忘れた頃に出てくるキャラって、殆ど雑魚扱いですよね?
「……クラリス領は取り潰し、帝国の直轄領とする。代官としてカチュア=ミラノを任命。代官屋敷として孤児院を改装して使う。孤児院にいた者達は全て代官屋敷で召し抱える事とする。元領主のメルクリス=フォン=ミラノは一度グランベルク王に謁見の後、希望すれば代官補佐としてこの地に戻る事も可能……こんなところでいいですか?」
俺が決めた草案をクリスが纏め上げ、読み上げる。
色々あった翌日、俺達は領主を含めた関係者を孤児院に集め、昨日急いで決めた内容をクリスに宣言させた。
「私が代官……務まるのでしょうか?」
カチュアが不安そうに呟く。
「慣れるまではこちらから補佐を付けるし、そもそも領主についていた側近たちは優秀な奴らが多そうだから心配ないだろ。」
俺は安心させるようにカチュアに笑いかける。
実際、あれだけ頑固な領主が大きな揉め事も起こさずやってこれたのは、側近たちの調整能力が高かったからだとみている……まぁ、中にはジャスワートの様な奴もいたんだが、ジャスワートが快く話してくれたおかげで、不穏分子は一切取り除いてある。
現在残っている側近たちは、領主の頑固さに辟易しながらも、国の為、領民の為と心を砕いてきた者達ばかりなので、経験の浅い新代官をしっかり支えてくれることと思う。
また、国王と腹を割って話し合い、納得してくれたのなら、メルクリス元領主も娘の為にその力を貸してくれると考えている。
元々メルクリス元領主は無能ではない……と言うよりかなり有能な領主だった……ただ行き過ぎた忠誠心により視野が狭くなっていただけで。
「シンジ様、色々と心配りありがとうございます……ですが、本当によろしいのでしょうか?」
孤児院の院長だったテレサさんが少し困惑した表情を見せる。
横ではケイトさんも不安そうにしている。
「二人の執務能力なら十分やっていけると思うよ。それに何より、カチュアの精神的支えとしては二人の存在は必要不可欠だと思っているけど?」
「ありがとうございます、ですが……。」
テレサさんが視線を部屋の外へ向ける……そこには孤児たちが集まっているはずだ。
「子供たちの事は心配ないよ、教育係としてナターシャさんを付けるから。あの子達には『仕事をすれば食べることに困らない』という事をシッカリ教えてやれば、一生懸命働いてくれると思うよ。そしてあの子達が将来望む職があるなら、その道に進ませればいい……どちらにしても技術を身に着けるのは無駄にならないと思うよ。」
俺がそう説明すると、テレサさん達はようやく安心した表情を浮かべる。
「カチュア。」
俺は新代官に声をかける。
「はい、何でしょうか?」
「ゴタゴタが片付くまではクリスがいるから、その間に必要な事を教わるといい。それとな……。」
俺はカチュアの耳元に顔を近づけ小声で告げる。
「ある程度ほとぼりが冷めてこの地が安定したら、また領地として割譲するつもりだ。その時の領主はお前でもいいし、お前が認めた奴に譲っても構わない……だから、頑張れ。」
俺の言葉を聞き、驚いたように見つめてくるカチュア。
その瞳が次第に潤んでくるが、カチュアは意志の力でそれを押しとどめ、力強く頷く。
「シンジ陛下、御心に添える様誠心誠意努めさせていただきます。」
俺はそんなカチュアの頭を撫でてやる……この様子なら大丈夫だろう。
「そこまでですよぉ。」
突然、カチュアの頭から俺の手を引き離すリディア。
「シンジさんはぁ、カチュアさんまで堕とすつもりですかぁ?」
リディアの言葉に、近くに控えていたマリアちゃんがサササッと、俺とカチュアの間に割り込む。
「そんなつもりじゃぁ……。」
「シンジさんはぁ、無自覚に優しさを振り撒き過ぎですぅ。少しは自覚するのですよぉ。」
何故かリディアに責め立てられる……理不尽だ。
マリアちゃんはカチュアに「勘違いしたらダメですよ。陛下にはその気はないのですからね……頭を撫でられて落ちるほど、カチュアちゃんはチョロくないよね?ねっ?」等と言っている……微妙にディスってる気もするが、一応その子は新代官だからね。
まぁ、最期はちょっとグダグダになった気もしないが、取りあえずミランダ領の一件も終わったな。
これで安心して戻れる……と、立ち上がった時にクリスから声がかかる。
「シンジ様、ジャスワート達の処分は本当にこれでいいんですの?」
「あぁ、それでいい。あと細かい事は任せる。」
ジャスワート達の処分は、深く関わっていたものは一族総出の身分剥奪・財産没収・国外追放、利用されていただけの者達は程度によって、財残没収~数か月の謹慎処分と振り分けてある。
