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No.9 嫌悪
はじめは視聴者の一部だった。画面向かって左下に出る手話をうざいと思った人が聾唖になった。駅構内の点字ブロックを邪魔に感じた人がその場で盲目に、赤ちゃんの泣き声や幼児の予測不能の動きをうざいと感じた人は急激に老いて五感が衰えた。国内だけでなく、敵対する国の国旗を見て憎悪する人はその場でなぜか己の衣類を破いて生き絶える。世界中がこんな感じでめちゃくちゃになった。
「一体誰がどういった目的で」という声があがっても瞬殺されてしまう。どうやらそういうやり方で地球全体が占領されたのではないかと気づいたときは遅かった。嫌悪の情の原因、その根源が己に歯向かってくる攻撃方法だった。地球は何らかに不自由な人々でいっぱいになり、衣食住の産業が根底から破壊された。
しかし不思議と昔からどこか身体が悪かった人は健康になっていて、生き残っている人々に何くれとお世話をしてくれる。なんてこった、どうしたらよいこった。