30 CS初陣
30話!
ここまで書けたのは暖かい目で読んでくださる方々のお陰です
本当にありがとうございます
これからもよろしくお願いします
※浪川視点
ファイナルステージ初戦当日
俺は試合直前まで自分の弱点を調べに調べたが本当に目立ったようなものは見当たらなかった
追い込まれて打率が下がるのはそれはもう仕方がないことだし三振だってランナーが三塁とかいるならまだしもそれ以外ならフライやゴロと同じアウトに過ぎない
険しい顔をしながらデータをみる俺に伊東さんが
「どうした、球種別打率なんて見て」
と、声をかけてきた
「あぁ、特になんでもないですよ。気にしないでください」
そう突き放そうとするとまぁそう言うなとそのデータを見る
「はー...なるほど...特別に苦手な球種ってのは無さそうだが...」
そしてカウント別の打率とコース別打率にも目をやると伊東さんが何かに気づいたのか、ん?と少し声を出す
「なんでお前フォークの打率高いのになんで低めのコース一割台なの?普通フォークってのは落とすボールだろ?それが得意なのに低めの打率が低いっておかしな話じゃないか?」
言われてみて今更気づいた
自分では意識していなかったが確かに不自然だ
「となると打ててないのは恐らく...ストレートだな。お前は高めのストレートにはめっぽう強いがインローアウトローに決められると下手したら1割も打ててない。原因として一つあげるならお前のフォームだ。重心が高くて棒立ちみたいな感じだから高めの速い球は打てる分低めに速いボールを投げられると対応が厳しくなる。一時期は3割打ってたのに終盤になって打率を落としたのはそれがバレたからかもしれないな」
各球団の捕手はそれを俺に気づかせないためにそこだけに投げるようなことはさせなかったのだろう
なるほど、この程度のことも分からなかった俺が正捕手になどなれるはずがない
そう納得しながらもふと疑問を抱く
「なんで正捕手の座を争ってる俺にそんなアドバイスするんですか?これで打てなくなる方が好都合でしょう」
それを聞いて伊東さんは突然笑いだした
「はは、安心しろよ。そんな簡単には奪わせねぇから。打撃と走塁と肩は負けるがお前はリードもフレーミングもまだまだヘボだ。理想としてはあと二、三年後にお前が守備面で俺を越してマスクを奪ってほしいところだけど」
まっすぐ俺の目を見てだから、と付け加える
「もっとコーチとか俺とか先輩に頼れ。教えた選手が大きく成長することは先輩としても花が高いしな。こないだお前が細山に指導してたの見たんだが後輩とか年下にはには頼れってよく言うのに自分が頼ってないんじゃ信憑性ないぜ?」
その話をされたくなかった俺は伊東さんに
「はい、そうですよね」
と、軽くあしらってグラウンドに向かう準備をした
伊東さんは俺の冷めたその態度にも怒らず
「ほんとにわかってんのか?」
と、笑ってスパイクの紐を結び直した
スタメン
【横浜シーレックス】
一番 中 神城
二番 右 浪川
三番 二 ソス
四番 左 筒号
五番 三 宮坂
六番 一 ロベス
七番 捕 伊東翔
八番 投 今永
九番 遊 山戸
【東京ラビッツ】
一番 二 吉河尚
二番 中 丸山
三番 遊 坂木
四番 三 岡
五番 一 大石
六番 右 亀田
七番 左 ゲルーロ
八番 捕 大林
九番 投 菅沢
二番の俺は初回にCSの初打席が回ってきた
初球は俺の苦手なインコースへのストレートでストライクを先行されると二球目は真ん中高めのボール球を手を出しそうになりながらも見逃してボール
そしてストライクを取りに来るだろうと予想した三球目はインコース低めに来たフォーク
少しボール気味だったがバットの先で拾いセカンドの頭上を越えるライト前へのヒットを放った
出塁したので盗塁を仕掛けようかと考えたが菅沢さんのクイックの早さを考慮してスタートを切らず、後続が抑えられこの回は無得点
試合が動いたのは4回裏
坂木さんがツーベースを放つと、五番の大石さんの犠牲フライで先制を許した
それに負けじと5回表にソスがレフトスタンド中段に打ち込むソロホームランを放ち同点に追い付き、続く筒号さんもライトへのホームランと、一発攻勢の二者連続本塁打で2-1と勝ち越した
先発の今永さんもその後の同点を許さず7回1失点のHQSで試合を作った
しかし横浜も相手先発の菅沢さんは俺の1本のヒットとソスと筒号さんの一発以外はほぼランナーを許さない好投で追加点を取れない状況でいた
そして8回裏、ラビッツに流れが行きかける
継投に入った横浜はエスターを投入するも先頭の亀田さんにフォアボール、続くゲルーロにもヒットで繋がれて無死1、3塁のピンチになってしまった
それでも続く大林さんはセカンドフライに打ち取り、九番の菅沢さんの所に代打重里さんが送られる
ツーストライクまで追い込むもストレートを弾き返され俺の守るライトに飛んでくる
しかし伸びがなく、素早く捕球態勢に入ってホームへ送球
俺の肩に警戒したのか亀田さんもタッチアップできずひとまずツーアウトまでもっていった
そして今日2安打と当たっている吉河さんと対戦
初球をねらっていたか引っ張り、素早いゴロがライト前に...
