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第6幕:薔薇園の屋敷へ

 私とフランクはヴァエリエの1番通りこと「金持ち通り」の64番地に在る薔薇園に来た。


 時間は昼過ぎで、ここの通りの住人が漸く起床する頃だ。


 「なるほど・・・・まさに薔薇園だね」


 私は巨大な鉄門の隙間からも見える壮大な白と赤い薔薇で飾られた中庭に眼を細める。


 ただ守護騎士団の一員の為か・・・・全体を見た後で・・・・必ず小さな点を見つけるように私の眼は動き「然る部分」に眼を向けた。


 その然る部分は明らかに・・・・いや、今はフランクの方だ。


 チラリと横で立つフランクを私は見るが3日前と違い彼は沈黙し続けていた。


 それも致し方ない事かもしれない。


 あれから私は自宅にフランクを泊めて説得を続けたが・・・・フランクが折れる事はなかったから彼が心情的に私と話したくないという気持ちも解る。


 ただ、マントの襟首に隠していた代物は見せてもらったのは私にとっては幸いな事だった。


 何せ詩文を読んだから婦人がフランクから暴力を持っても奪おうとする理由も・・・・よく解ったからね。


 「3日前に読んで思っていたけど・・・・その詩は明らかに婦人と君の情事を歌った内容だね」


 「・・・・いけないかい?」


 フランクは怒りを込めた口調で私に言ってきた。

 

 「私は、彼女を愛しているんだ。だから彼女との楽しい思い出を詩にした。そして彼女に渡して求婚しようとしたんだ」


 それなのに彼女は酷い振り方をしたとフランクは言うが、それ以上を私は言わせなかった。


 「もう十分すぎるほど聞いたよ。だから言うけど・・・・今も愛しているなら公の場で語るのは止めた方が良いと思うよ」


 「・・・・・・・・」


 私の言葉にフランクは無言となるが婦人との情事を描いた詩文を懐に仕舞う辺り・・・・腹を括ったのかもしれない。


 「・・・・守護騎士団のハインリッヒ・ウーファー旗騎士です。イヴォンヌ・ファン・ジャルディニエ婦人。用があり御訪ねしました。開けて下さい」


 私が鉄門の前に立って姓名を名乗ると直ぐに左右に隠す形で設置されていた魔石が光る。


 その魔石が私とフランクを確認し終えると・・・・鉄門は開き、先日の2人が何処からともなく現れた。


 『先日は失礼した』


 2人は私に軽く頭を下げると次にフランクを見た。


 「フランク・ファン・ポエット殿。イヴォンヌ婦人から伝言だ。今ここで詩文を出せば・・・・また相手をするとの事だ」


 「また相手?冗談じゃない!私は、彼女と・・・・・・・・」


 「婦人は中に入れたくないようですが・・・・事情聴取を断るなら後日、守護騎士団のヴァエリエ分署に来るよう通達が送られますよ?」


 そちらの方が何かと手間暇が掛かる上に世間の関心も向くと言えば右側の男が耳に手を当てた。


 「・・・・婦人が中に通せと仰せです。どうぞ、こちらへ」


 「ありがとうございます。さぁ、フランク。行こう」


 「・・・・・・・・」


 私が声を掛けるもフランクは無言を貫いた。


 そんな彼に私は肩を落とすが、案内役となった2人の後を追い掛けて歩き出した。


 手練れ2人に案内してもらい中庭を私とフランクは通るが、薔薇と道の距離が余りにも近すぎる事に些か苦労した。


 何せ少し体を傾ければ・・・・棘が刺さりかねない位の距離だからだ。


 その証拠にフランクは薔薇の棘が刺さったのか、軽く悲鳴を上げた。


 これが小さい子供などだったら大声で泣くだろうと思うが・・・・それを差し引いても見事な中庭だった。


 赤と白の薔薇を上手く合せて、鮮やかにして訪れる者に強く自分を印象付ける工夫がされている。


 噴水の方も神話で熱烈な恋愛話が豊富な男神と女神の銅像で形付ける辺り趣味も良い。


 だが、それは逆に言えば婦人は男漁りをしていると自ら公言しているようなものだ。


 実際その通りだが・・・・婦人は知らないのか?


