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第4幕:秘密の公園に

 「・・・・・・・・」


 男達は私の申し出に沈黙を保っていた。


 それは私の言葉に一理あると考えているのかもしれない。


 しかし・・・・3人は面倒とも考えているのか・・・・懐に隠したダガーを抜けるように手の準備運動を始めている。


 逆にフランクの方は婦人に会えるかもしれないという希望を見出した様子だったが・・・・・・・・


 半マントに縫い付けたであろう「それ」を庇うようにマントの襟首を上げた。


 「フランク・・・・君も誠意を見せたらどうだい?」


 「・・・・嫌だ」


 フランクは私の言葉に首を横に振った。


 「聡明な君なら解る筈だ・・・・こっちが誠意を見せたら婦人の方も応えるよ。少なくとも目の前の人物は誠意を見せれば誠意で応えてくれる筈だ」


 私の言葉に手練れ2人は沈黙したままだが・・・・否定はしない様子だ。


 ただ子分の3人は違う。


 3人は今にも襲い掛かろうと殺気を出し始めたのである。


 またフランクも気付かないのか・・・・彼等を睨み、そして私に言ってきた。


 「ハインリッヒ。君は守護騎士団の団員だ。守護騎士団は犯罪から民草を護るのが職務なんだろ?それなら私を襲おうとする目の前の奴等を倒してくれ」


 そして彼女の方から会いに来るよう命じろとまでフランクは言った。


 「・・・・君も変わったね?悪い意味で」


 ここまで言ってのけた幼馴染に私は落胆の意を込めて告げずにいられなかった。


 また3人の殺気が強くなったから交渉は決裂する可能性も出て来たと思わずにはいられない。


 しかし、言葉で言ったばかりだが・・・・悪い意味でフランクは変わった。


 幼少期はこんな言葉を言ったりしなかったし、虐められていた私を助けようとした優しい心を持っていたのに・・・・・・・・


 だが彼と似たような・・・・彼よりも更に酷い状態になった人物を知っている私は何も言えなかった。


 その人物は今のフランクなんて足下にも及ばない位に狂気へ満ちていて危うく私は殺されそうになったが・・・・最初から狂気に堕ちていた訳ではないと女神は言っていた。


 『あのひとも最初は優しくて思いやりがあったの・・・・・・・・』


 それが何時の間にか狂気に堕ちたと女神は悲し気に言ったが・・・・今のフランクは狂気に堕ちていない。


 まだ・・・・寸前の所で止まっているから大丈夫だと私は思い諭すように言った。


 「フランク・・・・守護騎士としてではなく一人の友人として言う。婦人を脅かす物を渡して、私と婦人の屋敷へ行こう」


 「嫌だ!私は彼女と絶対に結婚する!それが駄目なら・・・・ひぃっ!!」


 私の言葉を荒々しい口調でフランクは遮ったが途中で悲鳴を上げた。


 それは言うまでもなく3人が懐からダガーを抜いたからだ。


 「ああ、もう煩い餓鬼だな・・・・兄貴、ここは俺達に任せて下さい」


 「そうですよ・・・・こんな我儘な餓鬼なんて一捻りです」


 「たかが守護騎士を一人バラした位なら問題ないですよ」


 手練れ2人は今も沈黙を保っていたが3人を止めない辺り・・・・・・・・


 「交渉は完全に決裂・・・・だな」


 自分の力の無さに私は過去も思い出したので自嘲したが・・・・マントを翻しフランクを後ろに下がらせる。


 「そんな餓鬼でも護るのか?守護騎士ってのは大変だな」


 3人の1人が怯えて私の影に隠れるフランクと、それを護ろうとする私を皮肉ってきた。


 「職務だし数少ない友人だからね。しかし、こうなった以上・・・・少し痛い思いはすると覚悟してくれ」


 この言葉を嘲笑するように3人は前と左右から同時に襲い掛かってきた。


 だけど私は慌てず・・・・前から来た男の平突きを半身で躱して腹に掌底を打ち込んだ。


 掌底を腹に打ち込まれた男は後ろへ仰け反り、2人に人数は減った。


 2人は瞬く間に一人やられて早まった表情を浮かべるけど・・・・もう遅い。


 私は羽織っていたマントを左手で操り左側から来た突きを防ぎ、それから男の腹に掌底を打ち込み後ろへやった。


