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転移……からのー、ダンジョン!……ってワンパターンは嫌いです。

 ……っつ……、ここは……?

 俺は頭を振って、意識をハッキリさせる。

 俺は罠に嵌められて……っと、リディアは?

 周りを見る……が、リディアはすぐそばにいた……俺の手をしっかりと握って放さないままで。


 「ふぅ、取りあえず引き離されることは無かったか。」

 俺はホッと胸をなでおろす。

 周りを見るとむき出しの岩肌にヒカリゴケが所々生息している。

 薄ら明るいのは、このヒカリゴケのおかげだろう。

 

 しばらくすると、リディアの身体が身じろぎする。

 「……ン……シンジさぁん……好きですよぉ……。」

 状況にそぐわない平和ボケしたリディアの寝言を聞いて、俺は微笑む。

 「俺も好きだぞ。」

 だから、リディアの耳元で囁いてやる。

 「んーっ」

 俺の首にリディアの腕が回され、唇が塞がれる。

 「んっ……、んー、ご馳走様。」

 リディアが口を離してそんな事を言う。

 「気づいてたのならさっさと起きろ。」

 「ん、気づいたら、好きだって囁いてたからぁ、襲っちゃいましたぁ。」

 「ったく、そんな場合じゃないっての。」

 俺は身を起こしながら周りを見回す。


 「ここは、どこですかぁ?」

 「たぶんどっかのダンジョンかな。転移の罠で飛ばされたみたいだ。」

 「またですかぁ、ワンパターンですねぇ。」

 「そう言うなよ、色々と事情があるんだろ?」

 リディアが辛辣な言葉を吐く。


 「取りあえずは攻略の準備をするか?」

 俺は魔力を流すと戦闘用の装備に変更する。

 横ではリディアも装備を変更……って、何で脱いでる?

 「シンジさぁん……大好きですぅ。」

 リディアがしなだれかかってくる。

 リディアが俺の唇を塞ぐ……手が身体を弄ってくる……。

 俺の趣味全開で作った衣装……じゃなくて装備を半脱ぎ状態の……計算されつくしたような乱れ方……正直破壊力抜群だ。

 こんなことしている場合ではないのに……、受け入れろと命ずる声が聞こえる。 

 

 「クッ……魅了か。」

 「あんっ……シンジさぁん……好きですぅ……アンっ、そこは、ダメですぅ……。」

 意識に反して反応する身体……俺が触れるたびに可愛い声で反応するリディア。

 このまま可愛がってやりたい気もするが……取りあえず後まわしだ。

 「こういうのは、後で二人っきりでな……『解呪(ディスペル)』」

 俺は解呪の魔法を掛けたうえで、リディアに口移しで異常回復薬を飲ませる。


 「ン……シンジさん……もぅ終わりですかぁ。」

 「あぁ、終わりだ、続きは後でな。」

 「えぇー、つまんないですぅ。」

 「魅了が解けたなら、サッサと装備を整えろよ。他の誰かにリディアの肌を見せてやる程心が広くないからな。」

 「シンジさんのその独占欲、大好きですよぉ。」

 戦闘用の装備に変更したリディアがすり寄ってくる。

 まだ魅了の効果が残っているのか?

 俺はリディアを見る。

 「どうしたのぉ?」

 いや、いつもこんな感じか。

 「何でもない。まずはこのフロアで隠れて覗いているクソ野郎を倒すぞ。」

 「ウン、覗き、ダメ、絶対!」

 

