16 加熱する宴
ちょい長い
千葉マーリンズの本拠地千葉マーリンスタジアム...
迎えたオールスター1戦目当日、和人はロッカーのメンツの豪華さに圧倒された
「お、おお...セ・リーグを代表する選手の人ばっかりだぁ...」
そこで隣に座る浪川が口を挟む
「当たり前だろ。むしろ俺らみたいな未熟者がいる方が場違いだからな」
「そ、そっか...」
「にしてもお前ガチガチになりすぎだろ。さっきから水飲みまくってるし」
「これは当然の反応!平気でいられる君がおかしいんだよ」
「まー、それもそうか。堺もガチガチになってるしな」
その名前を聞いて和人がキョトンとする
「え?誰それ?」
「もう忘れたのか?ラビッツのドラ1ルーキー。こないだ俺に当てて帽子取らなかったノーコン速球バカだよ」
浪川が指指す方向のガチガチ震えて広島の大瀬戸と話している堺がいた
「あー、あいつか!因みに成績は?」
スマホでスポーツのアプリを開いて成績を確認する
「3.46、5勝5敗、球宴に選ばれるにしては微妙だな。なんか知らんが人気があるんだろうな」
「あ、あんなバカそうな奴のどこに魅力が?」
「バカなのはお前もだろ」
その会話を聞いた堺が和人に近寄る
「あんた、佐々城和人だよな?」
「う、うん」
「魅力が無いとはなんだ?ルックス、スタイル、そして鍛え抜かれた豪腕!魅力の集合体だろ!」
「ルックスはどうだか。せいぜい松坂桃李×0.6くらいでしょ」
「充分だろ!それにあんたこそルックスに問題あるだら!チビだし髪長くて女みてーな顔してるし絶対モテないだろ!」
「こないだJCにサインおねだりされたぞ!それに成績なんか君より断然上だし、豪腕なんて言ってるけど僕の方が直球速いよ?」
「ちっ、言うじゃねーか...なら、今日のオールスターで勝負しようぜ。どっちが速いストレート投げれるかな!」
その勝負に和人が自信満々で受ける
「いいよ、恥かくだけだと思うけどせいぜい頑張ってね!」
二人の言い合いに大きいため息をつく
(あー、めんどくせー争い始めやがった。これだからバカは嫌いなんだよ)
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二人が熱く争っている裏でマリンスタジアムに観客がぞろぞろ集まり球場も熱気を帯びていた
「いやー、何度見に来てもオールスターってのは良いもんだな!酒が進む進む!」
「ってまだ試合も始まってねーだろ。こないだみたいにベロンベロンになってぶっ倒れんなよ」
「ホームランダービー誰が優勝すると思う?」
「うーん、やっぱり山下か筒号じゃない?」
家族や友人など複数人で来ている姿が多く見られる中珍しく一人だけで球場に足を運んでいる横浜の帽子を被った女性がいた
(やっぱり熱いなぁ...でもオールスターのチケット取れるだけ奇跡だし文句は言えないよね!それに横浜の選手も何人も選出されてるし...あぁ早く試合始まらないかなぁ...)
星美波 身長150cm 体重39kg
横浜市内の大学4年生で横浜で生まれ育った根っからの横浜ファンで特に好きな選手は佐々城和人
美少女だが身長が低い事がコンプレックスで同じように身長が低いながらも豪速球を投げる和人に惚れ大ファンになった
(佐々城はいつ投げるかな?7回とか辺りかな?ファンに豪速球を見せつけて驚かせて欲しいなぁ)
この彼女が今後その大ファンである和人と親密な関係になることはまだどちらも知るよしもなかった...
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場面変わり、オールスターの醍醐味の1つであるホームランダービーの準備が整い今まさに始まろうとしていた
浪川は外野でボール拾いをやらされていた
(あー...めんどくせ。ボール拾いなんてここ数年まともにやってねーよ...)
心の中で愚痴りながらウォーミングアップをする
「よう、1年目からオールスターなんて凄いな。流石にあんだけ競合しただけあるわ」
そこに同じくボール拾いをしているラビッツの坂木に話しかけられる
「どうも、ルーキーにも関わらずあの坂木さんに話しかけてもらえるなんて光栄です」
「ははは、無表情だから本音なのか嘘なのかわからんわ!あ、こないだはウチの堺がごめんな。叱られて反省しとったから許してくれ」
「いえ、謝らないでください。坂木さんは悪くないです...よっと」
飛んできたボールをタイミングよくキャッチする
「筒号対須々木か、どっちが勝つと思う?」
「うーん...チームメイト贔屓抜きにしても筒号さんですね。今年の須々木さんはホームランバッターというより高打率を残す中距離タイプにモデルチェンジしてますからね。現に打率は首位打者の坂木さんに次ぐ.331ですし」
「ほー、他に理由は?」
「須々木さん最近のスイングを見る限り少し腰を痛めてます。流石にコンディション不良で筒号さんに勝つのは難しいでしょう」
(...俺も気にしてた須々木のスイングの違和感...やっぱりこいつ新人離れした嗅覚してるわ。今後セ・リーグ...いや球界を揺るがす存在になれる器...)
