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第1幕:幼馴染みと再会

序幕で書き忘れましたが視点はハインリッヒ視点で統一しております。

 サルバーナ王国歴3093年10月5日。


 10月に入った事もあり季節は私の好きな秋に入って間もない。


 しかし配属している「国境警備課」の仕事は多忙の真っ最中でもあるんだ。


 秋の時間は短く直ぐに冬は訪れるから地方貴族を始めとした人達で冬支度を急いでやるのが理由だ。


 その手助けと冬眠支度をする野生動物および魔物は人間の土地を襲わないようにする。


 これが地方課の一端を担う国境警備課の仕事の一つだから本当なら私も地方に居るべきなんだよ。


 ところが今は生まれ育ったヴァエリエに・・・・戻っている。


 理由は上司が私に休暇を命じたからだ。


 『本日より特別休暇を命じる。期限は行きと帰りを省いて10日とする。その間は一切の仕事をするな』


 これは私が大カザン山脈からサルバーナ王国に戻り、そして改めて国境警備課に配属されてから休む暇なく・・・・働いたからだろう。


 だけど疲れたりしなかった。


 寧ろ気が紛れるから働き続けたし、またやり甲斐もあったからだ。


 大カザン山脈の「悲劇」を思い出さないように仕事をしたから私は構わなかったけど上司は・・・・こう説いた。


 『仕事で気を紛らわす気持ちは解る。しかし・・・・少し休んで気持ちを整理しろ』


 そうすれば・・・・・・・・


 「新たな発見が出来る・・・・・・・・か」


 上司の言葉を私は自分で言ってみた。


 確かに気持ちを整理するのは必要だ。


 ただ・・・・・・・・


 「彼女」の言葉は・・・・彼女の姿は色褪せず・・・・私の心に在る。


 そして言葉の一部を思い出した。


 『ヴァエリエに何時か連れて行ってくれない?貴方を生み育てた“母”を見たいの』


 「ここがヴァエリエだよ・・・・私を生み育てた母だよ」


 私の女神・・・・・・・・


 正門を潜ってヴァエリエに入ってから私は彼女に告げた。


 感想は・・・・聞こえてこないけど・・・・空を見れば彼女は嬉しがっていると解る。


 空は・・・・彼女の瞳みたいに汚れなく青い。


 だから彼女は嬉しがっていると私は思いながら家族の一員たる青毛の原毛色に濃い赤色の斑点が散った毛色が特徴の「青い月」に語り掛けた。


 大カザン山脈で出会い・・・・私が王国に帰る際も付いて来た大事な家族は純粋な瞳でヴァエリエを見回した。


 「ここが私を生み育てた母だよ。どうだい?」


 青い月は私の問いに「良い土地」だと顔を僅かに振り向かせて眼で伝えてきた。


 「なら・・・・今度は私の家に行こう。そこで休もう」


 青い月は異論が無いのか、前を向いて私の指示を待った。


 それに対して私は優しく鞭を打って前進を指示し、赤い月は静かな足取りで前進を始める。


 しかし青い月の毛色が珍しいのか、擦れ違う人間達が興味津々で見てくるが青い月は毅然としていた。


 これは彼が歩んだ人生を物語っているが・・・・私は何も言わず前を見続けながら家に帰った後の事を考えた。


 『マハルバル子爵の懇意で馬小屋が出来たから泊める場所は問題ない』


 だから気兼ねなく彼とゆっくり時間を過ごそうとも考えたが・・・・・・・・


 『久し振りに家の掃除をしないといけないな。それにせっかくだから父さん達の顔を見よう』


 そうすれば直ぐに10日間なんて過ぎ去ると思った時・・・・・・・・


 「ハインリッヒ!!」


 背後から声がして私は振り返り・・・・最後と同じように私の名を言ってくれた・・・・「黒い瞳の娘」を見た。

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 「この馬は大カザン山脈で生まれた馬なの・・・・・・・・」


