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異界の卵  作者: ハグキング
2/14

1話 ハイネ・オラクル

異界歴123年


 今から百数十年前、変革者ネオが生み出した異獣達。突如大量発生したそれらは未曾有の災害となって人類を襲った。



 当時、異星人含む人類が生活していた惑星、つまり第3銀河内の惑星の数は全部で10。それが50年で5にまで減った。


 ネオの言葉を信じた人間は多く、様々な対策政令がだされたものの、異獣災害が発生するという確証が得られず、また、実際に体験していないので被害の目処もたたないので、録な対策にはならなかった。



 卵を与えられてから異獣災害までの1年までで、殆どの人類は孵化を済ませていた。

 だが、パートナーとなる異獣とのコミュニケーションもままならず、暴走して所有者を殺す異獣、中には異獣を使って銀行強盗やテロ等の犯罪をする者まで出始めた。

 


そういった危機感の無さと情報の少なさが、大量発生した野生の異獣に対処しきれず、かなりの人数が惨殺された。


 それまでに人類が築き上げた近代武器も有用ではあるものの、決定打にはならないものばかりだった。




 一つの惑星を完全に異獣に乗っ取られてから初めて、銀河統括政府は、異獣の扱いに長けた者達を集め、異界歴4年に異獣災害対抗機関、【アンバス】を立ち上げた。


 アンバスは、孵化させたパートナーである異獣を“バディ”と名付け、その扱いや、野性の異獣との戦闘方法等を世界中に広めた。

 また、新たに産まれてきた子供も異界の卵を宿していることが判明したため、専門の学校等も立ち上げた。


 構成員はトップクラスの頭脳・身体能力・バディを持つエリート達ばかりである。




 アンバスは優秀な機関であったが、設立されたばかりの少数人員の機関であったため、増え続ける異獣の対策は難しく、組織基盤が安定する異界歴50年までに、5つの惑星を異獣に支配された。

 しかし1つ目の惑星が支配されるまでにかかった時間は、たった3年だ。それを考えると50年で5つまでに抑えているアンバスがいかに重要な機関であるかが分かる。



 それからは教育制度の充実、情報の共有によって、人々はバディを使いこなし、異獣ハンターや異獣研究者等の職業も増え、人類と異獣との戦いは、ほぼ拮抗状態に入った。




 そして現在異界歴123年



 

―――—デオロシア領 辺境の雪原。


 今年は雪の降る量が特に多くて、作物は育たないし、狩りにも行けない日が続いた。

 お母さんもお父さんも妹もお腹を空かせているのに、食事は一日パンひとかけらだ。



 雪原を1時間ほど歩いた先にロイヤルビーの巣がある。甘くて栄養価たっぷりの蜜を作るハチだ。

 この時期にちょうど沢山の蜜を作るんだけど、お父さんは絶対に行っちゃだめだって言ってた。

そこはロイヤルビーの巣を食事にしている異獣、ハニーベアの縄張りだからだ。


 でもお腹を空かせて元気のないみんなを見ていられなくなって、内緒で蜜を取りに行くことにした。



 この日、僕は油断していた。



 10歳になってから、お父さんから狩りの技術を仕込まれていた。消臭効果のある粉を全身につけ、足音の出にくい靴を履き、木や岩の陰からひっそりと獲物を狙う、そう教わったはずなのに・・・



 辺り一面のロイヤルビーの蜜をみてその香りを嗅いだ時、無様にも大きな足音を立てながら巣に駆け寄ってしまった。



 気づいたのはロイヤルビーの蜜を瓶に詰め終わった後だ。



 10メートルほど前から3メートルはあろうかという巨体のハニーベアが近づいてくる。

蛇に睨まれたカエルのように僕は固まってしまったが、お父さんの言葉を思い出した。



「ハニーベアは蜜を取りに来る人間の肉も大好きなんだ。」



 この言葉を思い出して我に返り、思いっきり駆け出した。きっと死んだふりなんて通じないだろう。同時に走り出したハニーベアから逃げられるはずもなく追いつかれ、太い腕で僕は吹き飛ばされた。



 全身を強打し、体が動かない。

ハニーベアがゆっくり歩いてくるのが見える。



(あぁ、体が全然動かない。きっとこのまま食べられちゃうんだ)