……普通なら程度の差はあれども、軽い処分で一生鉱山労働、ジャスワートに至っては一族郎党連座で公開処刑なんだそうだが、彼にはまだ働いてもらう必要があるので、生かして追い出すことにしてある……餌の活きがいいほど大物が食らいつきやすくなるのだよ。
「あと、あまり無理するなよ。まだ体調が戻ってないだろ?」
「御心配していただいてありがとう存じますわ。」
俺の労いにクリスが笑って答える……これは無理をするときの表情だな。
仕方がないので、俺はナターシャにクリスをよく見張っておくように伝え、各種回復薬を渡しておく。
「任せてください……でも、陛下は奥様方には過保護でダダ甘と言う噂は本当でしたのね。」
笑いながらそう言うナターシャ……そんな噂が流れているのか?
俺は、生暖かい視線を避ける様にしてその場を後にするのだった。
◇
「とまぁ、色々あったけど、とりあえず片付けて来たんだが……まさかこんなことになっているとは……。」
俺とリディアが城に戻ると、エルが飛びついてきた。
普段人前でそういう感情を出さないエルにしては珍しいと思っていると、そのまま引きずられて、ここ……エルの寝室まで連れてこられた。
流石、まだ早い時間からそういうことをするのは……等と考えていると……。
「勘違いしないでよねっ。」
顔を真っ赤にしたエルがベッドを指さす。
俺は言われるままに視線をベッドに向けると……そこには全裸で拘束された女性がいた。
「……まぁ、そのなんだ、個人の趣味にとやかく言うつもりはないが……。」
女の子同士で……まぁ、男を連れ込まれるより良かったけど……流石に拘束プレイまでは……放ったらかしにしすぎたか。
等と深く反省していると、
「バカッ!何考えてるのよっ!よく見なさいよ。」
更に顔を真っ赤にしてエルが叫ぶ……首まで真っ赤になっている。
俺は言われた通りに全裸の女性をよく見てみる……全体に整ったプロポーション、難を言えば、ややボリュームが少ないその双丘……まぁ好みの問題ではあるけど……って、コイツはっ!
「シェラなのかっ!」
俺の叫びに応えるかのように女性が何か叫んでいる……だが何も聞こえない。
「あ、忘れてた……。」
どうやらベッドを中心にサイレスをかけていたらしい。
エルが魔法を解除すると、女性の声が聞こえてくる。
「どこを見てますか!どこを見て私と判断したのですかっ!」
シェラが、親の仇、とでもいうように睨みつけてくる。
「どこって言われても……胸?」
「そうね、胸ね。」
俺の言葉にエルも頷く。
「あー、はっきりと言いやがりましたね!普通そこは誤魔化すところじゃないんですかねっ。」
ぎゃぁぎゃぁと喚くシェラ……まちがいない、コイツはシェラだ。
この妙な残念さが懐かしく思える。
「まぁまぁ、私はシェラの可愛いお胸大好きだからね。」
エルがそう言いながらシェラの胸を揉みしだく。
「ひゃん!、ひ、姫様、そこは……ダメェ……。」
ったく、何やってんだか。
俺はエルを止めようと近付いていく。
「あ、シンジも触る?」
何を勘違いしたのか、エルがそんな事を言い出す。
「ひ、姫様何をっ!……このケダモノめっ、姫様ならともかく、このケダモノに身を穢される等……。」
シェラが大きく身を捩って暴れ出す。
「仕方がないなぁ……じゃぁ、私の……触る?」
エルが、上目遣いでそんな事を囁いてくる。
俺は誘われるままに、ふらふら―と、エルに近寄り手を伸ばす……。
「ていっ!」
「あたっ。……なにするのよぉ。」
俺のチョップを脳天に食らい、涙目になりながら頭を押さえるエル。
このまま桃色空間に流されていては話が進まない。
「取りあえず何でこんな状況になっているのか説明しろよ。」
「うぅ……久し振りなのにひどい扱いだと思う。」
涙目のままブツブツ文句を言っていたが、軽くキスをしてやると途端にご機嫌になって事の次第を話し出す。
事の起こりは、エルが執務室でモニターを見て情報をまとめている時だった。
ほんの些細な事ではあったが、情報収集の魔術具から送られてくる情報に途切れがあったのだ。
情報収集の魔術具からの情報は距離によってどうしてもタイムラグが発生するし、必要ないと思われる情報は送ってこないこともあるのでおかしい事ではないのだが、エルは、なぜかその事が気になったという。
色々と調べている内に、途切れている情報が偏っている事に気づき、さらに調べていくとある一定のパターンがある事に気づく。
そのパターンを辿っていくと、この城に向かって何者かが忍び込もうとしているのがわかり、それを逆用して罠をしかけていたら、捕まえたのがシェラだった……という事だった。
「お前って、それなりの凄腕の『影』じゃなかったっけ?」
俺はジト目をシェラに向ける。
「……まさかあのような罠に引っかかるとは……一生の不覚です。」
悔しそうに俯くシェラ……どんな罠だったんだよ?
