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異界の卵  作者: ハグキング
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12話 ハイネVSグレゴリ

 試合が始まったものの、俺もグレゴリも動かないでいた。

 するとグレゴリが口を開く。



「強盗団なんてもんをやってるとよお、鼻が良くなるんだ。最新装備のポリスやアンバスから逃げ回ってるからな。危険な匂いをすぐ感知できるようになる。」



 グレゴリは自分の鼻をつつく。危険が身近にある者は、ある種の第六感が冴えわたるようになるって聞いたことが確かにあるな。


「それで、あんたのその自慢の鼻によると俺はどんな感じ?」 



 グレゴリは二チャッと笑う。



「かなりやばい、さっきのシドウとオーバンって奴らも中々だったが、眼帯野郎とお前は別格だ。お前ら本当に人間か?」



「どうかな、戦ってみればわかるんじゃないか?」



 俺も少し楽しくなってきて笑い返す。 



「そうだなぁ、だが強い方が勝つとは限らないんだぜ?流石にバディ無しでお前に勝つのはキツそうだけどな。来い、ロックタートル」



 グレゴリの合図で亀の異獣が飛び出す。

 瞬時にスキャンしてみたが『鑑定妨害』を持っているようで、情報は読み取れない。さすがに強盗団のボスってことだな。ただ、バディに名前を付けずロックタートルという種族名のまま呼んでいるってことは、相手に情報を晒すようなものだ。


 だがコイツの場合は違う。



「そいつはロックタートルじゃない、“サポートタートル”だ。自分以外の任意の相手の色々な能力を上昇させる異能を使える異獣だな。」



 グレゴリが少し驚いた様子を見せる。



「強盗団のボスらしい小賢しさだ。サポートタートルは確かに見た目はロックタートルに似ているが、その能力は何倍も厄介だぞ。」



「くくく、なかなか野生で姿を見せないサポートタートルを知ってるたぁ、流石だな。その通り、こいつは自分以外対象の力やスピード、武器の強度なんかも上げることができる。」




 バディが完全に見破られたというのに、グレゴリはどこか嬉しそうな様子で笑う。


 サポートタートルは、自分以外の能力を上げられるが、自分の能力は上げられない。だから他の者を戦わせ、自分は身をひそめる。なのでなかなか発見されない。サポートタートルを知っている者は、いつも簡単に倒せる異獣が何故か強いと感じたらコイツの存在をまず疑う。


 臆病な性格だが、その甲羅は鋼鉄並みの強度があるので、けっして脆弱という訳ではない。


 一方、グレゴリが俺を騙すために呼んだロックタートルというのは鉱石の甲羅を持つ亀だ。

 防御力は言わずもがな、《身体強化》程度の異能しかもっていないので、サポートタートルに比べると数段ランクの低い異獣だ。



「キュオオオ!!」



 サポートタートルが吠えると、グレゴリの体が輝きだす。

 恐らく色々な上昇効果、所謂バフをかけているのだろう。

 あんまり長くかけられると厄介だ、早めに止めた方がいいな。


 俺はひとまずサポートタートルは無視し、グレゴリのもとに駆ける。



「(まずは小手調べだな。)」



 やや軽めに拳を握る。



「おいおい、素手で戦う気かよ!俺様の体は既に鋼鉄並みの強度を誇っているんだぜ?」



 構わずに俺はグレゴリの懐に潜る。

 横なぎに振るわれた白熱化したククリ刀を躱し、グレゴリの顔面を殴りつける。



「がっ!!??」



 俺の拳はグレゴリの頬にめり込み、10mほど吹き飛ばす。

 水平に飛んで行ったグレゴリは、慌てて態勢を立て直す。口から血が出ているが大したダメージではないみたいだ。



「おいおい、ハイネの野郎、あんな細腕であのマッチョを吹き飛ばしたぞ。」

「す、すごい怪力だね。」



 外のシドウとリリアが口を開けてポカーンとしている。



「ペッ!見かけによらず、すげえ怪力だな。」



 グレゴリは口から血だまりを吐き、顔をさすりながら立ち上がる。

 鋼鉄並みの強度ってのは伊達じゃなかったな。今の一撃は弱い異獣くらいなら気を失うほどの威力で打った。


「だが、思った程じゃねえな。本気のパンチでこの程度のダメージ、その骨董品みてえな刀を抜いたところでバディのいないお前は俺様の相手じゃない。」


グレゴリは思案する。



「(おかしい、こいつからは、あのデスベルゲンとかいう眼帯男に匹敵するほどの危険な匂いを感じた。なのに戦ってみれば、といっても一撃食らっただけだが、そうでもない。確かに鋼鉄並みの硬さになった俺を吹き飛ばすほどの膂力は中々だ、だがそれだけだ。あの刀に秘密があるのか?)」



