35 復活へ
コロコロ文の書き方を変えていきます
しっくり来たらそれにします
梶谷井納ソトどこにもいくな
※浪川視点
退院から一週間以上経ちようやくスイングの感覚を取り戻したが、本番はここからだ。低めの速球への対応をしやすく、高めの球にも反応できる理想のフォームを探し出さなければならない。
まずは膝を曲げて少し重心を落としてマシンを打ってみることにした。
ランダムのコースに平均140中盤辺りの速球に変化球を織り混ぜてくるように設定を変更している。
まず初球の低めの速球に合わせてみたが、妙な違和感があったがその違和感は恐らくボールの見え方だ。
昔から棒立ちのようなフォームだったため少しでも低くなるとまるで違う。これはかなりの時間を要することになりそうだな...
その後2時間近く打ち込んでみて多少は違和感がかき消されたが所詮はマシンだ。人が投げる生きた球を打つには程遠いだろう。後でコーチにバッピでもやってもらうか。
疲れたので少し休憩をとってパソコンでフォームを解析しながらシーレックスの試合をチラッと見てみた。
試合はラビッツとの一戦で8回表で3-1の二点リードで丁度佐々城が投げていた。
『...打線は現在少し湿りぎみなラビッツですが...おおっと!162を外いっぱいに決めて追い込みました!球場内はどよめいています!えー、これは...マーク・クルンさんが持っている球団最速記録に並ぶ記録ですね』
『いやぁ、佐々城は今年は去年より制球の安定感がかなり増しましたよね。オフにまっすぐの威力のために下半身の強化に取り組んでたんですがそれと一緒に以前より左足をしっかりと踏み込めるようになって狙い所に投げ込みやすくなっているように見えます。僕がもし今一番凄い投手は誰かと聞かれたらハッキリ佐々城と言えますね』
解説の言う通りだ。本人はバカだから気づいてないんだろうが下半身の強化は速球の威力だけでなく制球力の向上にも繋がっている。
捕っている捕手は要求しているところにバンバンといい球来て気持ちいいだろうな...
『空振り三振!最後は決め球のドロップで仕留めました!』
佐々城の好投にやる気を貰って素振りをしていたその時、一人の60代くらいの老人が室内練習場に入ってきて俺のスイングを見て独り言のようなことを呟く。
「あーあ、無理矢理低めの球に対応しようとして本来のスイングを見失ってるな」
「...関係者以外は立ち入り禁止ですよ」
「安心しろ。同級生の田白にお願いされて来たからな」
コーチに頼まれて?なにもんだこの人。
「申し遅れた。二階堂充というものだ...元弟子の息子が困ってると聞いて駆け付けたが、やはり泰知にそっくりだな」
その名前を聞いてはっ、と前に佐々城の言っていたことを思い出した。
『二階堂充っていう人だよ。ホエールズのセンターを一時期守ってて首位打者取ったこともある凄い人。引退してからは指導者になって...東島大学で打撃コーチやって今は老後楽しんでるよ』
「もしかして佐々城和人の祖父の方ですか?」
「ん?そうだが...和人の知り合いか?」
「えぇ、まぁ同期なので...」
ほー、と軽く頷くと唐突に別の話題を切り出す。
「そういえばお前はお前の親父の死因知ってるか?」
「なんでいきなりそんな話題を...入水自殺でしょう?トラウマですからそう多くは話したくないです」
「...やっぱり原山、遺族にまでそんな嘘ついてたのか」
じ、自殺が嘘?どういうことだ?
「泰知はなぁ、原山と取っ組み合いになって川に突き落とされて死んだんだよ。お前があえてつけてる背番号の「7」月「2」日の夜にな」
驚きのあまり持っていたバットを離してしまい、室内にカランという乾いた音が響いた。
「...詳しく教えてください」
「泰知が過剰な労働に対して反発をしたら原山がそれにむかっ腹を立ててもめ合いになって泰知を川に突き落とした、といったところか?」
ふ、ふざけんなよあのクソ野郎...なにが自殺だ?計画的ではないとはいえてめぇの手で殺しんじゃねぇか...!
