62 オールスター
「それじゃ、今年のオールスター選出選手を発表する」
ドラゴンズは前半戦を折り返して地区2位のラビッツに10ゲーム差以上つける独走中ということもあり、選手個々の活躍も素晴らしいものだった。
監督のタラスコが選出された選手を読み上げる。
「まず、キャップ、そしてバート、二人は2年連続での選出おめでとう」
ロッカールームに拍手が響く。
カンポスは.314 21HR 65RBI OPS1.006というMVPも視野に入る成績を残していた。
アルシアも2.56 12W 3Lと、4回目のサイヤング賞獲得を狙える成績である。
「続いて、ブライアン。君は初選出だな。おめでとう。ホームランダービーにも選出されたぞ」
「ま、当然だな」
ふんぞり返って腕を組む。
コーラスは.248 23HR 43RBI OPS.906 SB25と攻撃型リードオフマンとして役割を全うし、40本塁打40盗塁の達成が期待されている。
「そして、君も初選出だな、カズ。おめでとう」
「え、ぼ、僕も??」
驚く和人の背中を叩いて三角が褒める。
「自信持てよカズ!お前は良い成績残したんだから当然だろ」
三角は.274 18HR 67RBI OPS.798とまずまずの成績でオールスターには選出はされなかったものの、去年までの荒々しい打撃から一転、勝負強い打撃で打点王争いに食い込んでいる。
和人は3.11 9W 4Lと、新人としてはトップの防御率と勝ち星、奪三振数をマークしていた。
「以上4人だ。4人はチームを背負って頑張ってくれよ」
和人はいまだ受け入れられないようなふわふわとした感覚だった。
(い、いいのかな?ほんとに僕で……でも選出されたからには選出されなかった選手の分まで張り切ってプレーしないと…!)
今年のオールスターの開催地は、コロラド・ロックスの本拠地であるクアーズ・フィールド。
標高が高いため、打球が飛びやすく、打者天国の球場とも言われている。
和人、アルシア、カンポスは外野で球拾いをするのだが、やはり打球の勢いが半端ではない。
和人は昔は外野手だったとはいえ、ビビりまくっていた。
「うわー…すっごい打球。こんなの外野手も気が抜けないよね」
「俺も5、6回くらいオールスター選出されてるけど、慣れないねこれは」
アルシアが普段とは違う外野手用グローブをはめる。
ダービー初戦の先行はコーラス。
普段はスイッチヒッターだが、今日は左打席に立つ。
その初球からいきなり魅せるのがこの若きスター候補である。
豪快なスイングでライトスタンドの3階席にまで叩き込んだ。
「うっわ〜…すごすぎてドン引きだよ。どうやったら左右であんなバッティングができるのか…」
「で、相変わらず物騒なこと叫びながら打ってるな」
アルシアの指摘通り、コーラスは「Shit!」「fuck!」と叫びながらホームランを放っていた。
コーラスは一回戦を突破すると二、三回戦目も勝利し、決勝まで進んだ。
相手はトロント・ターミガンズ所属のホセ・カブレラjr。
彼も若く、まだ23歳ながら昨季は本塁打王を獲得し、三冠王に迫る成績を残したメジャートップクラスのアーチストである。
カブレラがダービー前にハグをしようとすると、コーラスが何故か拒絶するような素振りを見せた。
「ん?なんでブライアンは今ちょっとハグを躊躇したんだろう。他の選手とは普通にやってたのに」
「まぁ…“二世”としての劣等感があったんだろうな。あいつも十分頑張ってるが、あいつ自身はまだ自分の成績に納得してないと思う」
「二世?ブライアンってお父さんも野球選手だったの?」
「え、お前あのドリュー・コーラスを知らないのか?メジャーリーガーとしてどうなんだそれは」
「そ、そう言われてもつい一年前は日本にいたし…」
ブライアン・コーラスの父、ドリュー・コーラス。主にサンフランシスコ・ラビッツで活躍し、2000本安打も達成した球界屈指の打者だった。
当然、息子であるブライアンにも野球選手としての素質を期待され、幼いながらもその期待の視線を理解していたブライアンは心の中で常に他の子供を羨んでいた。
「偉大な野球選手の息子」という肩書がなく、楽しそうにプレーする姿を、だ。
だが、自分にはどんな良いプレーをしようが「当然」と見られ、少しでも悪いプレーをしてしまうと「コーラスの息子なのに…」と冷ややかな視線が向けられる。