  ついに目の前までやってきたハニーベアは、大きな口を開けて僕にとびかかってきた。

ここで終わりだ。そう思って僕は瞼を閉じた。



 ・・・何秒たっただろうか、まだ痛みは来ない。

もしかして僕はもう死んでいるのだろうか。

そう思って目を開けると、信じられない光景がそこにはあった。



 口を開いたハニーベアの突進を片手で受け止めている青年がそこには立っていた。



「おー、あぶねえあぶねえ、ギリギリセーフだな。」



 青年は軽口を叩きながらこちらにふり返る。



「坊主、大丈夫か?一人でこんなところまで来たら危ないぞ。」



 半分が黒色、もう半分が白色という奇抜な色の髪をした青年は、僕の無事を確認してから腰の刀を抜く。



(お兄ちゃん早く逃げて!)



 そう言おうと思ったのに、その刀のあまりの美しさに見惚れて声が出せなかった。

 特段珍しくもない普通の刀、あえて言うならば今の時代に珍しい金属製だということだけだ。

なのに目が離せない、そんな魅力を醸し出していた。



 抑えられて怒りが頂点に達したハニーベアは、腕をブンブンと振り回すが、青年はひょいひょいと躱している。


 しびれを切らしたのか、ハニーベアが前かがみの体勢になる。


 前にお父さんに聞いた!ハニーベアはあの体勢の後、見えない斬撃を繰り出してくるって!



「お兄ちゃんよけて!!!」



 今度こそ僕は大声を出す。


 ハニーベアが両の腕を振るうと、見えない何かが飛んできた。辺りの草木を切断してこちらに迫る。



「お、《風爪》か。だーいじょぶだいじょぶ。」



 お兄ちゃんが見えない斬撃に向かって刀を軽く振るう。

 斬撃が刀にあたったのだろうか?キィンと音がしたと思ったら、斬撃はすっかり消えてしまった。



「え?」



 僕もハニーベアもなにが起きたかわからず固まっていると、お兄ちゃんは一瞬でハニーベアの懐に踏み込み、喉に刀を突き刺す。



 弾丸もはじく分厚い皮に、吸い込まれるように刀身が貫通する。

そのまま下に斬り払い、真っ二つになったハニーベアはその場で絶命した。



「よう坊主、元気か?」



 お兄ちゃんは刀についた血を振り払い、「チンッ」と心地よい音を立てて鞘に戻す。

 ベテランの狩人ですら5人はいないと仕留められないハニーベアを一撃で・・・。

 僕は驚きすぎて声が出なかった。



「なんだ?動けないのか、鍛え方が足りないぞ。しょうがないな」



 そう言ってお兄ちゃんは僕をヒョイと持ち上げ肩に担ぐ。



「ほら、家はどの方角だ?」


「もしかして・・・家まで運んでくれるの・・・?」


「そりゃここで放置するほど鬼じゃないよ。まったく、試験日締め切りまで時間がないのに道草食っちまったぜ。」



 どうやら助けてくれた挙句、家まで運んでくれるらしい。



「ありがとう・・・お兄ちゃん。お願いします。」



 この後、僕がハニーベアの肉はとても美味しいのにいらないのかという話をしたらすぐに戻って肉を解体し、腕についたPPAに電子化保存していた。なんでも美味しい物に目がないらしい。


 帰りながらお兄ちゃんは色々な話をしてくれた。

 名前はハイネっていうらしい。なんでもアンバスの認定試験を受けに来たとか。お父さんから聞いたことがある。確かみんなのために異獣と戦ってる人たちのことだ。



 無事に家についたと同時に、銃を持ったお父さんとお母さんが扉を開けて飛び出してきた。

 お兄ちゃんのことを誘拐犯か何かかと思ったらしく慌てて銃を構えた。ボロボロになった僕の姿を見て頭に血が上ったのか、僕が弁明をする前にお父さんはお兄ちゃんに向けて発砲した。

 でもお兄ちゃんは「あぶね」と言いながらひょいひょい躱していた。

 大人になったら弾丸もよけられるのかな?



 弾が無くなったところで僕が何とか弁明し、誤解を解いた。僕の命の恩人だと知った両親は大慌てで土下座していた。



「じゃあ俺は急ぎますんでこれで。」



 そういってお兄ちゃんは僕を両親に返すと、雪原を1人歩いていった。

 しかもハニーベアの肉塊を僕たちの家族にくれたのだ!



