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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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学園天国……?それってリア充の言葉だよね?

 「おはよー。よく眠れた?」

 目を覚ますと俺をのぞき込んでいる美少女の顔が間近にあった。

 スッと通った鼻筋に小振りの唇、少し大きめのクリッとした瞳の色は薄い碧色、ただ右目だけはやや赤味がかっている。

 肩までおろしたアッシュブロンドの髪が朝日を浴びてキラキラと輝いている。

 「綺麗だ・・・・・・。」

 思わず口をついて出た言葉・・・・・・。

 俺の言葉を聞いて、少女の顔が、ボンッ!っと音がするんじゃないかと思うくらいに、一瞬にして赤く染まる。

 「や、やだ、なにいってるのよ、いきなり、もぅ・・・・・・・。」

 熱を持った頬に手を当てて、イヤンイヤンとモジモジしだす少女を見ていると意識が覚醒してくる。


 「あー、ごめん、寝ぼけていたみたいだ。おはよう、エル。」

 「おはよう、シンジ。・・・・・・・って、寝ぼけてたってどういう意味よ!」

 朝の挨拶を返すが、俺の言葉にプンスカと怒り出すエル。

 最近は中々見せてくれない素の表情だ。

 これが見れただけでも、今日は何か良いことがありそうな気がする。


 「エルが可愛く見えたってことだよ。」

 俺は軽く答える。

 「可愛いなんて、そんな・・・・・・・。」

 再び頬を赤く染めて身悶えるエル。

 「・・・・・・・ん?見えた?・・・・・・・それって普段は可愛くないってこと?」

 イヤンイヤンをしていたエルが、ふと我にかえる。

 「いえ、姫様は世界一可愛いです!姫様サイコー!姫様の愛らしさを理解できぬ輩には、このシェラが直々に、骨の髄まで教え込んであげます!」

 そこにシェラが割り込んできて、エルの素晴らしさを語り始めた。

 ・・・・・・・いつもの朝の光景だ。

 

 「でも、ちょっともったいないよな。」

 「何が?」

 俺のつぶやきにエルが反応する。

 「いや、エルの髪の毛さ。綺麗だったのに思い切ったなぁって。」

 そう、エルは最近になって腰まであった髪をバッサリと切り落とし、今は肩にかかる程度の長さになっている。

 「これ……似合わない?」

 エルは髪の毛を摘まみ、不安そうに聞いてくる。

 「いや、良く似合ってる、新しい魅力を発見!ってところだな。」

 俺が笑って言うと、エルは嬉しそうに微笑んだ。


 「それより姫様、早く食べないと学園に遅れますよ。」

 「あ、そうだった。シンジ、ご飯の用意するから、あなたも早く支度してね。」

 「あぁ、すぐ行く。」

 

 ◇


 王都で起きたクーデターから三か月が過ぎた。

 あれから、俺達は冒険者(フリーター)として依頼を受けながら、各国を転々とし、このグランベルク王国で腰を下ろすことに決めた。

 この国には冒険者ギルド(フリーターズギルド)が主となって運営する「冒険者職業支援学園」があったからだ。


 この学園では、冒険者として生活して行くにあたり、必要な知識を学んだり、訓練を行ってくれる。

 また、魔法やアイテムなどの研究も盛んで、冒険の役に立つ者からジョークアイテムまで、他所にはない豊富な知識と技術が溢れている。

 その為、冒険者職業支援となっているが、他国からの研究者、行商するにあたり色々な知識を得たいという商人、親の支援を受けることが出来ない貴族の末弟、輿入れにあたり箔をつけようとする裕福な家庭の平民や、下級貴族の子女等様々な者たちが通っている。

 年齢も、冒険者を目指す10歳から20歳ぐらいまでと幅広い。

 

 俺もエルも、世間の常識に疎い事は自覚していたし、アテのない旅を続けるよりは、と,この学園で学ぶことを決めた。

 学園に通う期間は1年間。 

 その間に見分を広げれば、先の進むべき道が見えてくるかもしれないと、俺もエルもかすかに期待していた。


 また、学園在籍している間ずっと宿に泊まるのは経済的に厳しい為、安い家を借りることにしたが、予算に見合う物件がなかなか見つからず、ようやく見つかったのは廃屋寸前と言うボロ屋だった。

 かなり値切ったうえ、好きに改築していいという許可をもらう事でようやく住処が決まったのが入学する3日前の事だった。

 

