俺は水晶に魔力を流し、再び大空に姿を映し出す。
モニターでサウシュの街を確認すると俺の言った事を理解していないのか、端から聞く気が無いのか、7割以上の兵達が外に出ている。
しかし、俺は選択肢を与え、彼らが地震で決めた事だ。
これ以上どうすることも出来ない。
「審判の時が来た、自分たちの愚かさをその身で感じ反省するがいい!」
俺はそう言うと、耳元の通信の魔術具を使ってリディアに合図を送る。
『了解だよぉ……メテオ・ファイナルストライク!!』
通信機からリディアの明るい声が聞こえる。
声の明るさに対し、リディアの使った魔法は相当えげつないものではあったが。
大量の隕石群が、一点を目掛けて集中して落ちてくる。それはサウシュの街の中央に堕ちてきて周り一体に衝撃波を放つ。
赤い色の屋根のある建物は、俺が『遮断結界』で囲っているため被害はないが、それ以外の人も建物も総てが一瞬にして吹き飛んでいた。
この様子はマザーを通して、各地の空にも映し出している。
まぁ、帝国に逆らえばこうなるぞ、と言おう一種のプロパガンダだ。
特に、これを見てマスティルが考えを改めてくれるといいが……無理だろうなぁ。
爆炎が消えると、サウシュの街の全貌が見えてくる……そこには、数か所の赤い屋根の建物以外何も残っていなかった。
「さて、次はミランダ領の番だ!」
俺の言葉に、さっきまでふてぶてしい態度で空を見上げていた者達が、慌てて建物の中に入ろうとするが、もう遅い。
『審判の光』
モニターからエルの声が聞こえると同時に、ミランダ領全体が光の渦に飲み込まれる。
今回の為に数日前からエルに練習していてもらった魔法だ。
魔王からもらった『情報の魔石』の中にあった魔法で、光属性魔法ながら禁呪の部類に指定されていたりする。
広域魔法で指定条件以外のものを蒸発させる恐ろしい魔法だ。
そして今回条件に指定したものは『建物およびその中のものには生物・無機物共に効果なし』『建物外の生物に対し光の刻印を刻む』……この二つだ。
これによって、ミランダ領の住民たちは何も起きていない者と、刻印がされたものに判別させられる。
そして建物外の畑などへ全て蒸発し、更地だけが残されることになる。
「ミランダ領の者達よ。もう外に出ても良いぞ。……外に出て、己の過ちを悔い改めるがよい。」
俺がそう言うと、ミランダ領の住民たちは恐る恐ると言った感じでドアを開け、外の様子を窺う。
そして、変わり果てた外の様子を見て言葉を失う。
「お前達の所為で何もかも失った帝国の臣民たちの苦しみの一部を、お前達も味わうといい……ただお前達には雨風を凌げる場所がある。それが残っただけでもアリーシャに感謝するといい。そして、我が言葉に逆らった愚か者たちよ、お前らの手には反逆の刻印がなされているはずだ。その刻印を持つものは1週間以内に旧領主の館迄出頭せよ。そこで奴隷の登録と刻印除去を行う。逃げようとしても無駄だぞ、1週間以内に刻印の除去をしなければ、刻印が身体全体に広がり心臓を止めるからな。死にたいと言うのであれば止めはせんが、死にたくなければ忘れずに1週間以内に出頭するのだな。」
何とも便利すぎる魔法だと思うが、太古の支配者が、支配しやすいように編み出した魔法と考えれば納得も出来る。
まぁ、後始末が色々残っているが、何はともあれ、これでミランダ領についてもケリがついたと考えていいかな。
◇
「それでシンジ様、相談って何でしょうか?」
「あぁ、アイリス、忙しいのに悪いな。実はな……。」
俺は帝都建立計画を早めることをアイリスに話す。
「しかし、それは他の所の調整もありますし……。」
「それは分かっているんだが、今回サウシュの街を中心にかなり荒らされたからな。どうせ復興しなきゃならないんだから、いっその事帝都として作り上げた方が早いだろ?それに帝城が出来ていれば外敵から守りやすいしな。」
