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異界の卵  作者: ハグキング
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9話 シドウVSリリア②


「あの一撃を食らってすぐ立ち上がれたことは称賛に価するが・・・さすがに瀕死みたいだな。」


 シドウは銀の小手を付けた腕をひらひらとストレッチするように揺らしながら、満身創痍のリリアに近づく。


 リリアの様子を見て、《雷壁》は必要がないとシドウは判断し、消耗を避けるため、レオンに解くように指示をする。



「そこまでダメージを受けておいて、未だにバディを出さないとはな。」



 シドウはリリアの目の前にしゃがみ込む。



「リリア、お前が強いのは解る。スピードだけなら俺よりも上だ。だがな、バディも出さずに俺達を倒そうなんて舐めすぎにも程があるぞ!」



 そう言い切って、シドウはまた銀の小手を振り上げる。



「『《絶影剣》!!』」



 咄嗟に出した《絶影剣》がシドウの拳を受け止める。


 ジジジジ!と火花が飛ぶような音をさせながら銀の小手と影の剣がせめぎ合う。



「またその剣か、馬鹿の一つ覚えだな。レオン!」


「応!《雷哮》!!」



 再度、雨のような雷のブレスがリリアを襲う。

 先ほどとは違い、リリアじは満身創痍だ。

 当然同じような動きができるはずもなく、ブレスはリリアの体をかすめる。



「ぐう・・・!!」



 肉の焼ける痛みを耐えながらもリリアは必死に《雷哮》を躱し続ける。


 《雷哮》はリリアの体力を削り取っていくも、決定打になる様子はない。

 しかしまた同じように合間をくぐってシドウが参戦すれば簡単に倒せるだろう。


 シドウは不思議に思う。



「(おかしい、一見、反撃もできずにただ《雷哮》を避けるのに必死なだけだ。だが、あいつのあの瞳はどうだ。諦めの色なんてこれっぽっちも浮かんでいない。あれは勝利への闘志を燃やしている瞳だ。)」



 リリアは大粒の汗を流しながら《雷哮》を躱し続ける。



「(バディも出さずにいったい何を狙っている・・・・待てよ、姿を見せないってことは、正面からの戦いに弱い、つまり待ち伏せ型か奇襲型の異獣ってこt・・・・・)」






 ズプ・・・





 突如走る痛みにシドウは目を向ける。

 見ると胸から漆黒の影の剣が生えている。



「が・・・何が・・!?」



 首だけ後ろにふり返ると、黒いトカゲ、ラーハルトがシドウの胸に《絶影剣》を突き刺していた。



「ようやく隙ができたのでな。チェックメイトだ。」



 シドウ(・・・)()(・・)から(・・)出現したラーハルトは《絶影剣》を引き抜き、もう一度シドウに突き立てようとする。



「主――――――!!!!」



 シドウの様子に気付いたレオンが、寸前で《雷哮》をラーハルトとシドウの間に割り込ませる。


「チっ!」


 流石にまともに食らうわけにもいかず、ラーハルトは再び影に潜り、今度はリリアの影から出現する。



「主!大丈夫か!出血がひどい!」



 レオンが《疾風迅雷》でシドウのもとに駆け寄る。

 攻撃の雨から逃れたリリアは腕で額の汗を拭う。



「ふぅ・・・《シャドウリンク》、成功だね。」



「ああ、相手の影に影の楔を打ち込めば、相手の影からも出入りができるようになる《シャドウリンク》、奇襲において、これ以上の異能はない。」



 リリアとラーハルトは格上の相手と戦う場合、《影繰り》の異能の一つである《シャドウリンク》をよく用いた。


 ラーハルトが生成した影の楔を相手の影に打ち込むことで、相手の影からも出入りできるようになる能力だが、楔の射程は短く、相手が相当近くにいないと使えない。


 

