9 一軍昇格
ちなみに和人君のモデルは中日の浅尾コーチです
4月が下旬に入ろうとしていたある日二軍の満永監督が和人と田中を呼び出した
「なんすかね?満永監督からの呼び出しって」
「ま、それほど大事な話なんだろ」
「大事な話って?」
「それはまぁ分かんねーけど...とにかく早くいこうぜ」
二人は急いで部屋を出て監督室に向かいノックして入室した
「「失礼します」」
「おう、二人とも来たか...お前らに大事な話がある」
「も、もしかして一軍ですか!?」
「そんなわけな」
「そうだ、二人とも昇格だ。一軍で暴れてこい!」
「え!?う、嬉しいんですけど...なんで俺らなんですか?」
「お前ら気付いてないかもしれないが二人ともここまで二軍での10試合全試合出場して、佐々城は無失点に抑え、田中は全試合出塁してる。これを昇格しないで誰を上げるってんだ」
((そんなに活躍できてたのか...))
「一軍合流はいつですか?」
「今日」
「え!?なんも用意してないんですけど!」
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一方浪川は自分を取り上げているテレビ番組を見ていた
『...シーレックスのイケメンルーキー浪川泰介は現在セ・リーグの打点トップです!えー、続いてのニュースは...』
「すげーじゃん。もうテレビでお前の特集やってるのか」
同部屋の神茶谷が話しかける
現在の浪川の成績は.301 6本 18打点
このルーキー離れした成績を残しているのならニュースで特集が組まれてもおかしくは無いだろう
「ニュースに取り上げられたからと言って別に何も変わりませんよ」
「相変わらず冷たいな。お前コミュ症なの?」
「いえ、別に...」
(野球以外の何に対しても興味が沸かないんだよ)
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和人達は一軍に合流するためにコーチの車に乗ろうとしていた
「おい、忘れ物無いか?」
「はい!無いです!」
「おけ、そんじゃ行こうぜ」
本拠地に移動している間、和人達は車内で今日の東京スワンズの先発大川の動画を見ていた
「うわっ!めっちゃ足高く上げて投げますね」
「流石ライアン大川って呼ばれるだけあるな」
「そういえばコーチ、今日のうちの先発誰ですか?」
「あぁ、たしか伊能だった気がする」
(伊能さんかぁ...あの人ロングイニングタイプだから今日は僕の出番は無さそうだな)
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「...ん?おい浪川見ろよ!今日佐々城上がって来るぞ...あ、あと田中さんも」
「へぇ...それがなんなんですか?」
「なんなんですかって...」
「どうでもいいですよあんなの。どうせろくな球放らないでしょうしすぐ二軍落ちますよ。田中さんは知りませんが」
「そんなの分かんないだろ。もしかしたらめちゃめちゃすげぇ球投げるかも知れないぞ」
「まさか、あの身長と筋肉から角度のある良い球を放る事なんてできる訳無いでしょう。それにあいつは大学時代に捕手の要求無視で直球勝負して打たれて優勝を逃しました。捕手の言うことを聞かない投手なんて所詮は三流です」
「うーん...なんとなくお前決め付ける癖あるから気をつけた方がいいぞ」
「はい、すみません。以後気をつけます」
「ん?お前どこ行くの?」
「軽くランニングしてきます」
「おう、いってらっしゃい」
(あーあ...こいつはいつになったら心開いてくれるんだか...)
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(はぁはぁ...ランニング終了...軽く走ろうと思ってたのに全力出しちまった...なんか飯食おう...)
浪川がベンチに腰を掛けると、一匹の野良犬が現れた
「ん?なんだ?飯欲しいのか?...ほらよ」
浪川がコンビニで買ったサンドイッチの端を犬にあげようとするがそっぽを向いて去っていった
(ちっ、いらねぇのかよ...一匹狼と言えば聞こえは良いがそりゃ誰かの力を借りるのが怖いだけだろ?...俺も一緒だ)
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一方、一軍の本拠地横浜スタジアムに着いた和人達はめちゃくちゃはしゃいでいた
「相変わらずキレイですねーハマスタ!」
「んー確かにキレイだよなぁ」
「写真撮ってツイッターに投稿しよ。『高校以来のハマスタです!』っと...」
「ツイッターやってんのか、どれどれ...お前アニメとかゲームの事ばっかリツイートしてんな」
「別にいいじゃないすか!」
「誰も駄目とは言ってねーよ」
その時高卒ルーキーの沢からテレビ電話がかかって来た
「ん?沢君?はい、もしもし」
画面には涙を流しながら息切れしている沢の姿が映し出された
『はぁ...はぁ...さ、佐々城さん今どこにいるんですかぁ?寮内を探しても見つからなくてぇ...』
「ええ!?今朝一軍昇格するからハマスタ行くって言ったよね!?まさかもう忘れたの!?」
『え?...あぁ、そうでしたぁ。ごめんなさぁい、僕記憶力無いんですよぉ...』
「それ聞いたの6回目なんだけど。まったく...用件それだけかな?じゃあね」
『はぁい、さよならぁ』
ピッ
「あいつ不思議ちゃんだよな。普段はのろのろ動くし、とろとろ喋ってるけど、ショート守ってる時はめちゃめちゃ上手い守備見せるし、ハキハキ喋るんだよ」
「打撃はだいたい三振ですけどね」
「まぁ人生で一回もホームラン打ったこと無いらしいしな。あいつのことだからホームラン打ったのも忘れてるのかもしれんけど...てかそろそろグラウンド行って練習しようぜ」
「あ、そうだった。行きましょ行きましょ」
その時和人の頭上に物凄い勢いでボールが飛んできた
「うわっ!危ないなぁ、このボールどこから...バッティング練習中?」
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パカーン!!
「うはぁ、また場外!とんでもねぇなあいつ」
和人が当たりそうになったボールを打っていたのは浪川だった
(駄目だ駄目だ。もっと確実的に当てて飛ばす...ん?あいつら...佐々城と田中さんか...そういや一軍来たんだったな)
和人達二人はしりとりをしながらキャッチボールをしていた
「チェンジアップ」
「プール」
「ルーキー」
「機械」
「インフィールドフライ」
「よう、佐々城。そんな呑気で大丈夫か?」
「ゲゲッ、浪川!なんの用だ!また僕の事をおちょくりに来たのか?」
「ちげーよ、今のうちにサイン交換しとこうと思ってな。今日投げるかも分からんからな」
「え?」
「勘違いすんなよ。お前のためじゃなくチームのため、俺のためだからな。変にサインミスがあったらチームにも迷惑がかかる」
「まーたそんな事言って...素直になりなよ~浪川君」
「お前球種何がある?」
「無視かい...ストレートとカーブ」
「他は?」
「え?無いよ」
(は?カーブだけ?昭和の投手かっつーの...)
「...分かった、ストレートはこれでカーブはこれな」
「ふむふむ...オッケー、覚えた」
(ずいぶんあっさりだな...本当に覚えたのかこいつ?)
「そんじゃこのサイン交換無駄になんない様に二軍落ちんなよ」
「あいよ。君こそ落ちるなよ~!田中さん、しりとりキャッチボールの続きやりましょ」
「お、おう」
(二人とも少しは仲良くなったっぽいけど...俺蚊帳の外だな)
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【公示】 鍬原、國吉が登録抹消 佐々城、田中が登録
1.風吹けば名無し
ルーキー昇格来た!!!
2.風吹けば名無し
どっちも二軍だと調子よさ気だから一軍でも頼むで
3.風吹けば名無し
ええやん!期待しとるで