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海獣達の野球記(ベースボールライフ)  作者: Corey滋賀
3章 ペナントサバイバル
20/65

17 試投

6月下旬開幕マジか


『インコース見逃し三振!先頭の森山を自慢のストレートで三振を奪いました!』


まず先頭打者の3番の森山にはチェンジアップを使わずいつも通りストレートとカーブのみで勝負した


(ふーっ、まだチェンジアップのサインは無しか...)


そして試合とは違う別の勝負をしていた和人がチラッとスコアボードの球速表示を見る

そこには今日の堺と同じ157kmと表示され、下を向いて軽く呟く


(えー...159くらい出た感じだったんだけどな...まぁ負けは無くなったからいいか)


そしてスタンドでも観客が同じく球速表示を見て少しざわつく


「うおっ、やっぱはえーな...どうやってあの体から160近く出るんだか」


「俺もマジで疑問だわ。体も細いし背もプロでは小さい方だし細マッチョなのか」


近くの他球団ファンの佐々城を誉める声を聞いていた美波がより笑顔になる


(みんな彼の魅力が分かってくれてて、いちファンとしてなんか嬉しいなぁ...)


『そして打席には4番の柳井が入ります。佐々城がドラフト指名時にプロに入ったら一番対戦してみたいと話していた福岡ホームスの強打者ですが、交流戦ではちょうど柳井がケガで二軍に落ちてしまったため勝負ができずとても残念がっていましたが、ここオールスターという大舞台で初対決ということになりました...さぁ佐々城としてはこれ以上ない舞台での勝負。あ、少し笑顔でマウンドをならしていますね(笑)』


『球宴とも言いますしお客さんだけでなく選手が笑顔で勝負を楽しんでプレーできるのがオールスターの良いところですよねぇ』


実況と菊田がニコニコと和やかに解説しているところを横目に浪川がマイクに拾われない程度の小さいため息をつく


(やっぱりこういうゆるい雰囲気はどうも苦手だな。気が抜けて変なもやもやした気分になる...というかあいつまだチェンジアップ投げてねーな...大林さんはいつ投げさせるつもりなんだ?)


そして当の和人はワクワクして胸が高まり、ボールにより気合いが入る


まず156kmのストレートが大林の要求するアウトローにズバッと決まる


(よし...正直要求する俺の方がドキドキするけど...試してみるかチェンジアップ...!)


そのサインに和人が待っていましたと言わんばかりに頭を縦に振る


(まさか初試しの打者が柳井さんになるとは思ってもみなかったけど...全力でいかせてもらいます!)


実戦初のチェンジアップはストレートと同様に柔らかい腕の振りから理想通りに減速しするっと柳井の手前で落ち、空振りを奪った


(!?な、なんだ今の球?たしか佐々城ってストレートとカーブしか...しかもかなりの落差...)


捕手の大林も柳井同様に驚いていた


(え、えげつないチェンジアップだ...こりゃ後半戦はよりこいつに苦戦しそうだぜ...)