俺の帝都計画では、この街の帝城が守りの要となっている。
帝都の城壁を破るのはそう簡単な事ではなく、それこそ数万単位の軍勢が必要となる。
しかも、それも無抵抗だった場合だ。
抵抗できる軍勢が1万もいて、尚且つ、エルやリディアクラスの魔法使いがいた場合、20~30万程度の軍勢でも堕とすのは難しいだろう。
そして、帝都が堕ちない限り、その背後に控えるグランベルクを始めとした各国に迫る事は出来ない。
ウィークポイントとしてはアスティアやミランダ方面から抜かれる事だが、それもカストール、クラリスからの増援が間に合うシステムを組み上げる予定でいるし、順次城壁も伸ばす予定でいる。
これらが完成すれば、鉄壁の城塞帝国として攻め入られることは少なくなり、安心して暮らせる筈だ。
「そう言う事なら……でも大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ……まぁ、終わったらしばらく寝込むかもしれないけどな。でもそうしたらアイリス達が看病してくれるんだろ?」
俺が笑ってそう言うと、アイリスが困ったように笑う。
「仕方がないですね。私が添い寝してあげますから、安心して寝込んでくださいね。」
「じゃぁそういう事で明日執り行うからな。」
「はい、諸々の雑事はこちらで処理しておきますわ。」
アイリスはそう言って、俺の代わりに執務をこなすために戻っていった。
「はぁ……帝城が完成したら本格的に人材探ししないとな。」
いつまでもリオナやアイリスに負担をかける訳にもいかないしな。
『身代わり君』があるとはいえ、それでも負担が大きいのには違いない。
……俺がまじめに仕事をすればいいと言う意見は聞けないが。
それに、今度冒険に出るときは皆で行きたいしな。
◇
「じゃあ始めるぞ……『城塞創造』」
クッ……流石にかなりの魔力を持ってかれるな。
魔力を流し込んでいくと街の周りに城壁が出来上がっていく。
「わぁ……話に聞いていたけど、凄いですぅ。」
リディアが目を輝かせている。
「も、もう少しで、城壁が出来上がるからな。城はもっとすごいぞ。」
「楽しみですぅ。」
リディアだけでなく、エルもアイリスもエレナも目を輝かせている。
マスティル軍の所為でクリスだけがここにいない
一応アイリスが記録用として水晶に様子を納めていてくれるが……後でまた言われるんだろうなぁ。
そんな事を考えているうちに城壁が完成する。
アダマンタイト鋼とミスリル合金がふんだんに使われた城壁はちょっとやそっとの攻撃ではびくともしない、文字通りの『壁』として敵の前に立ちふさがってくれることだろう。
「続けていくぞ。」
俺は一応魔力回復ポーションを飲み、魔力を注ぎ続ける。
城が土台から順番にできていく。
外壁がクリスタルでコーティングされ、光を受けてキラキラと輝く。
「……綺麗。」
誰が呟いた言葉だろうか。
皆声もなく城が出来上がっていくのを見つめている。
嬉しそうに目を輝かせているその横顔を見ているだけで嬉しくなってくる。
そしてそれが俺の力になる……俺はドンドン魔力を注いでいく。
コーティングされている『魔晶結石』は魔力を注げば注ぐほど硬化される。
だから俺は目一杯の魔力を注ぐ。
注いだ分の魔力が、皆を守るんだ、それだけを考えて魔力を注いでいく。
そして、完成が近づく。
……とヤバい。
体がふらつく……魔力タンクもカラだ、調子に乗って魔力を注ぎ過ぎたかも。
「頑張って!」
エルが、リディアが、アイリスが俺の身体を支えてくれている。
「あぁ、あと少しだからな。」
俺は完成に向けて最後の魔力を注ぎ込む。
「出来た……。」
俺は出来上がった帝城を見上げる。
太陽の光を受け輝いている帝城は予想以上の出来栄えだった。
「気に入って……くれたか?」
俺は頷いている三人の笑顔を見て……そのまま気を失った。




