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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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116/144

男のロマンは……理解されないようです。

 「……てくだ……、起き……、シン...... 。……いと悪戯………よ。」

 体が揺さぶられる……眠いんだよ……。

 「……てっ……ば……もぅ……ちゅっ。」

 何か柔らかい物が触れた気がした……その感触で意識が覚醒する。

 「おはようございます、シンジさん、お目覚めですか?」

 「ン……エレナか……おはよう。」

 「昨晩はちょっと大変でしたね。」

 そんな事を言いながら顔を赤らめる。

 「まぁ、久しぶりだったしな。」


 およそ1ヶ月ばかり放置していたせいで、エル達の燥ぎっぷりや甘えたは、天元突破していて、その相手をするのが大変だったのだ。

 更に、その魔の手はエレナにまで及び……まぁ、その、色々あったのだよ。


 「でも、皆さんいい人たちばかりで安心しました。」

 にっこりと笑いながら「皆さん待ってますよ」と言って部屋を出ていくエレナ。

 まぁ、エレナも笑顔だし、皆も楽しんでいたし、これでいいか。

 俺はそう思い、身支度を整えて、皆の待つリビングへと向かう。


 ……全然よくなかった。

 リビングで待っていたのは、笑顔だけど迫力のある三人と、どこかいたたまれない表情のエレナだった。

 「あー、皆、どうしたのかな?」

 取りあえずそんな事を聞いてみる。

 「えっとぉ、昨日の説明で幾つか分からないことがあったんですよぉ。」

 最初に口火を切ったのはリディアだった。

 「そうですね。他にもいろいろと謎な事が残っていますし。」 

 アイリスがそれに追従してくる。

 「シンジ、この際隠し事は無しにしようね?」

 

 三人は昨日の説明だけでは満足してくれなかったようだ。

 これは洗いざらい喋らないと収拾がつかない奴だ……。


 「私が聞きたいのは、日程のズレ(・・)についてね。……まぁ、色々あって日程が狂っちゃったのは悪かったと思うけど、何で、シンジがいたのよ?予定では1日後の筈でしょ?こっちは1日早まった事で計画が狂うんじゃないかって気が気じゃなかったんだからね。」

 「その事だが、俺も聞きたい。なぜ日程が早まったんだ?」

 「そ、それは、その……。」

 逆に俺が問い返すとエルが口籠る。

 更に問い詰めると、リディアが暴走して勝手に手順を変えたらしいが、そうなるんじゃないかと不安に思ったエルも勝手に予定を変えて、結果として双方がうまく合わさって日程の短縮につながったらしい。

 その調整の為にアイリスは食事をする魔も、寝る暇もなかったとか……。


 「だから、それは悪かったって言ってるじゃない。」

 エルがキレ気味に叫ぶ。

 「でもシンジ様の様子だと、元々反乱がおきる1日前に行動を起こす予定だったみたいですがなぜですか?」

 アイリスが冷静な声で聴いてくるが……少し怒ってらっしゃる。

 まぁ、不確定要素の所為で調整が大変だったんだろうけど……。

 「まぁ……その……なんだ、取りあえず領主の件は、エレナが直接関わってケリを付けるのが筋だと思ったのと……。」

 「「「のと?」」」

 「ほら、反乱軍が必死になって飛び込んできた時に、「私が悪かったです」という張り紙をされた領主が転がってるのって、ロマンじゃね?」

 「「「「……。」」」」

 俺の言葉にエレナを含んだ4人が絶句する。


 「し、シンジ様はたったそれだけ(・・・・)の為に1日ズレた計画をされたのですか?」

 アイリスのこめかみに青筋が浮かんでいる。

 「男のロマンは……。」

 「何ですかっ?」

 「いえ、何でもありません……。」

 うぅ……アイリスが怖いよ。

 