「そうかもな。ところで何を言っているんだ?」


「ああ?」


「俺がいつ、本気のパンチを打ったって?」



俺がそういうとグレゴリは鼻で笑う。



「おいおい、ハッタリはよせよ。人間離れした怪力だとほめてるんだぜ?これ以上は高望みってもんだ。」



たしかにそこそこの力で打ったが、あれが本気と思われるようじゃ、俺に並外れた力があるってのは本当らしいな。だって、



「さっきのは10%くらいの力だぜ?パワーもスピードもな。」


「は?」


「見たいなら見せてやるけど」



呆けた顔のグレゴリに再度踏み込む。今度は本気の踏み込みだ。

一瞬でグレゴリの背後に回り込み、肩をポンポンと叩く。



「馬鹿な!動体視力バフもかかっているんだぞ!転移系アイテムか!?」



 グレゴリには何も見えなかったようで、俺が転移や瞬間移動のアイテムを使ったんじゃないかと疑っているようだ。



「いや、ただ早く動いただけだよ。それにお前が反応することもできなかったってだけ。」




 顔を真っ赤にしたグレゴリが再びククリ刀を振り回す。スピードのバフが入っているのか、中々早いが、危なげなく躱せる速度だ。こりゃ【無銘】を抜く必要もないな。


 A級賞金首というからもう少し強いかと思ったが、大したことなくて残念だ。



「もういいや、終わろうか。」



 60%位の力でグレゴリの腹に拳をねじ込む。



メキャ!!!



グレゴリの体がくの字にひしゃげる。



「ぐっは!!!」



 サポートタートルの異能が発動し続けているのか、グレゴリの体は先ほどよりも何倍も硬い。

 このバフのかかる速度、もしかしたらあのサポートタートルは“銀”くらいあるかもしれないな。


 少し力を入れて振りぬくと、グレゴリはそのまま上空に吹き飛び、防護フィールドに激突した。

 その後落下し、受け身も取れずに地面に叩きつけられ、動かなくなった。


 サポートタートルは、何もできずにそれをただ眺めているだけだった。



『グレゴリの気絶により、ハイネ・オラクルの勝利です。』



ワアアアァァーーーー!!



 大歓声が観戦席から響く。

 先の二戦並みに早く終わってしまったが、何がそんなにウケたのだろうか。

 首をかしげながら舞台を降りると、

 シドウとリリアが駆け寄ってきた。



「おいハイネ!なんだあのバカ力は!素手に見えるが、何かの異獣装備を付けてるのか!?」



 シドウが胸倉をつかみグイグイと揺らす。う、気持ち悪くなりそう。



「いや、ただ普通に殴っただけだって。俺は普通の人よりちょっと力が強いみたいだから・・・」



「100キロはありそうな巨体の男の人を20mくらい上空に吹き飛ばすパンチが打てる人が、ちょっと力が強い・・・?」



 リリアもぶつぶつ呟いている。

 その後ろからムース試験官が拍手をしながらやってきた。



「いやはや驚きました。あのグレゴリ・ガーナをこうも簡単に倒してしまわれるとは。彼にはアンバスも中々手を焼いていましたからねえ。」



 グレゴリを見ると、キューブとドローンがせっせと捕縛している、ムース試験官もやはりグレゴリがA級賞金首だということを知っていたようだし、このまま牢獄行きだろう。

 グレゴリのように強力なバディを所持している者は、警察ではなくアンバスの管理する牢獄に入れられることになるらしい。

 看守はみなアンバスの実力者たちで、実力行使での脱出は不可能とのことだ。

 


「どうしてあのグレゴリをこの試験に参加させたんだ?」



 犯罪歴のある者は通常書類審査の時点で落とされる。なのに本名で受験してきたグレゴリを参加させたのはなぜか。



「彼にはある組織とのつながりが噂されていましてね、その尻尾をつかむために泳がせていたのですが、どうやらハズレのようですね。受験者に扮した構成員に接触させましたが、強盗団へのスカウトとアンバスメンバーのみが入れる区域への通行権目的だったようです。」