だからこそ、常に自分が一番でいないといけないという不安から厳しいトレーニングを続け、高校ではトップクラスの成績を残し、ドラフトで全体28位の1巡目氏名を受けてドラゴンズと契約。
登録名は「ドリュー・コーラスjr」を提案されたが、コーラスはこれを猛烈に拒否し、「jr」を取らないと契約を破棄して大学に進学するとまで言い放ち、登録名はミドルネームであるブライアンを採用して「ブライアン・コーラス」になった。
「…ってわけだ。だからあいつは常に世界一の選手だと自分に言い聞かせて、そうなろうと努力してる。ただデカい口叩くだけの奴だと思ってたか?」
「そ、そうとは思わなかったけど…」
和人はその話を聞いてコーラスへの見方がより変わった。
常に重圧を感じながらプレーしているからこそいつもピリピリとしている雰囲気があり、ミスをしたとき誰よりも悔しがるのである。
(どんな選手でもそういう悩みを抱えてるんだな…)
和人はしみじみそう思いながら彼らの放つ打球の放物線を見つめていた。
コーラスは一本差でホームランダービーを惜敗し悔しがる。
「すまん、俺がもうちょい真ん中になげてやれれば勝てた」
ドラゴンズの専属バッティングピッチャーのメギルが謝る。
「そんなことねーよ。メギルは全てカンペキなボールを投げてた…打ち損じた俺の力不足だ」
世界最高の選手に言い訳などない。それは彼のポリシーだった。
オールスターゲームのナ・リーグの先発はアルシア、ア・リーグは昨季のサイヤング賞受賞者でカンザスシティ・ロイターズのエドウィン・ケラー。
両者ともに2回無失点と流石の投球だった。
そして3回表、予定通り和人が登板する。
「よ、よっしゃー、気合十分!」
「あんたルーキーだよな?力むのも無理ないけど、二、三回深呼吸して落ち着け」
シカゴ・ベアーズの捕手、ジェフ・マーティンがそう和人を諭す。
そのアドバイスの甲斐もあってか二人の打者を簡単に抑え、いつもどおりのピッチングができた。
そして三人目の打者、アナハイム・エンジェライツのマイケル・トラスト。
超高水準で安定している打撃から既にMVPを3度受賞。
そのため、30歳ながら殿堂入りが確実視されているスーパースターである。
(これが、ベースボールマシンと言われるトラスト…対戦できるだけでめちゃくちゃ嬉しい)
まず初球、ツーシームでストライク先行。2球目もツーシームを投じてファウル。3球目もインハイにツーシームを見せてボール。
そして4球目、決め球としてパワーカーブを投じる。
完璧にベースでワンバウンドするコースだったが無反応。
(うそ、今のでなにも反応なし?)
和人はその1球で彼が今まで対戦してきた打者の中でトップだということを痛感した。
5球目、和人は満を持してフォーシームを高めに投じる。
普通ならばさっきのカーブが頭にあり、タイミングを崩されて三振するだろう。しかしこの男は別格だ。
すべての球を同じ形で捉える理想的な打撃。ボール球気味の99マイルのフォーシームを強く引っ張る。
その打球はあっという間にレフトスタンドに届き、和人は呆気にとられていた。
(す、すげぇ…ここまで完璧に攻めて完璧に捉えられたことなんて今までにない…)
続く打者は打ち取ったものの、和人はさっきの打席が頭から離れなかった。
「どうもはじめまして、トラストさん」
和人は試合後、トラスト本人に会いに行った。
「やあ、どうもササキ。打席立って改めて分かったけどルーキーとは思えないボールだったよ」
「はは、褒めてくれるのは嬉しいですけど、ホームラン打たれたあとにそれ言われても…」
「たまたま読みが当たっただけだよ。本当に紙一重だったさ」
(すごいストイックさだ…やっぱ超一流の選手はすごいや)
和人が感心するとトラストがいきなり空を見あげる。
「ん?なにか飛んできたんですか?」
「…この雲の流れ。そろそろ結構激しい雨降りそうだね」
何故かニヤニヤしてそう言う。
「え、なんでわかるんですか?」
「実は天気予報が趣味なんだ。チーム内でも当たるって好評だから信じてくれ」
(せ、世界最高の野球選手の趣味が天気予報…なんか地味だな…)
和人が苦笑いをしている傍らトラストは嬉しそうに雲を眺めていた。




