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海獣達の野球記(ベースボールライフ)  作者: Corey滋賀
4章 王座奪還
48/65

45 意地のリリーフ

横浜の連敗いつ止まるんかな


ウマ娘面白すぎてハマってしまった


クライマックスシリーズも順調に勝ち抜き迎えた日本シリーズ。


相手は日本シリーズ4連覇中の強豪・福岡ホームス。


シーレックスとしても年間94勝という圧勝でリーグを制した勢いと実力で20年振りの日本一を奪取したい。


このシリーズはもつれにもつれた。


1、2、3戦とホームスが勝利し、あっさり決まるのかと思いきや後が無くなったシーレックスが4、5、6戦で怒涛の3連勝。


そのシーレックスのいずれの勝利にも絡んだのはやはり4冠スラッガーの浪川だった。


第4戦では決勝点となるタイムリー、第5戦では先制本塁打、第6戦ではサヨナラ本塁打と3戦連続でお立ち台に上った。


また、第6戦の


「明日勝って三村監督をもう一度胴上げできるようチーム皆全力でプレーします。なのでファンの方々も全力の応援をよろしくお願いします」


と、深々に頭を下げる律儀なヒーロインタビューと24歳とは思えない堂々とした風格から『ハマの皇帝』と呼ばれるようになった。


そして迎えた第7戦、この試合はまさに総力戦となった。


まず一回表、エースのウォンが主砲の柳井にストレートを中段にまで運ばれ浴び先制される。


しかしその裏、梶の先頭打者本塁打ですぐさま同点に追いつき球場のボルテージが上がる。


そのまま進み4回裏、1死2、3塁の場面で山戸のタイムリーヒットで2点を勝ち越す。


その援護をもらった直後の5回表、ツーアウトから連打され、下林に3ランを浴び逆転されてしまう。


コントロールが定まらず、三村はらしくない投球に危機感を感じて被弾後に四球を与えたところで交代。


そして投入したのはなんと中継ぎエースの和人だった。


今日投げることによって4連投、移動で一日空いたとはいえかなりの負担だが和人本人は平気な顔をしてポンポンと投げ込む。


5回表を終えると回跨ぎで6回表もマウンドに立つ。


ホームスの打者達は速いテンポでアベレージ160近い速球とカーブに翻弄され三者連続三振。


その中の特にプロ入り前から対戦したいと語っていた柳井との対戦は見るものを熱くさせた。


日本一とも言える速球とカーブ、そしてその緩急についていく怪物。


9球の攻防の最後は158kmの外角いっぱいの球で見逃し三振。抑えた瞬間和人は叫んで強くガッツポーズをした。


そしてその裏の攻撃、和人に打順が回るため交代かと思われたがそのまま打席に立ち両翼のスタンドがざわめく。


結果は三振だったが7回表も無失点に抑える。


ベンチで一息ついて飲み物を飲む和人に三村が話しかける。


「佐々城、素晴らしいピッチングだった。すまんな、3イニングも跨がせてしまって…」


「い、いえ、僕は与えられた仕事をこなしただけですから!」


姿勢をピンと伸ばして首を横にブンブンと振って謙遜する。


その時、和人がふとスコアボードを見る。次の回ホームスの打順はクリンナップ。


つまり3番の柳井に打順が回ってくる。さっき三振を奪った瞬間が思い出され右手が震える。


もっと…もっと勝負を…


震える右手をギュッと握りしめて三村の目を見る。


「…監督、本当にすみません…こんな時ですけど一つわがままを言わせてください」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方、一塁内野スタンドには祖父の二階堂のツテもあり和人一家が応援に駆けつけていた。


「おーい!カズがこんだけ抑えたんだから打線も火ぃつけや!」


「カズ姉落ち着いて…めっちゃ恥ずいから…」


長女の和美と三女の和、両者別の意味で赤面していると父の和義(かずよし)が酒を飲みながらガハハと笑う。


「まーまー、ナゴちゃんや。こうやって野球見るのも楽しいじゃん?」


和はため息をついて頬杖をつく。


(はー…別に私無理やり連れてこられただけでそんなに野球わかんないにわかだし。フミ姉と一緒に留守番しとけばよかった…)


和がそんな後悔をしているとシーレックスの攻撃が終わったためか周りが、あー、と落ち込む。


「もー、これじゃ頑張ったカズちゃんに勝ちつかないじゃないの」


母の佳実(よしみ)が和人のタオルをかかげながら頬を膨らませる。40代とは思えない若さのため違和感がない。


そして次は誰が投げるのかとファンがコールを待っていると、なんとベンチからニコニコしながら和人が出てマウンドに立った。


その光景を見て少し大人しかったスタンドが再び湧く。


「うぉぉぉ!!まじか!佐々城続投!?」


「頑張れー!逆転の芽を作ってくれー!」


「連投なのにそんなに跨いで大丈夫なのか!?と、とりあえず抑えてくれ!」


あまりの湧きっぷりに和は困惑する。


(か、カズ兄ってこんなに信頼されてるの?ありえない。いつもはふざけてて、二次元大好きなオタクで、頼りなくて…)


だが、周りを見ると「佐々城和人」と書かれたタオルを持っている人が数え切れないほどいた。


この時、和は知った。佐々城和人という男が多くのファンに夢と希望を与えているいうことを。


そして初めてその頼りない兄は本当はとてもカッコいいということを。


和は本当の兄のことをなにも知らなかった自分に悔しくなり涙が溢れて止まらなかった。


そしてその涙まじりの声でマウンド上の和人に向けて叫ぶ。


「絶対打たれんなよカズ兄!」


それに気づいた和人は照れくさかったのか軽く帽子のつばを触って返して笑った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


