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異界の卵  作者: ハグキング
12/14

11話 瞬殺&瞬殺



 二回戦、ルーシィ・ウィンドウとデスベルゲンの試合が始まった。


 二人は舞台でそれぞれ向かいあっているになっているが、デスベルゲンはつまらなそうに首をポキポキと鳴らしている。

 一方ルーシィの方は、だれがどう見てもおびえている様子だ。それでも、一応戦う覚悟は決めたのか、バディを心から出す。



「お願いサリー!」



 呼ばれて出てきたのはサキュバス系の異獣だ。

 身長170cmくらいでスタイル抜群なボンキュッボン、頭から飛び出た二本の角が妖しく光っている。



「お、ありゃサキュバスか。サキュバスは男相手だとめっぽう強いからなぁ。」



 シドウが経験済みかのような話し方をする。


「正解、あれはテンプテーションサキュバスだな。男を惑わせて生き血をすする異獣。そこまで強くないけど《魅了》の異能があるから男は注意だな。」


「おお。詳しいなハイネ。」


「ああ、一回戦ったことがあってね、その時は近隣の村の男たちを洗脳して下僕にしていたみたいで、なかなか大変だった。中には自分から進んで下僕になった奴もいたらしいぞ。」


「確かにあのナイスバディだからな・・・・。」



「ふ・た・り・と・も!」



 いてて、俺とシドウはリリアに耳を引っ張られる。

 あのサキュバスを見た後だと、リリアの少々、いやかなり無いに等しい胸は寂しさを感じさせる。


 シドウも同じことを思っていたようで、サキュバスとリリアの胸を交互に見てため息をつき、思いっきり殴られていた。

 馬鹿な奴め。


 テンプテーションサキュバスのサリーとやらを一応スキャンしてみたが、『鑑定妨害』は使えるようで、情報は得られなかった。



「おいで坊や、私の虜になりなさい・・・」



 サリーがクネクネと妖艶な動きをしながらデスベルゲンを手招きする。

 おそらくすでに《魅了》を使用しているだろう。


 シドウが「はぁ・・・」と言いながらサリーに見惚れている。

 お前が魅了されてどうする。



 するとデスベルゲンがサリーに向かってゆっくり歩きだした。

 無表情で感情が読めない。

 ルーシィはそれを見て、デスベルゲンが魅了にかかったと思ったのか、笑みを浮かべて小さくガッツポーズをする。


 まさか本当にかかってないよな?


 ついにデスベルゲンとサリーは触れ合うくらいの距離になり、サリーは追い打ちとばかりにデスベルゲンにしだれかかり、体に指を這わせる。

 完全に《魅了》の支配下に置いたと思い、サリーは黒い笑みを浮かべる。



「さあ可愛い坊や、負けを宣言なさい。」



 サリーがそう促すと、デスベルゲンはゆっくりと手を上げ、



 ゴシャッ!!!



 サリーをぶん殴った。



「ぼがぁ!!」


 不細工な声を上げながらサリーは吹っ飛び、防護フィールドにベチャッと叩きつけられる。

 手足をピクピクとさせている。あれは気絶してるな。



「あ、あ・・・そんな・・・」



 ルーシィは腰を抜かしてへたり込んでいる。

 デスベルゲンが近づくと、逃げるように後ずさりしている。



「チッ!見込み違いだったみたいだなァ。もう少しできる奴かと思ったんだが・・・・ここで殺すか?」


 デスベルゲンは自分の”選定”の見込み違いだったようで苛立っている。

 会場中に荒々しい殺気が吹き荒れる。

 かなり離れている俺でさえ肌がざわつくレベルだ。

 見ればシドウもリリアもツーッと額から汗を流している。


 間近でデスベルゲンの殺気を浴びたルーシィはというと・・・


「あぁ・・・・・」


 ブクブクと泡を吹きながら気絶していた。

 見れば股下辺りからの地面には染みができている。



『ルーシィ・ウィンドウの気絶により、デスベルゲンの勝利です』



 キューブがデスベルゲンの勝利を告げる。

 デスベルゲンは本当に殺すつもりはなかったようで、さっさと舞台を降りてしまった。


 現場にいる俺達はともかく、会場のアンバス構成員たちはホログラムなので、デスベルゲンの殺気までは伝わらなかったようだ。なんともあっけない幕切れでブーイングが起きている。


 しかしこんな大衆の面前で粗相するとは・・・ルーシィ、かわいそうな女の子だ。

 また次回の試験も受験するとしたら、たいした肝だな。



「でもさ、サキュバス系とは言え、ただの拳で異獣を一撃で倒すなんて凄いよね。」


「ああ、人間とは思えないな。」



 リリアとシドウの会話に俺は「そうか?」と首をかしげる。

 たしかにその辺の人に比べたら大した膂力だが、テンプテーションサキュバス程度なら俺でも一撃で倒せると思う。



「なんとも早い決着でしたが、次に行きましょう。」



 ムースが自身のPPAを操作すると、キューブがまた放送を始める。



『右ブロック、一回戦 チーズ・チーザ VS オーバン・ギストゥスを始めます、該当者以外の方は舞台から離れてください。』



 ルーシィが救急ドローンに担架で運ばれていく。どこも怪我はしていないので、回復キューブを使う必要はなさそうだ。


 そしてルーシィと入れ替わりで赤マントのオーバンとヒョロ男のチーズが舞台へ上がる。



『防護フィールドを展開します。防護レベルは最大です』



 キューブが防護フィールドを展開する。

 


