20 デート(?)と忘れ物
(祝)20話!
毎話読んでくださる方、本当にありがとうございます!
これからものろのろ更新で続けていくのでよろしくお願いしますm(__)m
浪川が線香上げを終えると立ち上がってバックを背負う
「あら、もう行くの?せっかくなんだからゆっくりしてけばいいのに」
「午後予定あるから無理。お邪魔しました」
「それなら仕方無いわね。また暇な時とか困り事あったら何時でも来なさいよ」
母親が手を振って見送ると軽く会釈して車を出し早々と実家を後にした
【午後0:30 横浜公園】
美波が楽しみ過ぎて予定の20分近く早く待ち合わせ場所に来て待っていると川畑にコーディネートされた和人が少し早足で到着した
「あ、すいません!お待たせしちゃいましたか?」
「いえ!私もちょうど来た所だったので」
美波が和人に気を使わせないために嘘をつく
(よかった...というか川畑君がコーディネートしてくれなかったら僕やばかったな)
センスの欠片もない普段着姿の自分と少し洒落っ気のある服を着ている彼女が並ぶ想像して少しゾッとする
「えっと...それじゃあ、中華街行きましょうか?あ、何度も行ってるから飽きてたりしますか?」
美波が首を大きく横に振る
「むしろ最近行ってなかったので行きたいです!」
「あ、それならよかった。僕もプロ行ってからは全然行ってないので」
善隣門をくぐり色々な店を見て回る
街は多くの人で賑わい楽しい雰囲気に包まれている
「やっぱり中華街は面白いなぁ...」
和人がそうしみじみと呟いていると街の各所にある横浜の主力選手の旗がひらひらと靡いているのを見る
そこで丁度自分の旗に遭遇する
「あ、僕だ」
「あ、ほんとだ...自分が旗になってるってどんな気分なんですか?」
「うーん...単純に嬉しいですよね。ちょっと前はこれを見ている側だったのにまさか見られる側になるとは」
美波が頷きながら何故かやけに視線を感じるなと思っているとハッとあることに気づいてそっと和人に囁く
「さ、佐々城さん。変装とかしなくて大丈夫だったんですか?」
「えっ、別に大丈夫でしょ」
「大丈夫じゃないですよ!えーっと...ほら、取り敢えずこれ付けて下さい!」
美波がバックに入っていたサングラスを和人にかけさせる
「あ、そっか。もしスキャンダルとかに撮られたらあなたがまずいですもんね。すいません」
「い、いえ、私は別にスキャンダルとかに撮られるのは構わないですけど騒ぎになったらサインとかせがまれちゃって大変じゃないですか?」
その質問に和人がきょとんとする
「え、僕はむしろ嬉しいですよ。そんだけ僕のこと好きになってくれてるってことですから。もし転売するならそれはそれですよ。まぁそれはちょっと悲しいですけどね」
予想外の返答に美波が驚く
「めんどくさくないんですか?」
和人がうーん、と少し考えてニコッと笑う
「いえ。ファンサービスはプロ野球選手の仕事の1つですから。それをめんどくさがってるようじゃプロとしての意識が低いですよ...それはともかく、お腹すきましたね。早くどこか食べに行きましょ!」
「は、はい。そうですね...」
少し話をはぐらかすように和人が幼い頃からの行きつけの店に入店する
注文をして雑談しながら料理を待つ
「ここの小籠包すっごい美味しいんですよ。ずっと前から来ててこの前も今長さん達と来たんですけど肉汁がたっぷりで」
「へぇ~、楽しみです」
その会話の後、しばらく両者沈黙が続く
(まずいな...何を話せば喜んでくれるのか...)
