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No.1 母親
金持ちの家に生まれたかったと子供に言われて私は泣いた。子供はお金を求めて家を出た。そして帰ってこなかった。私が親でごめんなさい。貧乏でごめんなさい。私は仕事を続け、給料の殆どを子供名義の貯金にあてた。生活は切り詰めた。数十年後、私は年を取って動けなくなった。
もう死ぬなあと思っていたら子供が帰ってきた。私はうれしくて枕の下から通帳を差し出した。数十年かけてこれだけ貯まった。あなたのお金だよといった。子供は震えながら受け取り、何度もありがとうといった。借金がたくさんあるのだろう。また出て行こうとするので死ぬ前にもう一度頭をなでさせてと頼んだ。
子供の頭ははげ、わずかに残された白髪が凪いでいる。それでも赤ちゃん時代のおもかげが残っている。まだかわいいところがある。若返って手をひいて散歩に連れて行ってあげたい。撫でる手の力が弱まってきた。私は子供の顔を見つめ微笑む。それから私は死にました。