『おっと空振りぃ!これが浪川選手の言っていた佐々城の新変化球でしょうか!?チェンジアップのような落ち方をしましたが...』


『まぁそんなところでしょうかね。秘密兵器なので一応チェンジアップということにしておきましょうか』


浪川が意味深な言い方をして返答を濁す


『いやー菊田選手。これは他球団の打者、より佐々城の攻略に苦労しそうですね』


『ほんとですよ。僕は前半戦の彼にも苦戦していたというのに更にあんなボールまで投げられたら...正直かなり厳しいですね』


そこに浪川が口を挟む


『...まぁ、今年はアレにそこまで警戒しなくても大丈 夫だと思いますけどね。アレはまだ...』


と浪川が話している途中に3球目のチェンジアップが真ん中に行き柳井ざそれを見逃さず鋭く振り抜きライトスタンドに強烈な一発を放り込んだ


『捉えたー!4番柳井の1発で5-3!これでパ・リーグが2点差まで詰め寄ります!流石の柳井、失投を見逃しませんでした!』


『まぁこの通りまだまだ未完成なので。ど真ん中に行ったり全く落ちなかったり実戦で使うには不安がかなり残るので今年はそこまで投げさせるつもりはないですね』


この試合を食堂のTVで見ていた川畑らが少し不安がる


「こ、こんな大舞台で新変化球出しちゃっていいんですかね?しかもまだ未完成なの喋っちゃいましたしこれ鵜呑みにする人がいたら...」


その不安を払拭するように田中が浪川の意図を考察して話す


「いや...これを鵜呑みにしようがしまいがどっちでも結果は変わらないだろ。もし鵜呑みにしたとしても未完成だが変化球が1つ増えたってことは頭の片隅には残ってどうしても意識はするだろ?嘘だと思ってたら尚更そうだ。この大舞台で試させたのはそうやって各球団の選手を意識させるためなんだよ。実際まだ未完成だから後半戦始まっても浪川はそこまで投げさせる気ないだろ」


川畑はなるほどと頷きながらも眉間にシワを寄せる


(でも佐々城さんあと1イニング投げるよな...この後もチェンジアップを投げるつもりなのか...)


その川畑の考えを読むかのように5番の山下が打席に入るところで和人が大林を呼ぶ


「すいません大林さん、この後はチェンジアップのサインは無しでお願いします」


「お、おう、分かった」


(あと1、2球は見て研究したかったんだけどな...ま、仕方ないか)


一方ライトスタンドにいた美波は強烈な一発を打たれガックリと肩を落としていた


(あーあ、一発打たれちゃった...)


そこで和人のユニフォームを着ていたせいか隣にいた同じ横浜ファンの人に慰められる


「まぁ、相手が柳井ですからね!こっから切り換えて好投するでしょう!」


「そ、そうですよね!切り替え!切り替え!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その後和人は四人の打者をきっちり抑え2回1失点3奪三振でマウンドを降りた

そして5番の山下相手に158kmを記録し堺との勝負にも勝利した


試合は7-4でセ・リーグが勝利し、3安打1HR3打点を記録したラビッツの丸山がMVPに選ばれた


試合が終わり、和人たちは近くの焼肉屋に行っていた


「いぇーい!どうだ堺君!敗者は勝者になにかする事あるよなぁ!?」


「今日は調子悪かったんだよ!絶好調なら160出るわ!」


いがみ合う二人に浪川が冷えた視線で見つめ、大きくため息をつく


「はぁ...すいません坂木さん。うるさいやつら連れてきて」


「まぁ賑やかなのに越したことはねーよ。ほらほら、俺の奢りや。どんどん焼いてどんどん食え!」


和人がその言葉に遠慮せずガツガツと食べ始める


「流石坂木さん!じゃ、お言葉に甘えて、いただきます」


「おいこら!少しは遠慮しろよ!」


「でもここで遠慮したらむしろ失礼だって。ほらタン焦げちゃうよ!」


「ははは、若いっていいもんやな。俺もうオッサンやから流石に胃が縮んだわ」


「プレーはそこらへんの若い奴とは比べものにもなりませんけどね。それにまだ32でしょう?」


「むしろもう32や。若い頃と違ってあと何年体持つかわからんし、たった1つのケガで引退になる可能性だってあるしなぁ」


「それはベテランも若手も変わりませんよ。俺だってもしかしたら明日体が使い物にならなくなっているかもしれませんし」


その言葉に坂木がピクッと反応する


「まぁ確かにな...まぁ今はこういう暗い話してないでさっさと食おうや!お前肉何が好きなん?」


坂木の素早い切り替えに浪川が呆気にとられる


「ハ、ハラミが好きですけど...」


「おし、なら焼いて食え!お前もぜんぜん細いんだから食って体でかくしたらもっとホームラン打てるようになるだろ」


4人は合計約15人分の肉を食べ坂木の財布を痩せさせた


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