09 頼み事
よろしくお願いします!
開店から150年以上続く老舗団子屋、その席の1つに坂本辰月は座って団子を食べていた、時刻は夕暮れ時、ちょうど仕事を終えた者達が足早に歩いているのをぼーっと眺めていると真後ろの席に女が座ってくる。
「帰ってたのね」
「あぁ、ちょっと前にな」
辰月は振り返ることはせず、団子を頬張りながら言葉を返す。
「そ、何か収穫はあったの?まさか…あの子達を拾ってきただけって事でも無いんでしょ?」
「何だ、もう知ってるのか、まあ少しだけな、だがどこに行っても耳に入ってくるのは特徴だけ似てる人間の目撃証言か信憑性の無い与太話ばっかりだ、どうにもあいつに近づいてる気がしねぇ」
辰月は、少し悔しそうな顔をしながら団子を見つめている、女はそんな辰月の心象を背中越しに見抜いているのか、くすりと笑い席を立つと辰月の目の前まで移動した。
「何らしくない顔してんのよ、元々直ぐに見つけられるなんて思ってなかったんでしょ?情報が無いって事は、まだあっちも動いてないってことでしょ?気長にやりなさいよ」
辰月が団子から視線を移すと、そこには茶髪を肩のラインで短く切りそろえた、気の強そうな少女とも女性とも取れる女性が立っていた。
「てか、お前こんな所にいて大丈夫なのかよ?天下の革命軍、二重ノ五芒星の四番隊隊長、『言葉遊びの立花椿』さん?」
仮にも国に仇なす国内最大の革命軍の隊長格が正に江戸の中心に位置する団子屋にいるのだ、言うまでもなく立花は指名手配中の大物であり、江戸等という敵地の中心地で呑気に団子屋に居ることに辰月がジト目で立花を見ていると、立花は辰月の思っている事を理解したのかまたくすりと笑いにやにやしている。
「何?心配してくれるの?」
「まさか、この性悪女早く捕まってくれないもんか考えてたんだよ」
「あなたがうちに入ってくれるなら捕まってあげてもいいかもね」
立花は辰月の軽口も全く相手にせずそのまま軽口で返してくる。
「まあその事はどうでもいい、それより、少し調べて欲しいことがあるんだが」
先程まで軽い感じで話していた辰月は急に真剣な顔つきになり立花を見る。
「大体予想は出来てるし、いいよ、1個だけお願い聞いてくれたら使われてあげる」
「それくらいはしゃあねえか」
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「辰月さん!いつまで寝てるんですか!」
「ん?あぁ哲平か、おはよぅ」
朝早く哲平の声が家に響き渡る、時刻は既に昼の12時を回っており、決しておはようとは言えない時間である。
「全く…この前はあんな朝早く起きてたって言うのにどうしてこう起きる時間にムラがあるんですか」
「俺は起きる時間は決めてないの、ったく朝からうるせえな」
現在昼過ぎ、決して朝などとは口が裂けても言えない時間帯である。
「辰月さんが12時頃用事があるって言ってたんじゃないですか!だから起こしたんですよ!」
「あ、忘れてた」
辰月は何かを思い出し納得した様に手をポンとやると、のそのそと立ち上がり着替えを始める。
「さて、んじゃ行くか」
辰月は身なりを整え、腰に刀を差すと家をあとにする。
辰月は途中で買った団子を食べながら、江戸を出て直ぐにある村を訪れていた、村の入口には立花が立っており、辰月を見つけるなり手招きで辰月を誘う。
「で?こんなとこに呼び出して何しようってんだ?」
「この村はね、今四獣教のアホたちに占領されてんのよ、村にいた警察も殺されちゃって、今奴らは幹部の1人、玄武の名のもとにやりたい放題やってんの」
立花の話を聞いた辰月は訝しげな顔をしている。
「四獣教?そりゃ陸奥を拠点にしててこっちの方にゃ全然出て来てなかっただろ、わざわざ江戸まで来て何がしたいんだよ?」
「知らないよそんなの、ただこの現状を江戸の奴らは知ってて放置してる、今村人たちは何とか全員抜け出して近くの村に逃げ込んでるらしいけど、いくら今村人がいなくて、元々この村はあまり税の徴収が上手くいってないって聞いてたけどまさか見捨てるなんて」
立花は心底イラついた様子で江戸の方を睨みつけている、こういった事態は革命軍の幹部としてやはり見過ごすわけに行かないのだろう。
