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海獣達の野球記(ベースボールライフ)  作者: Corey滋賀
3章 ペナントサバイバル
24/65

21 燃えろタケヒロ

オースティンすっげぇ


後日、和人が美波に先に帰った理由をラインで伝え謝罪した


許してもらえたが罪悪感が残り、後でサインボール50個渡そうとしたが流石に拒否された


そんなことがなんやかんやあり後半戦開幕当日を和人達は迎えた


【7月28日 午後4:00 甲子園球場ロッカールーム】


「あー、ヤスみもあっというマだったネ。ちょっとミジかイ」


後半戦開幕投手のウォンが少し愚痴ると和人がなだめる


「まぁまぁ、そう言わず。早いとこラビッツぶち抜いて勝利の美酒を味わいましょ!」


「ン、そうだネ。ガンバるヨ!」


一方二人が話している所を少し遠くで微笑んで眺めている人物がいた


石島雄洋(いしじまたけひろ)


ファンから愛されている選手で筒号が5年前に就任するまで4年間キャプテンを務めたベテランで、チームの暗黒時代をよく知る功労者


お互いに二軍で好調をキープした細山と共に昇格し(代わりに関野と桃山が降格)通算1000本安打まで残り3本とほぼ王手をかけている状態である


ちなみに和人の憧れの野手でもあった


(やっぱり昔と違って雰囲気が凄く良いな。皆から勝ちに行こうとする意志がひしひしと伝わってくる...)


チームの雰囲気の良さに感心しているとサミネス監督から突然呼び出される


「はい、監督、何か用でも?」


「今日の試合、君の慣れ親しんだ1番セカンドで行こうと思う」


通訳越しに唐突に伝えられた言葉に少し驚く


「えっ?」


「よくこのチームを知っている君ならよりチームを鼓舞させてくれると思ったこととなにより状態がとても良いことからこの結論に至った。どうかな?君が嫌だと言うならもちろんその意見を尊重するよ」


サミネスがニコッと笑顔で石島の目を見る


石島は監督に信頼されていることに喜び、首を大きく縦に振る


「いえ、信頼してもらってありがとうございます。監督の期待に応えられるよう全力尽くします!」


久々の一軍に気合いが入り少し早い時間から練習に取りかかった


本日のスタメン


【横浜シーレックス】


一番 セカンド   石島

二番 サード    宮坂

三番 キャッチャー 浪川

四番 レフト    筒号

五番 ライト    ソス

六番 ファースト  ロベス

七番 センター   神城

八番 ピッチャー  ウォン

九番 ショート   芝田


【兵庫タイガース】


一番 センター   近川

二番 ショート   木本

三番 ライト    糸口

四番 サード    小山

五番 ファースト  マルクス

六番 レフト    福富

七番 キャッチャー 梅原

八番 セカンド   乙原

九番 ピッチャー  名和


タイガースの先発である名和康也(なわこうや)はドラフト3位の大卒ルーキーで、右のアンダーから放たれる131kmの真っ直ぐと多彩な変化球で打たせてとる技巧派


前半戦の成績は怪我でほとんど登板機会がなかったが7月に2試合に登板し防御率2.89で2勝0敗

デビューから2連勝と波に乗っている選手だ


また、U23で浪川とのバッテリー経験がある


その名和はブルペンで梅原と共に肩を準備をしていた


「うん、名和今日いいよ!低めにきっちり集まってるしこれはかなり打ちにくいんじゃないか」


「あ、本当ですか?あんま自信なかったんですけど」


一方名和と初対戦の横浜サイドは浪川が筒号に名和について解説をしていた


「珍しい下投げってのもあるんですがストレートがよく伸びますね。変化球もいろいろありますけど特に警戒すべきは緩いカーブ。50km近い激しい緩急で打者のタイミングを狂わせてきます。まぁとにかく打ちにくい投手ですね」


「なるほど、ありがとう。参考になったしこの後のミーティングで話してくれないか?」


「はい、そのつもりです。でも一応キャプテンの筒号さんに一旦聞いて貰ってからの方がいいかと思って」


試合前ミーティングで筒号に話したことと同じ内容を選手全員に発表した


【午後6:00 甲子園球場】


満員の甲子園球場は熱気を帯び休みで少し試合勘が薄くなっていた選手を奮い立たせる


『さぁ、兵庫タイガース対横浜シーレックス、後半戦スタートのプレイボールがかかりました。シーレックスの一番は今シーズン初昇格で初スタメンのセカンドの石島。この人もシーレックスにはかかせない存在といっても過言ではない選手ですよねぇ』


『そうですね。近年はあまり数字を残せてないですけど、なんといいますか、居るだけで雰囲気を変える選手ですよね。幸運の置物というか。でも個人的にはそのポジションで終わる選手じゃないと思いますけどね。もう一花咲かせてファンを喜ばせて欲しいです』