 お兄ちゃんが去ったあと、僕は両親にすごい怒られながら手当をしてもらった。

 その日の晩は久しぶりの肉をみんなで泣きながら食べた。

 僕はこの味を一生忘れないだろう。

 僕はこれからたくさん鍛えて、いつの日か、アンバスに入れるように頑張りたいと思う。



 ありがとうハイネお兄ちゃん。

 





――――――若干の道草は食ったが、なんとか俺はデオロシア共和国の首都モアクス都市部にたどり着いた。ここに来たのはアンバスの認定試験を受けるためだ。


 アンバスに所属するには試験による認定が必要であり。認定されたものは強制的に全員が対抗組織、アンバスに所属することになる。一度認定されてしまったら必ずアンバスの構成員として働くことになるのだ。アンバスの指示を受け、発生し続ける異獣を討伐し、最終的にはこの世界のどこかにいるネオの発見、及び駆逐が目的となる。


 まあ強制といっても、籍だけおいて自分勝手にやってる構成員もいるらしいけどな。


 試験は年に3回、様々な国で開かれる。試験内容は毎度異なるものの、開催国によって一定の傾向があり、デオロシアでの試験は毎回かなりの難易度を誇るとの話だ。

 試験終盤まで行くと、その内容はPPAによって世界中に公開される。



 このデオロシアは地球の中でもかなりの科学技術を持った国だ。

 その中でもこの首都モアクスはすごい。白塗りの高層ビルが立ち並び、その隙間を空飛ぶ車やバイクがすいすいと通っていく。看板や標識は全てホログラムで投影されている。

 後進国では今でも車は地面を走っているし、看板も金属製、軍備も違い過ぎて、仮に戦争をしても先進国と行進国では象と蟻の戦いという話だ。


 なぜこれほどまでに科学力の差があるというかというと、野生の異獣の発生率に関係する。10年ほど前、アンバスの科学チームが生み出した“異獣の素材を使った技術”により、世界の科学は一歩も二歩も前進した。


 金属製の装備は廃れ、異獣の皮や牙などを使い、その能力を搭載したものが主流となった。


 素材となる異獣の出現率が多い国であるほど科学力が比例して高くなり、逆に異獣の発生率が低い国ほど貧しくなった。人々は豊かな暮らしを求め、異獣の多い国へ移動する。まあ街の中にさえ入ってしまえば防衛システムがあるので、野生の異獣に襲われることはまず無い。最も、ここモアクスのような発展した都市に住めるのは一部の金持ちだけだ。


 人類を脅かす異獣達のお陰で今の豊かな暮らしがある、何とも皮肉な話だ。

 今の生活を保つためにネオの捜索を中止しろ、なんて言う輩も実際にいるらしいが、とんでもない話だ。


 今だって異獣の侵攻はジワジワと続いている。アンバスが動かず放っておけばあっという間に人類は絶滅するだろう。




 空中に投影されたホログラムの案内に従い、試験会場へたどり着く。

 大きな四角の建物だ。本当にそんな感想しか出てこない。窓もないし、随分飾りっ気のない建物だな・・・。


 中に入ると、険しい表情をした受験者で溢れかえっていた。バディを連れている者もいれば、そうでない者もいる。一人一人名前と顔、バディを確認されて奥へ進んでいく。



「さすがに認定試験なだけあってみんなそこそこのバディを連れてるな。」



 受付には長蛇の列ができており、一時間ほど経過してから俺の番が来た。


「どうも、認定試験の受験に来たハイネっす。」


 俺はPPAで受験票を空中に投影する。


 筋骨隆々な受付のおっちゃんがそれをじっくりと見る。


 PPAというのは『粒子投影機(particle Projector Ambass)』のことだ。

 アンバスが開発した装置で、様々な情報を入れることができ、特殊な粒子を用いて空中に3D投影することができる。スキャン機能のレーザーポインタを異獣に当てれば、その異獣の詳細なデータを調べることもできる。


 最初こそ単純なプロジェクターのような使い方だったが、今となっては万能機械としか言いようがない。

 ここに来る前にハニーベアを取り込んだ電子化機能は一定の大きさの任意の物質を電子化しに保存しておくことができる。電子化された物質は劣化することもないので、大量の食事が必要な旅には欠かせない機能だ。もちろん生きているものは電子化できない。


