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見て見ぬ振りも同罪なんだよ!そこのところ分かってる?

 「そろそろだな……。」

 「閣下、私も……。」

 「ならぬ、と言っておるだろう。カイル、お主には大変柄申し訳ないと思うが、後の事を頼んだ。」

 「……分かりました。一命を賭しまして、必ずや。……では。」

 「ウム。」

 カイルは、ギルマに一礼すると、その部屋から出ていく。

 「あの小僧の思うようにはさせんよ……カイルよ、先に逝っておるからな。」

 ギルマはそう呟くと、手元の杯を一気に飲み干した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「シンジ様。カイル様を発見しました。」

 モニターをチェックしていたリオナが報告をしてくれる。

 「うーん、領主の姿は無くカイルだけか……陽動だと思うが行かないわけにはいかないだろうな。」

 俺はモニターをチェックする。

 正直なところ、この争いはもう少し早く片付けれると思っていた。

 実際、戦いを終わらせるだけなら、手はいくつかある。

 ただ、それをやってしまうと、現在姿を隠している領主を見逃してしまう恐れがあった。

 なので、領主の足跡を見つけるまでは、戦を伸ばしていたのだが……。

 カイルが現れたとなると、領主への唯一の手掛かりなので見逃すと言う手はない。


 領主の奴は、何をどうしたか分からないが、カイルと接触した後から姿を探る事が出来なくなっていた。 

 情報収集の魔術具(アルケニちゃん)の目をごまかしたり、俺の感知能力でも捕らえられない所から、たぶん何らかの強力なマジックアイテムを使用しているか、結界で覆われた場所に潜んでいるのだと思う。

 とはいっても、全く打つ手がないわけではなく、結界にしろ、アイテムにしろそこに何らかの痕跡があるのは間違いなく、現在、可能性のある所を虱潰しに探索をかけているので、領主の発見も時間の問題であることには間違いない。


 「カイルの様子をモニターしていてくれ。タイミングを見て俺が行く。」

 「私も一緒に行くよ。」

 エルがそう言ってくる。

 「もうすぐアイリスが戻ってくるから、ここの心配はいらないよ。」

 俺の心を読んだかのように先に答えてくるエル。

 「……ま、いっか。」

 特に反対する理由もないので同行を許可する。

 「クリスに連絡、無理しない程度に敵を押さえておいてくれ、と。3日もあればこっちは片が付くので、それまで持ちこたえてくれればいいとな。」

 俺はリオナにそう指示を出す。

 

 クリスは現在サウシュの西方から、こち目掛けて進軍してきているマスティア領軍の抑えをしてもらっている。

 マスティア領は、ミランダ軍がクレイルの街を堕とすと同時に進軍を始め、適当な街や村を襲いながら攻めあがってきていた。

 現在はサウシュの直ぐ西のミストラルの街で、クリスがグランベルクの兵を率いて進軍を食い止めている。

 ミランダの領主を押さえれば、サウシュの動乱もおさまるだろうから、そちらに回している戦力を送る事が出来るだろう。

 そうすればマスティル軍は引き上げると思う……引き上げなければ、そのまま押し返していくだけだが。


 「リディアには、例の件、連絡があるまで待てと伝えてくれ。」

 現在、サウシュの街はミランダ軍に占領されていて、その軍勢はクルスの街にまで及ぼうかとしている……普通であればかなり劣勢に見えるこの状況……実際敵は自分たちが優勢だと思い込み士気も上がっている。

 しかし、その付近にはリディアが張った罠が仕掛けてあり、発動させれば一瞬にしてミランダ軍は壊滅状態になる……皆それがわかっているので、この様な状況でも平静を保つことが出来ている。