そして当の石島は一球目のアウトローの際どいストレートを見逃してボール、二球目のインローのスライダーをカットしてカウント1-1となっていた


(浪川の言う通り簡単には打てそうにないな...ストレートで張るか)


その石島の思考を読むように名和が真逆の70km程度のカーブをアウトコースに投じてきた


少し泳ぎながら打ちに行くとイレギュラーになり不規則にバウンドし、急いでショートの木本が素手で取ろうとするとお手玉をしてしまい内野安打となった


名和にとっては不運なヒットとなり少し頭を抱える


(わー...打ち取った感じだったんだけどなぁ。甲子園のイレギュラーは難しいか)


続く宮坂はサードゴロで石島が進塁、ワンナウト2塁とチャンスの場面で浪川が左打席に立つ


(浪川かぁ...期間限定でバッテリー組んでたけどほんとはガチ勝負してみたかったんだよねぇ)


楽しげな名和とは対照的に浪川が嫌な顔をする


(ちっ、相変わらずニコニコ顔で何考えてんのかわかんなくて気味悪いな)


まず初球はカーブを絶妙なコントロールで外角に決める


(厳しいな。この後にセオリー通りストレートが来るのか、他の変化球で来るのか、それともまたカーブで来るのか...梅原さんのリードが読めねぇ)


二球目はストレートで、中に入ってきた所を痛打するも引っ張りすぎてファールゾーンに切れる


梅原がその浪川打撃に少し恐怖を覚える


(あっぶねー...ちっと真ん中寄りになっただけで下手したらホームランの当たり...やっぱえげつないな。慎重に攻めていくか)


三球目はシンカーを叩きつけるように投げてカウント2-1


四球目もインローのスライダーを見極め2-2の平行カウント


(まずいな、球を投げ尽くしちゃったよ...梅原さんどうしましょ?)


名和がニコニコしながらも内心焦る


そして五球目もシンカーで落として浪川が振りかけるもギリギリのところで止めボールの判定になった


(っぶねー...随分しつこく落としてくるな...)


浪川が打席を外し少し深呼吸する


(となると...まだ俺に投じてないカーブが来ると読むしかねぇな)


消去法でカーブに一点張りするとまたその逆を行くストレートを真ん中付近に投じてきた


咄嗟に反応したが振り遅れ、空振り三振となった


(しゃっ!なんとか抑えたけど...怖いなぁ浪川)


浪川が少し歯をくいしばってベンチに戻る


(あーあ、やっぱり一点張りはダメだな。梅原さんのナイスリードでもあったが...)


その後の筒号もライトフライに倒れ、シーレックスは先頭が出ながらも無得点に終わってしまった


しかし一方のウォンも好投で3回までランナーを一人も出さずお互いに無失点投球を続けていた


そして4回の表、ワンナウト一塁で再び浪川に打席が回る


あえて右打席に立ち右対右にする


(さーて、さっきのお返ししてやるか...)


(ん?なんで右に立ってんの?普通この場面左じゃね)


名和が不思議がると浪川が睨み付けるように気だるげな眼を尖らせて少し脅す


そして初球の甘く入ったカーブをフルスイングで捉えレフト中段に突き刺さる強烈な本塁打を放った


『入ったぁぁ!浪川のツーランでシーレックスが先手を取りました!これでルーキー1番乗りの20号到達となります!』


打たれた名和は打球方向を見て軽く頷く


(完璧ど真ん中いっちゃったよ...にしても甲子園で中段て、やっぱり浪川怖いなぁ)


ベースを黙々と一周した浪川はベンチで打った感触を目をつむり思い出していた


(つまんねぇな...初球からそんなとこ放ったら誰でもスタンド持ってかれるぞ)


その後も両投手好投を続けていたが、8回裏にウォンが崩れる


タイガースがワンナウト1、2塁とチャンスを作りから糸口が同点スリーベースを放ち終盤に同点に追い付き、7回2失点の好投でマウンドを降りた名和の負けを消した


そして尚もワンナウト3塁で負け越しのピンチのシーレックスはマウンドに和人を投入した


(任せてくださいウォンさん。このランナーは絶対に返させません!)