 ◇


 「オッス!今日も綺麗どころを侍らせて、羨ましいぜ。」

 学園についた俺達を目ざとく見つけて声をかけてくるのは、アシュレイ=フォードと言う名の男。

 俺より身長が高く、金髪碧眼のイケメン野郎だ。

 イケメンではあるが、嫌味なく、気遣いの出来る、意外と気の良い奴だったりする。

 下級貴族の七男という事で、自ら道を切り開かない限り先は無いという、かなりシビアな現状も関与してはいるのだろうが、貴族特有の鼻持ちならない嫌味っぽさがなく苦労性と言う所が、彼の性格にいい影響を与えているらしいと俺は考えている。

 まぁ、色々あるが、俺の数少ない友人の一人だ。

 そして……もう一人。 


 キィンッ! キンッ!キンッ!キンッ!キィィィン!

 なんの訪れもなく、いきなり斬りかかってくる刃を、俺は小剣ショートソードで受け流していく。

 そして、最後に相手の得物を弾き飛ばす。

 「クッ、今日も負けたのだ……。」

 「ミリア、おはよう。」

 「あ、おはようございます……って、そうじゃない!明日こそは倒してやるのだ!」

 俺に得物を弾き飛ばされ、敗北に打ちひしがれている女の子……ミリアルドに朝の挨拶をする。

 彼女も俺の数少ない友人の一人だ。

 いきなり襲い掛かってくるが、挨拶を律儀に返してくるところが、素直ないい子だと思う。

 しかし、毎朝襲ってくるのは勘弁してほしい。

 日に日にスピードが増してるんだよなぁ。

 その内捌き切れなくなりそうだ。


 「お姉様ぁー、また負けてしまいましたぁ。」

 ミリアは、慰めてもらおうと、今日もシェラの元に駆け寄る。

 「仕方がないですね……いいですかミリア。あなたは今日で12回目の負けになっています。という事は、あなたはあの野獣に12回も純潔を奪われたって事なんですよ。本来ならばすでに堕とされているかもしれません。」

 「そ、そんな……私の操はシェラ御姉さまに捧げているのですぅ。」

 ……シェラとミリアのいつもの会話だ。

 「なぁ、アッシュ。これでも羨ましいか?」

 俺は隣にいるアシュレイにそう声をかける。

 道行く女子たちが、シェラとミリアの会話を聞いて、俺に軽蔑の眼差しを送ってくる。

 「アハハ……。」

 アシュレイが目を逸らす。


 俺がアシュレイと出会ったのは、入学してまもない頃にあった剣技の実習の時だった。

 ペアを組んで模擬戦だったのだが、その時の相手がアシュレイだった。

 アシュレイは貴族の子弟らしく正規の剣術を学んでいて、しかも、それなりに才能があるようでかなりの腕前だった。

 それに対し、俺は剣術など習ったこともない素人。

 冒険者生活で身につけた我流の剣捌きでは、相手にならないのは目に見えていた。


 なので俺はとにかく剣を振るった。

 相手が攻撃をする間を与えずに剣を振る。

 何度も剣を振ればいつかは当たるだろう。 

 こちらの剣が当たるまで相手に攻撃をさせなければいい……これが、魔物を討伐しながら得た俺の答えだった。    

 手数を増やす為、装備は長剣から小剣へ変えた。

 風の魔法によるスピード強化も覚えた。


 スピードだけなら誰にも負けないという自信がついた所での、アシュレイとの模擬戦。

 結果は俺の負けだった。

 終始俺の攻めではあったのだが、アシュレイは全て受け止め、受け流し、カウンターを狙ってきていた。

 結局、俺の意識が逸れた一瞬を狙われて、負けが確定した。

 それなりの自信があっただけに酷いショックだった。

 まぁ、アシュレイも、余裕で勝てるという自信があったにもかかわらず、結果としては辛勝で粉々に打ち砕かれた、と言っていたが。  


 アシュレイが、俺を見かける度に声をかけてくるようになったのはそれからだった。


 ミリアルド……ミリアとの出会いは、俺よりエルの方が先だった。

 何がきっかけだったのかよく分からないが、ミリアがエルに勝負を吹っ掛けて、瞬殺されたという事だ。

 そしてその後、どう言う経緯なのか理解が出来ないが「俺を倒したら友達になる」という事になったらしく、翌日から毎朝襲われることになった。

 まぁ、ミリアの速さは、アシュレイに負けて自信を無くしかけていた俺にとって、丁度いい練習相手だったこともあり、取りあえず、毎朝相手をしてやっているのだが……。

 今も、仲良く3人でおしゃべりをしている姿を見ると「もうお前ら友達だろ?」と言ってやりたくなる。

 