捕手の浪川が腰に手を当ててベンチを見る


「それにしても驚いたな。投手出身の三村監督がこんな無茶な継投をするとは」


「違う違う。僕がこの回も投げたいって直訴したんだよ」


「…は?」


浪川が怪訝そうな顔で一人の方を向く。


「最初は反対されたんだけどね。それでも投げたいって頭下げまくったら諦めて投げさせてくれた」


浪川が怒りと焦りで口調が強くなる。


「馬鹿野郎。よく考えろ。シーズンでもバリバリ投げて日シリでも4連投&全力ペースで回跨ぎ。お前はただでさえ体が小さくて肩への負担が大きいのに…」


「へーきへーき。とにかくサインバンバン出して僕に投げさせてくれよ」


「…どうなろうが俺は知らねぇからな」


和人は平気な顔をしていたが本当は浪川の言うとおり、もう全力を出し切り、もうほとんど肩にも感覚がなかった。


それでも和人はマウンドに立った。


どうしても、どうしてもあの男と対戦したいからだ。


この回の先頭打者、怪物・柳井裕貴。他とは違う異様な雰囲気を漂わせて打席に立つ。


先程は三振に抑えたとはいえ修正力の高い柳井だ。同じような攻めは危険。それは同じタイプの浪川は十分に理解していた。


「…佐々城、練習してたやつ使うぞ。今日限り解禁だ」


「オッケー、そうこないと面白くないよねぇ」


和人の持ち球はカーブ、ナックルカーブ、チェンジアップの3つ。いずれも変化が大きくストレートを活かすための緩急をつけるための球だ。


そうなると打者の頭にない隠していた()()()はかなり有効になるだろう。


まず初球は高めのストレートを見逃し、ワンストライク。そして2球目、高めからからゾーンに入ってくるカーブを空振りし、早くも追い込む。


しかし油断は大敵だ。


このバッターは三振を恐れない。つまりこのカウントでも自信を持ってフルスイングしてくる。甘い球は言わずもがな初回のようにスタンドに運ばれるだろう。


一球カーブをゾーンから外れたら所に投げて様子を見るが、誘われもせず見送る。


この様子から恐らく狙っているのはストレート。


それならば、と浪川がサインを出す。


和人はそれに思わずニヤッとして頷き、心を決めて投球モーションに入る。


ランナーの有無に関わらず常にクイックのため速いテンポでポンポンと投げるのだが、珍しく少し間を置いた。


そして指をボールの縫い目にかけ、投じる。


コースは真ん中低め、柳井は待っていたのか緩急にも惑わされずスイングを崩さない。


しかし柳井が芯で捉えたと確信した瞬間、ボールはストレートと同じ速さにも関わらず手元で少し変化し、打ち損じてゴロになる。


ショートがしっかりとさばき、一番怖い打者を打ち取ることができた。


柳井は少し首を傾げて4番のグラシエルに一言伝えた。


「あいつツーシームも投げられるみたいだわ」


柳井の考察通り、二人の隠していた球はツーシー厶。握りは一般的なものだが左打者からすると外に少し逃げてかなり打ちにくいため今後強力な武器になるかもしれない、と浪川は大舞台のここで試しを兼ねて使うことを決めたのだ。


20代とは思えない落ち着き具合と作戦。今後彼がプロ野球界を引っ張っていくのだろうと誰もが確信した試合だった。


和人は続く打者も抑え、この回も3人で終わらせて流れを作り、試合は勝負の8回裏へと突入する。


だがやはり4連覇中の球団は強い。中継ぎの一角である杉原に苦戦しツーアウトまで追い込まれてしまう。そこで二番の芝田に代打を送り意外性の男、太郎を起用する。


杉原の豪速球を追い込まれてもカットし、不利なカウントからフルカウントまで持っていく。


後ろの浪川に繋げば必ずやってくれる、という信頼からの粘りだった。


12球目の変化球を引っ掛けてボテボテのショートゴロとなったが、太郎は全力疾走でファーストベースにヘッドスライディング。


間一髪でセーフとなり太郎はベースを叩いて「よっしゃー!」と叫ぶ。


ベンチから和人が乗り出して右手をブンブンと振って笑っていた。


そして精神統一をしてから浪川が打席に向かう。スタジアムDJが名前をコールするととてつもない歓声が聞こえ、流石の浪川も少し驚く。


それでも冷静さを欠かず落ち着いて打席に立つ。


すると、捕手の甲斐谷(かいたに)が呟く。


「俺、君の抑え方わかっちゃったんだよねー」


揺動作戦か、と浪川は無視しようとするがそうはいかないと甲斐谷が更に続ける。


「まず初球は見送るよね。狙ってんのは2球目でしょ?おそらくスライダー」


浪川はまたしても驚いたが表情には出さず隠した。


自分の狙いが本当にバレていたからだ。この打席以外2球目もスライダーも狙っていないし何故だ、と頭の中が混乱している内に初球が投じられ見送る。


際どいコースで判定はボール。しかし浪川はそれ以上に頭の中がごちゃごちゃしていた。


その様子を見て甲斐谷はにやりと笑って杉原に返球する。


(さて…こっからは頭脳戦といこうじゃないの…皇帝()()()()くん)


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