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ちょいクズ呪印術師、誕生!?

前回から3日後のお話です。

さっさとヒロイン出したいので、それまでの話はマキでお送りいたします。

「おうクルス! そっちの調子はどうだ!?」


 男の馬鹿デカい声が、『冒険者ギルド サウスホープ北出張所』に響き渡る。

 俺が冒険者ギルドで登録を行ってから、既に3日の時が過ぎていた。2日間の研修も終え、3日目の適性検査も今さっき終わった。これから窓口へ向かい、検査結果を元に職能ギルドを決定するところだ。


「おいってば! 無視すんなよクルス!」


 ちなみに、この声も身体も無駄にデカいこいつは、ここ3日ほど一緒に行動している俺と同期の冒険者だ。犬耳と尻尾をつけたムサイ男で、この世界に来て初めて見た、獣人という奴だった。

 こいつとは、冒険者研修の初日に出会い、妙に馬が合ったのだ。今では、悪友というほどの仲ではないが、良く話す間柄だ。俺の類友でありクズ友である。

 

「大声出すなよ……まあ、ボチボチだ、ハチ公、オマエは?」


「そりゃ、バッチリ完璧に決まってんじゃねえか!」


 近づいてきた毛玉野郎に聞き返すと、無駄にデカい声で返事をし、俺の背中をバシバシ叩く。

 こいつの本名はハチというらしいのだが、耳と尻尾の毛並みが秋田犬っぽかった為、俺はハチ公と呼んでいた。どうも、偉大な先祖の名前らしいので、過去に俺以外の転生者が名付けたんじゃと疑っていたりする。


 俺とこいつのやり取りを見てもらえば分かる通り、まだぎこちないものの、言葉を喋るのにもだいぶ慣れてきた。たった3日でここまで習得できたのは、ひとえに俺の努力のたまものと言えよう。

 まあ実際のところは、知識は脳に入っていたから後は慣れるだけだったし、一緒にバカ話をする相手も出来たおかげもあるんだが。


 そして俺に出来た話し相手は、こいつとは別にもう1人、


「待ってよお兄ちゃん! もう、いつも勝手に先行っちゃうんだから!」


「おう! やっと来たな、ウニャン。お前がぐずぐずしてっからだぞ」


 ハチを見つけて、小走りで駆けてきたのは妹のウニャン……犬の獣人なのにウニャンだ。ハチの妹とは思えないほどに、真面目で良いお嬢さんである。

 やはり彼女にも、秋田犬っぽい耳と尻尾が付いていた。ハチと違って可愛い、是非モフモフさせて頂きたいものだ。

 

「クルスさんも笑ってないで、お兄ちゃんに何か言ってあげてよ!」


「ハハ、ウニャンもタイヘンだな…………だが、断る!」


「ああっ、この人もダメな人だった!?」


 この娘が耳と尻尾をへにゃっとさせて困る姿は、見ていて微笑ましい物が有る。そのため、俺の目の保養の為にも、犠牲になって貰わねばならない。

 前世でなら言う通りにしたかもしれないが、俺はもう自分に正直に生きると決めた。俺はノーと言える日本人になったのだ!


「それじゃハチ公、検査の結果、聞きに行こう」


「そうだな行くか! ウニャンもそんなとこで、うずくまってねーで、さっさと行くぞー」


「誰のせいだと思ってるの……? ほんとにもう、この人たちは」


 ぶつくさ言いながらも、健気に付いてくるウニャン。

 ああ、俺もこんな妹が欲しかったな……。

 などと考えながら、俺はギルドの登録窓口へと向かった。



 この3日間の中で、2日間の冒険者研修はぶっちゃけ、クソつまらなかったので詳しく話すつもりは無い。


 まあ概要だけ言えば、引退した冒険者らしきおじさんが、冒険者の心得やサバイバルの基礎知識、魔物への基本的対処法などを教えてくれただけだ。

 生前、ネット小説の異世界転生物を愛読していた俺にとっては、読んだ事が有るような内容ばかりだった。


 他に収穫と言えるのは、この獣人兄妹と仲良くなれたこと。あとは座学が主だったおかげで、街に着いた翌日から俺を悩ませた筋肉痛が、だいぶマシになったことくらいか。



 それで今日の適性検査の結果だが、まず身体能力検査はダメダメだった。俺はどうがんばっても戦士にはなれそうにない。剣はまともに振れないし、体力の無さに関しては教官に病気かと心配されるほどだった。


