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海獣達の野球記(ベースボールライフ)  作者: Corey滋賀
3章 ペナントサバイバル
35/65

32 予想と告白

シーズンももうすぐ終わりかぁ

梶谷も好きだけど首位打者は佐野がいいな


今年も球児達の運命を決めるドラフト会議がやって来た


その様子を和人達が部屋で見ていた


「今年の横浜のドラ1誰だと思う?」


田中がそう和人に質問する


「そうですね...俊足強打のサードの宇田君!」

「なるほど、じゃ、俺は今年の高校ナンバーワン左腕の瀧内(たきうち)かな。U18でも大活躍だったし球速、変化球、制球力、スタミナどれをとっても申し分ない。競合は必須だろうけど」

「俺も瀧内だと思いますね。高卒だから体は細いけれど総合力は他の高卒と比べてもダントツ高い。宇田はいい選手だけど今の横浜の補強ポイントじゃない」


と、浪川も田中の予想に乗る


「...いーや宇田君だね。絶対宇田君!」

「お前って意外と逆張り好きだよな」

「浪川くんには言われたくないよ!」


和人の頑固さが面白かったのか浪川が賭けを提案する


「そんじゃ、もし本当に一位が宇田だったら俺と田畑さんがお前の欲しいもん買ってやるよ」

「え、マジで!?気になってた新作のエロゲあるんだよね~」

「おいおい、勝手に俺巻き込むなよ。てか田中な?」


浪川は田中のツッコミはスルーして「ただし...」と付け加える


「瀧内だったら今日の焼き肉奢れよ。あ、もしその二人じゃなかったら割り勘な」

「ま、マジか...」

「おいちょっと待て。どっちにしろ俺得しねぇじゃねぇかそれ」

「だって最年長じゃないですか」

「お前ら俺をなんだと思ってんだよ」


田中が嘆くと丁度ドラフト会議の一巡目の指名が始まった


『大阪バッフルーズ...宇田誠吾、内野手、立館大学』

「ほーら!やっぱ宇田君はドラ1だよ」


和人がキャラクターがプリントされた抱き枕を抱きながらどや顔でふんぞり返る


その様子にイラついた浪川が小さく舌打ちをする


『東海スワンズ...瀧内要人、投手、北海三吉高校』

「瀧内来たぞ。今からでも撤回した方がいいんじゃないか?」

「いやいや、横浜は十分左腕揃ってるから絶対宇田君!」


浪川の挑発に乗らず胸を張って宣言する


『北海道フェアリーズ...名取健児、投手、プレゼンホテル』

「おぉ!名取か、俺こいつと対戦したことあんだ」


と、田中が懐かしがる


「対戦結果どうだったんですか?」

「4打数3安打。コントロールいいからむしろ打ちやすかった気がする」

「珍しいですね。コントロールいい投手が得意って」

「変に荒れてて狙い定めにくい奴よりは断然打ちやすい気がするからんだよ。だから俺菅沢さんとかそんな苦手じゃねぇんだよな」


田中が話に夢中になっていると横浜の指名が公表される


『横浜シーレックス...』

「宇田君宇田君宇田君....」


和人が念仏のように唱える


『瀧内要人、投手、北海三吉高校』

「はい、佐々城の奢り決定。お疲れさん」

「わ、わかんないよ!これでくじ外したら割り勘だ!」

「指名したっていう事実があるからそれはナシだな」