 いつでも切れる一発逆転の切り札の存在と言うものは、味方陣営の心に余裕を与える。

 問題は、何時その札を切るかと言うタイミングなのだが、これは領主を追い詰めたもしくは追い詰める直前と決めている。


 「さて、いくか。」

 俺はエルを伴って敵陣へと向かう事にした。


 ◇


 「へへっ、今日も楽しませてもらうぜぇ。」

 「イヤぁ~、やめてっ!」

 ……街のあちらこちらで、ミランダ軍兵士達の狼藉が目に付く。

 「シンジ、押さえて……お願いだから。」

 飛び出そうとする俺の腕を力いっぱい引っ張り押さえるエル。

 「しかしっ……クッ。」

 その腕を振りほどこうとするが、エルの瞳に浮かぶ涙を見て思いとどまる。

 「最優先は何か思い出してよ。」

 「……そうだな……悪かった。」

 俺は怒りをこらえ、心を落ち着ける為にエルを抱きしめる。

 

 「……ふぅ、落ち着いたよ。ありがとうな。」

 「大丈夫?」

 「あぁ……しかし、アイツ等の顔は覚えた。絶対に許さないからな……でもそれは後回しだ。カイルの気配も掴んだ、行くぞ。」

 「ウン。」

 俺達が向かった先は領主の館だ。

 薄々そうじゃないかと思ったが、やはり移動をしていなかったらしい。

 移動して隠れるより、その場で隠れた方が移動の気配を掴まれないからな。

 正しい選択だと俺も思う。

 「しかし、かくれんぼもここまでだ。」

 俺は正面から屋敷へと乗り込む。


 ◇


 「ようこそ、陛下。お待ちしておりました。」

 意外にも入り口ではカイルが俺達を出迎える為に待っていた。

 「素直に出て来るとは思っていなかったぞ。」

 「私は主の命に従っただけであります故。」

 冷静にそう返してくる。

 「それでその主とやらは何処にいるんだ?この期に及んでまだ隠れているというんじゃないだろうな?」

 「……そうですね、ただ最初に言っておきますが、いくら陛下でも、ギルマ伯爵を害することは出来ませんよ。」

 「……やって見なければ分からないさ。」

 「いいえ、他はともかくとして、この件に関しては無理だと断言しますよ。」

 カイルが頑なに言い張るが、俺はその言葉をスルーする。

 出来るかどうかは行けば分かる事だ。


 「……確かに俺には無理だな。」

 案内された部屋に入り、俺はそう呟く。

 執務室らしきその部屋の中には大きな机が設置されており、机の上には飲みかけのワインの瓶と、転がっているグラスが一つ。

 そして、机を前にしてミランダ領主ギルマ伯爵が腰かけていた。


 そのギルマを傷つけることは俺には出来ない……いや、俺以外の誰であっても不可能だろう……なぜならば既に事切れていたからだ。

 既に死んでいる者をそれ以上傷つけることは誰にもできない。

 

 「私が戻ってきた時にはすでに……。」

 「ふーん……そうか。」

 俺は『死の銃(デスシューター)』を引き抜くと、ギルマの死体の頭に銃口を向け引き金を引く。

 衝撃でギルマの亡骸が椅子から転げ落ち、床へと倒れ込む。

 

 「さて、カイル。お前は今主がいない状態なのだが、今後どうするつもりだ?」

 「どうする、とおっしゃいますと?」

 「帝国は急成長した国だからな、慢性的に人手不足なんだよ。」

 俺の言葉に意味が分かったのか、カイルが少し笑って首を垂れる。


 「お言葉は大変ありがたいのですが、私は二度もギルマを裏切る事は出来ませんので。」

 「……アリーシャか?」

 「お気づきで?」

 「いや、単なる推測だよ。」

 「ギルマは幼い頃からの掛け替えのない友人でした。その友人を一度は裏切った私を、それでも変わりなく接してくれていた彼をもう一度裏切る事は出来ません。」

 「その選択は無責任じゃないのか?」

 カイルは俺の言葉に少し逡巡するが、すぐに顔を上げきっぱりと言い放つ。

 「それでも、これが私なりのケジメの付け方です。」

 そう言っていきなり飛び掛かってくるカイル。

 どこに隠し持っていたのか、その手には小剣が握られている。


 キュィン!

