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情報を制する者が戦いを制するんだよ……たぶん。

 「問題は、どこまでやるか?なんだよなぁ。」

 シーンと静まり返った執務室で、俺はぼそりという。

 「どこまで、ですか?」

 クリスが顔をあげて問うてくる。

 「あぁ、取りあえず残された国内を纏め上げて終わりなのか、取られた土地を取り戻してよしとするのか、反乱を起こした領主たちを討伐するのか、領主たちを改心させたうえで土地を取り戻し、元の状態まで戻すのか、『南方連合』とやらを追い詰めるまで続けるのか……。」

 俺は戦争の帰着点をいくつか挙げる。 

 

 戦争と言うのは始めるのは簡単だが終わらせるのが難しい。

 どこで終わらせるか?……つまりどこまでなら許容できるか?という事で、それはお互いに一致することはまずない。

 お互いの利益を守りつつ妥協点を探すのが戦争を終わらせるという事だ。

 戦いの場において有利な立場に立った方がより利益を得、不利な立場の者は妥協を強いられる……それが終戦協定というものだ。


 アシュラム戦役の時は、相手が魔王と言うイリーガルなものがあったために、半ば無理矢理にドローと言う形で終結の道を作ることが出来たが、本来ならばもっとグチャグチャになっていたはずだ。


 「私の一存では決めれませんわね。一度国王と話してから決めたいと思います。」

 クリスが静かにそう告げる。

 「そうだな、その方がいいかもな。」

 「シンジ様は……グランベルクを助けて……くださいますか?」

 クリスが思いつめたように聞いてくる。

 「さぁな。」

 俺がそう言うとエルやアイリスが抓ってくる。

 「グランベルクなんか知らんが、クリスは助けてやるよ。」

 俺がそう言うと、クリスは泣き笑いのような顔で微笑む。

 「でしたら安心ですわね。私はグランベルクが無いと生きていけませんから。」

 ……要はクリスを助ける=グランベルクを助けろって事だ。


 「めんどくさいのですねぇ。」

 言いたいことを理解したのか、リディアが揶揄う様に言う。

 「政治ってのはめんどくさいんだよ。お前だって王女なんだからわかるだろ。」

 俺はリディアにそう答える。

 微妙にはぐらかしたのは、……まぁ照れ隠しだ。

 「だったらぁ、シンジさんがグランベルクの王様になって、パパっと決めればいいと思いますぅ。」

 「アホか。」

 分かっていて言ってるであろうリディアの頭を鷲掴みにする。

 「痛い、痛いですぅ。」


 ん?でも、……いいかもな。

 俺は痛い痛いと喚いているリディアの頭から手を放し、ギュっと抱きしめてやる。

 「わわっ、嬉しいけど恥ずかしいですよぉ。」

 「何か、いい事思いつきましたの?」

 俺の様子を見てクリスが微笑みながら聞いてくる。

 「いい事、と言うより悪い事、だな。まぁ何かあった時の保険みたいなもんだけどな。……もう一度言っておくぞ、グランベルクの事は知らんが、クリスは助けてやるよ。」

 俺はそう言ってニヤリと笑う。

 「……期待してますわ。」

 クリスは俺の言葉に何かを感じ取ったのか、微笑みを崩さないまま部屋を出て行った。


 「さて、と。クリスが戻らないと最終的な方向性は決められないけど、それまでに出来る事をやっておこうか。」

 「何やるの?」

 エルが聞いてくる。

 「そうだな、エルは俺達が長期間いなくても執務が回るように、リオナやレムと一緒に手配してくれ。」

 エルに指示を出すと、早速取り掛かってくれる。


 「アイリスは、今から言う素材を大至急手配してくれ。アシュラムの倉庫に転がっているはずだ。その後は軍需物資の確認と輸送手配を整えていつでも動けるようにしてほしい。

 「分かりました、すぐ行ってきますね。」

 俺が手渡したメモを受け取ると、走り出していくアイリス。


 「ねぇ、私は?」

 まだ俺の腕に抱かれているリディアが見上げながら聞いてくる。

 「リディアは……ベッドに行け。」

 「え、それって……嬉しいけど、明るい内からなんて、恥ずかしいですぅ。」

 リディアが真っ赤になって、いやんいやんと見悶える。

 「シンジぃ……。」

 聞き咎めたエルが鬼の形相で睨んでくる。

 「バカッ、勘違いするな。……リディア、お前寝てないだろ?」

 俺が指摘すると、リディアはビクッと体を震わした後、誤魔化すように笑う。

 「な、何のことかにゃ?」

 ……噛んでるし。

 

