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トンビが鷹を生む?貴族の娘は貴族でした。

 部屋の中では二人の男が睨み合っている。

 やがて一人の男が口を開く。

 「ギルマ伯爵……悪い事は言わぬ。ここで手を引き帝国に頭を下げた方がいい。最近身の回りでおかしなことが起きているんだろ?どう考えてもあの小僧……いや、皇帝陛下の仕業だ。端から勝ち目はないんだよ。」

 「ジャスワート卿よ、お主の忠告心より感謝する。お主が儂の為を思って言っていることも、自らの経験によって帝国の怖さを知っていて忠告してくれているという事も分っておる……しかし、もう後には引けんのだよ。」

 「何故だ?今ならまだ……。」

 疑問を指し国ジャスワートに、ギルマは1通の書状を差し出す。

 「これは……!?」

 ジャスワートが目にした書状はマスティル領領主アーガイム伯爵からのものだった。

 

 「そこに書いてあるようにマスティルは軍備が整った様じゃ、何時でも進軍できると……。そして我がミランダにも進軍要請が来ておるが……まぁ、体のいい肉壁だろうよ。わが軍が身を挺して押さえ、後から来るマスティル軍が美味しい所を持って行く算段なのだろうが、分かっていても断る事は出来ん。断れば、マスティルの軍勢は我が方へ向かって来るじゃろうて。」

 ギルマはそこで一息をつく。

 「それは帝国に降っても同じじゃ。我が方が帝国に降ったと知れば、すぐにでもマスティル軍がこの地を目指してやってくるだろうよ。そしてそれは帝国軍が来るより早い。」 

 そしてジャスワートの方を見て告げる。

 「お主は今のうちに逃げるがよい。今なら、まだ儂の力で逃がしてやることができるからな。」

 ギルマの言葉に、ジャスワートは終始うつむいたままだった。


 「心遣い感謝する……お主も一緒に逃げるというのはどうだ?」

 ジャスワートの言葉にギルマは笑いかける。

 「儂は最低の領主ではあったが、ここで逃げ出す愚鈍な領主にはなりたくない……最後にケジメぐらいは取らないとな。」

 「……そうか、ではせめて奥方やご息女だけでも……。」

 ジャスワートは、このギルマが妻子を大事にしている事をよく知っていた。

 だからせめてそれくらいは……と声をかけたのだが……。


 「……もう遅いのじゃ。数日前から屋敷の者が、まるで神隠しにでもあったかのように姿を消していってな。念の為にと警備を厚くしておったのじゃが、今朝から二人の姿が見えぬ……。」

 「そんな……まさか、帝国の……。」

 ジャスワートの体が震える。

 「あれだけの厳重な警備の中、どうやって二人の人間の姿を消したのか分からぬが……おそらくは……もう……。」

 ジャスワートはギルマにかける言葉も見つからず、肩を落として部屋を出て行った。


 「どうすればこのような事が可能なのか皆目わからぬ。」

 ギルマはここ数日に起きた怪を思い出す。

 始まりは2週間ほど前だった。

 屋敷の広間にあったツボが消えているのを清掃していたメイドが発見、屋敷中を捜索していると買い物から戻ったメイドが、露店で売られているのを見たというのだ。

 慌てて使いをやり、確認したところによれば、それば間違いなく我が家のツボであった。

 店主の話によれば朝早くに旅人風のいでたちの男から買い取ったのだという。

 その後も、絵画や宝石などが屋敷から姿を消し、街の露天商で売りに出されるという事がたびたび起こった。

 屋敷内の人間が横流ししているのでは?と徹底的に洗い出したが、怪しいものはおらず謎だけが残る事となった。


 その次に起きたのは失踪事件だ。

 最初に姿を消したのは清掃係のメイドだった。

 当然、そのメイドが一連の横流しの犯人であり、捕まる前に姿を晦ましたのだと、誰もが思ったが、その後もあざ笑うかのように調度品の盗難が続き、そして使用人が姿を消すという事件が立て続けに起きた。


 そのような状況なので、メイドの入れるお茶に塩が入っていたり、デザートの中にたっぷりと唐辛子が入っていたりしても、メイドや使用人たちが慣れていないからだと、無理矢理思う事にした。

 しかし、ある朝のスープを飲んだ後、腹を下したときには流石に放っておけないと料理長を呼び出したが、料理長の姿は前日の夜から見えなかったらしく、不可解、ここに極まれりと言った感じだった。


 そして今朝、隣の部屋で一緒に寝ていたはずの妻と娘の姿が見えなかった。

 ここ数日は安全確保のために常に側使えの者達と行動する様に申し付け、更には近衛隊の者達がどこに行くのにもついて回っていた。

 不便をかけていると分かってはいたが、それでも身の安全の為にと我慢を強いてきた。

 夜寝るときは儂の部屋の奥を使ってもらい、彼女たちの寝室に行くドアの前に儂のベッドを運んだ……つまり彼女たちを連れだす為には寝ている儂のベッドをどける必要がある。

 そもそも、儂の部屋の前には選りすぐりの近衛兵が3名、更には通路に一個大隊を配備しておいたので、それらの監視をかいくぐって部屋に侵入することは不可能なはず。


 しかし、現実に彼女たちの姿は見えない……これが全て皇帝の仕業とするならば……奴は悪魔か何かなのだろうか?