 俺は手にしている銃をカイルに向けて引き金を引く。

 俺は既に『死の銃(デスシューター)』を握っていた。

 そして俺とカイルの間には距離があり、カイルは真っすぐ突っ込んできた……奇襲と言うにはあまりにもお粗末だ。

 

 「ウグッ……な、何故一思いに殺さぬ。」

 「何故俺がお前を殺してやらなければならない?アリーシャに恨まれるのはごめんだよ。」

 「ふっ……噂通り甘いお方だ……ぐふっ。」

 カイルは俺の前で小剣を自らの胸に突き刺す。

 エルが慌ててヒールを掛けようとするが、俺はそれを押しとどめる。

 カイルの生き方、考え方が理解できるとは言わない。

 ただ、彼が自ら決めた、自らの最後を俺達が勝手に歪めてはいけない、そう思っただけだ。

 やがて、俺達の目の前でカイルが事切れる。

 「……ふん、精々利用させてもらうさ。」

 俺は水晶を取り出し、二人の遺体を写し取ると、転移石を使って執務室に戻る。

 これからやる事は、ここのシステムが必要だ。


 「リオナ、アイリス手伝ってくれ。」

 俺は情報収集の魔術具(アルケニちゃん)のシステムの一部を書き換える術式を編んでいく。

 リオナとアイリスはその術式をサウシュ方面のマザーアルケニーにフィードバックしていく。

 作業はそれ程かからなかったが、その後の打ち合わせに時間を要した。


 「ところで、さっきのカイルさんとの話、どういう事だったの?」

 この後の準備の為、一旦奥に下がった俺だが、エルが一緒についてくる。

 そして二人っきりになった所でそう聞いてきた。

 「さっきのって?」

 「ほら2回目の裏切りだとか、アリーシャに関係あるとか……。」

 「あぁ、大した事じゃないよ。アリーシャの父親は、実はカイルだった、と言うだけの話さ。」

 「そうなんだ……ってえぇっ!」

 エルが大きな声で叫ぶので俺は慌てて口を押える。

 「大声出すなよ、周りが驚くだろ。」

 「ゴメン……でも、何で……どうして……。」

 「そんな事俺が知るもんか。ただ、カイルは主人の奥さんであるミーシェさんと関係を持ち、その結果ミーシェさんはアリーシャを身籠った。カイルにとってはギルマへの裏切りでしかない行動だな。」

 「……ギルマ伯爵は……アリーシャはその事を知っているのかしら?」

 「さぁな……。まぁ、知っていても知らなくても関係ないだろ。アリーシャはアリーシャだ。」

 「……そう言い切れるところがシンジの凄い所だよね。」

 「そうか?」

 「そうだよ。」

 そう言ってエルが背中から抱きついてくる。

 俺達はしばらくの間そうしていた……。


 「さて、これから一芝居打つか。」

 俺は姿と声を送る術式を組み込んだ水晶を目の前に置く。

 エルにはアリーシャを連れて来るように頼んである。

 この後彼女にも出てもらう必要があるからだ。


 「諸君、聞こえるか!私はノイエミーアラント帝国の代表シンジだ。」

 俺の声と姿が、サウシュの街の大空に映し出される。

 現地に配備したマザーアルケニーがプロジェクターの役目を果たしているのだ。

 元々こちらにデータを送るシステムを逆流させるだけなのでそれほど難しい事ではない。


 突然大空に映し出された俺の姿にサウシュで自由を謳歌していたミランダの兵達は驚愕に目を見張る。

 そして、俺の姿が見えているのはサウシュの街だけではない。

 サウシュの街を中心に近隣の街や村、そしてミランダ領内にも俺の姿は映し出されている。


 「お前らの主人である領主ギルマは既にいない。」

 俺は映像を写し取ってきたギルマの死体に切り替える。

 サウシュの街にいる兵達からどよめきが漏れる。

 「サウシュの街にいる兵士と言う名の盗賊達よ、お前達はサウシュの街の住民たちに何をしたか、現在何をしているか、理解しているのだろうな。」

 現在進行形で略奪をしていた兵士達が手を止める。


 「俺はお前達を許さない、そしてミランダの領民たちよ。お前達も一緒だ。お前達の主人が、息子が、父が、友人が戦場で行った罪を購う時が来たのだ。自分たちは関係ない、全ては領主が勝手に行った事だと言いたい奴もいるだろう。しかし、その領主に反対しなかったことがすでに罪だと知るがいい。かつて、アスティア領の住民たちは、領主が間違った事をしていると知った時、立ち上がり改革を目指した。俺はその心意気を重く受け止め、彼らに対し、出来る限りの便宜を計らい自治を任せている。だから、彼等は今充実した生活を送っている。」

