23 首位攻防戦
翌日浪川は早めに寝たためか早朝に起床した
前日の鬱憤を晴らすように素振りをしようと練習場へ行くと先客がマシンを打っていた
パカーンという音ともに鋭い打球の放物線に深く感心する
(シュアでありつつも一発長打も狙えるような振りと打球...なかなか良いな...ん?つーかこのフォームは...)
浪川が疑問に思って顔を見るとなんとそのバッターは和人だった
「...おまえ何してんだ」
「バッティング練習だよ。自援護はエースの基本でしょ?」
「はぁ...お前そもそもエースどころか先発ですらねぇだろ」
浪川の発言を待っていましたと言わんばかりにニヤリと笑顔を見せる
「ふふ、実は昨日監督に来週のスネークス戦で先発の話を持ちかけてもらってね!そんな長いイニングは投げさせないって言ってたけど1、2打席は回ってくるだろうからその時の練習。まぁ久々にバッティングしたくなったってのもあるけどね。大学でもちょっと立ってたりしたからか意外と衰えてなくて自分でもビックリした」
「ほー...てことは来週までお前はベンチ外だろ?リリーフ大丈夫なのか?」
「え、なになに?もしかして僕がリリーフ陣に居ないと辛いの?そんなに僕が必要?」
和人がよりニヤニヤして浪川に詰め寄る
「そりゃそうだろ。防御率1点台のリリーフが居るのと居ないのとじゃかなり違う」
浪川の珍しい素直な対応に和人が不信に思う
「なんか今日の君気持ち悪いな。てか昨日の試合後から様子おかしいけどどうしたの?」
「...あぁ、別になんてことねぇよ。気まぐれだ気まぐれ。そういう日もあんだろ」
「ま、それもそっか。あ!そろそろ美波さんから連絡が来てるかもしんないな...じゃ、お先に...」
練習を切り上げて寮に戻ろうとする和人のユニフォームを掴んで止める
「待て。さっきのお前のバッティング、どこで教わった?あれを学生一人で作り上げるのはほぼ不可能だ」
「え?僕のじいちゃんが教えてくれたもんだけど...」
「...その人何もんだ?」
「なんでそんな深堀する必要があんのか分かんないけど...二階堂充っていう人だよ。元ホエールズのセンターを一時期守ってて首位打者取ったこともある凄い人。引退してからは指導者になって...東島大学で打撃コーチやって今は老後楽しんでるよ」
浪川が東島大学という言葉に反応して体がピクッと動く
「ん?どしたの浪川君」
「い、いや何でもない...」
「ふーん...それ、隙あり!早く美波さんからの返事が来てるか見ないと!」
浪川が気を抜いた瞬間に彼女からの連絡を見たいがために猛ダッシュで帰る和人を見送ると浪川がふぅ、とため息をつく
(やれやれ、あのバッティングセンスがあれば野手としてもプロでやれたんじゃないのか?そんであのフォーム...納得したぜ。あいつの祖父が東島大学の打撃コーチっつー話で完全に一致した。なんだか既視感があると思ったら父さんのフォームに少し似てる。恐らく父さんもその人の教え子だったんだろう...)
浪川が拳に力をいれてバットを握る
(...見ててくれよ父さん。今日首位立って原山に目に物見せてやる!)
スタメン
【横浜シーレックス】
一番 キャッチャー 浪川
二番 セカンド 田中太
三番 ファースト ソス
四番 レフト 筒号
五番 サード 宮坂
六番 センター 神城
七番 ライト 乙見
八番 ショート 山戸
九番 ピッチャー 石毛
【東京ラビッツ】
一番 セカンド 吉河尚
二番 センター 丸山
三番 ショート 坂木
四番 サード 岡
五番 ファースト 中嶋
六番 レフト グレーロ
七番 キャッチャー 大林
八番 ライト 楊
九番 ピッチャー ベルセレス
【午後6時 横浜スタジアム】
『現在首位ラビッツと、その首位奪還を狙うシーレックス。差0.5のため勝った方が首位となります。今プレイボールがかかりました!まず初球はストレートから入りましたストライク。荒井さん。この首位攻防戦もの凄い緊張感ですね』
『そうですねぇ、ペナントも終盤ですからこの一戦は本当に大事です』
先発の石毛は初回を三者凡退17球で上々な立ち上がりを見せた
そして裏のシーレックスの攻撃に一番の浪川がベルセレスが左なこともあり右打席に立つ
『さて、一回の裏シーレックスの攻撃です。まず一番の浪川がどのようなバッティングを見せるか』
まず初球のチェンジアップを見送りストライク、浪川がこの打席の内容の目標を自分の中で立てる
(際どいとこ来たらカットして球数稼いで四球狙いでいこう。この打席絶対に出塁する...!)