 ギルマは謎に頭を抱えつつ、これからどうするべきかを考えるのであった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「やめて、イヤっ、来ないで……。」

 泣き叫ぶ少女……しかし四肢を縛られて動けない為、迫りくる恐怖に顔をゆがめる事しかできない。

 「フン、すぐ気持ちよくなるさ……お前の母親みたいにな。」

 男の言葉に、少女がそちらを向くと、やはり同じように拘束され凌辱される母の姿があった。

 「イヤぁぁ―――!このケダモノっ!離してよっ、帰してよっ!」

 暴れようとする少女だが、拘束されている為に叫ぶことしかできない。

 「恨むなら、父親を恨むんだな。お前の父親の態度次第では、少し可愛がるだけで帰してやってもいいんだがな。」

 そう言いながら少女の衣服を破り捨てる男……少女の身体を隠すものが少なくなっていく。

 「いや、イヤぁぁぁぁぁ――――――!」

 狭い部屋の中に少女の叫び声が響いた。


 ◇


 「……どうですか?会心の出来だと自負しています。」

 どやっ、とつつましやかな胸を張るシェラ。

 俺は水晶に映る映像を消してシェラの方を見る。

 「……これではまるで俺が鬼畜の様なんだが?」

 「この水晶はその人の本質を映すのです……あいたっ、何するんですか!」

 俺のチョップを脳天に受け、頭を抱えて蹲るシェラ。

 「下らん事を言うからだ。」

 「シンジが鬼畜なのは置いといて、効果があるのは間違いないでしょうね。」

 鬼畜なのかよっ!

 ……まぁ、相手の心を折るには、確かにこれ位じゃないとダメだよなぁ。

 シェラがドヤ顔をするくらいにはいい出来なのは確かなのだ……俺への風評被害さえなければ……な。


 「まぁ、これはこれでいいとして、彼女たちの様子はどうだ?」

 俺はシェラに奥方と娘の様子を聞く。

 「一応今は別々の部屋に分けてありますが大人しいものですよ。きっと、これからどうなるのか不安でしょうがないのでしょうねぇ。……目覚めたら見知らぬ場所で一人っきり。身を守るものは何もなく、そこに現れる敵の皇帝……あぁ、ここで純潔を散らされるのだろうか……少女の運命は如何に……あいたっ。痛いじゃないですかっ!」