和人が頭を悩ませていると彼女が口を開く
「あ、あの、今シーレックス二位ですけど、今後どうすれば首位に浮上できると思います?」
待ってましたというように和人が目を輝かせて答える
「うーん、現状投打は噛み合ってるのでラビッツが失速するまでなんとか食らいつく...とかですかね?あっ、そうだ。ここだけの話なんですけど後半戦開幕前日にベテランの石島さんと二軍で大暴れしてる細山君とが上がってくるそうなのでその二人が起爆剤になる可能性もありますね!」
「え、そうなんですか!石島選手は元キャプテンだったりチームを良く知ってると思うので私はそれあると思います」
「ですよね!僕もそう思います!」
二人がすっかり「ファン」になって話に盛り上がっていると料理が運ばれてくる
料理を持ってきた昔から和人を知っている店長が少し冷やかす
「お、和人くん。彼女できたのかい?ちっちゃい頃から見てたからおっちゃん嬉しいよ~」
「!?か、か、かのっ...」
美波が顔を赤くして恥ずかしがっていると和人が対照的にふんっと胸を張る
「そうです。僕だってもう23ですからね。こんな可愛い子ゲットできるとは思ってもいませんでしたけど」
調子をこいて冗談半分にカッコつける
「え、え!?ど、どら、どういうこと...」
「ほー。それなら彼女さんにあーん、とかして貰ってもいいんじゃない?」
店長の無茶ぶりに和人が流石に焦る
「は、はは、か、彼女ってのは冗談...」
和人が美波の方を見るとを恥ずかしさで少し震えた手でスプーンを和人に差し出していた
「あ、あーん...」
その時一瞬で和人の脳内で会議が始まった
「いやいや!流石に恥ずかしいよ!受け取れない!」
「かといってここで受け取らなかったら余計星さんに恥かかせることになるよ?ファンに恥をかかせるような選手としてダメでしょ」
「えー、でもプライドってもんが...」
その脳内会議を無駄にするように和人のスマホが鳴る
球団からの着信に焦って出る
「は、はい!もしもし!」
『もしもし、佐々城か?この後浪川とお前のルーキー対談の取材入ってるんだけど...お前どこ居るんだ?』
あっ、と思い出して冷や汗をかく
(やっべ...今日の今頃予定無いと思ってオールスター前に入れちゃったんだった...)
「す、すいません!すぐ行きます!」
電話を切り店長にお金を渡す
「これ、彼女の分のお会計も入ってるんで。すいません星さん、また今度!」
店を早足で出ると彼女が一人取り残されてポカーンとしていた
「はっはっは!ああいう忘れがちな性格は昔から全く変わらないねぇ!」
(せ、せっかく楽しんでお話してたのに...忙しいなら仕方無いけど、あーんなんて恥ずかしいことしたのが無駄になっちゃった...)
美波がしょんぼりと肩を落とす
【午後1:00 横浜シーレックス室内練習場】
一方浪川はユニフォームに着替え取材場所の室内練習場に貧乏ゆすりをしながら待機していた
「あいつなんで来ないんですか。もとはといえばあいつが勝手に入れた予定なのに」
「まぁまだ取材までの時間あるしあいつそういう性格だし許してやれよ」
「俺時間にルーズな奴は嫌いなんで。やっぱりあいつとは馬が合いませんね」
愚痴っているとその和人がコンビニのおにぎりを食べながら駆け足で向かってきた
「ふいまへん。はんへんにほへい」
「まてまて、落ち着いてから喋れ」
渡された水を飲むとふーと一息つく
「すいません。完全に予定忘れてました」
「ったく、この取材浪川も巻き込まれてるんだからな。しかも30分前から来てるし」
「え、そんな前に?ご、ごめん浪川君...」
浪川が素直に謝らればつの悪そうな顔をして舌打ちをする
「ったく...取材終わったら自主連付き合えよ」
「えぇ!?そんなぁ...」
「当たり前だろ、懲罰だ懲罰」
そう二人が言い争っているとテレビのプロデューサーや監督が集まり始める
「そういえばお前これどこの取材なんだ?お前が勝手に入れたやつだから俺全く知らないんだが」
「あぁ、神奈川テレビだよ。地方の番組」