 さて、まずはあぶり出しだな……。

 俺は気配感知を最大限まで広げる。

 かすかに反応はあるが……余りにも微か過ぎてつかめない。

 仕方がないか……。

 「リディア、こっちへ……。」

 俺はリディアを抱き寄せて隠蔽を発動させる……。

 そのまま、気配感知をしつつ壁の端まで移動する。


 しばらく、そのままで様子を見る。

 時々気配を隠しながら、そっと少しずつ動く。

 微かであるが、相手も動いている気配がある……たぶん俺達の気配が消えたので探っているのだと思う。


 俺は最大限に気配を遮断しつつ、円を描くように移動する……もう少しだ。

 あと少し……もう1m移動すればトラップが完成するという所で、気配が変わる。

 「チッ……見つかったか……だけど、遅いっ!」

 俺は駆け出して最後のラインをつなぐ。


 『光縛陣!』

 床に描いた魔法陣が相手を縛る……これで敵の気配は隠せなくなる。

 「リディア!」

 「分かってるっ!……『風雷砲(エアロ・カノン)』!」

 リディの魔法が一見何もない空間へと放たれる。

 「グワァッ!」

 魔法が当たった場所を中心に影が広がる。

 「ようやく姿を現したか。」


 『死神の鎌(デスサイズ)』を手に俺は影に斬りかかる。

 ガシッ!

 影に受け止められる。

 「グルゥゥゥ……。」

 影が段々何かの形を作る……。

 「ぐるぅぅ……。」

 現れたのは俺と瓜二つの姿だった。 


 「チッ、趣味が悪いぜ。」

 俺は一旦距離を置く。

 「シンジさんはぁ、もっとかっこいいですぅ!」

 リディアの魔法が俺そっくりの影を貫く……容赦ないなぁ。

 「トドメ、さしてやるぜ!」

 俺は『死神の鎌(デスサイズ)』を振り下ろす……。

 『イヤっ!』

 鎌を振り下ろす寸前、リディアに化けた影を見て、一瞬躊躇ってしまった。

 「ッツ……!」

 影の繰り出した爪を避けきれずに、腹部を切り裂かれる。


 「シンジさんっ!……そんな顔で私のシンジさんを誘惑しないでっ!」

 リディアの風魔法が影を切り裂いていく。

 「……そんな顔って……リディアの顔だぜ。」

 腹の傷を治癒しながらそう言ってみる。


 「私はぁ、もっと可愛いですぅ!」

 リディアの魔法が唸り、影を中心に足場が崩れる。

 「そうだな。」

 俺は得物を『死の銃(デスシューター)』に変えると、瓦礫に埋もれ行く影に魔弾を撃ち込む。

 「グガァァァァーーー。」

 影は崩れ、瓦礫と共に埋もれていった。


 「ふぅ……何とか倒したか。」

 「シンジさん、大丈夫ですかぁ?」

 「あぁ、ちょっと油断した。」

 「あんなのに騙されないでくださいよぉ。」

 リディアが膨れている。

 「あぁ、ゴメンよ。しかし、最初の魅了攻撃は強力だったな。」

 リディアの装備にもかなり高い状態異常耐性がかけてあったはずだが、それを破るとなると、この先ちょっと対策をしていかないとマズいかも知れない。

 「魅了?……あ、あぁ、そうね……アブナカッタネェ……。」

 リディアの様子がおかしい。


 「ちょっと、リディア、俺の眼を見て話そうか?……魅了にかかってなかったのか?」

 「えっと、、かかってたよ、かかってたのはホント……ちょっとだけだけど……。」

 「……どういうことか説明してもらおうか?」

 「……怒らない?」

 「怒らないから、言ってみ?」

 「えっとね、魅了にかかってたのはホント、シンジさんがいつもより数百倍素敵に見えて……でも、すぐ魅了にかかってるなぁって気づいたんだけど……。」

 そこでリディアが押し黙る。

 「どうした?」

 「……本当に怒らない?」

 「あぁ、約束は守る男だ……たぶん。」

 「うぅ……今一つ信用できないよぉ。」

 「いいから、続きを話せって。」

 「うん……気づいたのはいいんだけど、何か問題あるのかなぁってかんがえちゃって。」

 「はぁ?」

 何を言ってるんだ?