そして4番の小山がバッターボックスに入る


打撃三部門はそこそこの成績だが得点圏打率.343と勝負強さを見せている厄介な打者だ


捕手の浪川もバックホームシフトを敷き、意地でもランナーを返させまいとしている


初球はアウトローのストレートでストライクを先取する


そして二球目のインコースのカーブはフルスイングしてわずかに当たりファールになった


浪川は二球で追い込んだはいいが小山のフルスイングに少し危険を察知した


(まずいな...恐らく今日の小山さんは佐々城に合ってる。ここは高めの外に外して様子見とするか)


そして三球目、浪川は高めのボール球を要求したがシュート回転でストライクゾーン寄りにボールが行ってしまった


それに小山が反応しセンターへ高い打球を上げる


詰まっていたが俊足の糸口を犠牲フライで返すには十分な当たりでセンターはバックホームを諦めて内野に返球するだけだった


勝ち越しのホームインに甲子園のタイガースファンが大いに湧く


少しあちゃー、と顔を歪ませる和人に浪川がマウンドに向かう


「シュート回転したな。ま、切り替えてけ」


「うん、わかった」


はたから見ると雑に声をかけた様に見えるが和人にはそれくらいで十分だと信頼している証でもあった


その信頼通り5番のマルクスは三球三振で抑えなんとか8回を終えた


ベンチに戻ると一目散にウォンに頭を下げる


「すいませんウォンさん...ランナー返しちゃって...」


「謝らないデ。あの場面なら仕方ないヨ」


謝罪する和人にウォンが笑顔で慰める


そして一点を追う9回表、先頭の神城が四球で出塁


ここで押せ押せムードになるかと思いきや守護神の藤原球児が流石の貫禄を見せる


続くピッチャーの和人に代わった細山を空振り三振


続く芝田もファーストファールフライに打ち取られ2アウト一塁と追い込まれた


そしてその絶体絶命の打席には今日2安打で通算999本安打と王手をかけた石島が立つ


しかし初球のストレートを見送りストライク、二球目のフォークに空振りしあっという間に追い込まれてしまった


(うーん...こりゃ無理だろ。キレッキレ過ぎるって...)


内心諦めつつ、ふとスタンドを見るとあと一球のタイガースファンのコールが球場に響き渡る中数少ないシーレックスファンが負けんばかりに全力で応援している光景が目に入った


(...そうだよな、ファンが諦めてないのに俺が諦めてどうすんだよ!)


打席を外し深呼吸をすると目が覚めたように表情に気合いが入る


三球目もフォークを続けてくるも反応せずカウントを2-1とした


そして四球目、決めに来たであろうストレートが真ん中近くに行く


その失投を逃さず完璧なタイミングでフルスイング


打球は右中間に大きく上がり石島が走りながら「入れ」と祈る


『右中間に上がる!風は追い風だ!追い風だ!入ったぁぁぁ!シーレックス土壇場で大逆転3-2!そしてこの一発で石島プロ通算1000本安打達成!』


がっくりと項垂れる藤原の横を石島がベースを回りながら何度も強くガッツポーズをする


サードコーチャーと強くハイタッチし笑顔でホームイン、そして用意されていた1000本安打達成のボードを掲げてベンチへ戻る


「ナイバッチタケさん!」


「石島さんおめでとうございます!」


ベンチで祝福を受け笑顔の中に薄く涙を浮かべていた


9回の裏は守護神の山崎が三人で仕留め試合終了


後半戦の開幕を白星で飾った


そしてヒーローインタビューには勿論石島が呼ばれた


シーレックスファンの歓声が球場に響き渡る


『さて、今日のヒーローは9回ツーアウトからの逆転弾、そしてプロ通算1000本安打を達成した石島雄洋選手です!ナイスバッティングでした!』


「ありがとうございます!」


石島が笑顔で帽子をとってお辞儀をする


『まず9回の逆転弾、どういう心境で打席に立ちましたか?』


「そうですね、前の二人が凡打に抑えられて正直厳しいなと思ったんですがファンの皆さんの声援を聞いて諦めちゃダメだと気を引き締めて入りました。その結果あの逆転弾になったんだと思います」


『えー、そしてプロ通算1000本安打達成おめでとうございます!達成したお気持ちどうですか?』


「素直に滅茶苦茶嬉しいです。ここまでヒットを積み重ねられたのは数々の良い人との出会いや教え、そしていつでも応援してくださるファンの方々のお陰だと思っています。本当にありがとうございました!」


深々と頭を下げる石島の姿に涙するシーレックスファンも少なくなかった


「う"わ"ぁ"ぁ"ぁ"よ"か"っ"た"ぁ"ぁ"ぁ"...」


「な、泣きすぎだろ...」


和人もいちファンとして浪川に引かれ気味で一人号泣しているとふとあることに気づく


「あ、あれ?今日の勝利投手僕か?」


【ネット掲示板】


石島雄洋逆転ツーランWWWWWW


風吹けば名無し.1

きたぁぁぁぁぁ!!


風吹けば名無し.2

信じてたぞタケヒロ!!!


風吹けば名無し.3

1000本おめ!まさかこんな場面で出るとは


風吹けば名無し.4

神定期

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