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異世界で出会った少女は、やっぱりワケあり美少女でした。

 新作です。

魔王~とは、また違った切り口で書いて行けたらと思っています。

あらすじでネタバレしている部分までは一挙公開しますが、その後はのんびりと書き綴っていく予定です。

魔王~共々応援よろしくお願いします。

 「いたか?」

 「いや、こっちにはいなかった。」

 「よし、じゃぁあっちを探せ!」

 

 男達の足音が遠ざかる……。

 ふぅ、なんとか撒いたか?


 「ちょっと、いい加減に離れてくれない?」

 俺が抱きしめていた少女が、怒ったように言う。

 「あ、あぁ、悪い。」

 俺は慌てて少女から離れる。


 「まったく……どさくさに紛れてヘンなところ触られるし、サイテー。」

 少女が吐き捨てるように言う。

 「ちょっ、おまっ!触ってないぞ!それに、たとえ触っていたとしてもお子様なんかに……。」

 「へぇー……その状態で……ね。」

 俺が慌てて言い繕うが、少女は馬鹿にしたような目で、俺の下腹部に目をやる。

 

 「……し、仕方がないだろ!可愛い子を抱きしめていたんだ。誰だって……っ。」

 俺は慌てて口をふさぐ。

 動揺してつい本音が出てしまう。


 目の前の少女は、まごうことなき美少女。

 やや丸みを帯びた小柄な顔、すっと通った鼻筋に、小振りの口元。

 クルクルとした少し大きめの瞳、美人と言うよりは可愛いという印象を受けるのは、そのやや幼さの残る顔立ち故だろう。


 何より印象深いのは、その瞳の色だ。

 パッと見、薄めの碧眼ではあるが、よく見ると、右目がやや赤みがかっている。

 いわゆる『金銀虹彩(ヘテロクロミア)』とか、オッド・アイと呼ばれるものだ。

 日の光を受けて、きらきらと輝くアッシュブロンドの髪と、その瞳の輝きが、ある種の神々しさと言うか近寄りがたい雰囲気を醸し出している。


 身長は140㎝ぐらいだろうか?

 年齢の割には低めの身長を気にしているって聞いたが、抱きしめていた感じからすると、見た目よりは胸にボリュームがあり、ウエストはきゅっと細く締まっている。

 これから成長して背も伸びれば、道行く人誰もが振り返る様な美人になる事は間違いない。


 そんな子を、仕方がないとはいえ、ずっと抱きしめていたのだから、体の一部が反応してしまうのは仕方がないじゃないか。


 「へぇー、可愛いんだ、私。」

 少女がニマニマと笑いながら近づいてくる。

 「大変そうね、ココ。」

 俺に体を摺り寄せ、下腹部に視線を落としながら、胸元に軽く触れる。

 「私のコト可愛いって思ってくれるんだぁ?……シてあげようか?」

 小悪魔の微笑みと言うのはこういう顔の事だろうか。

 思わず頷きそうになる心を必死に理性で抑え込む。


 「こ、子供がそう言う事を言うのは……よく……ないと思うな。」

 「えぇー、来年には15よ、もう成人だよ?子供だって産めちゃうのよ?」

 「それでもダメっ!」

 俺は理性を総動員して、彼女を引き離す。


 惜しい……じゃなかった、危なかった。

 例え、()()()()ではもうすぐ成人を迎えるとは言っても、まだ14歳の少女だ。

 手を出したら、脳内倫理委員会からロリコン認定されてしまう。

 それだけは絶対に避けねば。

 いや、でもこっちではすでに大人として扱われているわけだし……そもそも14歳って俺と二つしか離れていないからロリコンにならないのでは?

 イヤイヤイヤ、取りあえず避ける方向でお願いします……。


 ぐちゃぐちゃになってきた思考を落ち着ける為、俺はゆっくりと息を吸い、ついでに回りを見回す。

 煉瓦でつくられた壁が続く路地裏。

 そこを出ると、市の立つ広場が広がっている。

 そこから、ゴシック調の建物が建ち並び、最奥には豪華な宮殿が鎮座している。


 そう、ここは俺が生まれ育った日本じゃない。

 見た感じは中世ヨーロッパを彷彿とさせるが、もちろん、ヨーロッパでもない。

 このような場所……ハッシュベルグと言う名のこの国は、地球上のどこを探しても存在しない。

 ここは……異世界だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その日は、なんてことのない、いつも通りの普通の日だった……。

 

