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海獣達の野球記(ベースボールライフ)  作者: Corey滋賀
3章 ペナントサバイバル
21/65

18 偶然か必然か

連投すみません

こっからラブコメ要素入ります


しばらく談話したあと和人と浪川は坂木の車に同乗せずホテルへランニングして戻っていた


(あー...横浜に似た潮風が気持ちいい...)


気持ちよさげに走っている和人に浪川が話しかける


「チェンジアップ、2球投げてベストボールとど真ん中失投か。その時放送席にいたんだが...解説でベラベラと喋ったぞ。ボールが未完成なこととかな」


「でもそれも予定調和なんでしょ」


「当たり前だ」


浪川が堂々と胸を張って言い張る


「確かに未完成とは言ったが打たれたボールはただのど真ん中失投だからな。チェンジアップそのものが打たれたわけじゃないからまずはコントロールが課題といったところか」


「あ!...確かにそうか」


「ま、とりあえずお前は明日投げないだろうしオールスター明けの休みで少しでも精度上げるぞ」


「えぇ!?せっかくの休みだからせめて1日は遊ばせてくれないかな?」


和人のお願いに浪川が少し頭を掻いて悩む


「...駄目だと言いたいところだが息抜きも必要か。まぁ後半戦始まるまでにリリース感覚を忘れないようにしてれば休むなり遊ぶなり好きにしろ」


「まじ?やったー!久々にごろごろしたり遊びまくろ...あ、公園で少し休んでいいかな?なんかちょっと疲れちゃって」


「...じゃあ先ホテル戻ってるからな...おやすみ」


最後のおやすみは和人に聞こえないような小さな声で囁いた


「おっけー、おやすみ」


浪川を見送ると公園のベンチに腰を掛けて一息つく

気持ちよく風を浴び、今日の試合を思い返す


(ドラフトの時に一番対戦したいって言った柳井さんとまさかオールスターで戦えるとは思いもしなかったなぁ。まぁその時は「先発で」って思ってたんだろうけど...そうか、僕が今中継ぎやってるのは監督の考えで将来的に先発をやるためにやらせてるだけであって...)


和人が少し考え事をしていると、近くで女性の悲鳴が聞こえた


「きゃっ!私のバック!か、返してください!」


和人がばっ、と立ち上がり追いかけようとしたときどこからか軟式球が飛んでくる

それを投げていたのは先に戻ると言っていた浪川だった


「な、浪川君?なんでここに?てかなんで軟式持ってんの?」


「それはどうでもいい、早く投げろ」


「え、あ、わ、分かった」


浪川に言われた通りにおよそ40m程度先にいる犯人に向かって狙いを定めてボールを投げる

回転のかかったボールはそのまま犯人の頭に直撃し勢いよく倒れた


「お、自分で言うのもなんだけどナイスボール」


と、独り言を呟いて犯人からバックを奪い警察に通報する


「大丈夫ですかお嬢さん?はい、バックをお返ししま...」


「え?も、もしかして、さ、佐々城和人...選手!?」


バックを奪われた被害者は和人の大ファンでさっきまでライトスタンドにいた美波だった


「え?は、はい。そうですけど」


「だ、大ファンなんです!サイン下さい!」


「はい、もちろん」


(まさか助けた人が僕のファンの人だったなんて...しかもめっちゃかわいいし...あぁ2次元オタクの僕にもこんなファンの人がついてるのか...)


内心飛び上がるほど嬉しがっているものの冷静を装いサインを書く


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます!まさかこんな形で憧れの選手に会えるだなんて...」


「憧れだなんてそんな...自分で聞くのもなんですけど僕のどこを好きになってくれたんですか?」


「豪速球です!170cmもないような背丈と細身からあんなボールが投げるなんてあなたにしかできません!」


身長のことを言われ和人に雷に打たれたような衝撃が走る


(ひゃ、170cmもないような...確かに無いけど...)


