27 終戦
ノーノーはないやろぉ...
和人の初先発の翌日、話があると監督室に呼び出され本格的な先発転向の打診を受けた
和人は元々ローテの即戦力としての期待を受けて入団した投手のため、やっと本来の自分の立ち位置を掴めると喜んだ
しかし、和人が中継ぎ陣を抜けるとなるとリリーフ陣の台所事情は必然的に頼れる三島、エスターは連投に次ぐ連投厳しいものとなるため、残り数試合の短期決戦では明らかに不利なることは和人自身重々承知していた
そして、和人が選んだのは優勝争い真っ只中のチームの勝利だった
「サミネス監督。僕の夢は勿論横浜のエースですけど...今シーズンは最後まで中継ぎでいかせてください。お気持ちはありがたいんですがここまできたら中継ぎとしてチームに貢献して優勝したいんです」
悩んだ末の決断にサミネスが納得したように笑顔で頷き握手をして用件はこれだけ、と退室を促す
和人は悔いの無い表情で監督室を後にする
そしてその決断から数日が経ち、遂にシーズン最終戦が訪れた
この試合は偶然にもこの前の雨で流れたラビッツとの直接対決で差は0.5のためこの試合に勝った方が優勝という今シーズンの最大の山場となった
先発投手はラビッツが桜木、シーレックスが東山
この試合はまず2回に浪川の2ランホームランで先制する
その後丸山のタイムリーで一点を返されるもここで抑えれば優勝という9回に山崎がワンナウト3塁で大林に同点打を浴び、たった1打で夢の栄冠が遠退いた
そして2-2の同点のまま延長に突入し10回に和人がマウンドに投入される
轟き合う声援と両軍のピリピリとした空気
この異様な雰囲気にルーキーである和人は動揺し、投球練習ですら体が震える
(な、なんだこの重圧感...体が鎖でしばりつけられたみたいになってボールが思うようにいかない...)
優勝争いの経験がある捕手の伊東は佐々城に声をかけて、落ち着かせようとする
「佐々城。声援とかそういうの気にせずいつも通りいけ。ここはただのハマスタでただの試合でいつもとなんら変わりないよ」
「は、はい。頑張ります...」
普段の元気で明るい和人が見る影もないほどに怯える姿に選手やファンが心配する
そして、残念なことにその不安は案の定的中する
先頭の吉河をあっさりとフォアボールで塁に出すと、続く坂木にはセンター前ヒット、丸山にもフォアボールで和人は無死満塁の絶体絶命のピンチに陥る
この痺れる場面、岡が堂々と打席に立つ
まずい、と更に和人の鼓動が早くなる
なんとか投げ込むきわどいボールをカットされ後がなくなった和人は空振りを狙うためにカーブを選択
しかし焦りから投げたそのカーブは抜け球となり真ん中へ
それを4番の岡が見逃すはずもなくフルスイング
引っ張った打球は無情にも左中間を破り、走者一掃のタイムリーツーベースとなった
ラビッツファンの轟くような歓声とシーレックスファンのがっくりと肩を落とし、涙を流す姿を見て和人は少しえづき、吐きそうになった
その後も中嶋にタイムリーを許し結果ワンナウトを取ったところで降板
3分の1回を投げて4失点のプロ初の大炎上に辛くてベンチでもまともに顔を上げられなかった
その裏の攻撃もシーレックスは反撃の狼煙をあげることなく敗北
原山が胴上げをされる姿を見て野球道具を大切にする浪川にしては珍しくグローブを地面に叩きつけて無言のままロッカーに下がる