 「なぁ、あの告知見たか?」

 「告知って、なんの?」

 「ほら、USOの……お前もプレイしてるって言ってただろ?」

 「あー、見た見た。でも最近やってないからなぁ。」

 「たまにはやろうぜ。よかったら今度……。」


 あー、USOの話題かぁ。

 昼休み、俺はクラスメイトの会話をそれともなしに聞き流しながら、昼食をとるために席を立つ。

 別に一緒にランチをする友達がいないわけじゃ……いないわけ……ゴメン、いないです、ハイ。

 いや、ね、ホントにいないわけじゃないんだけど、一緒に食べる相手に申し訳ないというか、気を遣わせて悪いなとか思うわけですよ。


 俺は目的の場所……図書室の片隅を陣取り、昼食を取り出す。

 「コラッ、図書室は飲食禁止だゾ。」

 ふいに、そう声をかけられる。

 俺の目の前には一人の女生徒……香織先輩が立っていた。

 「また、そんなのばっかり食べて……もぅ、しょうがないなぁ。……はい、これあげる。」

 そう言って手渡される包みにはサンドイッチが入っていた。

 「作り過ぎちゃったからね。」

 アハハ、と笑う香織先輩。

 でも、彼女が()()()作り過ぎているのを、俺は知っている。

 「ありがとうございます、いただきます。」

 だから俺は遠慮なく、そのサンドウィッチに齧り付く。

 「カオ姉……じゃなかった、香織先輩は、もう食べたんですか?」

 「二人だけの時は『カオ姉』でもいいよ、シンちゃん。私もこれからなのよ。」

 そう言ってお弁当の包みを広げるカオ姉。

 「飲食禁止じゃなかったんかい!」

 「私はいいの、許可取っているから。」

 俺のツッコミを涼しげにスルーするカオ姉。


 「これもたべる?アーン。」

 そう言って、唐揚げを突き刺したフォークを俺の前に持ってくるカオ姉。

 「校内十大美少女」の一人に挙げられる彼女は、当然校内の人気も高く、こんなところを他の生徒に見られたら、色々問題があるんじゃないかと思う。


 「おやぁ、熱いわねぇ。」

 いきなり声がかかり、俺は口にいれた唐揚げを思わず飲み込む。

 「あ、中西先生。」

 香織先輩が、司書の先生の名を呼ぶ。

 

 俺と香織先輩の関係……隠れて付き合っている恋人、ではなく養護施設出身という事。とはいってもカオ姉……香織先輩は10年前に引き取られて行って、今は立派なお嬢様だったりするのだが……を知っているため、他には内緒でここでの飲食に目を瞑っていてくれる人だ。


 「まぁ食事位、気を遣わず一人でゆっくりと食べたいときもあるだろうからね、資料を汚さなければ、目を瞑るよ。」

 去年も香織先輩が入学して間もない頃、そう言ってくれたそうだ。

 おかげで、俺も気兼ねなく、こうして昼食にありつけるというわけだ。


 香織先輩と、他愛もない話をしながら昼食をとった後、教室へ戻って退屈極まりない授業を受け、放課後は、いつものバイト先で勤労に励み……いつもと変わらない学校、いつもと変わらない人々、いつもと変わらないバイト先……。

 そんな日常をを送ってたはずなのだが……


 ◇


 目覚めたら異世界……。

 いや、ホント何言ってるんだ?と自分でも思う。

 別にトラックに轢かれた訳でもないし、いつもと変わらず、ミカ姉のグチを散々聞かされてから、眠りについたはずなんだけど……目覚めたらソコの路地裏に寝転がっていた。


 ……せめて屋内で目覚めたかったと思うのは贅沢なんだろうか?

 

 「ま、考えても意味ないか。」

 どうせ後2年もすれば、施設を出て独りで生きていかなければならない。

 それが少し早まっただけだ。

 そして、生きていくだけなら日本でも異世界でも大差ないと思う。。

 「異世界なら、こういう場合、何らかのチート能力がある筈なんだけどな?」

 俺はラノベなどから得た知識を思い浮かべながらつぶやく。


 しばらく待ってみたが、内面にも、周りも何の変化もない。

 「……期待してなかったけどね。」

 そうつぶやいて、俺は広場に向かって歩きだす……ウソです、ゴメンナサイ、ホントは期待していました。

 チート能力で舐めプな人生おくれるぞ!っておもっちゃいました。


 まぁ、人生何もないのはどこでも一緒だ。

 だったら自分に出来ることを探すだけ……ってことでまずは情報収集だな。

 俺の格好は寝る前と同じTシャツにジーンズ、愛用のウェストポーチだけ。

 ポーチの中には財布とライター、小振りのサバイバルナイフに着火材、割り箸数本と、折り畳んだ数枚の紙、そして非常食のカロリーミント、にチョコレート……まぁ普段から、サバイバルに備えて持ち歩いている高校生なんてあまりいないだろうが、俺にとっては必須だったんだからしょうがない。


 とりあえずは何とか出来そうだが、そうなると、まずはお金が必要だな。

 向こうのお金が使えるとは思えないし……まさか物々交換って事は無いよな?