悔しくてじたばたする和人を横目に他球団の指名の行方を見る


そして全球団の指名が出揃い宇田がバッフルーズ、カール、ホームス3球団競合


瀧内がスワンズ、シーレックスの2球団競合、同じく名取もラビッツ、チーターズの2球団競合となった


まず宇田の抽選が始まる


息がつまるような緊張感の中、各球団のフロントがくじを手に取る


強く拳を上げたのはカールの監督の笹村


場内のカールファン達の歓声が上がる


「おー、宇田は広島か」


抱き枕に顔を埋める和人がため息をつく


「もし宇田君に会えたら今日のこと話そ...」


そして瀧内の抽選の番になった


抽選の台には三村新監督が上がった


ある意味これが三村の監督としての初陣である


地に「どうぞ」と譲られてくじを引く


緊張で開けるのを少しためらっていると隣の高地ががっくりと肩を落としていた


これで場内がざわめき三村が開けると当然だがそこには交渉権確定の文字が入っていた


安堵の笑顔とガッツポーズを見せる


「おし、瀧内確定」

「お!マジであの瀧内がうちに来るのか。楽しみだなぁ」


浪川と田中が盛り上がっているとそれが面白くなかったのか和人はふて寝してしまった



横浜シーレックス202×年度指名選手


1位 瀧内圭人(たきうちけいと) 高卒 投手 左/左

甲子園で名を轟かせた高校ナンバーワン投手。最速150km越えの速球と総合力は既にプロ級。緩急を使ったピッチングも魅力の一つ


2位 小鳥遊康也(たかなしこうや) 大卒 内野手 右/左

ヒットメーカーかと思いきや特大の一発も放てる左の中距離打者。本職のサードの守備も範囲は狭いが安定している


3位 稲地力斗(いなちりきと) 大卒 投手 右/右

抜群の制球力を誇るサブマリン。打者の手元で落ちる高速シンカーは魔球


4位 青木悟(あおきさとる) 社卒 内野手 右/左

50m5秒台の俊足のセカンド。大学から野球を始め、守備も悪くはないが打撃はまだまだ


5位 アレン・アティカス・(ゆう) 高卒 投手 外野手 右/右

アメリカ人の父をもつ身体能力抜群のハーフ。投げては最速148km、打っては高校通算29本でプロでも二刀流を目指すスケールの大きな選手


育成1位 宮村海音(みやむらかいと) 大卒 投手 左/左

非公式ながら最速160kmを記録した豪腕。制球力に大きな課題がありとても扱いにくい選手だが大化けする可能性も秘めている



焼肉店にて...


「うめー!人の金で食う飯は最高だな!」


ビールを飲みながら田中が和人を煽る


「最低だ!よりにもよってバカ高いA5の和肉頼むなんて!」


血の涙を流す和人を浪川がなだめる


「お前も食うんだしいいだろ。賭けに乗ったお前が悪いんだから...酒飲まないのか?」

「飲まないっていうか飲めないんだよね。すぐ酔っちゃうから」

「ほぉ、そこは俺と同じだな。俺も酒は弱い」

「...じゃ、来年のビールかけは僕達楽しめないかもね」


和人強気な発言に浪川が笑う


「いや、その時は別だな」


三人は焼肉を堪能し、田中は飲み過ぎて二人の肩を借りて寮に帰って寮長にこっぴどく叱られた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※和人視点


