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ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー? ~  作者: Red/春日玲音


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これが修羅場か……。

 「さてと、後始末だけだな。」

 俺は、領主を縄を使って縛り上げる……これでバインドが解けても動けないだろう。

 そして『私が諸悪の根源です』と書いた張り紙を動けずにいる領主に張り付ける。 

 「こうしておけば、後は反乱軍の方々が何とかしてくれるだろう。」

 「反乱軍って?」

 エレナが聞いてくる。

 「エレナには言ってなかったか?明日にでも決起した反乱軍が領主を捕らえに来ることになっているんだよ。」

 俺が言うと「聞いてないよっ!」と叫ぶエレナ。


 「なぁ、シンジさんよ。」

 「ん?どうした?」

 ディアボロが声をかけてくる。

 彼は、領主を拘束した時点で、「依頼は終了した」と言って降参したのでレオンが離してやっていた。

 ちなみにレオンの傍ではラビちゃんが、恐る恐ると言う感じで付かず離れずを繰り返している。

 

 「反乱軍?ってアレの事か?」

 ディアボロが指さす方を見ると、開け放たれた扉の向こうから、こっちを目指してやってくる一団がいた。

 「早いっ、早いよっ……くそっ、明日って話だろ。」

 俺はエレナを連れて逃げようとしたが、時すでに遅し……数十人の反乱軍に囲まれることとなった。


 「お前らは領主の手の者だなっ!義により成敗する!」

 「っと、話を聞けよ。」

 ダメだ、聞いちゃいねぇ……。

 襲い掛かってくる反乱軍を受け流して倒すが、数が多くてキリがない。

 かと言って殺すわけにもいかないし……。


 『グォォォォォン……』

 その時一際大きくレオンの咆哮が唸る。

 立ちすくむ反乱兵達。

 「いい加減にしろっ!」

 俺はその隙をついて一喝し、『死の銃(デスシューター)』から魔弾を天井に向けてぶっ放す。

 

 レオンの咆哮と魔弾の爆発音で、その場にいた者たちの動きが止まる。

 「お前ら反乱兵だろ!領主はそこにいる。捕らえに来たんじゃないのか!」

 「お言葉ですが、我々は反乱兵ではなく革命軍です!」

 「そんなこたぁ、どうでもいいんだよ。帝国からの連絡役は誰だ?エルか?リディアか?」

 俺の剣幕に一様に押し黙る反乱……革命軍の面々。

 

 「リディア様をご存じと言う事は協力者の方でしょうか?」

 リーダーらしき男が、恐る恐ると訊ねてくる。

 「リディアか……。」

 俺は男の言葉を無視して通信の魔術具に魔力を流す。

 その間に革命軍の何人かが動けない領主を運び出していく。


 『はいはーい、あなたのリディアちゃんですぅ……シンジさん連絡もくれないなんてひどいですぅ。』

 能天気な声が通信の魔術具から漏れだすのを聞いて、革命軍の面々が青ざめる。

 ようやく自分たちの間違いに気づいたらしい。

 「いいからっ!今すぐ領主館に来いっ!」

 俺はそれだけを言って通信を切る。


 ◇

  

 「シンジさぁーん、会いたかったですよぉー。」

 ボスッという感じでリディアが飛び込んでくる。

 「あぁ、悪かったな。」

 俺はリディアを受け止め頭を撫でてやる。

 

 「そんな事は……い、いっ、痛いですぅ。」

 俺はリディアの頭をひとしきり撫でた後、グッと鷲掴みにする。

 「は、放して、放してくださいぃ……マジに痛いのですよぉ。」

 締め付けられて涙目で訴えてくるリディア。


 「Xデーは明日じゃなかったのか?そう指示を出したよな?」

 「えっとぉ……ちょっと盛り上がっちゃってぇ……ゴメンナサイっ。」

 ばっと後退って俺から距離を取り、頭を下げるリディア。

 

 「あのぉ、リディア様、こちらの方は……。」

 ひたすら頭を下げるリディアに声をかける革命軍の代表。

 「あれっ?まだ紹介されてないのですか?この方がシンジさんですよぉ。」  

 リディアの言葉にひきつる代表の男……後ろに控えている革命軍の面々も蒼褪めている。

 「シンジ様と言うと、もしや……。」

 間違いであってくれと、祈るような気持ちでリディアに訊ねる代表の男。

 「そうですよ。帝国の代表のシンジさんですぅ。」

 男の祈りもむなしく砕け散る、無情な言葉がリディアの口から紡がれる。


 「も、申し訳ございませんでしたぁっ!」

 革命軍の面々が一斉に土下座する。

 「あれっ?みんなどうしたの?」

 リディアだけが現状を理解していなかった。


 ◇ 

 