 また、あらゆる国の言語を誤差なく神経を伝って翻訳し、まるで共通の言語で話しているかのように会話をすることもできる翻訳機能もある。


 一般的には腕時計型が普及しているが、一応色々な型があるらしい。




「半分白に半分黒とは、ずいぶん奇抜な髪の色だな。間違いないな、ん?お前のバディは?」


 おっちゃんは受験票と俺の髪を確認し、PPAに受験者認証を登録した後、俺が異獣を連れていないことに気づいた。


「髪のことは生まれつきだから気にしないでくれ。・・・実はまだ孵化してなくてね。俺一人で受けに来たんだ。」


 おっちゃんは目を見開いて俺の腰の刀をみる。


「おいおい、まさかその腰の得物1本で試験を受けるつもりか?歳は18歳だったな、その年で孵化してないってことはまず脱落者だろうな。そりゃ脱落者は試験を受けられないって規則はねぇけど。」


 ほぼ全ての人間は産まれてから10年以内に異界の卵を孵化させている。卵は所有者の強い感情によって孵化するため、大抵は自制心のない幼少期に孵化するのだ。

 極々まれに産まれてから死ぬまで卵が孵化しないものがいる。「適正」のない者だ。原因は不明だがなぜか一生卵のまま終える。そういった者達は【脱落者】と呼ばれている。


「おいおいおっちゃん、確かに18歳で卵を孵化させてないのは珍しいけど勝手に脱落者って決めつけるのは失礼じゃないのか?俺の卵は“黒の卵”だぞ。」


 そう言うと、おっちゃんだけでなく、後ろに並んでいた受験者達も静まり返った。そして一拍おいて全員が声を上げて笑い出した。


「はっはっは!“黒の卵”と来たか!!世界で10人しかいない天才達と自分を同列に語るとはボウズ!中々の度胸だな!」


「おいおい聞いたかお前ら!この小僧は“黒卵”持ちらしいぞ!ひーっひっひ」


 おっちゃんや後ろに並んでいたガラの悪い受験者たちが腹を抱えて笑っている。


「なんで笑うんだよ?」


 戸惑っていると、後ろにいたモヒカンの受験者が口を開く。


「たま~にいるんだよなあ、お前さんみたいにコゲ茶と黒の見分けがつかなくて勘違いする奴が。」


 異界の卵の特徴に殻の色の違いがある。

 茶・白・赤・銅・銀・金・黒の7色があり、産まれる異獣の強さが白から順に強くなる。

 多くの一般人は大概“白”か“赤”で、何らかの才能に秀でていたり、ポテンシャルの高い者には銅以上の卵が宿る。金と黒に関しては天才や超人だ。

 白の下の“茶”の卵は一生孵化することがない、つまり脱落者の卵だ。


 産まれた異獣はそれぞれの種族の体色をしており、卵の色とは関係ないが、能力が大きく異なる。野生の異獣でも、弱い種族と思って油断していると、実は金の卵から産まれた個体だったりして凄まじい被害を蒙ることがあるのだ。もっとも、現在ではPPAの開発が進み、異獣のスキャンが可能になったので、スキャンレーザーを当てれば、“白”や“赤”等の産まれた卵の色が確認できる。

 

 ちなみに最強種が産まれる“黒”のバディを持つ人類はまだ、確認されているだけでも世界で10人しかいない。


「俺のは茶色じゃなくてちゃんと真っ黒だよ!」



 モヒカンが俺の肩をポンポンと叩く。


「わかったわかった・・・何とでも。自分の卵は自分以外には見えないんだから。」


 なんだこいつら八つ裂きにしたい。

 憤怒していると受付のおっさんが飽きたようにひらひらと手を振った。


「まあいいさ、もし本当に“黒の卵”ならアンバスにっとって貴重な戦力になるし、そうでなければ試験を脱落するか死ぬだけだ。せいぜいがんばりな。」


 受付を過ぎるとワープゲートへ案内された。異獣ハンター認定試験は実戦科目がほとんどのため、近隣への騒音、攻撃の余波、異獣による被害を考え、試験会場は人気のない孤島や平原、森で行われる。今回は上空の浮遊島らしい。


 その浮遊島に行くのに使うのがこのワープゲートだ。仕組みはよく分からないけど、これも異獣の素材を使ったもので作られていて、人や物を一瞬で目的地へ運ぶことが出来るらしい。