突然だが僕は今日...美波さんに告白しようと思っている


今も実質付き合っているようなものだが正式にお付き合いしたほうが今後のためかと考えて、ちゃんと自分の口で伝えるつもりだ


だけどなんだか今さら好きだって伝えるのも恥ずかしいし、万が一断られたら立ち直れる気がしない


そう女々しくうじうじしていると今年イースタンで本塁打打点の二冠王に輝いた細山君に話しかけられる


「佐々城さんどうしたんすか。そんなに縮こまって」

「あぁ、いやね、あんまり大きな声で言えないけどいい感じの人に告白しようかなと思ってさ...」

「えっ!?佐々城さん彼女いなかった...」

「ちょっ!大声で言うなよ!」


相変わらず脳筋というか力を抑えられない子だなぁ


「す、すいません。とっくに彼女いるのかと思ってたんで驚いちゃいました」

「え、なんで?」

「だって佐々城さん美少年顔じゃないですか。逆になんでいままで彼女いかったのか不思議なんですけど...」

「それは僕にもわからないしそもそも僕は自分の顔は好きじゃないんだ。しょっちゅう女子と間違えられるし男らしくない」


これは謙遜とかそういうの無しの本音だ


本音をいうと浪川くんとかみたいなイケメンタイプの顔に生まれたかった


「まぁ、それはそれとして告白頑張ってくださいね。俺はそういうのよくわかんないので応援することしかできませんけども」

「ありかどう。とりあえずビビらず頑張ってみるよ!」


そしてその夜、デートの時がやってきた


11月ということもあり外は冷え込んでいて少し厚着をしたが、会ってみると彼女はセーターに少し長めのスカートを着ていた


「あれ、この時季にスカートって寒くないんですか?」

「ロングとはいえ多少寒いです...でもおしゃれは我慢しないといけませんから!」


女子って大変なんだな


服装のためにそこまでしないといけないなんて


一瞬強風でスカートがめくれないかなぁと、やましい想像したがなんだか申し訳ない気持ちになった


「それじゃ買いにいきましょうか。私のセンスで大丈夫かわかりませんけど」


あぁ、そうそう、今日の本来の目的は妹の誕生日が近いから服を買ってやろうかと思ってたけど男の僕じゃどういう服を買えばいいのかわからないから美波さんに手伝ってもらうことなんだった


「大丈夫ですよ。服装見る限り僕よりは絶対センスいいから」


まずその目的を果たすべくブランドものの服屋に入ると僕には未知の世界が広がっていた


「おわー...(なご)、何買っても喜びそうだなコレ」

「妹さん和さんて言うんですね」

「うん、今高二で彼氏ができたっぽくてお洒落に目覚めてめんどくさい感じに...」

「それはそうでしょう。彼氏って一番自分を見てほしい人なんですから」


「へー、そういうもんですかね?...僕にはよくわからないや」


そんな他愛もない会話をしながら似合いそうな服を探していると一つ案を思い付いた


「あ、そうだ。似合いそうだなって思った服、美波さんが一回試着してみて下さいよ。そっちの方が決めやすいと思う」


まぁその気持ちもないことはないが、本音は美波さんにいろんな服を着てもらいたいという僕の欲だ


「確かに生身の人が着た方が参考にしやすいかもしれないですね。じゃあ、試着してみます」


そして、これからの季節に向けて選んだセーターを試着してもらったがサイズが大きかったのか少しぶかぶかになってしまった


「あの...これちょっと私には大きかったかも...」


すっかり彼女の身長を忘れてしまっていたが、ぶかぶかの服を着る美波さんも可愛かったので個人的にはよしとしよう


そしてなんやかんや見ていくうちにお洒落で和の好きな白がベースの上着を買うことになった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※美波視点



買い物を終えた私たちはベンチに腰掛け会話をする


「佐々城さんの決めた物ならきっと妹さん喜びますよ」

「そうかな?ならいいけど...」


...なんだか今日の佐々城さん変?


そわそわしてて落ち着きがない感じがする


そんなことを思っていると目の前に今の時期ならではの焼き芋屋さんがあったことに気づいた


お昼は一緒に2時くらいにがっつり食べて今は夕方の5時


私からすると小腹が空くような時間だけれど佐々城さんに結構大食いなことバレたくないなぁ


でももしかしたら初めてのデートで佐々城さんが予定忘れてドタキャンしちゃったときに注文した二人分の料理食べちゃったし、もしかしたら既にバレてるかもしれないけど...


会話しながら我慢しようと目線から外しても自然と目に入ってしまい、体が我慢できずお腹が鳴ってしまった


あ、あぁ...恥ずかしい...


顔を真っ赤にして佐々城さんの顔を見ないように少しうつ向いて呟く


そんな私を気遣ってくれたのか


「あー、今5時かぁ。お腹すきましたね。丁度焼き芋屋さんあるんで買いましょうか?」


と、声をかけてくれた


「い、いえ大丈夫です!」


けれど、その優しさに反発してしまい自分を怒りたい気分になった


「そんな、我慢しないでいいですよ。別に奢るくらいなんでもないですし」


ありがたいけど違う!そうじゃなくて...


「女子が大食いって佐々城さんは嫌じゃないんですか?」


そう質問すると目を丸くする


「え?むしろよく食べる子って健康的でいいと思いますよ。個人的にげっそりしてるよりよっぽどいいです。それに美波さんが幸せそうに食べてる姿見ると僕も嬉しくなるっていうか...だから全然嫌なんかじゃありませんよ」


佐々城さんが照れくさそうにニコッと笑顔でそう返答すると胸が少しドキドキした


「そ、それならお言葉に甘えて...」


その衝動で素直になって佐々城さんと一個づつ焼き芋を買ってもらった


「んー...丁度旬だから甘くて美味しいですね」

「は、はい。美味しいです」


けどそれ以上に佐々城さんを見るとドキドキが止まらなくなってどうにかなりそう。こんな気持ち初めて...