 「誤魔化さなくてもバレバレだ。昨夜何してたかは知らないが、この先の事を考えるとどうしても無理しなきゃならん時があるからな。奥のベット使っていいから、今は休んで寝不足を解消しておくように。起きたら簡単でいいから皆に食事を頼む。」

 俺がそう言うと、観念したようにベットに向かうリディア。

 足元が少しふらついている感じからして、限界が近いのだろう。

 

 「俺はあるアイテムを作る……たぶん丸1日はそれにかかりっきりになると思うから、後の事は頼んだ。」

 俺は皆に指示を出すと、作業するための場所……まぁ寝室なんだが……に移動する。


 部屋に入るとリディアが、すぅすぅと既に寝息をたてていた。

 何をしてたかは知らないが、夜通し何かをしていて、さぁ寝ようという時に呼び出されたんだと思う。 

 執務室に来てからのリディアは、身体が傾いたり、妙なハイテンションだったりしたために、そうじゃないかと思ったので、抱き寄せることで少しでも休ませてやろうと思ったのだ。

 リディアの抱き心地が良かったので離さなかったわけではない……はず。

 「ムリするなよ。」

 俺はリディアの額に軽く口づけると、作業台に向かう。

 背後では「こっちのセリフですぅ……。」とか何とか寝言が聞こえたが、スルーしておいた。


 ◇


 「……っと、これで完成だな。」

 俺はぐっと伸びをしてから作業台に備え付けられた時を知らせる魔道具を見る。

 「……丸二日かかったのか。」

 計算では1日で終わるはずだったんだが、思ってた以上に時間がかかってしまったな。

 「終わったの?」

 部屋を出ようとしたタイミングでドアが開かれる。

 「あぁ、エルか。何とか終わったよ。」

 「じゃぁ、疲れてるところ悪いんだけど来てくれる?みんな待ってるから。」

 「あぁ、すぐ行く。」

 俺はエルに答えると、作業台の上に山となっている魔術具を全て窓から放り投げて、部屋を出ていく。


 「あー、やっと出てきたですよぉ。」

 「リディア、もう体調は大丈夫か?」

 「ウン、ぐっすり寝てこの通りなのですよぉ。」

 リディアは元気一杯をアピールしてくる。

 そんなリディアの頭を撫でながら、皆が座っているソファーに俺も腰掛ける。


 「遅くなって悪かった。それで状況に変化はあったか?」

 俺の問いかけにエルが応える。

 「ないわね、良くも悪くも小康状態ってところね。」

 「そうか、まぁ悪くはない……か。」

 俺は今後の予定の調整について考えながら、他の報告も聞いておく。


 「物資の輸送体制は整いました。どこの前線でも最速で送ることが出来ます。」

 「執務周りも問題は無いわ。流石に1年とかは無理だけど、半年程度なら何とかなるわよ。」

 アイリスとエルが報告してくれる。

 「お父様にも連絡しておきましたぁ。何方の警戒を強めるって言ってましたぁ。」

 リディアは、ベルグシュタットに報告していたらしい。

 離れているから大丈夫だろうと勝手に思っていたが、警戒しておくに越したことはない。

 「そうか、ありがとうな。」

 俺はリディアの頭を撫でる。


 「ところで、シンジの方は?何を作ってたの?」

 エルが聞いてくるので、俺は収納から作っていた魔術具を取り出す。

 「キャッ!」

 「イヤぁー、蜘蛛キライッ!」

 「こうするのですぅ!」

 「ま、待てっ、落ち着けっ!」

 どこからともなく金属の棒を取り出して、蜘蛛型の魔術具を叩き潰そうとしているリディアを慌てて止める。

 

