素材が買えないなら、取ってこればいいじゃない……ってそういう問題!?
「ここがあのサウシュの街ってか……信じられんな。」
俺は目の前の広がる広大な土地を見回す。
ここには新たに帝都を建立する為に、大幅な区画整理を行っていた。
それが出来たのも、以前の戦役によってここが焼け野原になっていたと言うのもある。
住民の立ち退きなどする必要もなく、復興ついでに邪魔な瓦礫などをどけるだけで済んだというものの、まさかこれほど早く敷地が確保できるとは思ってもみなかった。
元から住んでいたサウシュの住人たちや、シャマルや南アルティアからの難民たちは、近隣の土地に小さな町や村を作りつつあるが、帝都が完成した後、希望者は受け入れる準備が出来ている。
とはいっても、まずは帝都の中心でありシンボルと言ってもいい、帝城が出来上がらない事には話にならないんだけどな。
「ですので、今日は帝城について話を進めたいと思いますの。」
アイリスがそんな事を言って大きな紙面を広げる。
どうやら城の図面と周辺の地図らしい。
まぁ、城の建設ってかなりかかるだろうから、早めに決めて建設に入らないといけないからな。
でも、城を建てるのにどれくらいかかるんだろうか?
1年ぐらいで出来るのかな?
「それで、これが帝城の基本設定なんですが、シンジ様や他の皆さんのご希望を聞いておきたいと思いまして。」
俺は言われるままに城の図面を見る。
城壁の要所要所に塔みたいに高くなっている建物がある……これが監視塔とか櫓の役目をしてるのだろう。
城壁側……国外から見れば正面側と、裏側……街から見ればこちらが正面になるのか?……に大きな建物が広がっていて左右の離れみたいな建物で繋がっている。
建物に囲まれた内側には、中庭を始めとした大小様々な施設がある。
「この辺りは、このままでいいんじゃないかな?」
「ウン、私もそう思いますですぅ。」
「そうね、プライベートエリア以外はこのままでいいんじゃないかしら。」
「問題は、そのプライベートエリアなんですが。」
「あ、でもお庭の一部を魔獣さん達のために解放してほしいですね。」
「浴室は大きくお願いね。」
「シンジさんと一緒に入れるお風呂がいいですぅ。」
「はいらねぇよ。」
俺達は、図面を見ながら、ああだこうだと口々に言いたいことを言い合う。
みんな自分の都合だけで放しているので、意見をまとめるアイリスが大変そうだった。
結局執務室を中心に設置し、そこを中心に色々決めていく事にした。
執務室は緊急時には指令室として使えるように後で様々な改装をする予定なので、かなり広く取ってある。
またリビングやサロンを併設してくつろげる様にもしてある……と言うよりちょっとしたお客さんを迎えることもあるので、こう言う設備は必要なのだ。
……まぁ、今の執務室をグレードアップした感じなのでそれほど違和感を感じることは無いだろう。
俺の部屋は執務室の奥に用意したがハッキリ言って作業場だ。
なのでかなり広く取ってある……が、色々な機材を入れればあっという間に小狭くなることは目に見えている。
まぁ、寝るとき以外は執務室か作業場に籠っているので問題は無いだろう。
そう言うと、なぜかみんなは微妙な表情になったが……女の子って何を考えているのか分からないね。
そして執務室の右側のエリアに、エル、リディア、アイリス、クリス、エレナの順番で部屋を割り振る……その向こう側は幾つか空き部屋が続いているが、エル達が言うには「増えた時の為に空けておく」のだそうだ。
左側のエリアにはリオナとレムの部屋がある。
住み込みのメイドさんを始めとした使用人たちのプライベートルームは、左右の離れに用意してあるが、リオナとレムに関しては側室扱いという事でこちらのエリアに用意してある。
後、レムの隣になぜかマリアちゃんの部屋も用意された。
みんなの中では、マリアちゃんは正式な愛人と認定されているらしい……これでいいのだろうか?
また、彼女たちの各部屋には隠しスペースを作り、そこに転移陣を設置する予定になっている。
専用の転移ルームも作るが、ここの部屋に専用の転移陣が欲しいと押し切られた結果だ。
他にもいろいろな改装が出来るように各部屋のスペースは広めになっている。
それを聞いた時、帝城が出来た後の改装の方が手間がかかるのではないかと思ってしまった。
もちろんその改装をするのは俺だ・・・・・・今から気が重い。
「しかし、こんな細かい設計必要なのか?」
図面には部屋の間取りがサイズまで細かく記載してあるのはともかくとして、使用する素材の種類や量、家具の素材や配置まで書き込んである。
俺が知らないだけで、普通はこんなモノなんだろうか?