食べ終えるとずっと考え事をしてそうだった佐々城さんが何かを決心したのかよし、と一呼吸する


「え、ど、どうしたんですか?...っひゃっ!」


私の手を握って真っ直ぐ目を見る


こうやって手を握ってもらうと佐々城さんの手が細長いけれど皮が厚くて野球をやってきた人の手だなと分かる


「星美波さん...僕と付き合って下さい!絶っっ対二股とかしません!二次元以外は!」


...あ、確かにこの前佐々城さんのお姉さんに聞いた話だともう既に私が彼女みたいなことになってたけどお互いに告白も何も無かったけど...いざ告白してもらうと凄い嬉しいけど恥ずかしいなぁ


「わ、私なんかが聞くのもなんですが、私のどこがいいんですか?」


「性格いいし、巨乳安産型だし、星形の髪飾りも可愛いし、しぐさも可愛いし、顔も可愛いし、もうとにかくすべてが好きです!だから付き合って下さい!」


吹っ切れような佐々城さんが結構な大声で告白してくれた


一つ褒め言葉か怪しいものもあったけど


「こ、こちらこそよろしくお願いします!」


すると、佐々城さんはホッとしたような表情で一息つく


「よかったぁ...万が一振られてたらヤバかったよ...」

「私なんかが佐々城さんを振れるわけないじゃないですか。横浜に欠かせない素晴らしい選手なんですから」

「そう言ってくれると嬉しいけど...その...付き合ってるからには下の名前で呼んでくれると嬉しいかな?タメ口とか」

「し、下の名前でタメ口かぁ...和人さん...これでいい?」


すると和人さんが自分の胸に右手を当てて尊い物を見るような顔をしていた


「ついに僕に彼女ができたんだなぁ...!」


あはは、やっぱり和人さんてちょっと変わってて面白いなぁ


「あ、それじゃあ他に予定があるので私はこれくらいで。今日のプレゼント、喜んでもらえたらいいでs...もらえたらいいね」

「うん。美波ちゃんも大学の卒論と就活がんばってね!」


うっ、痛いところをつかれた...って美波ちゃん?


美波ちゃん...美波ちゃん...凄いいい!


そうやって帰り道にずっと今後の呼ばれ方を考えてニヤニヤしてしまった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※和人視点


「美波ちゃんのあどけない顔がすっごい良くてさぁ!」


実家に帰って和にプレゼントをあげたついでにこたつでのろけ話をした


「ママー、今日のカズ(にい)めっちゃめんどくさいんだけど...てか彼女できたならエロゲーやめなよ」

「うるさい、エロゲーはただの趣味だよ」


台所で料理をしていた母さんがそれはそうと、と話題を変える


「カズなんでCS(クライマックス)で投げてなかったの?中継ぎエースなのに接戦でも出てこなかったじゃない」

「あー、確かに出てなかったね」


そうだ、家族に迷惑をかけたくなかったからイップスの話はしてなかったから確かに不自然に思われてもおかしくないか


「い、いやぁさ、コンディション悪くて出場辞退したんだよ」

「...それ本当?」


いつもにこやかな母さんの目が細く鋭い目付きになった


「本当だよ」


まぁ嘘は言ってないよな、コンディション不良って


「それならいいけど、大舞台でカズが投げてる姿見たかったなぁ」

「それは来年見れるから我慢しなよ」

「カズ兄ってたまにビックマウスだよねぇ」

「それくらい言わないと叶わないからね。来年マジで160出すから見てろよ」


豪語すると、和が鼻で笑う


「どうせなら身長くらい出すって言いなよ167」

「お前の身長は今年軽く出したぞ156が」

「男の癖に女子と競って恥ずかしくないの?同じ男と比べなよ。浪川さんとか...あ、身長も顔も負けてるから比べるのかわいそうかぁ」

「めんどくさいし浪川くんのサイン貰うのやーめた」

「ごめんごめん。それだけはやめて!」


実家に戻ってきてこういうしょーもない会話も悪くない...でも僕はもっと厳しい所に身を置かないとダメになってしまうような気もするが、まぁとりあえず今はこの暖かい環境で体と心を休めよう

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