 俺は市場の抵当な店を見繕って、見に行こうと歩きだすとしたところで、いきなり腕を引っ張られる。


 「アンタ、何やってるのよ!こっち!、早く!」

 「えっ!」

 俺の腕を引っ張るのは12~13歳くらいの女の子。

 腰まで伸びたアッシュブロンドが、黒を基調としたゴシック調のドレスと、見事なコントラストを醸し出している。


 「いたぞ、あっちだ!」

 その時、遠くで声がするとともに、こっちへ向かって走ってくる一団の姿が見える。

 「あぁ、もう!見つかっちゃったじゃないの!逃げるわよ!」

 そう言って、俺の手を掴んで走り出す少女。

 「えっ、ちょっ、まっ……。」

 俺は急に引かれた為、バランスを崩しながらも、彼女に引かれるまま走り出す。

 

 「一体何が……。」

 「見て分かるでしょ!追われてるの!」

 そう言って、後ろから追ってくる一団に視線を向ける。

 見た感じ衛兵っぽいが……。

 なんでだろう?トラブルの予感しかしない。

 俺は走りながら逃げ道を探す。


 「こっちだ!」

 俺は一緒に走っている少女の腕を取り、路地裏へ駆け込む。

 そして、奥まった所で彼女に覆い被さり、外から見えないように隠す。

 「ちょ、ちょっといきなり何を!」

 「いいから黙って!」

 彼女のドレスは、遠目からもよくわかる。 

 俺は、そのドレスを俺の身体で隠すようにしたわけだが……傍から見ると路地裏で抱き合ってるカップル……に見えなくもない。

 実際、こっちを覗き込んだ奴もいたが、気にせずそのまま立ち去っていく。

 

 「……ふぅ、何とか撒いたかな?」

 「いいかげん離れてくれない?」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「とにかく!そう言う事はみだりに口にしないように!」

 俺は話を打ち切る……これ以上危険な会話を続けるわけにはいかない。

 「ヘタレ?」

 少女がやれやれと言うような表情で俺を見る。

 違わい、ヘタレじゃないやい……。


 「そんな事より、君は誰なんだ。どうして追われている?」

 俺は誤魔化すように、少女に言う。

 「応えている暇はないわ。早く逃げるわよ!あいつらが戻って来る前に!」

 「って、言われてもだな……。」

 「男のくせにグジグジと……って、アンタ名前なんだっけ?」

 「今更かよ……シンジだ。」

 「そう、シンジね……じゃぁ、行くわよ、シンジ。無事に街を出ることが出来たら、全部説明してあげるから。」 

 ……コレは、街を出るまで付き合うしかないようだ。


 「あぁ、もうわかったよ……えーっと……。」

 そう言えば、俺も、この少女の名前を知らない。 

 少女もその事に思い当たったのか、

 「エルよ。あなたには特別に『エル』って呼ばせてあげるわ。」

 と言った。


 ◇


 俺は、路地裏の影から大通りを見回す。

 見える範囲に先程の男たちは見当たらない。

 「エル大丈夫だ、行くぞ。」

 俺は陰に隠れているエルに声をかけ、大通りの右手の方へ向かう。

 「どっち行くの?街の出口……門はこっちよ?」

 エルが左手の方を指さす。

 ……まだこの世界に来たばかりで、見たのは路地裏と市場だけ……門の位置なんか知るもんか。

 「方向音痴?」

 エルが小首をかしげて聞いてくる。

 生意気なヤツだが、こういう仕草が一々可愛くてムカつく。

 いや、可愛いんだよ、可愛いんだけど、認めたら負けと言うかなんというか……。

 