 「シンジ、ちょっと相談があるんだ、後で時間をとれないか?出来ればエルフィーちゃんとシェラさんも。」

 アシュレイが少し真面目な顔でそう言ってくる。

 エルが小さく頷くと、シェラがアシュレイに応える。

 「じゃぁお昼を屋上で。その時でいいですか?」

 「あぁ、構わない。」

 「助かる、じゃぁお昼にな。」

 アシュレイはそう言って、別の所へと駆けていった。


 ◇

 

 「シンジは、今日はどこ行くの?」

 エルが聞いてくる。

 「今日は付与術かな。昼からはアイテム作成の方へ行くけど。」

 「そっか、私とシェラは、今日は一日中、魔法概念よ。」


 学園での授業と言うのは、各自が習いたいものを選択して、それらの指導教官の元へ赴くというものだ。

 短い時間で色々なところに顔を出す者もいれば、一所でずっと籠りっきりになる者もいる。

 

 「そっか、それも面白そうだな。夜にまた教えてくれよ。」

 「ウン、わかった。じゃぁお昼にね。」

 学園につくと、俺とエル達は、それぞれの学科の方へ向かう。


 学園生活を始めてから1ヶ月。

 俺とエルは重大な事に気づかされた……認めたくはなかったが。

 俺とエルは……重度のコミュ障だった。

 まぁ、俺に関してはある程度自覚らしきものはあったんだけどな。

 生活環境があんなんだったから、軽い人間不信に陥っていたこともあって、あまり人との接触はしないようにしていたから、その所為もあるだろう。

 エルに関しては、幼い頃は母親べったりで、また、近くに同年代の子もいなかった。

 王宮に入ってからは、なおさら、周りの方から距離を置かれたため、対等の立場の人間と、どう接していいかが分からないそうだ。

 

 「俺と初めて会った時は、普通にしゃべっていたじゃないか?」

 「だって……あの時は対等って思ってなかったから……男はみんな下僕だと思いなさいって母様も言ってたし……。」

 おーい、ミネアさん、アンタ娘の教育間違ってますよ?


 そんな会話をしていたのはつい先日の事だった。


 ちなみに、意外だったのがシェラのコミュニケーション能力の高さ。

 シェラに言わせると、情報収集するには相手の懐に飛び込むのが一番手っ取り早い、とのことだった。

 一番ダメダメだと思っていたシェラが、学園内では一番頼りになると言う事実を、俺は未だに受け入れがたく思っている。

 結果として、学園内ではエルはシェラを頼りにして、ずっとそばに居る。

 それがシェラにはたまらなく嬉しいらしく、学園に行くのを一番楽しみにしているのはシェラだったりする。

  

 ◇


 お昼の時間。

 この学園には学食も用意されているが、俺達の様に弁当を持参してくる者も多い。

 フリーターになりたての者や、これからフリーターを目指すという者達は、基本的に貧乏なのだ。 

 安めとはいえ、毎日のように学食を利用するほどの余裕がある者は少ない。

 「じゃぁ食べるか。」

 「アシュレイさんを待ってなくていいの?」

 「いいさ、そのうち来るだろ?」

 アッシュが来ると、俺の取り分が減るからな、と言うと、ちゃんとあるから大丈夫と、エルがクスクス笑う。

 実は、学園でエルの笑顔を見ることは少ない。

 学園で、と言うより、あれ以来エルの笑顔が少なくなったのは事実だ。

 それが俺には歯がゆい。

 たぶんシェラも同じ気持ちだろう。

 エルの笑顔を見た時のシェラは、思いっきり顔が緩んでいるからすぐわかる。


 「では、準備しますのでしばしお待ちを。」

 シェラがそう言って、バックの中からランチボックスと、お椀、寸胴鍋を取り出す。

 「お、お姉さま、それは一体……。」

 ミリアが驚いた顔で見ている。

 まぁ、手のひらサイズの小さなバックから、ランチボックスが出てくるのは、ギリギリ許容できたとしても、寸胴鍋……しかも湯気が立っている……が出てくるのは納得できないだろう。

