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異界の卵  作者: ハグキング
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7話 トーナメント組み合わせ

 ムースに続き、舞台への通路を進む。

 もっとも、先ほどは観戦席だったが、今回は戦う側なので舞台に続く道を歩いている。よくボクサーなどが控室からリングに向かう時のような一本道の通路だ。


 

 ここは浮遊島なので多少気温が低いはずなのだが、別にそこまで感じない。にも関わらずこの通路を歩いていると、血液が冷えるような感覚を覚える。

 リングに向かうボクサーや格闘家もこんな気分だったのだろうか。


 そして通路が終わり、外に出た時だった。



ワァァ―――――!!!



 耳をつんざくような歓声。

 先ほどの待ち時間で見た物とは全く別の光景が広がっていた。


 観戦席には人、人、人・・・人であふれかえっていた。その上空にはいくつもの画面がホログラム表示されている。先ほどとは打って変わって熱気に包まれていた。



「フフ、驚きましたか?しかし客席にいる方々はすべてホログラムです。今回の試験会場は浮遊島ということで、直接いらっしゃった方はいませんでした。」



「みんな本当にそこにいるみたいだね~!」



リリアが目を輝かせてキョロキョロしている。


「試験が盛り上がるように、客席ひとつひとつにPPAの投影機能と拡声機能のみを搭載した装置をつけているんです。もっとも、前回ここで試験を行ったのは5年も前になりますがね。今回、観戦席に投影されている皆さんは全てアンバスの構成員です。募ったのは希望者だけですので、大概の方は暇つぶし程度の認識でしょうが、中にはパーティメンバー候補を探しに見ている方もいらっしゃいますよ。」



 一万人は入りそうな観戦席が暇つぶしの構成員だけで埋まってしまうのだからアンバスがいかに巨大な組織であるかわかるな。



「オラの実力が全世界に知れ渡る時が来たようだべな。いろんなパーティから引く手数多だっぺなぁ~!」



 ヒョロ男君、君の実力を見たわけじゃないけど、たぶん全世界に恥が知れ渡るだけだと思うぞ。



「その通りですチーズさん、観戦席にいるのはアンバス構成員だけですが、戦いの映像は上空の映像用キューブを通じて全世界に配信されます。文字通り全世界、つまり第3銀河中です。まあ閲覧できるのはPPAを所持している人だけですけどね。」



 上空には2つのキューブが浮いていた。

 映像用のキューブは小さい方だな。闘技場のゴールゲートと同じくらいの大きさだ。

 もう一個の方はふたまわり以上大きいけど何のキューブだろう。


 それにしても、今回の試験も例年通り世界中の人々が閲覧できるようになっているんだな。

 地域によっては賭け事の対象にもなったりするらしいし。


 てかヒョロ男の名前、チーズかよ。なんてふざけた名前だ。



「皆さんもご存知の通り、認定試験や大型異獣討伐等の様子は、度々世界放送されます。死人が出ることもありますし、こちらからすれば遊びではありません。なのでこのような見世物紛いの扱いは個人的には好きではないのですが、それを娯楽としている資産家から活動援助金が入りますので仕方のない話なのです。」



 飄々としたムース試験官が珍しく悔しそうな表情をした。

 シドウも見世物のような扱いが気に入らないようで、顔に怒りを張り付けていたが、ムースのことは少しだけ見直したようだ。



「む、上の画面に映っている顔にはいくつか見覚えがあるな、もしや幹部か?」



「よくご存じですねオーバンさん。まあ一部の幹部は有名ですからね。幹部の皆さんも暇つぶし程度の感覚でしょうが、多忙ですし途中から観戦を辞める方もいらっしゃいます。そこまでお気になさらず。」



「ハイネ君、もしかしたら幹部の人たちのパーティから勧誘されることもあるのかな?やる気出てきたね!」



 リリアがわくわくした様子で耳打ちしてくる。



「ああ、今までも何度か幹部パーティからの勧誘された新人がいるらしいぞ。ごく少数だけどな。」




ムースの後に続き、舞台中央に到着する。


「がんばれよー!!」

「嬢ちゃんかわいいな!こっち向いてくれー!」

「情けねえ試合すんじゃねえぞー!」

「早く始めろー!!」

「あのマッチョどこかで見たことないか・・・?」



 観戦席からは様々な激励や野次が飛んでいる。

 音声までまるでそこにいるように聞こえるな。


 変な野次を飛ばした輩にはシドウが怒鳴り散らしている。


 可愛いといわれたリリアは嬉しそうにくねくねしている。いやリリア、もう人の女の子の方かも知れないぞ?たしかにリリアのほうが可愛いが・・・。


 オーバンやデスベルゲンは興味がないようで全く反応しない。


 グレゴリは舌なめずりしながら辺りを見渡している。ちらっときこえた「あのマッチョ・・・」ってコイツのことか?