 何とか気を静めた女性陣達の眼に入らないようにしながら、この魔術具の説明を始める。

 「これの機能は……まぁ見て貰うのが早いか。」 

 俺は大き目の水晶を取り出し、皆に見えるようにする。

 水晶には画像が映し出される。

 「あ、なんか見えて来ましたぁ。」

 「これは……アイリス?」

 「あぁ、適当に場内を廻る様にしていたんだが、アイリスの部屋に行ってたのか。」

 俺もみんなと一緒に水晶を覗き込むと、丁度アイリスが着替えるところだった。

 留め具を外すと衣類がストンと床に落ち、アイリスの肌が露わになる。

 胸当てに手をかけ……。

 「何見てるんですかぁっ!」

 アイリスが顔を真っ赤にしながら水晶を取り上げる……いい所だったのに。

 

 「つまり、シンジは覗きの道具を作っていた、と?」

 エルが低い声で聞いてくる……心なしか視線も冷たい気がする。

 「違う!違わないけど、違う!アイリスの件は誤解だ。」

 その後、女性陣の誤解を解くのにかなりの時間を要した……。


 「つまり、これは俺のスキル『神の眼』と『悪魔の耳』を付与(エンチャント)した魔術具なんだよ。これが見たり聞いたりしたものが、リアルタイムに俺に伝わる……というものなんだが、あまりにも膨大な情報量なので、水晶に映すようにしてあるんだよ。」

 俺の説明をふんふんと頷きながら聞き入る女性陣。

 「そしてこれと同じ魔術具が、現在各地に向けて放ってある。1日もすればそれぞれ目的の場所に辿り着くはずだ。」

 「目的の場所って?」

 「各地の領主の館や、街中、酒場など情報の集まりそうな場所だよ。」

 「そうなんですねぇ。」

 「でもなんで蜘蛛型なんですか?」

 「それな……。」

 俺も最初は蜘蛛ってないわーと思っていたんだよな。


 「この魔術具の基は、魔王のインデックスにあったものなんだよ。」

 情報の重要さを知っている俺は、魔王のインデックスを手に入れた時に、真っ先に探して見つけたのがこれだった。

 全方位型(マルチアングル)情報収集システム・蜘蛛乃型(アルケニちゃん)……これを見つけた時、これさえあれば、悩みの種である諜報部員の質という問題から解放されると喜んだものだ。


 「一応な蜘蛛型以外で作ったのもあるんだよ。」

 俺はそう言って『無限収納(ポーター)』からネズミ型、鳥型、トンボ型、蛇型等を取り出す。

 「いいじゃない、これ。」

 「この鳥さん可愛いですぅ!」

 「蜘蛛よりいいと思います。」

 其々が好意的な意見をくれるが……。

 「お前ら、これを見ても同じことが言えるか?」

 俺はそう言って、魔術具に魔力を込める。

 すると、それぞれの魔術具が命が吹き込まれたように動き出す……。


 「うわっ、ないわー。」

 「鳥さん可愛くないですぅ……。」

 「これは何て言いましょうか……。」

 魔術具の何とも言い難い動きに、三人の顔が引きつる。

 「これでもマシになった方なんだよ。」

 目の前のコレに比べて、魔王インデックスの蜘蛛の動作が、何て自然な事か。

 俺の現在の技術では、越えられない壁があると突き付けられたようなものだった。

 「まぁ、今回は時間が無かったからな、インデックスの通りに作ったんだよ。」

 魔王に負けたようでなんか悔しい。

 

 「俺の方はそんな感じだから、1~2日程はやる事が無くなってしまった。」

 まぁ、この執務室の改造があるがそれほど時間はかからないだろう。

 「シンジ暇なの?」

 「言い方!」

 まぁ、ぶっちゃけて言えばその通りなんだが、言い方ってものが……。

 

 「暇ならデートしよ♪」

 エルが可愛い声で言ってくる。

 ……一体何を企んでいる?

 


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