俺はエルの方を見る。
「アハッ、あはは……私も引っかかるとは思っていなくて……。」
なんでも『貧乳立ち入り禁止!』と言う張り紙をある部屋のドアの前に張っておいたのだそうだ。
それを見たシェラが怒りのあまり剥がそうと手を掛けると、仕込んであったパラライズと昏睡の魔法によってあっさりと捕まったんだとか……。
仕掛けた罠も罠だが、それに引っかかる方も……。
俺は思わず可哀想な子を見るような目で二人を見てしまった。
「ち、違うのよ?昔、シェラに「怒りで我を忘れそうなときってどんな時」って聞いたことがあってね、それでね……。」
なんでも、その時のシェラは「身体的特徴(特に胸)』を言われるとキレそうになるとか答えたそうだ。
それをふと思い出したエルは、試しに、と実行してみた所、見事に引っかかったという事だ。
尚、シェラが『貧乳立ち入り禁止』の張り紙に引っかかったのは偶然で、他の部屋にも『DT……プゥー、クスクス……』『頭上注意……寒いでしょ♪』『この先体重制限アリ……出直してきな』等など様々な張り紙を用意していたとか。
ちなみに、忍び込んできたのがシェラだと知って動転したエルは、他の張り紙をはがすのを忘れていて、翌日リオナ達にこってりと絞られおやつ抜きの罰を受けたとか……。
「で、何でシェラはこんな格好をしているんだ?まさか、本当にエルの趣味でシェラを調教してるってわけでもないんだろ?」
もしそうであるなら、今後エルとの距離を考えないといけないかもしれない。
「そ、そんなわけないじゃない。」
「私は、姫様が望むならばそれでも……。」
「アンタは黙っていなさいっ!」
慌てて否定するエルだが、シェラが怪しげな事を呟くので、お仕置きを始める。
やっぱり調教してるんじゃぁ……?
「これは仕方がない事なの。一応ここが帝国の中枢でしょ?そこに黙って忍び込んだのだから罰しないわけには行けないし、かと言って牢に閉じ込めるのも可哀想だし……。」
エルが言い分も分るんだけど……。
「でもなんで裸?」
「一応の用心よ。シェラの事は信じているんだけどね。皇帝との謁見に武器所持なんてありえないでしょ?でもシェラは『影』だからどこに武器を隠し持ってるか分からないし……。」
まぁ、エルなりに考えてはいたらしい。
場所をエルの寝室にしたのも、邪魔が入らないようにとの配慮みたいだし。
「それに、この状況なら尋問もしやすいでしょ?」
エルの瞳が怪しく輝く。
「ヒィッ……ケダ……シンジ様、何でも喋りますので、姫様を押さえてくださいぃー。」
身の危険を感じたシェラが、俺に縋る様な眼を向けてくる。
その後一晩かけてシェラの尋問が行われた。
その場でどのような事があったのかはシェラの名誉の為に伏せておく。
ただ、尋問を終えた後のシェラは遠い目をしていて、すっきりした顔のエルと対照的だったことだけは明記しておく。