しかしチームキャプテンの筒号は逆転V逸、目の前で胴上げという辛い現実から全く目をそらさずそれを意味深にじっと見つめていた
東京 000 000 002 4|6
横浜 020 000 000 0|2
投手
東京 桜木ー田垣ー仲川ーベルロサ
横浜 東山ーエスターー山崎ー佐々城
本塁打
横浜 浪川32号【ツーラン】
ロッカーは静まり返り初めての大炎上で敗戦投手となった和人は悔しさや不甲斐なさで止まらない涙をタオルで拭っていた
そんな中浪川が和人に詰め寄る
恐らく慰めるのだろうと皆が思った瞬間だった
顔に思いきり平手打ちし、呆然とする和人を睨みつけ、怒号を浴びせる
「てめぇ、甘ったれてんじゃねぇぞ」
「...え?」
「先輩達は優しいから誰も言わなかったが俺はズバズバ言うからな。なんで打たれる前から打ち込まれたような情けねぇ顔してんだ?野球ってのは表情から駆け引きは始まってるんだぞ。あんな顔した投手を誰が恐れると思う?今日のお前は打たれて当然なんだよ」
怒る浪川をチームキャプテンの筒号がなだめさせようと肩を優しく叩く
「浪川。佐々城だってわざと打たれたわけじゃないんだからそう責めてやるな」
「はい、それは勿論そうですよ。ですから俺は打たれたことが悪いとは一言も言ってません。実際外野から見ても良い球はそこそこ行ってましたし、俺が腹を立てているのはこいつの投球に対する態度ですから」
「だとしてもそれは後でゆっくり話せばいい。今一番辛いのは佐々城なんだから少し落ち着かせてやれ」
ショックで遠い目になっている普段とは別人のような和人の姿を見て浪川も落ち着きを取り戻す
「...はい、わかりました...いきなり怒鳴って悪かった」
浪川が謝ると少し落ち着きを取り戻した和人はふらふらと通夜ムードのロッカーを出て廊下で一人座り込む
一番重要な試合で無抵抗に打ち込まれた情けない自分が苦しくてムカついて仕方なかった
そこに決勝打を打たれた岡が偶然通りかかる
「あー、えっと...なにしてんのここで?」
同級生のため、タメ口で話しかけてきた
「君こそなにしてんだよ、ラビッツのロッカーはあっちだろ?」
「あ、そうだ。ごめん、間違えた」
「ったく...俺ロッカーの場所間違えるような奴に打たれたのかよぉ...」
和人は頭を抱えてため息をつくと、岡がやっと和人が誰だかを思い出す
「あー、なんか女子みたいだなって思ったら佐々城か。帽子とると結構別人だね」
「女の子みたいってのは余計だけど、そうだよ。君に決勝打を打たれた情けねぇピッチャーの佐々城」
和人の自虐に岡が否定する
「情けない?それはないでしょ。こんな大舞台で投げてる時点で凄いよ。あの1打でだって偶然真ん中に来ただけでそれ以外のボールはカットするだけで精一杯だったし。お前にはいっつも抑えられてるイメージしかないよ」
「...無理して褒めてくれてありがと。つーか君はさっさとあっちに戻ったほうがいいんじゃない?ビールかけとかあるだろうし」
「あ、そうか。それじゃまたcsで会おうな、佐々城」
少し急ぎ足で来た道を戻ってラビッツのロッカーに行く岡を見送り涙がかれた和人は一息つくとやっとレギュラーシーズンの1年が終わったことを実感し悔しさで胸が一杯になる
『ここまできたら中継ぎとしてチームに貢献して優勝したいんです』
(あぁ...ちくしょう、監督にこんなこと宣言しておいてこのザマかよ...1年目が最後の最後でこんな最悪な気分で終わるなんて想像もしてなかったぞ...)