そして、二球目ストレートがインコースに来る
難しいコースを腕を畳みコンパクトにフルスイングし、レフトのポール際に強烈な打球を放つ
(あ、ファールを打とうとしたつもりだったのに)
『内角を上手く打ったぁぁ!切れなければホームランだ!浪川の先頭打者ホームラン!1-0シーレックス先制!レフトスタンド中段にあっという間に届く痛烈な打球でした!これが今シーズン29号!球団初のスイッチヒッターでの30号に王手をかけました』
球場が盛り上がる中浪川が不服そうな表情を見せてベースを回る
(狙ったわけじゃねぇんだけどなぁ...まぁ一点取ったからよしとするか)
そして試合はこのホームランのせいか予想以上に荒れる
この後筒号、神城、乙見のタイムリーで更に3点を追加し、ベルセレスをノックアウト
しかし二回の表、岡のソロホームラン、大林のタイムリーで3点を返され一点差に詰め寄られる
それでも負けじと四回の裏、田中のタイムリー、ソスのホームランで4点を取りリードを広める
今度こそ大丈夫かと思いきや五回の表、坂木のグランドスラムとグレーロのツーホームランで逆転され一点を追う立場になるという五回修了時点で激しいシーソーゲームとなった
東京 030 06 9
横浜 400 40 8
投手
東京 ベルセレスー多口ー上谷
横浜 石毛ー国枝ー無藤
本塁打
東京 二回 岡31号【ツーラン】 五回 坂木17号【満塁】
横浜 一回 浪川29号【ソロ】 四回 ソス38号【スリーラン】
「はぁ...まだ五回終わったばっかなのにどっと疲れたな...」
宮坂がベンチで呟くと隣の田中がうんうんと頷く
「打って打たれてのバカ試合は本当に疲れますよね。こういう試合は粘った方が勝ちですからなんとか裏に逆転しないと」
しかし無藤の変わりに登板した平塚が楊にソロを打たれ8-10と2点ビハインド、後続は絶つものの痛い一点を取られてしまった
そしてイニング先頭の七番の乙見は回を跨ぐ上谷の2球目をセンター前に弾き返しノーアウト一塁
続く八番の山戸はファーストフライも九番の平塚の代打の芝田がフォーク捉えて右中間を破るタイムリーツーベースで一点を返しワンナウト二塁とチャンス
そして打席には先頭打者本塁打の一番の浪川が入る
(さーて、ここは最低一点はもぎ取らんとな...となると...)
初球から驚きのバントの構えを見せる
(後続に繋ぐ...自分も生きてな!)
引っ張り警戒で深く守っていたセカンドにドラックバントを仕掛けると、俊足を飛ばして悠々セーフでワンナウト一三塁と同点のチャンスを拡大させた
そして今日もタイムリーを放っている二番の田中が深呼吸をして打席に入る
(頼むぜ田中さん。俺にとっちゃ今日は負けるわけにはいかない試合なんだ...!)
その浪川の意思が伝わったかのように田中が打席で覇気を見せる
2球で追い込まれるものの上手くカットして13球粘りフォアボールをもぎ取りワンナウト満塁の大チャンスで今日スリーランを放ったソスがオーラを放って打席に立つ
そしてラビッツは投手を交代し、昨日に続き2試合連続での登板となる田垣を投入
『さぁ、ここで特大の一発を放ったソスです...いやぁ荒井さん。これは痺れる場面ですねぇ』
『そうですねぇ。ここでの彼はかなり怖いと思いますよ。バッテリーは細心の注意を払わないといけませんね』
そもそもソスはラビッツとの相性がかなり良く今シーズンの38本中9本がラビッツ戦と兎キラーっぷりを発揮している
そして初球、インコースのチェンジアップが中に入りそれを見逃さずソスが痛打する
ライトポール際に放った鋭い打球はわずかにきれてファールとなった
しかしこの一打で恐怖を覚えたのか田垣は二球目のストレートを叩きつけてしまいそれを大林が取れずパスボールでランナーがそれぞれ塁を進み三塁ランナーの芝田が帰り10-10で同点、なおもワンナウト二三塁とチャンス
一塁が空いたこともありソスは申告敬遠で歩かされる
そして今日ノーヒットの筒号との勝負となった
三塁ランナーの浪川はサードベンチの原山の顔をチラッと見て頭を掻く
(確かに相性を考えてここでソスを歩かせるのは分かるが...今日ノーヒットとはいえ四番と勝負ってどうなんだ?この人の打席での集中力はえげつない。それにもう田垣さんは交代するべきだろう。完全にビビってストライクなんて投げられる状況じゃねぇ)
采配に疑問を持つものの原山は動かず浪川がため息をつく
