25 浪川のデート その2
ラミちゃん采配経験値リセットされてない?
投手にはバントさせようよ
追記 女友達から聞いたんですけどキスマークって口紅の跡じゃないんですね
童貞バレちゃった
※浪川視点
「うん、あなたの言った通り美味しいわね。ここの麻婆豆腐」
無表情なせいであまり美味そうに食べているとは思えないがいつもより少し明るい声色に少しほっとする
「だろ?俺の舌に間違いはねぇ」
「あら、高校の時私の作ったレモンの蜂蜜漬けに勝手に羊羮入れたバカ舌はどこの誰かしら?」
「レモンの酸味を羊羮の甘さがカバーしてより美味くなるんだよ。お前こそバカか?」
「蜂蜜で漬けてあるのにそれ以上甘くしてどうするのよ」
やはり優香里は分かっていないな
羊羮ほど何にでも合う食べ物はないぞ?
まぁそれはいいとして...
「まだ聞いてなかったんだが、なんでお前横浜居んの?実家継がずに一人暮らしでもしてんのか?」
俺がずっと気になっていたことを問うと優香里が少し苦笑いをする
「今の彼氏の地元なのよ。ここ」
「...へぇ、そうなのか」
驚きとショックで声が小さくなる
耐えろ俺、なんとか耐えろ
ちょっとでもヨリを戻せるとでも思う方が間違ってた
そう自分に言い聞かせていると優香里が続けて話す
「まぁ、彼氏といってもお互いの両親が勝手に婚約を決めた無理矢理なものだけど。彼の実家結構大きな会社なのよ」
「...ほー」
「で、今日彼に「元カレと会う約束がある」って言っても快く行かせてくれたし恐らくお互いに気はないみたいね。所詮は両親同士の決めたものだから仕方ないけど」
「大変だな」
軽く返事をしたが実際には優香里と結婚できるにも関わらず結婚する気がないその男がどんな男か見てみたい気持ちでいっぱいだった
「なによそれ。あなたほんとに他人事には興味ないのね」
あ、優香里の声色が少し低くなった
これはあいつが機嫌が悪い時の証拠だ
あまり他人に興味を持たない俺とはいえ流石に元カノの行動の特徴くらい少しは覚えてる
「そんなことねぇよ。あー...なんつーか、その婚約者もお前もお互いに結婚に積極的な感じじゃないって聞いて安心したぞ。俺は元カノとはいえお前には好きな人と結婚して欲しいと心から思ってるからな。幸せにならない婚約なんて無駄だ。破棄しちまった方がいい」
俺のくさい綺麗事が面白かったのか優香里が機嫌を取り戻してクスッと笑う
「相変わらずあなたは計算高そうで無鉄砲ね。婚約を破棄するってそんな簡単なものじゃないわよ。私は今親に反抗できる立場じゃないから」
「は?なんで?」
「だいぶ遡ると両親は私を本当だったら高校は大阪の学力トップの高校に進学させるつもりだったらしいんだけれど「高校は自分に決めさせて」って訴えたの。だって私一人っ子だから卒業したらどうせ茶屋を継がされるんだしそれくらいの選択権持っててもいいでしょ?それで私は昔から甲子園に足を運ぶくらい野球観戦が好きだったから野球の名門校の大阪学蔭を選んでマネージャーになったの。でもその代わり両親の反感を買って...私は高校卒業してからは親に完全いいなりの縦に頷くあかべこ状態なのよ」
「なるほどねぇ...」
俺は優香里の自語りからするにやはりこいつの家庭に「温かさ」というものは無に等しいのだろうと察した
こいつの両親は完全に優香里を一人の娘ではなく一つの道具として見て扱っている
ほとんどの事に優香里に選択権は無く何事も親の勝手な判断で決められる
将来も結婚も...