「はー、なるほどな。というかお前どこ行ってたんだ?随分焦って来たようだが」
その質問に和人が一時停止する
「えっ、ま、まぁ外出してただけだよ!」
「そうか...なんだかお前から女の匂いがするなと思ったんだがやっぱり気のせいか」
「は、ははは...」
確信をつかれる様な事を言われまた冷や汗をだらだらとかいて苦笑いする
その後軽くリハーサルを行い、二人が番組の流れを理解する
「それじゃあ、撮影行きます!3、2、1」
「さぁ、今日は現在大活躍中のドラフト1位、2位ルーキーのお二人に来ていただきました!早速ですがお二人とも仲が良いという話を聞きますがどうなんでしょうか?」
アナウンサーの直球な質問に和人が苦笑いで答える
「そうですね、ときどき一緒にご飯行くときもありますし野球の話はしょっちゅうしてますね」
(嘘つけ、お前とメシなんて一回も行ったことねーぞ)
浪川が内心突っ込む
「やはり仲がよろしいんですね!では、お互い第一印象はどうでしたか?」
「なんかいつもクールで取っつきにくそうな感じだなぁと思いましたね。まぁ今でもときどきそう思いますけど(笑)」
「僕は明るくて何も考えてないタイプで正直苦手だなと思いました」
「なるほど、第一印象はあまり良くなかったんですね。では仲良くなったきっかけはなんですか?」
「きっかけ...自然と仲良くなったのでそういうのは分からないですね。強いて言うなら僕のプロ初登板の試合ですかね。理由は秘密ですけど」
「わかりました。詳しい理由はお二人の中で隠しておきたいということですね。えー、それでは話変わってお二人の趣味はなんでしょうか?」
「僕は暇な時はエr...ゲームやったりアニメ見たりしますね。パワプロとかプロスピでシーレックス使ったり」
「趣味っていう趣味は特に無いんですけど洋楽を聴くのは好きです」
趣味などのプライベートな話が終わり野球の話題になる
「えー、最後に佐々城選手は現在リーグ2位の23HPを挙げ1年目からタイトル争いに名乗り出ていますがやはり狙ってはいるんですか?」
23HPという数字に和人本人が驚きの表情を見せる
「え、そうなんですか?登板数とか防御率は気にしてたんですけどホールド数は初めて知りました。僕はどんな形でもチームに貢献できるならそれでいいのでそんなにタイトルは意識してないですね。無論取れるなら欲しいですけど(笑)」
「タイトルはそこまで意識せず生まれ育った地のチームの優勝への貢献を最優先する。1年目ながら素晴らしい心意気ですね!浪川選手もチームメイトのソス選手に次ぐリーグ2位の71打点と打点王も視野に入っていますがどうでしょうか?」
「僕も佐々城と同じでチームへの貢献を優先しているのでタイトルは気にしてないです。それよりも僕はメインポジションの捕手としての出場機会をもっと増やしていきたいですね。伊東翔さんという大きな壁があるのですがその牙城を崩すくらいの活躍をして正捕手を勝ち取りたいです」
「なるほど、浪川選手は捕手での出場機会を増やすことが今後の目標ですね。お二人とも貴重な休みを割いて長い時間話していただきありがとうございました!」
「「ありがとうございました」」
撮影が終わると和人がうーん、と背伸びをしてため息をつく
(あーあ、星さんに悪いことしちゃったなぁ...後で謝ろう)
和人の落ち込み具合を見て浪川が呆れる
「何があったのか知らねぇけどなんでそんな落ち込んでんだ。やっぱり女か?」
「否定するのもめんどくさいから言うけど、そうだよ。完全に予定忘れてご飯食べに行ってた」
「だっせ。そいつお前に幻滅してるだろうな」
ド直球を決められより和人が落ち込む
「だよね。僕ってダメな男だなぁ...」
「めんどくせ。お前打たれ弱すぎだろ」
「うん...ほんとにそうだよね...」
あまりの落ち込みように浪川がイラッとする
「あー、お前が暗いとほんと調子狂うんだよ!夕飯奢ってやるから元に戻れ」
「あ、ありがとう」
その夜居酒屋に行って和人を元気付かせた