 「あぁ、そうなんだ。名前はサルバーナ語で言えば”サクアソフー”と言えば良いかな?」


 「そう・・・・青い月なんだ」


 私は馬上の人となった娘---幼馴染に語り掛け、彼女は何時もと違い間を置いて答える。


 あの「事件」から彼女とは会っていないが、様子を見る限り多少の精神的な傷は見受けられるが日常生活に支障は無さそうだ。


 ただ、どういう訳か・・・・例の男とは居ない。


 そればかりか私を引っ叩いた時と違い初々しい感じがする。


 それは青い月に跨った姿勢からも窺えるが・・・・この雰囲気から私は何となく察した。


 「また・・・・何か事件に巻き込まれたのかい?」


 意を決して問うと彼女は沈黙した。


 ただ、私は敢えて先を促そうとはせず彼女自身が話すのを待った。


 すると・・・・彼女は静かに口を開いた。


 「・・・・フランクの事は憶えている?」


 「フランク?ああ・・・・フランク・ファン・ポエットの事かい?」


 私が名前を言うと彼女は頷いた。


 このフランク・ファン・ポエットは私の幼馴染で、苗字でも解る通り先祖代々から「詩人」として生きている。


 しかし詩で生活するのは並大抵の事ではないから彼の両親は代筆業や翻訳業をしていたのは憶えているが・・・・・・・・


 「君の口から彼の名が出る辺り・・・・彼が巻き込まれているのかい?」


 守護騎士団に入団してから「濃い時間」を過ごしたからか、私は直ぐに事態を察したが彼女に確認の問いを投げた。


 すると彼女は私をチラリと見てから・・・・こう言った。


 「・・・・彼、然る”婦人”に恋をしたらしいの」


 「婦人?というと・・・・・・・・」


 ここで私は誰かに尾行されていると気付いた。


 「・・・・詳しい事は店で話そう。完全会員制だし、警備態勢も万全だから大丈夫だよ」


 「え?えぇ・・・・そうして」


 彼女は私の言葉に戸惑ったが直ぐに視線を感じ取ったのか・・・・ギュッと赤い月の手綱を握り締めた。

 

 その様子から初めてではないと私は察する事が出来たが平素を装う。

 

 「・・・・・・・・」


 私は無言で前を見て歩いたが「背中の眼」は尾行者から離さない。


 『背後の奴・・・・随分と手慣れているな』


 付かず離れずという微妙な距離を保ち、それでいて人込みを上手く利用して気配を誤魔化す辺りは場数を踏んでいる証拠だ。


 となれば必然と職業は絞れる。


 『私立相談役か・・・・スリなどの軽犯罪者と言った所か』


 私立相談役という産声を上げて間もない新たな職業はヴァエリエを軸に少しずつ活動の場を広めている。


 もっとも仕事の内容は多岐に渡るが司法庁の許可が必要だし、その上でギルドに営業届け出を出さないといけないので狭き門でもある。


 だが、中には「モグリ」で営業する者も居る。

 

 そこまでは判らないが私立相談役ともなれば尾行をするのは手慣れて当たり前と思われる。


 しかし彼女の話から考えれば・・・・間違いなく後者となる。


 地方課である私の立場では管轄違いだが・・・・見過ごす事は出来ない。


 ただ、私は確認の意味で店に入る前に問い掛けた。


 「この事はヴァエリエ分署に言ったかい?」


 「・・・・・・・・言ってないわ。フランクからも口止めされたの」


 『この件は守護騎士団に言わないでくれ。私が自力で解決する』


 「なるほど・・・・分かったよ」


 相槌だけ私は打ったがフランクにも何らかの「後ろめたさ」があると察した。


 フランクの性格は真面目だが秘密主義な点は子供時代からあった。


 しかも大抵が自分の係わった事が大半だった。


 だから今回の件も彼自身が何かしらの問題を起こしたのだろう。


 その内容は店に入ってから聞くとしよう。


 結論を出した私は尾行者を背中の眼で見ながら横目で彼女を改めて見た。


 最後に会った時より大人しいが今の状況に怯えているからだけか?


 いや他にも複合的な事情がある筈だ・・・・・・・・


 そして10日と日数は決まっているが別の意味で「長い休暇」になりそうだと私は心中で呟いた。


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