 「これは『収納バック』ですよ。」

 シェラがミリアに説明する。

 「そ、そんな高価なモノ……お姉さまは実はお金持ちだったんですか……。」

 ミリアはかなりショックを受けたようだ。

 収納バックは魔術具の中でも特殊な部類に入り、質の悪いものでも金貨10枚以上はする代物だ。

 質の良いものになると金貨1000枚以上するものまである。

 そのようなモノを普段使いにしているのを見れば驚くのが普通だろう。


 「いえ、これは……。」

 シェラが言い淀んで俺の方を見る。

 「俺が作ったんだよ。付与術の実践を兼ねてな。」

 俺の空間魔法については、知る者は少ない方がいい。

 しかし、冒険者をやってく上で『無限収納(ポーター)』は必要不可欠だ。

 なのでアイテムである『収納バック』を使っている事にしてある。

 だけど、前述のとおり高価なものだけに、易々と使用しているのも問題が出て来そうで怖かった。

 だから早いうちに『自分で作った』という実績を残す必要があった。

 シェラが使っているのは、その様な理由で作られた一つだった。


 自作の収納バックが完成し、これで気兼ねなく使えると思った時に一つの問題が浮上する。

 収納バックに限らず、魔術具は付与術が必須であり、付与できるのはその術者の属性の系統だけとなる。

 つまり、収納バックを作るには空関係の魔法が使えなければいけないという事だ。

 逆に言えば、バックを作れる=空間魔法が使えるという事になる。

 

 これを解決したのが、俺も知らなかったアイテムの存在。

 これだけでも、この学園で学ぼうと思った甲斐があった。

 『次元石』と言うアイテムを、エレメンタル系やデーモン系の魔物が、極稀に落とすことがある。

 これを使って付与すると、収納バックが作れるのだ。


 「たまたま、次元石を持っていたからな。」

 「私も……欲しいのだ……。」

 「と言われてもなぁ。」

 実は、収納バックを作った時、あっという間に噂が広まって作成してほしいという要望が数多くあった。

 まぁ殆どの奴らが、私利私欲で言ってきてるので、無視するか、法外な値を吹っ掛けてやったら大人しくなったが。

 ただ、ミリアまでがそんな事を言うとは思っていなかった。 

 なんとなく裏切られたような気分になった為、俺は敢えて他の奴らと同じ対応をする。


 「作成に必要な材料がないんだよなぁ。買うとなると金貨10枚は必要になるし、1回で成功する保証もないからなぁ。普通に商品を買った方が安くつくと思うよ。」

 「……その材料って何なのだ?それを用意すれば作ってくれる?」

 ミリアは意外と諦めが悪かった。

 「あのな……。」

 俺が諦めさせようと口を開いたとき、エルが俺の袖を引っ張る。

 「エル、どうした?」

 「ミリアは、他の人達と違う。何か理由があると思うの。」

 エルの言葉を聞き、黙って俯くミリア。

 理由はあるけど、話したくない……ってところか。


 「分かった……とりあえずご飯を食べよう。……後ろで、出待ちのタイミング計っている奴もいるからな。」

 「なんでわかった?」

 物陰からアシュレイが現れる。

 「隠れるなら、気配も消せよ。」

 「消したつもりだったんだけどなぁ。」

 アシュレイがそう言う。

 「気配に気づいていた人。」

 俺がそう言うと、一斉にみんなの手が上がる。

 「……だそうだ。」

 アシュレイは言葉も無く項垂れるのだった。


 ◇


 「それで相談って何だ?」

 俺はエルの作ってくれた具沢山のスープを飲みながらアシュレイに訊ねる。

 「あぁ、実習の内容って、もう決めたか?」

 俺のスープを羨ましそうに見ながら、アシュレイがそう言ってくる。

 アシュレイの言う実習とは「パーティを組んでの行動」の事だ。

 行動は、実務にそっていればいい。

 素材の採集でもいいし、フリーターライセンスを持っているのならば依頼を受けてもいい。

 その結果内容によって点数が決まるのだが、難しい内容であれば高得点を狙えるが失敗しては元も子もないので、それらを見極めるのも課題の一つだったりする。

 

 「まだ決めてないが、いつもの様に何か依頼を受ければいいだろって思っている。」

 「そうか……。」

 俺の答えを聞いて、アシュレイは何やら考え込んでいたが、やがて意を決したように口を開く。


 「俺と組んで遺跡探索に行かないか?」


いきなり学園編です^^

でも、あっという間に学園編は終わります……終わるといいなぁ。


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