 左側の男に比べて一歩ほど遅れて突きを繰り出した右側の男に対しては籠手でダガーを捌いた。


 籠手で捌かれたダガーは明後日の方角を向き、男は顔を私の方へ突っ込む形に陥った。


 そこを狙って男の顔面に肘打ちを決めた上で膝蹴りを食らわす。


 3人は最初と同じ場所に私は押し戻してから改めて交渉を持ち掛けたが・・・・3人は闘志を燃え上がらせ再び来る構えを見せた。


 「なら・・・・これでどうだい?」


 私は左腰に手を走らせて横に一閃した。


 すると3人は同時に悲鳴を上げて臑を抑える。


 「な、何が・・・・それは・・・・・・・・」


 フランクは一瞬の出来事で分からない様子だったけど私の右手に握られた代物を凝視する。


 私が右手に握っているのは軟鞭だった。


 しかし、ただの軟鞭ではないと2人には判ったんだろう。


 右側の男が眼を細めながら軟鞭の材質を口にした。


 「“人狼”の毛で編んだ軟鞭か。いや・・・・マントも人狼の毛皮だな?」


 「よく分かりましたね?」


 私は男の言葉を肯定する台詞を発しながら3人を起こす左側の男を見た。


 「ハインリッヒ・ウーファーと聞いて思い出すべきだったな?」


 「あぁ・・・・夢の騎士団の団長だからな。まったく・・・・確かに名前で気付くべきだった」


 2人は私の事を多少は仕入れていたのか、引く姿勢を見せた。


 しかし私を見て提案を出してきた。


 「あんたから差し出した提案を振って悪かった。詫びという訳じゃないが・・・・改めて婦人に相談してみる」


 「返事は直ぐに出せるが・・・・何処に行く気だったのか教えてくれ」


 そうすれば直ぐに使者を向かわせると2人は言うが、その提案はフランクではなく私に対してだったが私は直ぐに答えた。


 「秘密の公園3号点に居ます」


 「では、婦人と相談した結果を今夜の内に知らせる」


 「お願いします。それから婦人の薔薇園に行く際はフランクも連れて行きますし、脅迫のネタも一緒に持っていくから安心して下さい」


 『あぁ、信じている』


 2人は私の言葉を微苦笑で返し傷ついた子分を連れて闇に消えた。


 そして私は半分ほど腰を抜かしたフランクを起こし改めて秘密の公園を目指した。  

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 秘密の公園たる「ゲハイムニス・パルク」3号店に到着した私とフランクは直ぐ酒を注文した。


 私はサルバーナ王国が建国されてから1世紀が経た頃から在るとされる「ジード」で、フランクの方は「サブレウ77」というカクテルだ。


 もっとも酒は嗜まないのか、フランクにサルバーナ75を差し出したのはゲハイムニス・パルクの店主だった。


 「美味いですね・・・・・・・・」


 フランクは嗜まない酒を飲んで感想を言ったが、店主を満足させる感想だった。


 「それは良かったです。ただ、それは度数が高いので気を付けて下さい」


 「分かりました。しかし、名前の由来は何ですか?」


 詩人としての性か、フランクはサブレウ77の由来を店主に尋ねた。


 だけど・・・・やはり私を警戒してかマントの襟首は立て続けている。


 「サブレウとはフォン・ベルト陛下の御息女の一人であったサブレウ様です。そして77は・・・・ハインリッヒ様が考案した”7.7cm野砲”から取りました」


 「そうなんですか・・・・・・・・」


 フランクは私の方をチラッと見てからサブレウ77を見たが・・・・チラッと見た時の彼は明らかに嫉妬していた。


 それは自身は恋が成就していないのに私の方は・・・・湖の貴婦人から寵愛を受けたと直ぐに察したからだろう。


 「・・・・マスター。”ブーロー・ブラン(白樺)の瓶を出して下さい」


 「畏まりました」


 私の頼みを店主は直ぐに承諾し・・・・私の空いていた横のテーブルに薄緑色の陶器に入った酒瓶を出してくれた。


ハインリッヒの幼馴染にして今回の騒動の発端たるフランクが飲んだ酒のモデルはフレンチ75です。


ベースはジンでWWⅠ戦でフランスが勝利した記念に考案されたカクテルです。

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