「素材の指定は大事ですよ。カーテンに鉄とか使われると困りますよね?」
それはそうだけど……そんな間違える奴なんて居ないだろうに。
俺がそう言うとアイリスが驚いたように言う。
「ひょっとして、シンジさん知らないんでしょうか?」
「へっ、知らないって・・・・・・何が?」
アイリスの説明によると、帝城に限らずこの世界で貴族の建物を造るにはクリエイト系の魔法を使うのだそうだ。
そして、帝城の規模ともなると、十数人がかりで集団合成魔法を使うので、より細かい設計が必要とのことだった。
・・・・・・何そのファンタジー?
「それで、ですね、シンジさんにお願いがあるんですが・・・・・・。」
アイリスが申し訳無さそうに言ってくる。
何でも素材が足りないそうで、不足分を手に入れてきて欲しいとのことだった。
「そう言うことなら任せてくれよ。」
素材採集かぁ、久しぶりに楽しくなりそうだ。
◇
「えーと、必要なのは……。」
「布系の素材はエレナさんの協力で集まっていますから、シンジさんにお願いしたいのは金属系の鉱石ですわね。」
外壁や城の基礎になる部分に金属を使用することで強度が増すのだそうだ……鉄筋コンクリートみたいなんのかな?
「金属ってなんでもいいのか?」
俺はアイリスに聞いてみる。
「えぇ、鉄以上であればなんでも……ただ強度増加の部分には金や銀は向きませんので……。」
「でもぉ、外壁に金でコーティングしたら、キラキラピカピカだよねぇ。」
「それ素敵ですねぇ。」
リディアのぶっ飛んだ発言にエレナが同意する。
金ピカの城って……金閣寺じゃあるまいし、イヤすぎるだろ。
「でもでもぉ、敵さんが来た時、ピカァーッとなって、眩しぃって逃げ出すかもぉ?」
リディアが更におバカな発言をする……そんなんで逃げ出すならだれも苦労しないだろ。
俺は苦笑しつつリディアの頭を撫でていると、ふと気づくことがあった。
「防衛面を考えて城壁や外壁に色々仕込むのはアリかもな。」
「またヘンな事考えてるんじゃないでしょうね?」
俺の呟きにエルが反応する。
「ヘンな事じゃないよ。どうせ使うなら、城壁にはアダマンタイト鋼を使うのはどうかなって。」
「確かに、それならかなり頑丈な城壁になりますが……。」
アイリスが複雑そうな顔をする。
「でも、アダマンタイトだけじゃ、魔法攻撃に対しては心もとないわよ?」
「だったらミスリル銀も含めればいいと思うのですよぉ。」
俺の一言で、エルやリディアから様々な意見が出るが、その度にアイリスの顔が青ざめていく。
「これ使えないかな?」
ある程度意見が出たところで俺はあるアイテムを取り出す。
やや青みがかった水晶の様な透明感のある鉱石。
「これは……水晶ですか?」
アイリスが訊ねてくる。
「水晶の一種だろうけどな、変わった効果があるのがわかったんだよ。俺はこれを『魔晶結石』と呼んでいる。」
「どんな効果があるの?」
「まず、魔力を注いだ分硬化して強度が増す。その強度はミスリル銀以上にもなるな。それから、魔力の吸収・貯蓄・増幅・反射の効果がある。」
「どういうことですかぁ?」
リディアがいまひとつわからないという顔をしている。
「うーん、見て貰う方が早いな……エル、ライトの魔法を頼めるか?」
「うん……『穏やかな光』」
エルの光魔法で周りがひときわ明るくなる……が、その光が俺の手にある『魔晶結石』に吸い込まれていく。
『反射』
俺が力ある言葉を唱えると魔晶結石からさっきの光以上の光量が飛び出す。
「わぁー、凄いですねぇ。」
「これを使えば、耐魔効果が増すと思うけど。」
「確かにそうですが……でも……。」
アイリスがますます複雑そうな顔になる。
「何か気になる事でもある?」
「いえ、そうじゃないんですが……。」
そう言いながらも浮かない顔をしている。
「あの……たぶんですがアイリスさんは量を問題にしていると思うのです。」
横からエレナが口を出してくる。