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レギュラーシーズン終了
セ・リーグ順位表
東京ラビッツ 優勝 79勝61敗3分
横浜シーレックス 0.5 79勝62敗2分
広島カール 9.5 70勝72敗1分
名古屋スネークス 2.0 68勝74敗1分
兵庫タイガース 0.5 67勝74敗2分
東海スワンズ 3.0 63勝77敗2分
パ・リーグ順位表
福岡ホームス 優勝 77勝65敗1分
埼玉チーターズ 1.5 75勝66敗2分
東北イーグルス 3.0 72勝69敗2分
千葉マーリンズ 2.5 70勝70敗3分
北海道フェアリーズ 4.0 66勝74敗3分
大阪バッフルーズ 4.0 62勝78敗3分
シーレックス打線 ※()は併用
中 神城 .287 8本 48打点 24盗塁
(梶) .254 4本 17打点 7盗塁
三 宮坂 .334 18本 77打点
右捕浪川 .287 32本 102打点 23盗塁
左 筒号 .301 33本 91打点
二 ソス .274 43本 115打点
一 ロベス .252 21本 68打点
捕 伊東翔 .252 7本 39打点 6盗塁
遊 芝田 .262 6本 46打点 6盗塁
(山戸) .258 2本 29打点 5盗塁
主な控え
戸羽 .215 1本 9打点
嶺岡 .194 1本 8打点
矢野 .297 6本 27打点
田中 .272 3本 24打点 5盗塁
乙見 .243 2本 13打点 2盗塁
倉木 .263 1本 16打点
主な先発陣
今永 2.51 14勝 7敗
神茶谷 3.62 8勝 7敗
ウォン 2.42 12勝 3敗
浜川 3.20 7勝 5敗
東山 3.04 10勝 6敗
伊能 4.01 8勝 8敗
主な中継ぎ陣
佐々城 2.04 2勝 2敗 32HP 1S
エスター 2.45 3勝 1敗 34HP 2S
三島 3.36 3勝 2敗 14HP
無藤 3.61 0勝 1敗 7HP
国枝 4.15 1勝 2敗 8HP
守護神
山崎 1.54 2勝 2敗 3HP 39S
セ・リーグ野手タイトル
新人王 横浜 浪川
首位打者 横浜 宮坂 .334
東京 坂木
本塁打王 横浜 ソス 43本
打点王 横浜 ソス 115打点
最高出塁率 広島 須々木 .412
盗塁王 東海 山本 36盗塁
セ・リーグ投手タイトル
新人特別賞 横浜 佐々城
沢村賞 東京 菅沢
最優秀防御率 東京 菅沢 2.28
最高勝率 東京 菅沢
最多勝 東京 菅沢 15勝
最多奪三振 横浜 今永 191個
最優秀中継ぎ 東京 仲川 43HP
最多セーブ 横浜 山崎 39S
パ・リーグ野手タイトル
新人特別賞 大阪 冨樫
首位打者 福岡 柳井 .347
本塁打王 埼玉 山下 43本
打点王 埼玉 山下 121打点
最高出塁率 大阪 吉岡 .426
盗塁王 北海道 北川 48盗塁
パ・リーグ投手タイトル首位
新人王 福岡 小木
最優秀防御率 大阪 山形 1.93
最高勝率 北海道 有岡
最多勝 福岡 千香 17勝
奪三振 福岡 千香 194個
最優秀中継ぎ 東北 盛原 38HP
最多セーブ 千葉 枡田 36S
セ・リーグベストナイン
投手 東京 菅沢 2.28 15勝 5敗
捕手 兵庫 梅林 .278 13本 63打点 4盗塁
一塁 名古屋 ビジエト .316 24本 88打点
二塁 東海 山本 .287 34本 91打点 31盗塁
三塁 東京 岡 .274 36本 97打点
遊撃 東京 坂木 .334 21本 77打点 8盗塁
外野 横浜 筒号 .301 33本 91打点
東京 丸山 .289 27本 86打点 23盗塁
広島 須々木 .331 22本 78打点 12盗塁
パ・リーグベストナイン
投手 福岡 千香 2.43 17勝 6敗
捕手 埼玉 森山 .328 21本 96打点
一塁 埼玉 山下 .263 43本 121打点
二塁 東北 浅井 .282 33本 95打点 4盗塁
三塁 福岡 松木 .264 28本 76打点
遊撃 埼玉 源 .274 3本 47打点 34盗塁
外野 大阪 吉岡 .330 27本 92打点
埼玉 秋津 .312 16本 62打点 18盗塁
千葉 萩村 .302 8本 46打点 32盗塁
DH 福岡 デスペーノ .267 36本 105打点
セ・リーグゴールデングラブ
投手 兵庫 西宮
捕手 兵庫 梅林
一塁 横浜 ロベス
二塁 広島 菊田
三塁 名古屋 高柳
遊撃 名古屋 行田
外野 東京 丸山
横浜 浪川
広島 須々木
パ・リーグゴールデングラブ
投手 大阪 山形
捕手 福岡 甲斐谷
一塁 福岡 内山
二塁 東北 浅井
三塁 福岡 松木
遊撃 埼玉 源
外野 埼玉 秋津
千葉 萩村
北海道 北川