 

 「だからね?このままシンジさんとイチャイチャするのに、何か問題あるのかなぁって……。」

 「問題ありまくりだろうがっ!大体、監視されている所なんかで出来るかよっ。」

 俺はリディアの頭を鷲掴みにする。

 「痛い、痛いって、頭が割れちゃうよぉ……。」

 「それに、俺はリディアたちの肌を他の奴等に見せる気はないっ!それが魔物であってもだっ!」

 俺がそう叫ぶと、リディアの顔が赤く染まる。

 「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどぉ……でもでも、昨日も結局マリアちゃんがいて何もできなかったし……。」

 何もって、あんだけ散々マリアちゃんを弄んでおいて……マリアちゃん、不憫な子。


 「分かった、分かった、戻って落ち着いたらたっぷり可愛がってやるから、今は我慢してくれ。」

 「マリアちゃんがいても、可愛がってくれる?」

 リディアが上目遣いに見あげてくる。

 「あぁ、もちろんだ。」

 「マリアちゃんと一緒に可愛がってくれる?」

 「あぁ……って、それはマズいだろ?」

 「なんで?どうして?」

 リディアが俺の手を握り、迫ってくる……これは、いつもの押し切られるパターンだ。

 「そりゃぁ、色々問題あるだろ?」

 「問題なんかないよ……やっぱり、ダメなの?」

 瞳をウルウルさせて来る……計算だとわかっていても、騙されてやれと悪魔が囁く。

 「……ま、まぁ、前向きに検討しよう。」

 それだけを言うのが精一杯だった。


 「それより……。」

 「ウン分かってる……無粋な奴にはお仕置きですぅ!」

 いつの間にか俺達を囲んでいる影……30体ぐらいだろうか……にリディアの魔法が唸る。

 『隕石群衝突(メテオ・ストライク)!』

 「わっ、バカっ!」

 こんな狭い所で何て大技を放つんだ……っ、間に合うかっ!

 『遮断結界(プリズン)!』

 空間を遮断する結界が俺達を囲うと同時に、部屋の中に隕石群が降り注ぐ。

 この隕石……どこから来たのだろうか?

 どうやら空間を飛び越えて来たみたいだけど……不思議な魔法だよ。


 隕石群によって壁や床など全てが崩壊し、結界に守られている俺達の周り以外のすべてが瓦礫に埋もれてしまった。

 「リディア、やり過ぎだろ。」

 「ゴメンなさいぃ、ついイラっとして……。」

 反省しているのか、ちょっと落ち込む様子を見せるリディア……まぁ、落ち込ませたいわけじゃないし……。

 「いいさ、とりあえず穴掘りだな。リディアも手伝ってくれ。」

 俺はリディアの頭を撫でて、頬に軽くキスをする……それだけで、リディアの顔に満面の笑顔が戻る。  

 「ウン、任せてっ!」


そして、俺とリディアは『落とし穴(ピットフォール)』を利用して、出口に向けて穴掘り作業することにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「ちょ、ちょっと、マリアちゃん落ち着いて!」

 『でもでも……。』

 「いいから落ち着いてっ!大きく息を吸いなさい!」

 通信機越しに大きく息を吸っているのがわかる。

 「そうしたらゆっくりと息を吐いて……どう、落ち着いた?」

 『……はい、申し訳ございません。』

 「じゃぁ、何があったのか説明してくれる?……っとその前にちょっと待ってね。」

 私は通信の魔術具の音声を皆に聞こえる様にするための魔術具を起動させる。

 さっきから、リオナやレムちゃんが心配そうにこっちを見ているから、説明の手間を省くための措置だ。


 「お待たせ、それでどうしたの?」

 『はい、実は今朝ほどシンジ様とリディア様がヘムゲル子爵の館を訪ねたのですが、お昼を過ぎても何の連絡もなく、心配になって様子を見に行ったら……屋敷が半壊していまして……。』