 「……はぁ、まぁ、それはもういいです。」

 「じゃぁ、次私ですぅ!」

 リディアが手を上げる。

 「はい、リディアさんどうぞ。」

 アイリスが疲れた様に答える。

 「えっとぉ、そもそも、何でエレナちゃんは追われてたんですかぁ?そしてそのモフモフは?……と言うより触らせてほしぃですぅ。」

 リディアの眼がラビちゃんに釘付けになる。

 ラビちゃんは怯えてエレナの影に隠れる。


 「あれ?そう言えば話してなかったか?」

 「「「うん。」」」

 「えーっと、彼女は……『魔獣使い《モンスターテイマー》』だ。」

 俺の言葉に、三人は成程……と頷く。

 「なら、ホーンラビットがいるのは納得ね。」

 「って事は、その子モフモフしても大丈夫って事ですねぇ。」

 「他の子も呼べるのかしら?」

 「えっと、そんな反応っ??」

 三人の反応に驚いたのか、エレナがどうしていいか分からないという感じで硬直していた。

 「えっと、魔獣使いですよ?モンスターが近くにいるんですよ?」

 「「「それが?」」」

 エレナの言葉に三人の声がハモる。

 「それが……って気味が悪くないんですか?モンスターを操るんですよ?」

 「別に?」

 何を言ってるのかな?っとエルが言う。

 「それより、もっとモフモフちゃんを呼んでほしぃですぅ。」

 ラビちゃんを捕らえて、モフモフしているリディア。

 「今更ですわね。」

 呆れた様子のアイリス。 


 「えっ、えっ??」

 パニックを起こしたエレナが俺を見る。

 「ま、そういう事だ。」

 俺はエレナの頭をポンポンと叩く。

 エレナはどういう反応をしていいか分からず、結局俯いてしまった。


 「まぁ、そういう事で、あの領主はエレナの力を使って魔獣軍団を帝国に仕向けようとしていたんだよ。」

 「なにそれ?」

 「サイテーですぅ。」

 「まぁ、小悪党が考えそうなことですね。」

 その後も三人はブツブツと領主への悪口を漏らしていた……。

 エレナはどう反応していいか分からず、茫然としていた。


 「それで私からですが……。」

 ひとしきり文句を言ってすっきりしたのか、アイリスが俺に質問を続ける。

 「……なぜ私達の通信が出来なかったのでしょうか?シンジ様からは繋がる(・・・・・・・・・・)のに?」

 「そ、それは……。」

 アイリスの質問に、他の二人も俺を睨んでくる。

 「えーっと……機械の不具合とか、そういう仕様だった……って言うのは……ダメですね、ハイ……。」


 結局三人に詰め寄られた俺は、単に一人旅を邪魔されたくないと理由で、俺からの通信以外は距離に制限をかけていたことをしゃべらされた。

 当日、いきなり通信が繋がるようになったのは、万が一に備えて連絡を密にできるように制限を解いたからなのだが、それがアイリスに疑惑を抱かせる原因になったらしい。



 「……これでとりあえず終わりですが……皆さま判定は?」

 え?判定?……何の事?

 「ギルティ!」

 「ギルティですぅ。」

 「私も当然ギルティですわ。それで……。」

 三人がエレナを見る。

 「え、えっと私?」 

 三人がコクリと頷く。

 「えーっと、よくわからないけど……ギルティ?」

 ……いや、よくわからない状態で有罪判決しないで。


 その後、なぜか俺をハブにして4人で話し合いをすることになったらしい。

 一人……いや、ラビちゃんと二人で取り残された俺達は、やる事が無いのでラビちゃんをモフる事で時間を潰すことにした。

 ……ん?

 ラビちゃんを撫でていたら違和感に気づく……角の感じが以前と違う?

 よく見れば身体の大きさとか、細かい特徴が以前のラビちゃんと変わっていた……毛並みの良さは相変わらずだったが。

 「……ひょっとして『ライトニング・ホーン』に進化したのか?」

 ライトニングホーンはホーンラビットの進化後の魔獣だ。

 更に成長すれば、魔法を使いこなす『マジカルホーン』か、身体全体が大きくなり、物理攻撃に特化した『ビックホーン』に進化することができる。


 「しかし、何で……?」

 一度森に離したときは、確かにホーンラビットだったはず。

 「アーティファクトの影響?それともエレナの能力(チカラ)か……?」

 いくら考えても分らなかったので、取りあえず考える事を放棄した時、エル達4人が戻ってきた。


 「判決を言い渡すわ。」 

 何故かエルが指を突き付けてくる。

 「シンジは有罪!よって、今後の一人旅は認めない。私達の内誰か一人以上と一緒に行動する事!」

 「なのですぅ!」

 「そう言う事になりましたわ。」

 「あはっ……はぁ……。」

 詰め寄ってくる三人と、どうしていいか分からないエレナの対照的な姿が印象的だった。

 