 俺の言葉に、サウシュの街を取り囲んでいる兵の中で、アスティアから来ている義勇兵たちが「ウォォ――!」と鬨の声を上げる。


「間違っている事を知りながら黙って見ている奴は、これから起きることについても口を出す権利は無い!黙って従うがいい。……もう一度言う、俺はお前達を許さない。今そこにいる盗賊たちは皆殺し、領民は全て奴隷として扱う!それが帝国としての俺の決定だ!」

 俺の強い言葉に飲まれて、声を発するものは誰もいない。

 エルが俺の傍にアリーシャを連れてくる。

 首には隷属の証である首輪をつけ、それが目立つように衣類は剥ぎ取られている。

 流石に大衆の前に裸を晒すのは可哀想なので薄い布を掛けてあるが、それだけに首輪を付けた姿が痛々しさを強調している。   


 「しかし、お前らの主人の娘、アリーシャはそう思っていないようだ。」

 俺はそう言って隣のアリーシャが映るように水晶の角度を変える。

 薄衣一枚だけを纏い、首輪を付けられたアリーシャの姿が大空に映し出される。


 「アリーシャ様だ……。」

 「なんと、おいたわしいお姿で……。」

 兵達から、住民達からどよめきの声が上がる。

 批判の声が一切なく、同情の声しか聞こえてこないのは、アリーシャが普段から愛されてきた証拠だろう。


 「彼女はその身を差し出すことで、お前達の助命を願った。なので俺は彼女の身柄を得る代わりにお前達に一度だけチャンスを与えることにする。サウシュの街にいる恥知らず共、武器を捨て降伏し帝国に恭順する者は、今から30分以内に近くの赤い色の屋根の建物の中へ移動しろ。30分経っても外にいる者、指定の場所にいない者は反逆の意志ありとみなして処分する。そしてミランダ領の住民共、お前らも30分以内に家に戻り、俺からの指示があるまで外出を禁ずる。30分以内に自宅に戻れない者は近くの家に入れて貰え。30分後に建物の外にいる者、その後も不用意に外出したものは、やはり反逆の意志ありとみなして処罰の対象にする……逃げられると思うなよ。いいか、これより30分で自分のこれからの人生を決めるがいい。」

 俺はそう締めくくると、魔術具への魔力の供給を止める……同時に、空に映しだされていた映像も消える。


 「アリーシャ、済まなかったな。」

 アリーシャは羞恥で顔が真っ赤にし、俺から肌を隠すように蹲っている……ヘタに動くと、色々見えてしまうのだ。

 「いえ……私自身が望んだことですから……聞き入れていただきありがとうございます。」

 アリーシャは震えながらも、俺に対し礼を述べてくる。

 「俺はお前の父親を殺した……許せと言う気はない、ただ恨むなら俺だけを恨め。」

 しかしアリーシャは黙って首を振る。

 「私が陛下を恨むのは筋違いです。そして私は貴方に全てを捧げた身でございますから、どうかお気に成されませぬ様……出来れば末永く可愛がっていただけたらと存じます。」

 アリーシャは泣き笑いの様な表情でそう告げる。

 すべてを飲み込めたわけではないだろう、しかし自分の立場が、周りの立場がどういうものか、そしてアリーシャ自身の行動によってどういう影響があるのかを充分理解している……だからこそ出てきた言葉なのだろう……ホント、最近の年下の女の子はしっかりし過ぎていて、時々自分が嫌になるよ。

 俺はエルにアリーシャを着替えさせて部屋で休ませるように指示を出しておく。

 

 さて、30分後にはどうなっているかな。

 出来ればみんな従順に従ってくれることを祈るばかりだ。


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