抜けるかと思いきやこの回守備固めで出場のセカンドの芝田さんが横っ飛びで掴み素早く一塁へ送球
素晴らしいプレーに思わず俺も声と拍手が出た
流れを絶ちきった横浜は最終回攻撃は俺から始まる
絶対追加点を許したくないラビッツは守護神のベルロサを投入
俺は初回こそヒットを打ったもののあとの2打席は分かっていてもどうも打てない苦手な低めのストレートにやられノーヒット
追い込まれてそこに投げ込まれるならいっそと初球からセーフティーをしかける
サードの岡さんが素早くさばくもののセーフになり、先頭から塁に出ることができた
こうなればしかける他ない
いくら最速160を越える投手とはいえ菅沢さんほどのクイックを見た後なら盗塁も容易い
牽制を2度挟まれた二球目にスタートを切り盗塁成功
そしてさっきの回からロベスさんに変わってファーストを守っているソスがスライダーを捉え、右中間破るタイムリーツーベースで大きな大きな追加点が入った
裏は当然絶対的守護神の山崎さんを投入
やや危ない所もあったが最後は三振で締めゲームセット
中継ぎの一角の佐々城が不在ながら初戦をものにし、ラビッツのアドバンテージを含む1勝1敗
今永さんがヒーローインタビューで「初戦を取れたのは大きい。この流れのまま日本シリーズまで駆け上がってみせます」と強く宣言して見せていた
横浜 000 020 001|3
東京 000 100 000|1
投手
横浜 今永ーエスターー山崎
東京 菅沢ーベルロサ
本塁打
横浜 4回表ソス1号【ソロ】 4回表筒号1号【ソロ】
※和人視点
僕はイメージトレーニングを兼ねてTVで横浜がラビッツに勝利し、みんながハイタッチをして喜んでいる姿を見て嬉しい反面悔しい気持ちで一杯になった
岡くんが打席に立っている場面はまともに見ることができず過呼吸になってしまったからだ
気持ちの浮き沈みで少し疲れているところ、美波さんからラインが届いた
『横浜勝ちましたね!みんなと一緒に戦えないのは苦しいかもしれませんが佐々城さんも一歩一歩着実に進んでます。あなたは私の憧れですからなにがあっても絶対信じてますよ!』
その言葉に元気をもらいつつ、ずっと疑問に思っていたことを聞く
『そう言ってくれてありがとう。本当に心の支えになるよ。あと、ずっと気になってたんだけどなんで僕が憧れなの?僕よりかっこいい選手なんてもっといっぱいいるじゃん。ほら、今永さんとか神城さんとか浪川くんとか、遡れば上園さんとかもイケメンだし』
少し時間をおいて彼女から返信がきた
『私、中学まで野球やってたんです。ポジションはピッチャーで大会でも結構いいとこまで行って。だから女子硬式野球部のある相模高校に進学したんですけど...みんな私より体の大きい人ばっかりですぐ自信無くしました。所詮井の中の蛙だったんだなって...1ヶ月足らずで退部して暫く心ここにあらずの状態でした。でもたまたま地方のテレビでやってた野球の夏の県大会で初めてあなたを見た時びっくりしました。私と同じように背が小さいのに名門の横商で二年生なのに4番を打っているなんてありえないじゃないですか。私はその姿に元気をもらってもう一度野球をやることができたんです。だからあなたが正教大学に進学しても陰ながら応援して地元のシーレックスに入団した時はものすごく嬉しくて...だから佐々城さんは私の憧れの選手なんです』
そんな経緯があったのか...
なんだか照れくさいけど嬉しいや
『でもそれはただ僕が足掛かりになっただけでソフトボールをまたやる決心をしたのは美波さんだよ。君は僕よりよっぽどメンタルが強い。僕なんかいっぺん打ち込まれただけでこの有り様だよ?』
『そんなことないです!あの重要な場面で打たれてしまったら誰だってトラウマになりますよ』
『ならそんな場面で打たれた僕が悪いのさ。こんな目に遭って自業自得だよ』
自分でも虚しくなりながら自虐していると美波さんがついに電話を掛けてきた
『もしもし?』
『今の佐々城さん...ぜんっぜんかっこよくないです!素人だからあんまり偉そうなことは言えませんけどいつもだったらふざけながらも真っ向からやり返してやろうっていう覇気が伝わるのに今のあなたは自分を責めるだけで何も感じません。どんな投手だって打たれるときはあります。そのタイミングがたまたまあの試合になってしまったというだけでそれ以上でもそれ以下でもないじゃないですか。イップスが辛いのはわかりますけどだからって自分を責めてたら余計辛くなりますよ!』
彼女の珍しい怒りに少し呆然とする
『あ、ありがとう。久しぶりに怒られてなんだか冴えた気分になったよ...そうだよね、打たれたタイミングがたまたま最悪だっただけだよね。励ましてもらってもっと元気もらったよ』
彼女は僕の反応が予想外だったのかちょっと戸惑う
『そ、それならよかったですけど...そうやってあっさり人の言葉に流されるくらい素直すぎてもダメですよ!』
『誰にでもは流されないよ。素直になれるのは相手が美波さんだから』
その言葉に照れたのか
『うぅ...さ、佐々城さんってそうやって褒めるのだけはお上手ですよね...私なんて気にせず頑張ってください。それじゃあ...』
と、電話をさっと切ってしまった
そういうとこも可愛いなぁと思いながら勝利を喜ぶシーレックスのみんなの姿をじっと見つめて自然と笑みがこぼれるようになった
待ってろよチームの皆、そして岡くん
いつか平気な顔して君を抑えてやるから覚悟しておけ!