 「半壊って……シンジたちがやったの?」

 私はリオナ達と目を合わせる……シンジならやりかねないけど……。

 一応、此方からもシンジへ連絡をしてみるけど……繋がらない……何かあったみたいね。

 『いえ、それがわからないのです。シンジ様達と連絡は取れず、屋敷の使用人に訊ねても「今日は来客は無かった。」との一点張りで……。私どうしたら……。』

 突然の出来事でマリアちゃんもパニックに陥っているみたい……でも、まぁこう言う事に慣れていないから仕方がないわね。

 私はマリアちゃんに慰めの言葉を掛けようとすると、横からリオナが「少し失礼します」と言って割り込んできた。


 「マリア!しっかりしなさいっ!それでもシンジ様の愛人候補ですかっ!」

 『でも……。』

 リオナの激しい叱責にマリアちゃんが怯えてるのがわかる。

 「でもじゃありません!愛人心得2条の1項をを復唱しなさい!」

 『……愛人心得、にのいち……』

 「声が小さいです!」

 『シンジ様の愛人心得2の1項、私達シンジ様の愛人は影となり日向となり、シンジ様とその奥方様を支えます。その為には何があろうとも動じない心を持つべし!』

 「よくできました。……分かってるじゃありませんか?」

 『はい、大変失礼いたしました。』

 マリアちゃんの声に元気が戻る。

 そんなマリアちゃんに、リオナが笑顔で優しい声をマリアちゃんにかけているけど……『愛人心得』って何なのよぉ。

 ……今度、アイリス達とゆっくり話し合う必要があるかも?

 「エル様、差し出がましい真似をして申し訳ありませんでした……ご指示をお願いします。」

 「あ、うん……ちょっと待ってね。」

 私は気を取り直してマリアちゃんに指示を出す為に情報をまとめる。

 モニターには現場についた魔術具(アルケニちゃん)が見た映像が映し出されていて、マリアちゃんが言う様に屋敷が半壊していた。

 この壊れ方は、何かが空から降ってきたものに壊された感じだね……とするとリディアのメテオ系の魔法が一番可能性が高そうね。


 「マリアちゃん、聞こえる?」

 『はい聞こえます。』

 「屋敷の崩壊にリディアが関わっている可能性は大きそうだわ。あなたは関係者だと悟られないように、無理をしない範囲で情報を集めてね。いーい?絶対無理しちゃだめだからね。もしあなたに何かあったら、その領地跡形もなくなるからね。」

 『分かりました、情報収集を続けます……でもエル様、跡形もなくなる……って言うのは大袈裟じゃ?』

 「……そう思いたいのはわかるけどね、ある国で、大臣が私に暴言を吐いたことがあってね、その直後、その王宮は半壊したわ。」

 『まさか……冗談ですよね?私が子供だからって揶揄ってるんですよね?』

 「冗談だったらいいんだけどね……疑うならリディアに聞いてみなさい。半壊したのは、あの子の住んでいた王宮だから。……あの後、シンジに文句を言いながら涙目になって王宮を直してたわ。」

 『あはっ、あはは……冗談……じゃない……のですね。』

 通信機の向こうの声が引きつって聞こえる……ホント、笑い話にもならないわよ。


 「だからね、国ごと孤児院を灰にしたくなかったら、あなた自身の安全を第一に考えるのよ。」

 『はい、わかりました。誠心誠意、身の安全に努めます。』

 「そうして頂戴。後、繋がらなくても定期的にシンジたちと連絡を取るようにして、連絡が繋がったら、すぐにこっちへ報告をお願いね。」

 『分かりました。』

 その言葉を最後に、マリアちゃんとの通信が切れる。


 「はぁ、シンジは今度はどんなトラブルに巻き込まれているのかしらね。」

 「まぁ、シンジ様ですからね。」

 リオナが苦笑する。

 「取りあえずクラリス領に兵を回す準備だけはしておきますね。」

 「そうね、クラリス領で必要なくても、近いうちにマスティル領と一戦交えることになりそうだから、無駄にはならないわ。後、カストール領へ、いつでも兵が出せる様にと通達をお願い。アスティア領から義勇兵を募る事も忘れないでね。」

 「はい、委細承知いたしました。」

 リオナが離れると、私はさっきまでの作業に戻る。

 物資に偏りが出始めているから、調整をしないといけない。

 タイミングよくアスティア領で不足している物資が余っているから、何とかなりそうだけど……実に面倒だ。


 「もぅ、バカシンジ、遊んでないで早く帰って来なさいよねっ!」

 私が机に八つ当たりするのを見て、そそくさと部屋を出ていくレオンちゃんの姿が視界の端に入った。


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