「しかし玄武の名のもとにって、まさかこの村に玄武がいるのか?さすがに2人じゃキツイんじゃねえの?」
「玄武はこの村に居ないよ、今来てるのは玄武傘下の下っ端部隊の『ミドリガメ』だけ、何でこっちに手出してきたかは分からないままだけど、それだけはわかってる」
「なるほどね、しかし今もいるんだろ?村人なんかを人質に取られたらめんどくさいぞこりゃ」
にやりと笑う立花に辰月はうんざりした表情になっている、それを見た立花は辰月の肩をポンと叩くと、ドヤ顔になる。
「そこら辺は考えてあるの、大丈夫、そもそも奴らは全部で5人、私とあなた2人でならやってやれない事はない」
「わかったよ、じゃあ潰すか」
「あなたの決断の速さ、嫌いじゃないよ、まずは村に入り込まないとね、今は入口にはいないようだけど恐らくは村の奥にいると思うから」
「見猿」
立花が言い終え指を鳴らすと、拳大の小さな猿が現れる、その猿は口元に布を巻いており、布にはバツ印が着いていた。
「この子が居れば私たちは見つかることは無いよ、途中までとはいえ、見えなくするだけで音とか気配は消せないから注意してね」
立花椿の異能力は『言技』元々力のある言葉やことわざ、言い回しなどを好きにいじって変換できるかなり便利な能力だ。
「相変わらず便利な能力だねえ」
「私のはあなたみたいに燃やすだけじゃないの」
「なんだと?俺だって色々できるぞ、相手を消すことが出来る」
「消し炭ね」
占拠されている村に入り込むというのに、どこか緊張感のない2人は村の中に入っていく。
「いた」
「1.2.3.4…1人足りないぞ?どこいってんだ?」
村の広場のような所で4人のむさ苦しい男たちが酒を飲みながら談笑している、聞いている話だと5人いるはずだが1人足りないようだ。
「いや、今来たよ、今あの大きな屋敷から出てきたヤツ、玄武の部下は緑色の着物を好んで着るからすぐわかるの」
「じゃあまずは離れたところにいるあいつから潰すか、他の4人は任せた」
「え!?ちょ!」
辰月は言うなり返答も聞かずに飛び出していく、立花は嘘でしょ!?と言わんばかりに目を見開いて止めようとしたが時すでに遅く辰月は出てきた男に向かい凄まじいスピードで走りさっていく。
「鬼火・十字」
あっという間に間を詰めると、辰月は刀に纏った火を十字にクロスしそのまま打ち放つ、男は何が何だかわからずにその一撃を受け、一瞬で吹き飛ばされきりもみ回転しながら木に引っかかってしまう。
「あ〜あ、ほんとにすぐ飛び出すなぁ」
立花はわざとらしくやれやれと言った風に肩を竦めると、その光景を見て唖然としている他の4人の目の前まで歩いていく。
「お、お前ら何者だ!」
「あなた達がそれを知る必要は無いよ」
立花は無表情で言い放つと、両手の平を合わせる。
「牙竜天睛」
警戒する男たちの足元が急に光ったかと思うと、突如男たちは天に昇る光の閃光に巻き込まれる。
「ぅぐああああああああ!!!!」
それはまるで、天を穿つ龍の咆哮、圧倒的な破壊力を持った一撃が、男たちを有無を言わさず戦闘不能に追い込んだ。
「やりすぎだろ…」
「いや?多分死んでないし大丈夫だよ」
「多分ってお前な…」
辰月達は気を失っている男たちを縄で縛り付け村の広場に置くと、もうやることは無いと村をあとにする。
「ありがとう辰月、助かっちゃった」
「あれぐらいの奴らお前1人で余裕だっただろ、俺を誘う意味あったのか?」
村にいた男たちの実力を見ると、辰月と立花というタッグでは明らかにオーバーキルでありむしろ立花の実力を考えると辰月は要らなかったとすら言えてくる、現に辰月が1人倒して振り返ってみると既に他の4人は地面に伏していた、明らかに立花1人で出来た事である。
「面倒くさかったの!後は久しぶりに辰月と遊びたかったし、頼み事を聞くにもただって訳にも行かないじゃない?」
立花はにやっと笑うとそのまま歩き始める。
「はぁ…まあとりあえず、あの件は頼んだぞ」
「オッケー、任しといて!」
用事を終えた辰月は途中で立花と別れ、江戸に戻るのだった。
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