 「・・・・どちらも最終的には破滅するのに」


 私は向き合う形で今にも口付けを合わせそうな男神と女神の銅像を見て呟いた。


 「この銅像を知っているのですか?」


 案内役に徹している手練れ2人の片方が私に問い掛けてきた。


 「えぇ、知っています。男神は戦を司る太陽神で、女神は愛と芸術を司る神です」


 2人は互いに妻子を儲けていたが・・・・激しく愛し合った。


 「この手の話は別に珍しくないです。ですが・・・・この2人の神の迎えた結末は類を見ません」


 「というと・・・・・・・・?」


 男は質問した反面もあるのか、私の言葉に興味を抱いたように足を止めて銅像を見た。


 すると同じく案内役となった相方も足を止めて銅像を見る。


 ただフランクだけは一刻も早く行きたいという気持ちを表情に出していたが・・・・目の前の2人が動かないから不承不承という形で止まる。


 「両人の妻子にとっては互いの連れ添いが浮気したのだから酷い話です。特に男神の妻は貞操観念が強すぎたのか・・・・自死しました」


 そして息子は父たる男神を激しく憎んだ。


 「・・・・対して女神の夫はどうなんですか?」


 別の問いを男は投げてきたが私は直ぐに答えた。


 「自死こそしませんでしたが・・・・やはり夫と言う立場もあってか女神の浮気相手である男神を憎んだそうです」


 ところが当の2人は無関係とばかりに逢瀬を続けた。


 「ですが、外野となった男神の息子と、女神の夫は違いました」


 互いに憎しみ合った末に・・・・刺し違える形で死んだ。


 「・・・・悲劇と言うよりは”喜劇”の方が似合いですね」


 男は嘲笑したが、考えてみれば外野が勝手に騒いで死んだのだから喜劇に見える一面は確かにある。


 「確かにそうですね。しかし、流石にやり過ぎたのでしょうね?事の発端を知った大神は2人を地底の世界に追い遣りました」


 その神話に出て来る地底の世界は聖教の掲げる地獄だ。


 ここでも2人の愛が変わらなければ・・・・それはそれで良き愛の物語だっただろう。


 「ところが2人は神の座を追われた事もあってか、憎しみ合い・・・・ついには戦争を引き起こして死にました」


 「なるほど・・・・だから最終的に破滅すると言ったのですか」


 手練れの男は私の説明を聞いて納得したのか、何とも言えない表情を浮かべた。


 相方の方も同じだったが、こう私を見て言った。


 「外野が騒いでも内野の者が事の重大さを気付かないのは・・・・大きな過ちが起こる前兆と言っていますね」


 その言葉には何か深い意味があると私は察したが敢えて何も言わなかった。


 ただ、それに代わって苛立ちを隠そうともしなくなったフランクを見て2人に案内を促す。


 これに2人は再び案内を始めたがフランクを見る事はなかった。


 あからさまな態度にフランクは怒気を孕んだが・・・・直ぐに抑えて憮然とした態度を崩さず歩き続ける。


 自分が発端なのに誰からもマトモに相手をされない事を怒っているのだろうが2人から言わせればフランクの存在など・・・・・・・・


 「その程度」の存在なんだと垣間見える。


 若しくは私の語りを自身と婦人に置き換えたが大丈夫と考えているのかもしれない。


 だが・・・・・・・・


 『それだけの矜持があるなら・・・・大丈夫だよ』


 心中で私はフランクに対して呟いた。


 だからフランクは当然・・・・分からない。


 知っているのは私だけだ。

 

 ただ・・・・3日前とは違い迷いは無かった。


 フランクは幼馴染の一人だし、私を何度か助けてくれたりした恩がある。


 そして詩を書く才能もある。


 これからの歩み方で歴史に名を遺す詩を彼は書き上げるかもしれない。


 私の勝手な思いで、それを当の本人に言って聞かせるのは押し付けだが・・・・先日の殺し屋の助言で決めたんだ。


 『友達を思う気持ちは時に厳しい態度も必要ですよ』


 確かに・・・・それは一理ある。


 誰だって批判などの言葉は聞きたくないが・・・・本人を思って言うのなら・・・・その言葉は時を経て最終的には届く筈だ。


 その言葉の意味を私は殺し屋から聞いたから・・・・決意した。


 守護騎士団の一員として職務を全うする為に・・・・・・・・

 

 掛け替えのない幼馴染であるフランクの為に・・・・・・・・


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