 「ここは来たばかりで知らないんだよ。」

 「そうなの?……おかしぃなぁ?」

 後半は小声でよく聞き取れなかった。

 「仕方がないわね……私が教えて、ア・ゲ・ル♪……って、どこ行くのよ!こっちよ。」

 ホントにムカつく……と言うか、子供のくせに何処でそんなこと覚えてくるんだ。

 思わず回れ右して、他所へ行こうとするが、止められてしまった。


 「ここで曲がるわよ。」

 「え、だって、門はあそこ……。」

 俺は見えてきた、街と外を隔てる外壁の中央にある門を指さす。

 「バカね、門に顔を出したら、ここに居ます、って言ってるようなものじゃないの。」

 アンタバカ?と言うような顔で、言ってくるエル……ここまでくると、一々ムカつくのも馬鹿らしくなってくる。

 そう、子供が一生懸命背伸びしていると思えば可愛いもんだ。


 「はいはい、バカで悪かったです……で、どうするんだよ?門を通らないと外に行けないんだろ?」

 俺はエルに聞いてみる。

 「なんかムカつく……けど、まぁいいわ。こっちに抜け道があるのよ。」

 そう言ってどんどんと先に進むエルの後をついて行くと、目の前に小さな建物が見えてきた。

 一見何の変哲もない、倉庫っぽく見える、それの目の前でエルが立ち止まる。

 「ちょっと待っててね。」

 そう言うと、エルは胸元からペンダントのようなものを取り出し、その先についている宝石を握りしめ、何やら小声でつぶやく。

 すると、エルが握っている宝石が光り輝き、エルと小屋全体を包み込み…………弾ける。

 

 光が消え去った後の建物には、さっきまでなかった扉が現れていた。

 「行くわよ。」

 俺はエルに続いて小屋の中へ入る。

 中は何もなかった……ただ、床に地下へと続き階段があるだけだった。


 エルがそのまま階段を下りていくので、俺も後をついて行く。

 階段を下りた先には、薄暗いが、しっかりと人の手が入ったと思われる作りの、地下通路が伸びていた。

 俺とエルは、並んでその通路を進んでいく。

 「なぁ、ここって、秘密の抜け道とかそんなんじゃないのか?」

 よくある、貴族なんかの隠し通路。

 いざという時、自分達だけが助かる為に作られた道。 

 目的が目的なだけに、その存在は重要機密だと思うのだが?

 「えぇ、そうよ。こっそりと街を抜け出すために作られた道なの。……自分達だけ安全に逃げ出そうなんて何考えてるのかしらね?」

 にっこりと笑いながらではあるが、なんとなく自嘲気味にエルが言う。

 「そんなところ通って大丈夫なのか?と言うか、なんで、お前がそれを知っているんだ?」

 着ている物や言葉使いなどから、貴族階級のお嬢様なんだろうとアタリをつけてはいるが……コレって、マズくね?


 パターン1……貴族の箱入りお嬢様の我儘。

 この場合なら、何事もなく無事に帰ることが出来たら「お嬢様の我儘に巻き込まれ振り回されただけ」という事で、何とかなるかもしれない。

 場合によっては「口止め料」と言う名の謝礼が出たりするかもしれない。


 パターン2……貴族の箱入りお嬢様が、何らかの理由で狙われている。

 この場合、自宅に帰れば安全かもしれないが、逃げ出してきた場合、逆に危険と言う事もある。

 自宅の状況が分からないと、どう動けばいいかが分からないのがネックだ。

 逃げ出してきたというなら、彼女にアテがあるのであれば、それに従うのがベストだが……一緒にいれば俺も狙われるって事じゃね?


 パターン1の場合でも、相手次第では、謝礼どころか口止めに消されるって事もあるかもしれない。

 ここは平和ボケした日本じゃないんだし、貴族と言ったら、平民を家畜としか見ていない人種だろ?

 そう言う事もあり得ると仮定して動かないと……。


 「はぁ……まいったなぁ。」

 「どうしたのよ急に?」

 エルが、聞いてくる。

 その表情は、先程迄のからかう様な感じでもバカにするでもなく、心配しているように見える。

 だからなのか、俺はつい本音を漏らしてしまう。

 「いや、俺なんでこんな事しているんかなぁって。よくよく考えたら関係ないなって思っただけ。」

 「……悪かったわね。」

 エルはそれだけを言って黙り込む。

 

 俺達は黙ったまま、しばらくの間通路を歩き続けた。

 「ここから出れるわ。」

 階段の前に来ると、彼女はそれだけを言って、さっさと登っていく。

 ……なんか気まずいな。

 俺が階段を上がっていくと、さっきと同じような小屋の中に出る。

 エルはそこで、俺が上がって来るのを待っていてくれたようだ。

 俺が階段を出ると、隠し扉が勝手に締まっていく……どういう構造何だろうか?