 レオンは動きが速すぎて楔を打ち込む暇がなかったため、対象をシドウに切り替えた。

 《雷哮》自体は、リリア共々影に潜らせることで回避はできるのだが、シドウをおびき出すためと、『影を使う』という印象を与えないようにするため、使用を控えていた。


 それでも《雷哮》の中、シドウに接近することは至難の業だったので、しびれを切らしたシドウが仕掛けてくるのを待っていたのだ。



「(まさか《雷哮》の影から仕掛けてくるとは思わなかったから《影羽》でクッションを作るくらいしか間に合わなかったが、どうにか楔は打ち込めたな)」



 シドウの胸に空いた穴から滝のように血が流れる。



「がはっ・・・!くそっ!これをずっと待っていたって訳か。やるじゃねえかリリア!」



 シドウは傷口を抑えながらもまだ動けるようだ。

 しかしあの出血量では、もって3分、というところだろうとリリアは計算する。

 つまりあと3分攻撃を躱しつづければ私たちの勝ち、だとも。



「フーーッ・・・こりゃちょっと厳しいな。」



 シドウは諦めたようにため息をつく。



「その傷で動いたら命にかかわるよ。降参して!」



 リリアはその様子をみて降参を促すが、シドウは惚けた顔をする。



「ん?ああ違う違う、厳しいってのは、このまま戦うのは厳しいって意味だ。勝つのが難しいって意味じゃない。」



 不遜に聞こえる言い回しにラーハルトは苛立つ。



「減らず口を。リリアもだいぶ回復した、どう考えても先に倒れるのは貴様だぞ?」


「ああ、俺たちの負けだ、この(・・)まま(・・)なら(・・)な。」



「さっきから何を言っている・・・?」


 シドウの何かを決めたような表情にレオンも反応し、シドウの肩に乗っかる。



「主、アレを使うのだな。」


「ああ、できれば秘密兵器にしときたかったんだけどな、一回戦だがこいつらは強い、認めよう。」



 二人の不気味な雰囲気に、舞台の外ではハイネも疑問を浮かべていた。




**


 何だ?リリアの勝ちかと思いきや、シドウが何かを始める気みたいだ。


 周りにも、首をかしげる者が大半だが、デスベルゲンとムース試験官だけは別だった。


 デスベルゲンは玩具でも見つけたように目を輝かせ、ムース試験官は「まさかあの若さで・・・?」と驚愕したように呟いている。


**




「なぁリリア、黒トカゲ、もし敵のバディが強くて手も足も出ないような異獣だったらどうする?」



シドウはリリアに質問を投げかける。



「それは、所有者を狙うかな。所有者が死ねばバディは消えるからね。」



 「何!初耳だぞそんな情報!」というハイネの叫びは盛大にスルーされる。

 他の者からは『鑑定妨害』だけでなく、そんなことも知らないのかとため息が漏れる。



「その通り、所有者が消えればバディも消滅する。なおかつ所有者はいくら鍛えても人間、ほとんどは異獣以上の強さを持つことができない以上、必ず弱点になる。じゃあ、どうしたらいいと思う?」



「どうしたらって、どうすればいいの?」



シドウがニヤリと笑う





「一つになればいいんだよ。」





刹那、シドウとレオンの体が雷の光に包まれる。

異様な光景にラーハルトが叫びをあげる。



「なんだ!一つに・・・?こいつらは何をしようとしている!」



シドウとレオンの声が重なり、一つの単語が紡ぎだされる。





「『()()融合(ゾン)!!!』」




 ドォッッ!!と音を立てて光が爆発する。

 吹き荒れる暴風にリリアとラーハルトが必死に踏ん張る。


 荒れ狂う光は数秒で収まり、土ぼこりが晴れてゆく。



「いったい何が・・・・」



 立ち直ったリリアが目を向けると、変わり果てた姿のシドウがいた。



「『これが答え、バディと人間の融合だ。』」



 レオンとシドウの声が二重になったような声。

 バチバチと電気を纏った青銀の髪。

 全身が淡く輝き、二足歩行ではあるが、獣のような手足に尻尾まで生えている。

 顔や体のベースはシドウだが、ところどころレオンの要素が入った、所謂獣人のような風貌だ。




――――「やはり()()融合(ゾン)ですか、あの若さで行使できるとは、とんでもない才能ですね。」


 外野のムースが感嘆の息を漏らす。


 ハイネやグレゴリ、オーバンやルーシィも目を見開いて驚いている。

 チーズだけは光の爆発に目をやられていて地面を転げまわっている。



「『さぁ、俺達のターンだ。』」



 シュッと音を立て、シドウがリリアの真後ろに移動する。

レオンの《疾風迅雷》より素早く、リリアが回り込まれたことに気付く前に、首に手刀が落とされる。



「あっ・・・?」


 リリアは意識を手放し、地面に倒れこむ。


「なっ!!」


 とラーハルトが振り向くと、シドウはすでに拳を振りかぶっていた。


ボッ!!!!


 移動速度はおろか、ただのパンチにすらラーハルトは反応できず、無防備に晒した顔に当たる寸前で寸止めされる。

 拳を止めた余波がラーハルトの鱗を撫で、後方に爆風を生む。


 もしこれが当たっていたら・・・と想像し、青ざめる。



「『まだやるか?』」



 リリアはすでに意識を失い、シドウの足元に伏している。




「・・・・・降参だ。」




こうしてトーナメント一回戦、シドウとリリアの戦いは幕を閉じた。




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