 俺が帝国の王だという事がバレてパニックを起こしたのは革命軍だけではなかった。

 エレナは遠い目をしていて、ディアボロはひたすら頭を下げている。

 このままじゃ話にならないという事で、いったん場所を変えて、落ち着いて話そうという事になったのだが……。


 「あのぉ、申し訳ございませんが、皆に一言いただけないでしょうか?このままでは収拾がつかなくて……。」

 ようやくパニックから立ち直ったリーダーの男がそう声をかけてくる。

 なんでも、出陣前にリディアが思いっきりやらかしたらしく、身命を賭してまで挑んだものが多いため、すでに終わったという事を受け入れられない者も多く、混乱を起こしているのだという。

 要は、そんなに簡単に終わるわけがない、罠ではないかと疑っているものが多いとのことだった。


 俺はリディアを見る。

 「イヤですよぉ。私はさっきやったばかりだし、責任はシンジさんがとるって言ってたじゃないですかぁ。」

 リディアは思いっきり首を振っている……何をやらかしたのだろうか?

 後でアイリスに見せてもらおう。


 「はぁ……仕方がないな。皆を庭に集めろ5分後にテラスから声をかける。」

 俺が指示すると革命軍の面々は一斉に飛び出していった。

 「じゃぁ、私はお茶の準備をしておくね。」

 逃げ出そうとするリディアを捕まえる。

 「お前も一緒に来い。」

 俺は館のメイドに茶会をする場を整える様に指示を出す。

 ここの使用人たちも、主が変わった事をしっかり理解しているようで、混乱を起こすこともなく、キビキビと働いてくれている。

 領主はアレだったが、使用人は中々優秀だ。


 「悪いな、もう少しだけ付き合ってくれ。」

 まだ呆然としているエレナに声をかけ、リディアも引き連れてテラスへと移動する。

 ディアボロは、革命軍の面々と一緒にすでに飛び出していった後だ。

 庭園には大勢の人が集まっていた。


 はぁ、仕方がないか……こういうのは苦手なんだけどな。

 「諸君!集まっていただき感謝する。」

 俺は大きく息を吸い込み、まずはそれだけを言う。

 がやがやとしていた場が、一瞬で静寂に包まれる。

 ……こんなの予定になかったからな、何を言えばいいんだ?


 「私が、ノイエ=ミーアラント帝国の皇帝シンジだ!」

 うぅ、自分で『皇帝』って言うの恥ずかしいなぁ……って言うか、まんま痛い人みたいだよ。

 まぁ、ここまで来たら、後はなるようにしかならないか。

 「諸君らの勇気ある行動により、元凶であった元領主は倒された。本日より、このアスティア領は帝国の傘下となる。だが安心してほしい。私は君達を支配するつもりはない。君達は今まで通りの生活をしてくれればそれでいい。それが帝国の力となるのだ。

 勿論、全てが同じと言うわけにはいかないこともあるだろうが、今日、君たちが見せてくれた勇気、行動、決断力は、きっと困難を乗り越えるための力を与えてくれるだろうと信じている。

 本日はまだ混乱の最中にあるが、この素晴らしき日を祝いたいと思う。

 大いに騒いでいただいて結構だ。

 店を経営する者は、申し訳ないが協力をお願いしたい。かかった経費に関しては帝国が持つので遠慮なく騒いでほしい。そして今日の喜びを明日への糧として頑張ってもらいたいと思う。

 最後に、皆の勇気に最大の感謝を!」


 俺がそう言葉を締めくくると、何処からともなく『帝国に栄光あれ(ジーク・ライヒ)!!』、『我らがシンジ様万歳ハイル・マイン・シンジ!!』等のコールが沸き上がる。

 こ、これは……。

 ふと横を見るとリディアが手を振り上げて『帝国に栄光あれ(ジーク・ライヒ)!!』と叫んでいる……犯人はこいつか。

 俺はリディアの首根っこを掴んで、館の中へと引きずり込む。


 「アハハ……ついノリでやっちゃったんですぅ。後悔も反省もしてないですぅ。」

 「反省しなさいっ!」

 俺が何かを言う前にリディアの頭が叩かれる。

 「エル?」

 「シンジ、かっこよかったわよ。……まぁ、最初にこの子が盛大に煽ってたからもっと派手でもよかったかもしれないけどね。」

 エルがそんな事を言ってくる。

 「それより、転移陣をお願い、アイリスがこっちに来れないから。」

 「あ、あぁ。」

 俺は言われるままに転移陣を用意すると、しばらくしてアイリスが姿を現す。


 「シンジ様ぁ……もぅ、もぅ……大変だったんですよぉ。」

 俺の胸に飛び込んできて泣きじゃくるアイリス。

 俺のいない間、エルとリディアの暴走をずっと抑えていたらしい。

 それを聞いた二人は「暴走なんかしていない」とふくれっ面をしていたが。


 「取りあえず、お茶にしようか?」

 メイドが準備が出来たと言ってきたので皆を誘う。

 「そうね、色々聞きたいこともあるし。」

 三人の視線が一斉ににエレナに向かう。

 俺はなぜか冷や汗が出るのを感じた……何もやましい事して無い筈なのに……。

 「えっと……どうしましょう……?」

 三人の視線に晒されたエレナは心を落ち着けるかのようにラビちゃんの背中を撫でていた。

  

