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海獣達の野球記(ベースボールライフ)  作者: Corey滋賀
6章 世界最高峰
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63/65

60 Kazu Sasaki

更新遅いです

すみません


「カズ、ピッチングを改造しないか?」


スプリングトレーニングで3試合連続で3失点を喫した和人に、監督のタラスコが話を持ちかける。


「改造って…具体的にどこをどうすると?」


「えーっとまあそれは、コーチとかバートと一緒にやってくれ。ミスミには聞くなよ?彼はもう投手じゃないから」


「“もう?”それってどういう…」


和人が深追いすると、あっ、とタラスコが口を滑らせたかのように焦る。


「き、気にしないでくれ。なんでもない」


「そ、そうですか」


(それにしても、監督に提案されるとは…このままだと開幕メジャーは厳しいってことか。次の登板までにはなんとかしないと…)




和人は早速アルシアのフォームを見て研究する。


「アルシアは僕と同じスリークオーターでカーブ使いだから共通点はあるけど、違うとこも結構あるんだよね。その中での大きな違いは…」


「二段モーション。カズはタメを作らずに投げてあのスピードを出せるんだから大したものだよ」


難しい話のため、通訳を通して対話をする。


「でも今のままじゃ全力出しても打たれるだけなんだ。二段モーションのやり方を僕に教えてほしい」


アルシアが身振り手振りで二段モーションを教授し、和人もすぐに飲み込む。


しかし、思ったような成果は感じられず、和人は悩む。


ここまで悩むのはルーキーイヤーぶりである。


何度も他のメジャーリーガーの投球を動画で見ていると、むしろ自分の投球を失ってしまいそうな気がした和人は動画を停止してパソコンを閉じようとする。


が、そのちょうど止めた映像に、和人は違和感を感じた。


「このカーブの握り……なんだ?」


得意球種としてカーブとナックルカーブを投げ分ける和人がやったことのない握りである。


「これは「パワーカーブ」だな。他のカーブとはかなり異なるカーブだ」


「異なる?」


「ああ、カーブっていうのは普通、緩急とか打者のタイミングを外す役割もあるだろ?だが、これはスピードと変化の鋭さで空振りを奪うカーブなんだ」


和人はその握りを見様見真似でやってみる。


普通のカーブの人差し指を立てるような握りを見て、アルシアがはっと気づく。


「それ、ワシントン・エクスポズのアンソニー・キャンベルの投げ方じゃないか」


「え?その人すごいの?」


「去年の最多勝投手だ。あの球をものにできるならピッチングも大きく変わる」


和人が手に馴染ませるように握りを繰り返す。


「なるほど…試しに投げてみたいな。ブルペンでデービスに座ってもらうか」




パワーカーブは和人にとって初めての感覚だった。


まだ慣れてないからこそ抜け気味になることはあるが、スピードが今まで投げていたカーブとは別のものだ。


140近い速度でグッと打者の手元で曲がり、デービスは手応えを感じた。


「カズ、一つ提案があるんだが」


「え、なに?」


「フォーシーム主体のピッチングは辞めよう」


そう告げられて、和人は困惑する。


「そ、それって僕のフォーシームがメジャーだと通用しないっていう…」


「逆だよ。強力な武器だからこそ投げる割合を減らすんだ。これはコーチからの助言でもあるんだ。とりあえず次の登板ではそうしてみないか?」


和人は間髪入れずに頷いた。


試行錯誤しながらなんとか勝負するこの感じに、和人はマイナスな感情になるどころか懐かしささえ感じていた。


大学時代もこうだった。投球イップスを抱えて、高校では一度もマウンドに立てなかったことから、ほぼ1からのスタート。


それでも仲間とともに克服し、エースとして関西リーグではトップの投手と呼ばれるようになった。


それと同じように今は異国のリーグで1からのスタート。自分のプライドなんてものは捨て、仲間の意見を素直に聞き入れるべきだ。


和人はパワーカーブの完璧な習得に全力を込める。




そして、自身4登板目となるマウンドに上がる。


ドラゴンズは常勝軍団。ルーキーとはいえ残されたチャンスは多くない。


そろそろ結果を残さなければマイナースタートもあり得るだろう。


対戦相手は同地区のサンディエゴ・パスターズ。


主力選手には若きスーパースターで強打のショート、フェルナンド・カーチスjrがいる。


「よし、この前言ったみたいに今日は変化球中心でピッチングを組み立てよう。相手に不足はないだろ」


「オッケー。パワーカーブはばっちり仕上げたし、今日はいけるよ」


そうデービスと配球を話し合う。


和人は思わずへへ、と笑顔が溢れる。


「ん?どうかしたか?」


「あ、ごめん。結果残してないのにこんな気持ちじゃ駄目だと思うんだけど…今、野球がめっちゃ楽しくてさ」


デービスはそれを聞くと笑って返す。


「わかるよ。俺も楽しい。新入りの投手の特性を見つけたり、操るのって大変だけど、楽しいんだ」


そこに、「でも…」と付け加える。


「今日ボッコボコに打たれたりしたらお前と組めなくなっちまうからな。しっかり一緒に抑えようぜ」


そう言うと和人に向けてグーを出す。


和人がそれに応えてグーでタッチする。


(JDは…口数少なく投手と対話できる浪川くんとは結構タイプが違う。たくさんコミュニケーションをとってその投手のことを分かろうとする…これはこれで意思疎通しやすくて信頼できる)




初回の表、デービスと練ったコンビネーションがパスターズ打線をねじ伏せる。


要警戒の3番カーチスjrから新球種のパワーカーブで三振を奪い、早速練習の成果が出た。


続く回でもその投球は冴えわたる。ツーシームで左打者の内角をえぐるように攻め、トドメに3種類のカーブ。


まるで別人のような投球に首脳陣、デービス以外の選手は驚いていた。


(初めて組んだときに薄々と思っていたが…やはりカズにはサイヤング賞を取れるレベルのポテンシャルがある。いきなりここまでピッチングを変えられる投手はそうはいないぜ)


しかしパーフェクトに抑えていた4回2死、3番のカーチスjrの打席。和人は一段ギアを上げる。


初球のツーシームをインコースビタビタに決めてカウントを先行すると、2球目も同じコースにツーシームを投じるが少し外れてボール。


反応を見るとカーブを待っているようだったので、デービスはノーマルのカーブをワンバウンドさせるくらいの低さに投じるように要求する。


和人も頷き、しっかりと要求通りに投げて空振りを奪って有利なカウントに持っていく。


ここでデービスはこの試合で1球も投じていないフォーシームを高めに要求した。


初登板時にマルケスに打たれたコースと同じである。


(JD性格悪いねぇ…そこは浪川に似てるぜ)


和人はニヤッと笑って頷き、ボールに指をしっかりとかける。


そして要求されたコースに向かって思い切り右腕を振ってボールをリリースする。


力の籠もったフォーシームはカーチスjrのバットの空を切り、和人は思わずマウンドで吠えた。


「ナイスボール。俺の意図わかったろ?お前のフォーシームは強力な分、当たると飛んじまうからこういう時の決め球に使うんだ」


「へへ、今日から僕は佐々城和人じゃなく、カズ・ササキだ!JDのおかげでやっとメジャーリーガーになれた気がするよ」


デービスはそれを聞いて微笑む。


「俺じゃなくてお前含めた俺らの力だよ。これからも頑張ろうぜ。カズ」


続く回もパーフェクトピッチング。5回無四球無被安打8奪三振と自身の投球を最大限アピールした和人は開幕メジャーを監督から確約、ローテ3番手投手として起用することを明言された。

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