 「下らんことを言ってるからだ。取りあえず姫君と話をしてくるよ……エルはその変態と奥方の方のケアを頼む。」

 「はーい、……シンジ、相手は女の子なんだから程々にね。」

 「分かっているよ……悪いのは領主であって、その娘に罪は無い……ってか。」

 俺はそう言いながら領主の娘を捕らえている部屋へと向かう。


 エルにはああいったが、娘の態度次第では自身を抑えることができるかどうか分からない。

 あの領主の妻と娘なのだ、どれだけ性格がねじ曲がっているか知れたものではない。

 立場をわきまえず高慢な態度を取られたら、それこそあの水晶の映像の様な事になりかねない。

 とはいっても、娘の方はまだ少女だ……大人の奥方よりは従順の筈……エルもそれがわかっているから、あえて反対をしなかったのだと思う……たぶん。

 まぁ、お互いの為にも話の分かる少女であって欲しいと願う。


 ◇


 部屋に入ると、少女が怯えたように後ずさる。

 「だれっ?」

 「アンタを拉致したもの……と言ったところかな?」

 「私をどうする気?」

 怯えながらもしっかりとこちらを見据えてくる……中々気丈な性格らしい。

 「アンタの態度次第……かな?」

 「……説明は……してもらえるのかしら?」

 両腕で自分の身体を覆うようにしながら、小刻みに震える身体を押さえつけ、顔だけはしっかりと俺を見据えながら聞いてくる。

 何も分からず不安で一杯だろうに、それでも自分が出来る最適解を求めて行動しようとするその様子には関心を覚える。

 出来れば部下に欲しい所だな、と俺は心の中の人材リストに書き加える。


 「まずは名前を聞こうか?」

 「……アリーシャよ、アリーシャ=ノム=ミランダ。」

 「アリーシャか……アリーシャは自分の父親がやっている事をどこまで知っている?」

 「……知らない。……パパは一人で抱え込んでママにも私にも何も話してくれないから。」

 アリーシャの眼は嘘をついている目には見えない……という事は本当に知らないのだろう。

 参ったな……この子にどこまで話したものか……。


 「……あなたは誰?……パパを恨んでいるの?」 

 俺が考え込んでいるとアリーシャが訊ねてくる。

 「ん?あぁ、名乗ってなかったな。俺はシンジ・……まぁ、一応帝国の代表だ。」

 俺がそう名乗るとアリーシャが息をのむ。

 「あ、あなたが、あの、帝国の……皇帝陛下!?」

 しばらくアリーシャが俺を見つめたまま固まる。

 なので俺もそのまま待つことにする。


 「あなたが、あの皇帝陛下なのですね……。」

 アリーシャはそう呟くと徐に衣類を脱ぎだす。

 「ちょ、ちょっと、何を……むぐっ。」

 全裸になったアリーシャにいきなり唇を奪われる。

 アリーシャは唇を離すと頭を下げる。


 「皇帝陛下、お願いです。私の身体を好きにしてもらって構いません。ですので父の罪を許し領民に危害を加えないことを約束してください……どうかお願いします。」

 「交渉できる立場だと思っているのか?」

 俺はあえて意地悪くそう言ってみる。

 「交渉じゃありません。お願いです。慈悲に縋っているだけなのです……私にはこの身体以外に差し出せるものがありませんので……。」

 アリーシャは俺の手を取り、自分の胸に当て、必死に懇願してくる。


 「どうしてそこまでする?領民なんて放っておけばいいじゃないか?」

 「いえ、領民は守るべき者たちです。私の生活は彼らによって支えられているのですから、有事の際に体を張って守るのは当然の事なのです。」

 アリーシャの眼に揺らぎはない、口先だけでなく本当にそう信じている者の眼だ。

 「だから身体を差し出すってか?自分の身体にそれだけの価値があるとでも?」

 「……私には何もありませんから。もし奴隷となれと言うのであれば喜んで奴隷となりましょう、死ねと言うならこの場で喉を突き刺します……ですから、ですからお願いです、領民たちに慈悲を……。」


 ……参った。

 こんなところで……腐った領主の娘からノブレス・オブリージュを見せつけられるとは思ってもみなかったよ。 

 でも一応本当に口先だけじゃないかどうかを確かめておかないとな……。


 「本気か?」

 「本気です……私の身一つで民達が助かるのであれば、神にでも悪魔にでもこの身を捧げます。」

 俺はそういう彼女の胸を軽く揉みしだく。

 「……っつ。」

 彼女の身体が強張る……が直ぐに力を抜く。

 どうやら彼女の決意は本物らしい……ホント、参ったな。


 ◇


 「……パパがそんな事を……。」

 俺の腕の中でアリーシャがつぶやく。

 緊張と恐怖から解放されたことで腰が抜けたらしく、今は俺が抱きしめるような形で支えてやっている。

 彼女にしてみれば余程の決意だったのだろう、まだ目に涙が溜まっている。

 しかし、この格好はいささかまずい気がする……半泣きの全裸の少女を俺が抱きしめているのだから……何もしていない、と言っても信じてもらえないだろうなぁ。


 あれから俺は、アリーシャにミランダ領の領主が何を仕掛けてきて、その報復の為に、今何が起きているのかを話して聞かせた。

 「だから領主を許すことは出来ない。何らかのケジメを付けなければ、今度は他の奴等が真似をするからな。」

 「……。」

 アリーシャは俯いたまま何も答えない……ただ俺にしがみついている手に力が籠る。


 「だけど、まぁアリーシャに免じて領民へ被害が及ばないように配慮しよう。」

 「本当ですか!?」

 「あぁ、ただし……アリーシャが帝国に使えるのが条件だ。」

 「私が……ですか?」

 突然の事にアリーシャが驚いている。

 「俺に身を捧げて何でもするんだろ?」

 俺がそう囁くとアリーシャは真っ赤になって俯き……小さな声で答える。

 「はい、私は帝国に……皇帝陛下に仕えさせていただきます。」

 アリーシャがギュっとしがみ付いてくる。

 俺はそんな彼女の頭を優しくなでてやる……が、そろそろ服着てくれないかなぁ……とても嫌な予感がするんだ。

 

 俺の予感は当たって欲しくないほどよく当たる……らしい。

 イヤな気配を感じて振り向くと……そこには鬼のような形相をしたエルと、嬉しそうな表情のシェラが立っていた。


 ……はぁ、どう言い訳をするかなぁ。


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