俺が怒りで震えていると二階堂さんはあごひげに手をやって俺に問う。
「どうだ、原山に復讐したい気持ちが膨らんだか?」
パソコンの試合の中継に原山が映りその姿を見て俺は今までにないほどハッキリと答えた。
「...はい。奴は球界どころか社会から追い出すべき人間ですよ」
「うむ、俺も同意見だ。あいつは青島の監督の時から性根の悪さは滲み出てたからな。だが泰知を殺した証拠は警察に大金を払ってもみ消したらから奴を牢獄にぶちこむことはもう不可能だろうな...だが一つ奴に屈辱を味会わせる方法があるぞ」
そう言うと落としたバットを持って俺の手に握らせる
「お前に泰知のフォームを伝授してやる。あのフォームならお前の才能が更に覚醒する可能性がある。そしてお前が横浜を優勝させろ」
なるほど、原山からすると殺した人間の息子がそいつと酷似したフォームで打っていたら敵討ちをされたような形になって屈辱を味わうかもしれない。そこまでは理解できる。
「でも俺が優勝させると言ったって...野球は一人でやるものではないでしょう」
「...お前は去年までいた筒号の圧倒的存在感を忘れたか?確かに野球は個人競技じゃないがそういうチームの顔という選手はどのチームにも絶対に必要となってくる。Cマークの後を継いだ矢野も頑張っているがまだ筒号ほどの存在感を放てていない。だからお前が矢野と二人で攻撃においてのチームの絶対的存在になれ。そうすれば必然とお前か矢野に決める時がやって来るだろう」
確かに筒号さんの存在の大きさは数字以上に凄かった。
不調でも投手は決して甘い球を放ることはできず厳しいところを攻めようとして神経を磨り減らされ、次の打者にうっかり甘い球を投げて痛打というケースは去年何度も見た。言わばあの人は打線の潤滑油にもなっていたのだろう。
もちろん筒号さん一人でやっているわけではないが、横浜があの人ありきのチームだったのは間違いない。
「だからお前は一刻も早く一軍の舞台に返り咲かないといけない。この間にも時間が惜しいぞ。一通り教えてやるから一回その通りに構えてみろ」
うーん...血筋が同じだからか佐々城と同様にせっかちな人だ。時間が惜しいのは間違いないが。
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二階堂さん曰く低めが得意だった父さんのフォームは今の俺にピッタリの最高のフォームだった。
バットを寝かせて構え、膝をほんの少し曲げて重心を落とし、前の足を若干開いてステップはほぼノーステップに近い。
これで試しにマシンを打ってみると驚くほどに低めが打ちやすく、高めも去年と同じような感覚で打てる。これが俺の理想のフォームだったのか。
父さんの遺した数少ないものを受け継ぐことができたのが嬉しくて自然と涙が溢れてきた。
「泣いてるのか?」
二階堂さんにふと指摘され、ハッ、となって目をこする。
「...いえ、ただの雨でしょう」
「ここは室内だろ」
二階堂さんのツッコミは無視させてもらって、とりあえずこのフォームをなんとか身につけて二軍で数字を残して早ければ1、2週間で一軍復帰を目指そう。
そのために今はただひたむきにバットを振り続けるしかない。
※おまけ
開幕スタメン OP戦成績
一番 中 梶 .320 2本 6打点 5盗塁
二番 二 芝田 .276 0本 4打点 6犠打
三番 一 ソス .254 5本 12打点
四番 左 矢野 .267 2本 9打点
五番 三 宮坂 .333 1本 5打点
六番 右 細山 .293 4本 7打点 2盗塁
七番 捕 伊東翔 .241 0本 2打点
八番 遊 山戸 .250 1本 4打点
九番 投 今永 2.05 2勝 0敗