「ほら、やっぱり6対7で筒号さん勝ちましたよ...坂木さん?」
「あぁ、ごめん、考え事してたわ。お前の予想見事に当たったのか。お前と野球やるの楽しいやろなぁ...将来ラビッツ来るか?」
突然のストレートな質問に浪川が薄く苦笑いする
「ふふ...それはその時が来ないと誰にもわかりませんよ...」
「まぁ、そりゃそう...」
すると坂木の言葉を遮り浪川がただ、と後付けしキッと表情を変え低い声色になる
「現時点で答えるなら100%『NO 』ですね。おたくの監督には父が『お世話』になりましたから...その恩返しをするまで行く気は毛頭もありません」
意味深に語気を強める浪川に坂木が違和感を感じる
(原山監督にお世話?浪川の話し方からおそらく皮肉ってるんだろうが...浪川の父親が原山監督に何かされたのか?...後で監督に直接聞いてみるか)
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『いったー!ライトに高く上がった打球は看板に直撃する完璧なツーランホームラーーン!!浪川初のオールスターで魅せます!これで6回の表、5-2とセ・リーグがリードを広げます!』
オールスター1戦目の終盤に差し掛かる6回、浪川がセ・リーグの勝ちを近づけるツーランホームランを放った
「流石浪川だな...ホームランダービー参加しても良かったんじゃないか?」
ベンチ内の神城が仲の良いスネークスの高柳周平に呟く
「まぁ確かに面白いかもなぁ。本人はそういうやりそうなタイプじゃないから参加拒否しそうだけど」
その映像を見て少し悔しがりながらブルペン内で和人が準備をしていた
(...流石にMVPは浪川君に取られそうだな。でも堺君は2回2失点で最速は157...つまり158以上出せばあいつとの勝負では勝ちだ!ひやひやして待っとけよ堺君!)
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『7回の裏、パ・リーグの攻撃、マウンドにはこれまた新人の佐々城が上がりました。あ、浪川選手と菊田選手お二人ともお疲れさまでした!』
実況席にホームランを放った浪川とカールの菊田が呼ばれる
『では早速マウンド上の佐々城選手ですがチームメイトとして、相手として、お二人はどのような印象をお持ちですか?』
まず菊田が少し苦笑で話す
『そうですね...実際僕は彼との相性が悪くて、言い訳じゃないんですけどあの新人離れしたストレートにキレキレで落ちるカーブまで投げられたらまぁ普通打てませんよ(笑)』
『やはりそうですか。今シーズンは忍者と呼ばれる守備だけでなく打撃も好調ながら対戦成績がヒットが一本のみと抑えられている菊田選手としてはやはりそのような印象が残りますよね。
ではその球を捕っている浪川選手はどのような印象を?』
『うーん...良い直球も変化球も持っていて数字も悪くないんですが...変化球がカーブだけじゃそろそろ厳しいですよね。確かに守護神の山崎さんもストレートとツーシームしか投げませんけど流石にボールの完成度が違います。なので付け焼き刃なんですけど、彼には今は新しい変化球を覚えさせています...恐らく今日試しに投げるんじゃないでしょうか』
『なるほど、新しい変化球ですか...ではそこにも注目して投球を見ていきましょう!』
そしてマウンドでは当の和人がちょうど捕手のラビッツの大林にその新変化球の話をしていた
「オールスターでそのチェンジアップを試すってか?...なるほど面白いな」
「ほ、ほんとにいいんですか?もしかしたら大暴投になるかもしれないですけど...」
「安心しろ。絶対逸らさない。今日限り俺を信じてどーんと投げてこい!」
「は、はい!よろしくお願いします!」
一方憧れの和人が大舞台のマウンドに上がり美波は一人ニコニコして彼の動画をとっていた
(だ、大舞台でもやっぱりかっこかわいいー!若干緊張気味っぽいけどきっといつも通り凄い球投げてくれるはず!)
彼女の熱い期待と視線を感じたのか和人の胸が少しドキッとする
(...ん?...なんか今日はなんかやけに視線を感じるなぁ...なんでだろう?)
「や、やっぱ佐々城の登場曲ってエロゲーの曲じゃね?」
「こんな大舞台ですげぇ度胸...やっぱりあいつはオタクの鑑だ!他球団ファンだけど一生応援するわ!」
訂正、恐らくその視線は彼女のものだけではなく他多数の観客のものでもあった