 「へ、変な事に巻き込んで、わ、悪かったわよ!」

 エルが、こっちを見ようともせずに、そう言ってくる。

 「シンジが、コレ以上付き合いたくないというなら、ここを出たら右へ行くといいわ……門に出れるから。」

 そう言うエルの表情が沈んでいるように見えるのは、気のせいだろうか?

 「あー、まだ、色々教えて貰うって約束果たしてもらってないぞ。ただ働きはゴメンだ。」

 だから、俺はそう言ってやった。

 「そ、そうね、報酬を払わずに契約破棄なんて、出来ないわよね。……仕方がないなぁ、シンジは、私にイロイロとオシえてもらいたいんだー?へ―そうかぁ。」

 俺の言葉を聞いて、からかう様に俺の顔を覗き込みながら言ってくる。

 やっぱムカつく……けど、可愛いと思ってしまった。


 「ここじゃ、まだ街に近いわ。出てから北に少し行くと森があって、その入り口付近に小屋があるから、そこまで行きましょう。」

 本調子を取り戻したエルが言う。

 地理も状況も分らない俺に選択肢はないのだ……だから、黙って従う事にする。

 来た時と同じように、エルのネックレスが光り輝いて、扉が出現する。

 扉をくぐって外に出ると、辺りはすっかりと暗くなっていた。

 

 「ちょっと待った!」

 俺はエルの腕を掴んで止める。

 「いきなり何よ!」

 「しっ!……あのかがり火……追手じゃないのか?」

 大声で文句を言いそうになるエルを押し止め、気になっていることを聞く。

 まだ近くではないが、前方に明かりがゆらゆらして見える……松明か何かだろう。

 「あ、そうね、その通りよ……マズいわね。」

 エレの指さす方を見て、エルも気付いてくれる。


 エルの服は黒を基調としているため、この薄暗がりではほとんど目立たないが、俺の着ているTシャツは白に近い、明るい水色の為よく目立つ。

 「仕方がないな。」

 俺はTシャツを脱ぐ。

 「キャッ、いきなり何!?……私が魅力的だからって……こんな所じゃ……いや……。」

 真っ赤になり、オロオロし出すエル。

 さっきまで、色々と挑発するようなことを言ってたくせに……。

 「バカ、何慌ててるんだよ。この色じゃ目立つからな……とはいっても着替えもないし……仕方がないか。」

 幸い、ここの気温は夜になってもそれほど下がることなく、上半身裸でも寒いとまではいかなくてありがたかった。

 Tシャツを仕舞おうとして思いつく……思いついてしまった。

 うぅ……もったいないけど……仕方がないか。

 

 俺は、サバイバルナイフを取り出して、Tシャツを引き裂き始める。

 「あ、アンタ、何やってるの!?」

 突然の俺の行動に、驚くエル。

 「いや、このTシャツを使ってだな……。」

 俺は思いついた計画を放す。

 「はぁ、アンタバカ?そんなんで引っかかるわけ……あ、そうか、でも……。」

 俺の話を聞いて最初馬鹿にしていたエルだったが、不意に何かを思いついたらしい。

 「ウン、行けるわ。」


 ◇


 「きゃぁ―――!」

 宵闇に少女の悲鳴が響き渡る。

 ダッダッダッダッダ……。

 息を潜めて隠れている俺達の目の前を、沢山の松明が通り過ぎていく。

 「今の内だ!」

 最後の松明が通り過ぎた後、俺はエルの手を引っ張って、男たちが来た方向へと走り出す。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ……ここまでくれば大丈夫だろ。」

 息が苦しい。

 こんなに走ったのは久しぶりだ。

 「はぁ、はぁ、はぁ……何よ、これくらいで……息が……上がるなんて……はぁ、はぁ……情けないわね……。」

 息を切らせながら、エルが言う。

 「そう言うエルだって……。」

 「私は女の子!」

 そう言われると返す言葉は無い。

 確かに、年下の女の子と同じ程度の体力と言うのは情けないかも?

 しかし、こういうのは男女差別とは言わないんだろうか?


 ◇

 

 「ここよ。今、開けるから、ちょっと待ってね。」

 あれからエルの案内で森までやってきた俺達は、大きな樹木の側で止まる。

 エルが、例のペンダントを輝かせると樹木の幹に扉が現れる。

 どういう理屈でそうなっているのかが分からないが、俺は興味深く、エルの後ろで、その動きを眺めていた。


 「動かないで!」

 不意に後ろから声がかけられ、首筋に冷たい金属があてられる。

 しまった!追手がいたのか!

 「エ、エル!逃げろ!」

 俺は、危険を知らせるべく、エルに向かって叫ぶのだった。

 

 



 

 

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