 この勝負も個人的には瞬殺な気がする。

 俺の見立てでは、オーバンはシドウと同程度の肉体レベルだ。後はバディの強さにもよるだろうが、かなりの実力者だと思う。


 一方チーズはどう見てもただのひょろひょろ男だ。その辺の一般人より弱いんじゃないか?あれ。

 よくあの森を抜けられたな。


 「まっててくれ~村のみんな、オイラ金持ちになってかえってくるだよ!」なんて言って、お涙頂戴サイドストーリーを挟むのは止めてほしい。


 そんなチーズを気にした様子もないオーバンはマントをバサッと後ろに翻すと、腰のホルダーから2丁の銃を取り出した。

 リボルバー式ということは光線銃ではなく銃弾を用いるのだろう。

 銃のことは詳しくないから解らないけど、流石に旧世代の拳銃ではないだろう。

 金属の刀を使ってる俺が言うのも難だけどな。



「ほぉ、ありゃ“異能弾丸”のリボルバーじゃねえか。超高級品だぜありゃ、あの赤マント羽振りがいいなぁ。」



 少し遠くにいるグレゴリがいやらしい笑みを浮かべて呟く。

 “異能弾丸”?異能を込めた弾丸ってことか。もしそうなら弾丸一発一発がかなりの値段になるはずだ。グレゴリの言う通り、あのリボルバーは相当な品ということだろう。



「それでは、右ブロック一回戦はじめ!」



 ムース試験官が高らかに宣言すると、チーズがバディを心から出してオーバンに突撃する。

 出てきた異獣はコボルトだ。しかしただのコボルトではない。





「おい、あれまだ子供だろ。」





 シドウが言った通り、チーズのバディはコボルトの子供だった。

 「レオンは子供じゃないのか?」と俺は言いたかったが、なんとなく怒られそうなので我慢した。


 一応スキャンしてみるか。



――――――――――――――――


コボルト『白』(子供)

異能:《身体強化》

狼と人を足して割ったような姿の異獣、成人男性よりは強靭な肉体を持つが、この個体は子供。


――――――――――――――――― 



「普通にスキャンできるし!」


 思わず口に出して突っ込んでしまった。

 『白』でしかも子供か、こりゃだめだ。



「・・・・。」



 オーバンはコボルト(子供)を見て、少し困った表情を浮かべると、リボルバーを腰のホルスターに戻した。

 そして鋭い踏み込みでチーズの懐に潜り、アッパーカットを打ち込む。



「ぶげら!!」



 チーズは砕けた顎をプラプラさせながら上に吹っ飛ぶと、ドチャっと音を立てて地面に落ち、そのまま動かなくなった。



『チーズ・チーザの気絶のより、オーバン・ギストゥスの勝利です。』



 無慈悲にキューブがオーバンの勝利を告げる。

 やっぱり瞬殺だったな。


 コボルト(子供)は「くぅ~ん」と鳴きながらチーズの頬を舐めている。

 流石にオーバンもコボルト(子供)相手にリボルバーを使うのは忍びなかったようだ。



「早すぎるぞーー!!」

「ガリガリ野郎!!二度と試験受けんな!」

「手加減しろ赤マントー!!」



 様々な野次が観戦席から飛び交う。

 そりゃ2回連続つまらない試合になれば野次も飛ぶわな。


 俺としてはグレゴリの後に戦うオーバンの実力、せめてバディくらいは確認したかったんだけどな。



「いやーまたしてもあっけなく終わってしまいましたね、しかし次はそうもいかないとおもいますよ。」



 ムース試験官がグレゴリを見て、俺にそう言う。

 どういう意味?と聞く前にムース試験官はオーバンのもとへ走って行ってしまった。



「どういう意味だと思う?」


「・・・・思い出した。A級賞金首のグレゴリ・ガーナだあいつ。」



 シドウの口から物騒な言葉が飛び出した。



「デオロシアで活動してる強盗団のリーダーだよ。強盗・強姦・殺人、各地でやりたい放題って話だぜ。どうやって書類試験を突破したかは知らねぇが、ムースの口ぶりから察するにあのグレゴリが賞金首だってことは知ってるみたいだな。」



「A級賞金首か、顔も隠さず本名で受験するなんて言い度胸だな。」



「気をつけろよハイネ、あいつの捕縛にアンバスの構成員が何度か向かってるが、皆殺しにされたって話だぜ。」



 思えば人間と戦うのは初めてかもしれない。ここまで野生の異獣とばかり戦っていたからな。

 昔世話になった人曰く、俺はすごい怪力らしいからどうしたもんかと心配していたが、A級賞金首なら思いっきりやってもよさそうだな。

 少なくともアンバスの構成員以上の実力があるようだし。



『それでは右ブロック二回戦、グレゴリ VS ハイネ・オラクルを始めます、該当者以外の方は舞台から離れてください。』



「じゃあ行ってくるわ」


「おう、お前の実力見させてもらうぜ」

「ハイネ君頑張って!」



 二人に激励され、俺は舞台に上がる。

 向かいには相変わらずニヤニヤしたグレゴリが立っていた。



「あんた、A級賞金首なんだってな。」


「ほう、それを知っていながらここに立つとは、言い度胸だな小僧。」



 グレゴリはヒュウと口笛を吹きながら小馬鹿にした様子だ。


「(ま、あんたを対人の基準にさせてもらうさ)」


 とりあえずは【無銘】は使わないことにしよう。さすがに生身で勝てるような相手じゃないと思うが、万が一殺してしまって失格になるのは嫌だからな。


 グレゴリはバディは出さずに、腰からククリ刀を取り出す。

 刃の部分は異獣の素材のようで、熱を帯びてだんだんと赤くなっている。

 恐らく何千度という温度になるだろう。

 あれに触れないように気を付けないとな。

 



「んじゃ、いっちょよろしく。」




『防護フィールドを展開します。防護レベルは最大です』



キューブが防護フィールドを張り、ムース試験官が高々と手を上げる。



「それでは、右ブロック二回戦はじめ!」


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