 対して、魔法適正検査のほうは自信がある。なんせ、担当教官が見せてくれた『水弾ウォーターバレット』の魔法を、一発で発動できたのだ。これには教官も驚いていた。ただ、少々威力は弱くて、教官が苦笑いしていたのは気になる。


 それよりも最後の魔力量検査の話だ。検査内容は、魔法適正検査で教わった『水弾』の魔法を、どれだけ行使し続けられるかというものだ。俺はこの検査で、最高成績を叩き出したのだ。とはいえ、時間切れでそれ以上は測定しなかっただけであり、毎年1人くらいはいるものらしい。


 とはいえ、なかなかの結果だ。これはチート魔術師誕生の瞬間も近い。



 そう意気込みつつ、登録時に世話になった少女の下へと向かう。ちなみに獣人兄妹は、もう一人の美人なおねーさんのほうに向かっていた。


「やあ久しぶり、こないだは世話になった。どうもありがとう」


「えっ? もしかしてクルスさんですか? たった3日なのに、ずいぶん喋るの上達しましたね~。頑張ったんですね、偉い偉い!」


「ああ、キミにお礼を言いたくて、がんばって覚えたんだ」


「またまた~、そんな事言っても何も出ませんよ~」


 クズになると開き直ってからは、こんな歯の浮くセリフだって簡単に出てくる。なんせ、クズは自分の言葉に責任なんて持たないからな。

 気楽になんだって口に出せばいい。こうなってみると、前世で世間体ばっか気にして生きてたのが、馬鹿みたいに思えてくる。


「3日目ってことは、今日は職能ギルド探しですよね? でしたら、不肖このわたくしエルヴィラが、クルスさんにピッタリななギルドを、探してあげちゃいます!」


「エルヴィラちゃんか、改めてよろしく。今日はお願いするよ」


「はい、よろしくです! では適正検査の結果を貰ってきますので、ちょっと待っててくださいね~」


 そう言い残すとエルヴィラちゃんは窓口を離れ、2分と経たずに戻って来た。

 その手には、検査結果が載っているらしき紙が握られている。


「えーっとですねぇ、クルスさんの結果ですが…………これは!? えと、ちょっと待っててください!」

 

 そう言って、また窓口を離れるエルヴィラちゃん。

 ふむ、俺の結果が凄すぎて、確認にでも行ったのだろうか?


 今度は10分くらい経って、ようやく彼女は帰って来た。


「あのぉ、クルスさん向きの職能ギルドなんですが……こちらに記載のギルドになりますぅ」


 そう言って渡された用紙には、いくつかのギルド名が書かれていた。


「えっと、なになに、灯光師とうこうしギルドに給水師きゅうすいしギルド……なんだこれ?」


 他にも聞いたことも無いようなギルド名が書き連ねられている。


「灯光師ギルドはですねぇ、街中の街灯や夜の照明の管理をしているギルドです~。給水師ギルドはその名の通り、水の供給を行っているギルドですねぇ。どちらも街に無くてはならない、大切なギルドなんですよ~」


「これってさ、冒険者の仕事じゃなくない……?」


「はい、クルスさんの身体能力適正は5段階での最低評価。これで冒険者になるのは、とっても危険なのですよぅ。ですから、こちらから労働者ギルドに推薦しようかと考えているんですぅ」


 くっ、待ってくれ労働者ギルドとか、そんなブラックの香りがするのは嫌なんだけど。こう前世を思い出すというか、なんというか……。


「いや、でもさ、魔法の適正はどうなんだ?」


「たしかに魔法の制御に関しては素晴らしいのですが、魔法出力が致命的でして……。教官が言うにはですね、攻撃魔法を使っても、この出力じゃゴブリン一匹倒せない、だそうですぅ」


「俺に魔法の適正、無かったんだな……」


「それは違います! 攻撃魔法は無理でも、生活魔法を使うには十分な出力なんです。魔力量は凄いですし、魔法の制御も完璧です。これなら、街中で活躍するギルドには歓迎されるはずなんです!」


 灯光師ギルドだと、街中を歩き回って『照明』の魔法で街灯を点けて回り、給水師ギルドでは水を作るような魔法で、延々と水を作り続けるわけだな……。

 わざわざ異世界に来ておいて、嫌だぞそんなの。まだ見ぬ冒険が俺を待っているんじゃなかったのか?