 ◇


 「それで、この後の予定はどうしますか?もし決まっていなければ……。」

 アイリスが何か言いたそうにしている。

 「ん?アイリス、何かあるのか?」

 「いえ、何か、と言うわけではないのですが……クリス様が……。」

 クリスは確かクラリス領に行っていたはずだが……。

 「クリスに何かあったのか?」

 「……分かりません。聴取相手の交渉に手こずっていましたが……今朝から連絡が取れないのです。」

 「連絡を取れないって……大変じゃないかっ。」

 「命には別状がないのは分かっていますが……単に魔術具が壊れたのか落としたのか、もしくは取り上げられているのか、またまた魔術の通さない所に入り込んでいるのかが分からないのです。」


 アイリスの話によれば、朝の定時連絡が入らなかったのだが、何か理由があって遅れているだけだと思っていたらしい。

 実際、今までも似たようなことがあったとのこと。

 しかし、先程の定時連絡もなかったことから、何か事件に巻き込まれているのではないかと不安になったという。


 「じゃぁ、今度はクラリス領方面への旅にするか。」

 「でも、それでは……。」

 「アッと、勘違いするなよ。クラリス領はクリスに任せてあるから、俺はのんびりと旅を楽しむことができる。今回たまたま行き先がクラリス領を通るというだけだからな。」

 「そうですね。」

 俺の言葉に、アイリスがクスリと笑う。

 「では、誰を連れていきますか?」

 アイリスがニヤニヤしながら聞いてくる。

 エルは何も言わずにこっちを見ているし、リディアは「私、私!」とアピールをしている。

 そしてエレナは、どうしていいか分からずモジモジしながらも、チラッ、チラッとこっちを見ている。


 「えっと、向こうにはクリスもいる事だし……それじゃぁダメかな?」

 「「「「ダメッ!」」」」

 四人の声がユニゾンで響く。

 「それに、クラリス領は通るだけ(・・・・)じゃありませんでしたか?」

 ウッ……さっきの俺の照れ隠しを逆手に取るとは……。

 最近アイリスの成長が著しい。

 一番年下の筈なのに、一番頼りになるというのは、ちょっと色々考えた方がいいかもしれない。


 「はぁ……仕方がないな……リオナ、ちょっと資料を回してくれ。」

 俺は近くで控えていたリオナに、帝国の状況を記した書類を持ってこさせる。

 国内内政状況は予定通りと……。

 問題があるとすれば、帝都建立の為、サウシュの街近辺が少し復興が遅れ気味ってところか。

 外交面に関しては、北方方面は現状維持、南方方面は情報収集及び解析中……進度37%ってところか……ちょっと遅れているか。

 カストール領問題なし、アスティア領への補助を手配中、アスティア領は攻略済み、現在立て直し中……これは問題ないな。

 マスティル、ミランダ、両領は大きな変化なし。

 軍備の増強を続けているのでそのまま警戒態勢を維持……クラリス領の問題が片付いたらちょっと突っついてみるか。


 そして問題のクラリス領と言えば……攻略状況不明、1ヶ月の遅れ在り……と。

 つまり、俺が旅に出る前からずっと進展なしって事だな。

 「うーん、どうするかなぁ……。」

 俺はアイリスに、細かい状況を補足してもらいながら考える。

 第一に優先しなければならないのはサウシュの街の状況っぽい。

 帝都の建立に難民問題、市民たちの感情のコントロールなど、複雑な状況が絡み合っている。

 他には、全体の調整だな。

 安定してきたとはいえ、旧グランベルクや旧アシュラムとの様々な問題の調整や、外部に出た俺達のフォローなどやる事がいっぱいだ。


 「……決めた。リディアを連れていくよ。」

 「一応理由を聞いてもいいですか?」

 やったー、と飛びついてくるリディアを適当にあしらいながら、俺はアイリスに応える。

 「ま、消去法だな。サウシュの街に関してはアイリスにお願いしたい。アイリスはサウシュでは人気があるからな、他の誰より、スムーズに事が運ぶだろう。そして、エレナを連れて行ってやってくれ。」