(いつもの冴えた采配はどうした?普段ならこの場面動くだろ?...後悔してもしらねぇぞ)
浪川の考え通り、田垣はストライクが入らずノースリーと不利なカウントに持ち込んでしまった
そしてストライクを取りにいった甘いストレートを筒号はフルスイングで逆方向に運ぶ
「ほら見ろ」
浪川が呟いて打球を見ることなくゆっくりホームへ帰る
『いったぁぁぁ!レフトの頭上を越えてスタンドへぇぇ!入ったぁぁ!筒号28号勝ち越しグランドスラム!ソス敬遠が裏目に出ました14-10!』
『いやぁ流石のホームランですねぇ。中段ですか?逆方向であそこまで飛ばすって...そう簡単じゃないですよホントに』
先発調整のためベンチ外の和人がちょうど寮のテレビの前でガッツポーズをして喜んでいた
「おぉぉぉ!流石筒号さん!すっげぇぇぇ!」
一人じゃ寂しいからと連れてきた沢も驚いていた
「すっごいなぁ。僕もあんだけのパワー欲しいですよぉ。あれぐらいの体型になれば付くんですかねぇ」
「いや、君はそのままでいてくれ。かわいいは正義だ。僕より身長でかいけどな」
和人が満面の笑みで沢の頬をぐりぐりする
そしてこの1発で流れを引き寄せたのかリードを吐き出してしまっていた投手陣も奮起
その後の7、8回を無失点で凌ぎ9回に絶対的守護神の山崎泰隆がマウンドに送られる
名物である「ヤスタカジャンプ」が響き渡り場内のボルテージが上がる
(うーん...今日の山崎さんは調子悪いな...でも捕手の力量ってのは投手の調子が悪い時にこそ発揮できる。ここでなんとか凌がせるのが俺の役目だ)
浪川がネックレスをぎゅっと握りしめて目をつぶりながら自分に言い聞かせる
しかし、山崎の出来は悪くあっさりと2連打と四球でノーアウト満塁のピンチを作ってしまった
そして打席には今日グランドスラムを放った坂木が立つ
思わずタイムを取りマウンドに向かう
「山崎さん、ハッキリ言わせてもらいますけど今日の出来最悪です。ツーシームが全く落ちない」
「うーん...やっぱりか。ここ坂木さんだけどどうする?」
「俺から1つ提案があります...一か八かですけどこれしかないです」
浪川が山崎と再びサインを交換しホームベースに戻る
(ちっと怖いがハマればなんとか抑えられるはず...初球からいきましょう....!)
浪川が要求した球はナックル
初年度以降は封印していたがこの場面限り解禁という浪川の思いきった提案だった
その策略に坂木も驚き手を出すも空振りでストライク先行
そしてその緩急を利用しインコースのストレートで2ストライクと追い込む
最後は予想より落ちないツーシームが逆にハマり見逃しで三球三振を奪った
続く岡もナックルを引っ掛けてセカンドフライに倒れツーアウト
そしてノーヒットの中嶋の代打に重野が送られる
初球のストレートをファウル、二球目のツーシームを見送ってボールで1-1
三球目はナックルでストライクを奪い追い込む
あと1球振らせれば試合修了で首位という状況が後押ししたか四球目のツーシームが調子が良い時の山崎の落ち方になりバットを出すも空振り三振
浪川が珍しくグラブを強く叩いて吠える
『試合修了ー!シーレックスこの終盤戦、今シーズン初の単独首位に躍り出ました!残る試合は19!夢の22年ぶりの優勝へ逃げ切ることができるか』
東京 030 061 000 10
横浜 400 405 00X 14
投手
東京 ベルセレスー多口ー上谷ー田垣ー宮古ー利根
横浜 石毛ー国枝ー無藤ー平塚ーエスターー三島ー山崎
本塁打
東京 二回表 岡31号【ツーラン】 五回表 坂木17号【満塁】 六回表 楊【ソロ】
横浜 一回裏 浪川29号【ソロ】 四回裏 ソス38号【スリーラン】 六回裏 筒号28号【満塁】
【ネット掲示板】
【勝ち横】乱打戦を制して単独首位!!!シーソーゲームも筒号の勝ち越しグランドスラムで勝利
1.風吹けば名無し
横浜優勝
2.風吹けば名無し
マジ優勝いけるやん!
3.風吹けば名無し
浪川もようやっとる
いややりすぎとるくらいや
4.風吹けば名無し
今日は投手陣以外は良かったね
やっぱ筒号は神
5.風吹けば名無し
てか佐々城出てこなかったけど何事?
4点差だから温存か?
14.風吹けば名無し
>>5
来週のスネークス戦への先発調整中らしい
楽しみや
19.風吹けば名無し
>>14
マジか
一週間佐々城無しってリリーフ陣大変やな
153.風吹けば名無し
うわー、明日豪雨やん
恐らく雨天中止かな