「お前はそれで人生楽しいのか?」
ふと疑問が口に出る
「え?」
「そのままの意味だよ。楽しいのか退屈なのか」
優香里は戸惑って口を少し開閉してから拳をグッと握りしめて答える
「た、楽しいわけないでしょ...本当に楽しかったのなんて自由だった高校の時だけよ。生まれてからずっと機械みたいに親の言うこと聞いて育ってきたんだから将来の自分だって茶屋を継ぐ以外全くイメージできない。人生が二度あればって何度思ったかわからないわ」
少し怒り口調で俺を涙目で睨む
優香里の回答にそりゃあ退屈だろうなと軽くフォローすると彼女の頭を肩を撫でて諭す
「優香里、「人生が二度あったら」なんて俺だって数えきれないほど考えたよ。大阪学蔭で強豪高の壁にぶつかったとき、スランプになったとき。でもな、現実は時計みたいに針を巻き戻せば戻るもんじゃない。過去を悔やむんじゃなくて現状を打破する。それ以外今を変える方法なんてない」
「...そう言われても私にはどうしようもできないわよ。もし今反抗したらそれこそ親と絶縁になるかもしれない」
「なら俺が手伝ってやる。シーズン終わったらお前んち行って一言口出すくらいなら出来るぞ。もっと俺を頼ってくれ。都合のいい男だと思ってもいい」
「...な、なんでそこまでして私に協力してくれるの?もう私どうせはただの元カノなんだからあなたには関係ないことじゃない」
「そんなの簡単だ...お前の事が好きだからだよ。だからそんな決められたバカみたいな結婚だけは絶対許せねぇ」
俺の告白に恥ずかしくなったのかボッと赤面してその顔を見られたくなかったからか少しうつ向いて顔を俺の反対方向に向ける
「...今真面目な話してるのにからかってるの?」
「マジだよ。そもそも好きじゃなかったら付き合ってなんてなかったろ?今も昔も俺は優香里のことが好きだ。フルならフっても別に構わん....長ったるいのも面倒だから5秒以内に返答くれなかったらフラれたってことにするぞ。5、4、3」
断られない祈りながらカウントをしていると優香里がこっちを向いて俺の頬をパチンと叩く
「本当に大っ嫌い...昔からずっとそうやって自分勝手で早とちりで時々お人好しな所とか全然読めなくて...」
あー、やっぱりフラれた
てか傷つくから大っ嫌いって強調するのやめてくれ
「そうか...」
ショックで小声で頷くと、お前も無表情で全然読めないよという野暮な反論をしなかった自分を褒めたくなった
「...でもそんな所がなんだか裏返しで好きになったりして、今の彼氏には悪いけどふとしたときあなたのことを思い出しちゃうの...」
「え?」
好きなのか嫌いなのかわからず自然と声が漏れる
もしやこれ佐々城の言う「ツンデレ」ってやつか?
「やっぱり私もあなたのことが好きよ...でも私の親と対立してあなたに迷惑をかけるわけにはいかないの」
「迷惑?そんなのかけまくれよ。男ってのは好きな奴のためならなんでもやっちまう単純な生き物なんだからな」
「...じゃあもし婚約破棄したら私と結婚できる?」
「あぁ、そうなったら生涯かけて守るよ」
当たり前だろうと言わんばかりに胸を張って優香里の目を見て誓う
「バカ...ちょっとかっこつけすぎよ」
不貞腐れるように口を尖らせて照れる優香里の姿に少しドキッとしてしまい、やはり俺はこいつが好きなんだと再認識させられる
店を後にすると優香里に帰り際「待って」と、呼び止められる
「ん?なんだ?そろそろ球場入りだからなるべく早くな」
「うん...分かったわ」
人の目を少し気にすると背伸びして俺の目を隠す
「ん、なんだ?」
「いいから目瞑ってて」
言われた通り目を瞑ると首に少し痛みが走った
「はい、開けて良いわよ」
「...お前今なにした?」
「さあ?ご想像にお任せするわ。それじゃまた今度ね」
ご想像にお任せって言われたって全く何されたのかイメージできないぞ?
そのまま分からないままロッカーに行くと田中さんが、ん?と俺の顔を凝視する
「お前なんか右の首赤色っぽくなってない?」
「え?」
なんだと思い鏡を見ると本当に赤くなっていた
...まさかとは思うがこれは
「キス?」
「はぁっ!?誰に!?」
しまった、厄介な人の前でふと口に出てしまった
「田中さん今の発言聞かなかったことにしてください。くれぐれも佐々城になんか伝えたりしたら...」
罪無き田中さんを威圧して睨み付けると少し震え声で承諾してくれた
「あ、うん。了解。な、なんかごめんな」
「いえ」
危ない危ないと、ばれないよう首に湿布を張る
田中さんに早めに気づいてもらえてよかった
下手したらこのまま皆と合流する可能性もあったと考えるとゾッとする
それにしてもキスか...キス...なんやかんや人生で初めて他人にされた気がするな
鏡に映る少し嬉しくなって微笑している自分の口角を無理やり下げてグラウンドという名の選手の戦場に足を運ぶ
見てろよ優香里、お前の親が嫌でも認めるプレイヤーになってやるからな...




