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No.46 お迎え
盆踊りで踊っていると迷子が出た。三才ぐらいの浴衣姿の女の子。この地区の人間ではない。
「ママああああああ」
「お嬢ちゃん名前言える?」
「ママああああああ」
祭りは終了し、俺ら青年団は屋台もやぐらも解体した。女の子は公園のすみで大粒の涙を流している。水もお菓子も手に取らぬ。かわいそうに迷子でなく捨て子かもしれない。
「警察に連絡しよう」
そこで遠くからばたばたと足音がした。だが姿が見えぬ。
「すみませえぇん、おくれましたあああ」
女の子は「ママあああああ」 と走り出した。
「ごめんねえええ」
提灯も消え星の明かりだけになった公園になぜか光り輝く親子の影が一つの縦線になり、次に大きな横線になった。薄いブラウン色の円盤になり見る間に大きくなる。三次元の渦状の霧と溶けた砂糖の甘い匂いが園内に満ちた。親子は巨大なドーナツになり虚空を飛び去る。爺ちゃんが言った。
「狐ということにしよう」




