5 開幕前日
翌日ブルペン内...
ズバン、バシンとプロならではの聞くだけでスカッとするようなミットの音が響く
しかし和人はボールを受けると約束していたはずの浪川が中々来ずイライラしていた
「遅い...伊東さん!あいつぜんっぜん来る気配無いんですけど!」
「はは、まぁ仕方ねぇさ。あれ見な、コーチと監督直々に指導してもらってる」
納得行かない和人は鬱憤を晴らすように愚痴りながら投げる
「くぅ~...監督まで贔屓ってずるいですよ!」
「まぁそれだけの逸材ってこったな。お前も早くコーチに目ぇ付けてもらえる様になれよ」
そう言って和人を落ち着つかせるためにシーレックスの正捕手、伊東翔はスパンとなるべく気持ちのいい音が出るように捕っていた
「ナイスボール、155は出たんじゃねーの?」
「え、まじすか!?」
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結局浪川は一度もブルペンに顔を出さずにキャンプと、オープン戦を終え開幕を迎える前日、キャンプとオープン戦でアピール出来なかった和人は寮でゴロゴロ転がりながら浪川の事を妬んでいた
(いいもんだなぁ、監督とかに贔屓されて開幕一軍確定じゃん!...プロスピでもやってストレス発散しよ)
「なにゴロゴロしてんだ。うるせぇぞ」
と同じ部屋の田中太郎が尋ねる
「いや、浪か...じゃなくて一緒にプロスピやりませんか?」
「ん?まぁいいけど負けてキレるなよ」
その時トントンのノックし、扉が開く音がした
「...おい佐々城、監と」
「あぁ!?浪川!僕との約束破ったよな!罰金だ罰金!」
「それは置いといて、サミネス監督から呼ばれてるぞ。早く行っとけ」
「え?か、監督から?」
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和人がガチャ...と恐る恐る監督室の扉を開ける
「し、失礼します...あの、話というのは...」
サミネス監督の通訳が代わりに答える
「急に呼び出してすまないが...単刀直入に聞こう、中継ぎに転向しないか?」
「あーなるほどはいはい......ん?え、な、なんでですか!?」
「まぁ、落ち着いてくれ。中継ぎに転向しないかという提案なんだが、この間のオープン戦で投げた時の球とブルペンで投げた時の球が全然違うらしい。伊東が証言していたよ」
「球が...違う?」
「そうだ。ブルペンで投げている時は試合とは違ってイニングや球数を考えずに投げているから、ボールが凄く走っていて並の打者では当てるだけが精一杯位のボールらしいが試合になると本来の半分以下のノビとキレしかなくなる。伊東はオープン戦で先発として2回ほど3イニングを投げてそこそこ抑えこそしたが後々の回を考えてしまって打者一人一人に対して雑に投球をしてしまっているんじゃないかと言っていたけれど...自覚はあるかな?」
「...はい、自覚はありました。大学時代はそれでもそれなりに抑えられましたけどやっぱりプロは違う。甘い球は簡単に打ち返される。正直まずいなという気持ちはありました」
「それなら良かった。自覚があるなら中継ぎ転向についての話も理解してくれるだろう。君は後々のイニングの事を考えて力をセーブしてしまっているから一人一人の打者を抑える事に集中できていない。そこで1、2イニングだけを投げる中継ぎならば君の力を発揮できるんじゃないかと思ってね」
和人は納得はしたが自分の不甲斐なさに悔しくなった
(確かにごもっともだけど、大学でずっとやってきた先発を辞めて中継ぎに転向しろって...でもそれで出番が貰えるなら...)
「...分かりました中継ぎに転向します...その代わりに僕から条件があります」
「ほう、条件か。一体何だい?」
「もし僕が中継ぎでこの右腕が使い物になるようになったら先発に戻してください」
「なるほど...分かった、約束しよう。それなら私からの条件で開幕は二軍スタートしてもらうけどいいかな?」
「はい!1からでも0からでも絶対にこのシーレックスで活躍します!」
「うん、良い返事だ。用件はこれだけだから退室していいよ」
「はい、失礼します!」
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「あーあやっぱり開幕二軍かぁ。しゃーねーな4安打しか打てなかったし...佐々城もか?」
「はい、二軍スタートです。あと先発で結果が残せなかったので中継ぎ転向しろって言われました」
「ほぇー嫌じゃねーの?」
「勿論嫌ですよ。けど出場機会を得るにはやっぱり我慢しなきゃと...てか田中さんどこ守れましたっけ?」
「どこって言われてもなぁ...レフトとセンターとライトとサードとショートとセカンドとファーストとキャッチャー」
「え?それって投手以外全部出来るってことですか!?」
「一応ってだけな、本業はセカンドだよ」