 ◇


 「……と言うわけなんだよ。」

 俺はエレナとの出会いから、エレナの事情等を含めて一連の事を話す。

 エレナに対して、俺の立場や三人の事、何故こうなっているかなどの裏事情を含めて説明しながらだったので、少し長くなってしまった。


 「ふーん、『一生守る』ねぇ?」

 「『俺についてこい』ですかぁ?」

 「プロポーズですねぇ?」

 三人の眼が冷たい……エレナは顔を真っ赤にしている。

 「そ、そんなつもりじゃなくて……エレナも何か言って……。」

 俺の言葉にエレナがショックを受けている。

 「シンジは黙ってなさいっ!」

 エルに一喝されて俺は黙るしかなかった。

 

 「あ、あの、ゴメンナサイ。私、皆さんがいるなんて知らなくて……。ずっと一人で頑張って生きてきたので、助けてもらった上に「一生守ってやる』って言われて……。」

 エレナの声がだんだん小さくなる。

 「堕ちちゃったんだ?」

 「堕ちたんですね?」

 「堕とされちゃった?」

 「……はい、ゴメンナサイ……。でも、奪うとかそんなつもりは全然なくて……シンジさん独り身だと思っていたから……。」

 

 「んー、ちょっと向こうでお話ししよう?」

 「そうですわね、向こうに行きましょう。」

 「えっと、あれ、あれっ?」

 「シンジさんはここで待ってるのですよぉ。」

 エルとアイリスに両脇を抱えられ連れていかれるエレナ。

 

 「えっと、……。」

 突然の出来事に思考がついて行かない……。

 「お茶入れ直しますね。」

 「あ、はい、お願いします。」

 横から新しいお茶を入れてくれるメイドさんに頭を下げる。

 「きゅぃぃぃ……。」

 エレナの連れ去られた方を心配そうに見つめるラビちゃん。

 「お互い、待つしかないみたいだな。」

 俺はラビちゃんを膝の上に移動させ、その毛並みのモフモフさを楽しむことにした。


 ◇


 「まず、シンジに言っとくね、むやみやたらとプロポーズしないこと!」

 「プロポーズなんて……。」

 「一生守ってやるって言って指輪渡したんでしょ!どう見てもプロポーズよっ!」

 「そ、それは……。」

 冷静になって考えれば言われた通りだった。


 「以前にもぉ、女の子に指輪をホイホイ渡さないでって言いましたよねぇ?」

 リディアが責め立ててくるのは、さっきの意趣返しに違いない……が、その通りなので何も言い返せない。

 「女の子はデリケートなんですよ。言葉一つに気を使ってくださいね。」

 アイリスも少し怒っているらしい。


 「それで今回のエレナさんについては嫁として認めることになったから。」

 「ちょっと待てっ、なんでそうなる?」

 「イヤなんですかぁ?」

 「イヤとかそういうのじゃなくて……。」

 エレナを見ると瞳に不安の色が広がっている。

 「まぁ、エレナさんにその気がないのであれば謝罪して終わりだったんですけど、どうやらエレナさんはその気だったみたいですし……。」

 「シンジ、自分の言葉には責任取りなさいよ。」

 「いや、その……エレナはそれでいいのか?」

 俺はエレナに聞いてみる。

 「その……私は……シンジさんが守ってくれるって言ってくれた時、凄く嬉しくって……それで……幸いにもエルさん達もいいって言ってくれましたし、迷惑でなければ、その……お嫁さんにしてください。」

 エレナは俯きながら、小さな声ではあるがはっきりと伝えてくる。


 だから俺も覚悟を決める。

 「あー、誤解するような言い方して悪かったな。でも、エレナの事気にはなるし、その……イヤじゃなければ嫁に来て欲しい。」

 「はい、よろこんで。」

 エレナの顔が、ぱぁっと明るい笑顔に変わる。

 今回の事は、この笑顔が見たくて頑張ったようなものだからな。 

 これで報われたような気がした。


 「取りあえず、お城に帰りましょうか?皆にも紹介しないといけませんし、エレナさんの歓迎をしなければなりませんからね。」

 「エルさん、リディアさん、アイリスさん、ありがとうございます。」

 エレナが改めて三人に頭を下げる。

 

 「いいのよ。私達も仲間が増えて嬉しいわ。これから仲良くやっていきましょうね。」

 エルが代表してエレナに告げる。

 エレナが嬉しそうに「はい」って答えていた。


 まぁ、色々あったけど、とりあえずハッピーエンドって事でいいよな?

 俺は近くにいたラビちゃんに笑いかけると、ラビちゃんから祝福の電撃を貰う羽目になった。

 ラビちゃんとは、一度深く話し合う必要があると感じたのだった。

 


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