「量?」
「えぇ、私も室内装飾に使うための布系の素材をお手伝いしたのですが、その……。」
やはり高級素材を用意しようとしたために、集めるのにかなり苦労をしたそうだ。
「成程な……それでどれぐらい集めればいいんだ?」
アイリスに聞いてみると、申し訳なさそうに試算表を出してくる。
「皆さんの要望を全て叶えようとすると、最低限これくらいは必要となります。」
「ふーん……ウッ……。」
アイリスが差し出した試算表に目を通して言葉に詰まる……これは確かにアイリスが蒼褪める訳だ……書かれている数量は、大国の国家予算を遙かに凌駕していたのだから。
「ま、まぁアダマンタイト鋼やミスリルの鉱山のアテはあるから、何とかなるんじゃないかな……アハハ……はぁ。」
旧シャマル王国は山岳地帯で鉱脈も沢山あり、未発掘のミスリル鉱脈も見つけてある……探せばアダマンタイトの鉱脈もあるだろう。
◇
「で、私達はこのゴーレムの見張りですか?」
目の前でゴーレムが鉱山を掘り、集めた鉱石をゲートに放り込んでいる。
あのゲートの先はサウシュの街の資材置き場に直結している。
ゲートの魔法は、ゲートミラーの魔法を更に改良して大きなものを運べるものにしたものだ。
今は無機物しか移動させることは出来ないけど、生物も移動できるようになればもっと用途が広がるかもしれない。
「あぁ、何か問題が起きたら連絡を入れるだけ……簡単だろ?」
「簡単なんですが……なんか釈然としません。」
「私達必要なのかって思っちゃいますねぇ。」
ティナとシャナがブツブツと文句を言っている。
「ゴーレムたちは命令されたことしかできないからな。突発的な事への対処は人間の判断が必要なんだよ。」
俺は二人を宥める様にそう伝える。
まぁ、実際には何事も無ければ暇なのは間違いからな。
二人の気持ちはわからないでもないが、ここは頑張ってもらおう。
ここにはどうしても信用できる人員を配置しておきたいからな。
ここは旧シャマル王国の奥地にある、未発見の鉱脈だ。
運良く、アダマンタイト鋼の含有量も多く、何とか必要量を手に入れることが出来そうだ。
それだけに、外部からの邪魔が入るのは避けたい。
二人には何かあった時の為に色々な防犯アイテムを渡しておく。
その場に積まれるアイテムを見て、シャナが苦笑する、
「陛下が過保護って噂は本当だったんですねぇ。」
「身内に入れて貰えたみたいで嬉しいけど、流石にこれはねぇ……。」
…………なんだろう、この居た堪れない気持ちは。
「取りあえず三日ぐらいで必要量が溜まるはずだから後は頼んだぞ。」
「「えっ、三日!!」」
「言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよぉ……陛下って過保護ですけど鬼ですぅ!」
「三日もここに放置って……やっぱり酷い扱いだったぁ。」
酷い言われ様だった……。
◇
「まぁ、黙って連れて行って三日間放置って……ねぇ?」
「ティナもシャナも、まだまだ甘いのですよぉ。シンジさんの依頼がまともなわけないじゃないですかぁ。」
「「陛下直々のお仕事だぁ!」って喜んでいただけに忠告できませんでした……ハァ。」
キミタチ、言いたい放題だねぇ。
「私達も、同じ目にあっていますからね。」
アハハ、と力なく笑うエレナ。
「そうね、『魔晶結石』を手に入れに行くから手伝ってくれって言うから、何かと思えば……。」
「なぜかダンジョンですからね。」
はぁ……、と大きなため息をつくアイリス。
「ここはシンジさんと一緒に見つけたんですよぉ。」
リディアが嬉しそうに言う。
そう、ここはこの間偶然に入り込んだダンジョンの中だ。
時間があるときにゆっくり攻略をしようとセーフハウスを作っておいたのが、早速役に立ったというわけだ。
「このダンジョンは初見だからな、皆の力が必要なんだよ。」
なんて言っても俺は弱いからなぁ……。