 大昔には空に浮かぶ島の物語があり、皆が憧れていたようだが、今では一瞬で行き来できる。便利な世の中だ。


 ワープゲートへ足を踏み入れようとした時、後ろから声をかけられた


「ねぇねぇ君、“黒の卵”って本当?」


 声の主は活発そうな女の子だった。歳は同じくらいだろうか?赤茶の髪を後ろで一つにまとめ、細めの体躯に動きやすそうな軽装。目がパッチリした美人だ。


「あ、いきなりごめんね!私、君の少し後ろで聞いててさ、“黒の卵”持ちと会えるかもって急いで追いかけてきたんだ!」


 その言葉に嘘はないようで、目をキラキラと輝かせている。


「ああ、本当だよ。俺の目がおかしくなければ、卵は黒色だ。まだ孵化してないから試験は身1つで受けるんだけどね。」


「おー!すごい!バディなしで試験に挑むなんて中々チャレンジャーだね。“黒の卵”なんてことになれば歴史に残るよ!早く孵化するといいね!あ、私はリリア、リリア・メアトリア!宜しくね。」


 リリアは手を差し出してきた。俺はその手をがっしり掴み、握手をする。


「おれはハイネ・・・ってさっき聞いたんだっけか。認定試験、がんばろうぜ。」


リリアはうんうんと何度も手をブンブン振る。


「リリアって何歳?」


「ん?17歳だよ」


 1つ下か、まあそんなもんだな。


「俺が言うのもなんだけど試験を受けるにはかなり若いよな、その年で何でリリアはアンバスを目指しているんだ?」


「んー、ちょっと欲しいものがあってね・・・それを手に入れる一番の近道がアンバスに所属することだからって感じかな。他の誰かに見つかっちゃ困るから早めにハンター認定試験に合格したくって。そういうハイネ君こそ・・・」


「リリア、いつまで遊んでいる。はやく行くぞ。」


 突如、声がリリアの話を遮った。声のした方向は地面だ。見るとリリアの影がスーッと伸びていき、黒いトカゲ人間が現れた。


「ごめんごめんラーハルト。ハイネ君、この子はラーハルト、私の自慢のバディだよ!」


「シャドウアサシネルリザードか、影にひそみ、暗殺を得意とする異獣だったな。野性の個体は“白”でも1匹で小隊を蹂躙する危険個体だぞ。すごいな」


 ラーハルトは漆黒の体に金色のネックレスをしている。前に歴史の本でみたエジプトの王とかがつけているようなごっついやつだ。

 眼光は鋭く、漂う雰囲気は危険なものの、どこか優雅だ。時々太陽に反射して鱗が藍色に光る。顔はトカゲだが体格は人間のそれだ。


「異能は《影繰り》だったか。便利な能力だ。」


「スキャンもしてないのにすごい詳しいねハイネ君。シャドウアサシネルリザードなんて滅多に会えないはずなのに・・・」


 【異能】、それは異獣が持っている特殊能力のことだ。シャドウアサシネルリザードであれば、影を操ることができることのできる《影繰り》がそれに当たる。

 炎を吐いたり風を起こしたり、異獣の種類によってさまざまな能力を持っている。基本的には1種族1つの異能だが、強力な個体は複数の異能を持つこともある。


 やや訝しげな眼を向けるリリアに俺は少し焦る。


「あ、ああ、昔ちょっと見たことがあってね。・・・それにしてもすごいなリリア、言語能力を持ってるってことは“銅”以上か。」


「むふふ、カッコいいでしょ?この子と一緒にいれば誰にも負けないよ私は!ちょ〜っと口うるさいのが玉に瑕なんだけどねぇ」


「リリア」


「わかったよ〜、じゃあハイネ君、行こっか!」


 やれやれと言った感じでラーハルトはリリアの影に潜る。

 この二人はすごくいい関係を築いているみたいだ。ラーハルトもなんだかんだとリリアのことを主と認めているようだ。

 スキャンしてみたいが、感知能力の高い異獣ならスキャンレーザーに気付くこともあるし、スキャンを妨害する機能も最近出来てきたらしい。そもそも他人のバディをスキャンするのはマナー違反なのだ。

 いいな・・・バディ。

 おれも受付で見かけたゴキブリとかナメクジみたいなのじゃなくて、ラーハルトみたいにカッコいいのがいいな。


「おし!じゃあいくか!」


 俺とリリアはワープゲートに足を踏み入れた。




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