 他に冒険者らしいギルドは無いものかと、必死でギルドの書かれた用紙を読み進めていく。

 すると、一番最後に小さく書かれた一つのギルドの名前が、


「この呪印術師じゅいんじゅつしギルドってのは?」


「っ!? えっ、いやぁ、それならこっちの刻印術師こくいんじゅつしギルドのほうが……」


 エルヴィラちゃんが、こっそり提案した瞬間だった。


 

「呪印術師に興味がおあり? おありね。良いでしょう! 私が説明するわ!!」  


 何者かが、俺の両肩をガシっと鷲掴みにして、まくし立てる。


「呪印術師、祖は呪われし印を肉体へと刻み、超常の力を発現せし者。奇跡の行使者にして、忌み嫌わし異常の徒! 我ら呪印術師は、肉体の神秘を探求する者よ!」


 そう叫び、俺の身体の向きを無理矢理、自分のほうに向けようとする。


「済みませんが、そういうのは間に合っ…………」


 振り向かされた俺は、断ろうとして絶句させられる。

 目の前には大きな桃が、のーぶらぽよんぽよん、のーぶらぽよんぽよんと揺れていたのだ。


 なんだこの薄着の美女は、ちょっとこれ大丈夫? わいせつ物陳列罪で逮捕されないの?


 揺れる二つの物体に合わせて、俺の目が左右に動くのに気付いた、目の前の美女はニヤリと哂って語り掛けて来た。


「私の名前はセレフィラ。どうかしら、あなたも呪印術師ギルドに入ってみない?」


「やめてくださいセレフィラさん! うちの新人をたぶらかさないでください!」


「あら、良いじゃない。うちのギルドだって冒険者ギルドに加盟してるんだから」


 エルヴィラちゃんが止めに入ってくれたが、どうにも劣勢な感じだ。


「そうですけどぉ、呪印術師ギルドって……いろいろアレじゃないですかぁ」


「そんなこと言っていいのかしら? あなた最近ちょっと、あっちのほうが「わー!わー!わー!」 いい? 分ったら少し黙ってなさいな」


「うぅ、済みません……」


 いったいどんな弱みを握られてるんだか、ちょっと興味が湧くね。


「でっ、どうかしら? 話はこっそり聞かせて貰ったけど、魔力の出力が低くとも呪印術師になることは出来るわよ」


「えっと、済みません。呪印術が何なのか、知らないんです」


「あら、そうなの? なら、これを見なさい」


 そう言って彼女は、自らの右手の甲を俺に見せた。

 今まで大きな桃に気を取られて気付かなかったが、良く見ると彼女の素肌には、赤いインクで様々な模様が施されているのに気づく。

 右手にある模様が、俺には文字のように見えた。


「……加速? これって文字ですか?」


「いいえ、文字じゃないわ。でも良く分かったわね、これの意味が。もしかして、見たことがあったりとか?」


 彼女は否定したが、これは文字に違いない。その証拠に、他の箇所の模様も俺には文字に見えていた。ただちょっと胸のところの文字が、薄い衣が邪魔をして良く読めない。

 あとちょっと、あともうちょっとで読めるんだ。俺の知的好奇心が、服をめくってしまえと囁くが、流石にそれはアウトな事は俺にもわかった。


 そんな逡巡など無かったかのように、俺は何食わぬ顔で答えた。


「そう言えば、うちの田舎のばあさんが、そんなのを使ってた気が」


「これの他にも、分かる呪印はあるかしら?」


「……はい……えーと、たぶんですが」


「ふふふ、やっぱり私の目に狂いは無かったわ! 良く見ればあなた、実に呪印術師向きの顔してるわね。腐った良い目をしてるわ!」


 腐った良い目で、呪印術師向きとか、急に不安になって来たんだが。


「で、どうかしら? あなたならきっと、かなり優秀な呪印術師になれると思うわよ」


「なるほど、俺は呪印術師に向いてるか…………だが、断る!」


「えっ、なんでよ!?」


 むしろ、何で今の勧誘に引っかかると思ってるんだこの人は?

 俺はノーと言える日本人だ。



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