「チビですいません...」


「えっ?あ、ごめんなさい!失礼な事言っちゃって...」


「いえ、実際そうですから...ちなみにどこに住んでるんですか?」


「あ、横浜に住んでます。生まれも育ちもずっと横浜で生まれてからずっとシーレックスのファンです!」


目を輝かせて和人を見つめる


「あ、僕も同じですね。大学以外はずっと横浜で、昔からシーレックスファンでした。年パス持ってガラガラのスタンドで友達とよく部活終わりに試合見に行ってて、三村さんが投げる日は必ず見に行ってましたね...あ、あと筒号さんの初ホームランの試合も現地でした」


「凄いですね。昔からの贔屓の球団に入れるなんてなかなかできることじゃないですよ。相当な努力をなさったんですよね」


尊敬の目を向ける美波に和人が少し照れる


「い、いやぁ...それほどでもないですよ。確かに努力はしましたけど」


頬を掻いて照れ隠しをしている和人を見て美波が微笑む


「...なんかこうやってお話ししていると選手の方も人間なんだなって思います。機械みたいにストイックそうな浪川選手も普段はきっと優しくて良い人なんですよね」


「う、うん?あ、はい。か、彼は意外といい奴ですよ」


浪川の一切変わらない表情を思い出し和人が少し笑いを堪えながら答える


「やっぱりそうですか!...あ、これ以上引き留めちゃ悪いですよね。もし会えたら渡そうと思ってたこれ、お渡しします」


彼女がバックから和人の三頭身程度の小さい手作りのぬいぐるみを取り出して渡す


「おー...可愛いですね!ありがとうございます。寮の部屋に飾ってツイートさせてもらいますね」


「本当ですか!良かったです。それじゃあ、私はそろそろ電車で横浜に帰るので、佐々城選手もゆっくり休んで後半戦頑張って下さい」


「あ、そうですね!また球場で会いましょう。おやすみなさい」


手を振って見送った後和人はホテルに早足で戻った

ホテルの部屋に入ると早速貰ったぬいぐるみを取り出して眺めニヤニヤする


(...これすっごいかわいいなぁ...あの子手先器用なのか...ん?なにこれ)


ぬいぐるみの端に挟まっている紙を見つける

そこには彼女の連絡先が書いてあり、和人が目を見開いて焦る


(れれれれ、連絡先!?なんでなんで!?間違えて挟んじゃったのか!?と、とにかく彼女に連絡...したら意味ないし!ど、どうしよう...)


目をぐるぐる回し頭を抱えているとハッと咄嗟に案を思い付く


(そ、そうだ!人生経験豊富な田中さんに相談しよう!)


頼みの綱で電話を掛けると夜11時ということもあり田中が眠そうな声で電話に出た


「...もしもし、どーした佐々城?オールスターの自慢話かぁ?」


「いえ、それどころじゃなくて...」


和人が事情を話すと田中があくびをして軽く答える


「そりゃあ、その子がわざとやったことだべ。それ以外ありえん」


「で、でもなんでわざわざそんなこと...」


「...お前エロゲーやってんのにこういうの疎いんだな。お前と親交を深めたいからに決まってんだろ。早速その子にかけてみたらどうだ?お前が迷惑だと思えば断ればいい」


「え、でも...」


「くよくよすんな。お前は見た目も心も乙女か」


「おと...わ、わかりましたよ!かけますかけます!」


田中との電話を切り、恐る恐る彼女の電話番号を入力して掛ける


「...はい、もしもし」


「さ、先程お話をしていた佐々城です。あのぬいぐるみから連絡先が書いてあったので何かなぁと...」


それを聞いて、彼女の声色がぱぁっと明るくなる


「あ、あれ気づいてくれたんですか!ありがとうございます!」


「あの、どうして僕に連絡先を?」


すると美波が顔を少し赤くしてこっそりと話す


「...ず、図々しいんですけど...佐々城選手と仲良くなれたらなぁと思ってやってしまいました...すいません、ご迷惑でしたよね」


「べ、別に迷惑じゃないですよ!特に悪用しないのであればお好きにメールとか送って下さって結構ですし」


彼女を不憫に思ったのかお人好しな和人は連絡先だけでなくメールやラインのアドレスまで教えた


「あ、ありがとうございます!迷惑にならない程度にメールとか送らせてもらいます」


「いえ、こちらこそこれからも応援お願いします!それじゃ、おやすみなさい」


和人が電話を切って風呂に入りふぅっと一息つくと、彼女の顔を思い出して少し赤面する


(ファンに恋するって...選手として駄目だよな...)


その日の夜、和人は一人でドキドキして少し寝付けなかった


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