 「エレナさんを……ですか?」

 「あぁ、王宮建設予定地付近には魔獣の森があるだろ?エレナが行けば、うまくやってくれると思うんだよ。レオンを派遣してもいいが、それだと力で押さえつけるだけになるからなぁ。」

 「私が何か役に立てるのですか?」

 「エレナにお願いしたいのは、その魔獣の森たちと共存関係が結べるかを調べて欲しいんだ。」

 一口に魔獣と言っても、人間にとって脅威であったり、悪意を持っていたりするものばかりではない。

 ホーンラビットの様に、大人しい性質のものや、ハニービーの様な益を与えてくれる。

 生態系を壊さない範囲で、人間にとって益のある魔獣を守り、敵対する魔獣を排除することが出来れば、魔獣の森は恵みの森と変わるに違いない。

 エレナの様に魔獣と心を交わせる者が居れば、その計画も順調に進むだろう。

 そして、魔獣を使役して戦わせるのではなく、魔獣と共に暮らしていける環境はエレナが願っていた事でもある。

 俺の話を聞いたエレナは、感動のあまり泣き出してしまったので、アイリスに対応を任せた。


 「それでだ、ここでの指揮を執るものだが……。」

 「ハイハイ、私しかいないわね。」

 エルが諦めたように言ってくる。

 通常の執務だけならともかく、アスティア領を併合した今の状態で各国との調整や俺達のバックアップなどを含めるとリオナやレムだけでは荷が重い。

 俺か、俺の次に権限を持つ婚約者の誰かがいないと問題だけが山積みになっていくのが目に浮かぶ。

 なので、俺がいないとなると誰かに任せるしかないわけで、今まではアイリスがやってくれていたが、今回アイリスには南へ出向いてもらう。

 そして、アイリス以外の適任者として優秀なのがクリスだが、クリスも今はいない……となるとエルかリディアという事になり、それはエルに任せるという事と同義となる。


リディアが悪いというわけでは決してない、ないのだが……。

リディアに任せると、彼女の性格故か、なぜか変わった事をしたがり、結果としてトラブルも一緒について来て、それらの後始末に周りの者が翻弄されるのだ。

 それでも、最終的には予定以上の成果を上げるというのだから、帝国の七不思議のひとつとされている。

 結果が良ければ、その過程は別にいいと思うのだが、周りの者達から、どうしようもない事態にならない限り、リディアだけに任せるのはやめて欲しいと懇願されている。

 リディアに任せるくらいならできる限り自分たちで、と側近たちの執務能力が上がったのはある意味、リディアのおかげかもしれない。


 ちなみにエルは何も任せてもそつなくこなしてくれるオールラウンダーなので、こういう時重宝する……本人に言わせれば大変遺憾らしいが。

 「……って事で、リディアを連れて行く。」

 俺の説明に、アイリスは深く頷く。

 「そういう理由なら納得ですわ……でも、それだと何かあるたびにリディアさんになるような……。」

 「まぁ、そのあたりは追々考えよう。って事で早速クラリス領へ向かうぞ。」

 「なんか、ディスられた気がするのですが、一緒に行けるので良しとしますぅ。」

 俺達の旅は、基本的に『無限収納(ポーター)』に必要なものが入っている為、かなり身軽だ。

 特に今回は、クリスからの定時連絡が2回も途絶えている事から急いだほうがいいと判断する。


 「じゃぁ、クラリス領の観光に出発なのですよぉ。」

 リディアの言葉に不安そうな顔をするアイリス。

 「アイリス、そんな顔しなくても大丈夫ですよぉ。ついでにクリスを助けてあげますからぁ。」


 間違ってはいないのだが、不安そうな表情を隠せないエルとアイリスだった……。


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