「ある組織?」



「それはハイネさんが合格したら詳しくお話しましょう。」



 それにしてもこんなところまでスカウトに来るとは、なかなか仕事熱心な奴だ。

 これからキューブや異能の力でグレゴリの強盗団のアジトも自白させられるだろうし、平和の敵がひとつ減ってよかったよかった。


 それにしてもあの程度でA級賞金首か、アンバス構成員も何人かやられてるって話だったけど、構成員の質もピンキリなんだろうな。


 まあもう過ぎた話だ。

 問題は次の試合、俺がオーバンに勝てば、次の試合の勝者が決勝の相手になるのだ。



「さて、次はシドウとデスベルゲンか・・・シドウ、森であいつとは戦ったのか?」



 シドウは苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。

 


「ああ、いきなりあのおぞましい色のスライムに襲われてな、レオンがいなきゃ正直殺されていたかもしれねぇ。『人獣融合』を使ったとしても勝てるかどうかわからない。」



 やはりシドウもミーティア・スライムに襲われていたか。

 それに『人獣融合』・・・・デスベルゲンほどの実力者が使えないとは思えない。

 いや、あれは実力ではなく、バディとの信頼関係だったか。それなら使えない可能性もあるな。

 あんな戦闘狂を信頼するバディなんてそうそういないだろう

 


「ま!とにかくやるっきゃねえ!戦う前から逃げるような腰抜けじゃねえよ俺は。」


「その通りだ主よ!あの不届き者を成敗してくれようぞ!」



シドウとレオンが気合を入れなおす。



 そういやデスベルゲンはあれで書類審査通ったんだな。

 犯罪経歴バリバリありそうだが・・・・



『それでは左ブロック決勝戦、シドウ・アオイ VS デスベルゲンを始めます、該当者以外の方は舞台から離れてください。』



「がんばれよ。」

「レオン君も気をつけて!」



 俺とリリアがシドウの背中を押し、覚悟を決めたシドウが舞台に立つ。

 その肩には頼もしい相棒のレオンが乗っている。



「よォ、オレの目も衰えたもんだ。ルーシィとかいう小娘といい、グレゴリとかいう奴といい、期待外れにもほどがある。」



「そうか、じゃあ今から腹いっぱいにしてやるよ!森での借りは返す。」



「ククク、ライオン小僧ォ、たしかにお前なら少しは楽しめそうだ。『人獣融合』もつかえるしなァ。」



 シドウとデスベルゲンがにらみ合う。

 ピリピリとした空気が漂い、ホログラムの観客でさえ生唾を飲んでいる。

 


『防護フィールドを展開します。防護レベルは最大です』



 透明な壁が舞台を包む。





「ハイネ君・・・どっちが勝つと思う?」



「わからない、シドウの『人獣融合』も少ししか見れなかったし、デスベルゲン自体の強さはまだ不明だ。間違いなく強者だろうけどな。・・・ミーティア・スライムを使われるとしたら正直厳しいと思う。」



 リリアは俺の言葉を聞き、また舞台に視線を戻す。肯定すらしないものの、きっと同じ意見だろう。・・・そしてきっと、シドウも。



「それでは、左ブロック決勝戦はじめ!」



「『人獣融合!!!』」





ムース試験官の合図とほぼ同時にシドウの体が光に包まれる。

最初から『人獣融合』か、俺もきっとそうするだろう。出し惜しみして勝てる相手じゃない。



「クク、最初から全力で来い。」



デスベルゲンは背中から真っ赤な大剣を抜く。


そして光が晴れ、融合したシドウとレオンが姿を現す。


バリリ!!


と雷の軌跡を残し、シドウは一瞬でデスベルゲンに詰め寄る。

速い!最後にリリアに手刀を入れた時の速さだ。



「『ずは一発食らいやがれ!!!!』」



キィィィン!とシドウの銀色の小手が鳴り、雷を纏う。

そしてその拳がデスベルゲンの顔面に振りぬかれる。


ッゴォォ!!!!!!


鈍い音を響く。



「当たった!!」



まさか素直に食らってくれると思っていなかった俺はつい叫んでしまう。

しかし、デスベルゲンの体は飛ばない。『人獣癒合』する前のシドウの銀の小手ですらリリアを吹き飛ばしたのにだ。


デスベルゲンの口が、ニィと三日月型に裂ける。


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