 ムース試験官が手を上げると、観客はピタッと静かになった。



「えー皆さん、お待たせいたしました。これより最終試験、トーナメント式の実戦試験を行います。相手のギブアップ、または私が試合中止を宣言するまでの何でもありの一本勝負です。ただし、相手を殺してしまった受験者はその場で失格とさせて頂きます。今回は8名しかいませんからね。試験が終わり次第治療用のキューブで回復して差し上げますのでご安心を。」



「合格者の数は?」



オーバンが問う。



「数の決まりはありません。採点基準についてはお答えできませんが、優勝しても不合格になることもありますし、逆に一回戦敗退者を合格にすることもあります。」



ムース試験官は自身のPPAから、5mほどの大きな画面を空中に投影する。



「こちらが今回の組み合わせになります!!!」



画面に映っていたのはトーナメント表だ。



【左ブロック】


一回戦 シドウ・アオイ VS リリア・メアトリア


二回戦 ルーシィ・ウィンドウ VS デスベルゲン



【右ブロック】


一回戦 チーズ・チーザ VS オーバン・ギストゥス


二回戦 ハイネ・オラクル VS グレゴリ




 それにしてもシドウとリリアがまさか一回戦で当たるとはな。リリアはもちろん、シドウのことも俺は嫌いじゃないので少し残念だ。

 ムース試験官が勝ち負けは合否に関係ないと言っていたし、二人とも良い戦いをすれば合格できるかもしれない。



 銀髑髏眼帯の男、デスベルゲンの相手はルーシィ、最初の部屋でひたすらお菓子を食べていた女の子だな。

 ルーシィは顔を真っ青にして奥歯をガタガタ鳴らしている。たぶんこの子もデスベルゲンの『選定』に遭ったのだろう。リリアと違い、立ち直るどころか恐怖を刻まれたようだ。

 そんなルーシィを見て、デスベルゲンはつまらなそうに欠伸をしている。

 


 右ブロックの一回戦はヒョロ男のチーズと赤マントのオーバンだ。俺の予想ではオーバンはかなりの実力者だ。チーズが見た目通りの強さならまず瞬殺だろう。



 俺の対戦相手はあのマッチョ、グレゴリか・・・

 グレゴリをちらりと見ると、グレゴリもこっちを見ていたようでバッチリ目が合ってしまった。

 ニヤニヤしていて気持ち悪い。



「一回戦はシドウさんとレオン君だね。悪いけど負けるつもりはないからね!」



「おう、女の子と思わず、こっちも最初から全力で行かせてもらうぜ。」


「生意気な女め!圧倒的な力の差を見せてくれるわ!」



リリアとシドウは互いにいい笑顔だが、レオンはキャンキャンと吠えている。



「一応言っておきます、通常はマナー違反に当たるスキャンですが、本試験においては相手のバディのスキャンを認めます。一定のレベル以上のバディを持つ皆さんなら『鑑定妨害』が可能ですので必要ないと思いますが。」



 ん?『鑑定妨害』?なんだそりゃ。

 リリアに聞くと



「ある程度の強さを持つバディは『鑑定妨害』っていう異能とは別の能力を自然に使えるようになるんだよ。最新式のPPAのスキャンでも情報が一切読み取れないし、《鑑定》の異能を持つ異獣の能力も無効化できるの。」



「その通りです。『鑑定妨害』を使えるのは心から生まれた異獣“バディ”だけであり、野生種は使えません。ハイネさんはバディを所有されていないのでご存じなかったようですね。と言ってもほぼ常識レベルの知識ですけどね。」



 なんだと!そんな常識レベルの話を知らなかったのか俺は!

 ムース試験官は少し意地の悪い言い方をし、聞いていた周りの奴らもやれやれといった表情をしている。

 くそ・・・修行ばかりしていたせいだな。

 そういえばデスベルゲンのミーティア・スライムは普通に鑑定できたな。いや、あれは隠すつもりがなかったのか。

 その前に見たモヒカンのダンゴロームは『鑑定妨害』が使えないほどの雑魚だったってことか。



「『鑑定妨害』も知らんとは、よほどの田舎で暮らしていたのだな。」


「悪かったな・・・・!」



 とうとうオーバンにまで馬鹿にされてしまった。

 こいつ寡黙そうなキャラしてるくせに意外とお喋りだよな。


 この中で話を聞くと「『鑑定妨害』を持たないバディは雑魚」というイメージが沸くが、実際はそうでもなく、一般人のバディのほとんどは『鑑定妨害』を使えないらしい。アンバスの認定試験受験者ですら、優秀な者のバディしか使えないとのことだ。


 つまりスキャンできない、または一部の情報しか読み取れなかったバディは、かなり強いと考えていいのね。

 いや、デスベルゲンのミーティア・スライムのように敢えて『鑑定妨害』を外していることもあるだろうから一概には言えないな。





「それでは早速、一回戦を始めます!!」




 ムース試験官が高らかに宣言すると、黙っていた観客たちからまた歓声が上がる。

 舞台上空の大きい方の白いキューブが回りだし、アナウンスを流す。



『一回戦、シドウ・アオイ VS リリア・メアトリアを始めます、該当者以外の方は舞台から離れてください。』



 指示に従い俺たちは舞台から離れる。

 


『それでは防護フィールドを展開します。防護レベルは最大です』



 あとでムース試験官に聞いたところ、観客や建物の被害を減らすため、どこの国でも受験者同士の実戦試験の際は防護フィールドを展開するらしい。


 あれがあれば周りの被害を考えて平原や浮遊島を選ぶ必要はないのでは?と思ったが、防護フィールドは今の科学力では広範囲に展開することは難しく、また、野生の異獣への対処も試験では見たいため、結局は人気のないところで行うのだという。


 今回、観客は全てホログラムなので、周囲の人的被害は考慮する必要はないが、建物の損傷をできるだけ抑えたいらしい。




 舞台の中央でリリアとシドウが対峙する。




「正々堂々、力比べしようじゃねぇか。」


「勝っても負けても恨みっこなしだよ!」



ムースが手を上げる。




「それでは一回戦!はじめ!」



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