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ギルド選びは慎重に

 疲れた身体を引き摺って門の中に入ると、確かに入ってすぐの所に冒険者ギルドは在った。


 意外と小さな建物には看板が掛かっており、『冒険者ギルド連盟、サウスホープ北出張所』と書いてあった。

 少し時間は掛かるものの、やはり文字は読める。

 頭の中に辞書がある感覚というのだろうか? 実際に書かれている文字を見れば、辞書を引くように頭の中から知識を引き出すことができるようだ。


 一瞬入るかどうか迷った後、ギルドの扉を開いた。

 正直言うと、宿屋で一晩休みたいところだ。だが、俺の性格的に一度あとに回すと、そのままズルズルいきかねないからな。

 

 中に入ると、思ったよりも小奇麗な場所で驚く。ガラの悪い男どころか、ギルド職員らしき人以外は、ほとんど人がいない。


 窓口には、美人のお姉さんと年若い少女が座っており、俺は少女の方に声をかけた。 


「アノ、ココ、ボウケンシャギルド、アテルカ?」


「えーっと、はい! あってますよ~」


 片言の言葉にも、少女は笑顔で返してくれた。


 別に俺はロリコンな訳ではない。この世界の人の容姿は欧米系のため、どうしても気後れしてしまうのだ。大人に比べれば子供のほうが顔の彫も浅いため、どちらかと言えば日本人に近く、話しかけやすい。日本人が海外で若く見られるのは、こう言う事かとも納得する。


 言い訳はほどほど、話を進める。


「ボウケンシャナル、シゴトクレ」


「あれ、異人さんですか~? なら、ゆっくりお話ししますね~。冒険者になるにはですねぇ、銀貨10枚必要なんですよぉ、大丈夫です~?」


「ジュウマイカ……」


 あっぶねー、もし宿屋に泊まって、数日ゴロゴロしてたら、詰んでたぞ……。

 銀貨10枚と言えばだいたい10万円、俺のほぼ全財産だ。詐欺じゃないだろうなと俺が訝しがっていると、少女が説明してくれる。


「仕方ないんですよぅ。これって、登録料と、研修授業料を、含んだ金額なんです~」


「ソウカ、ケンシュウカ」


「まずは、2日間の冒険者研修ですぅ。3日目に、適性検査を経まして、職能ギルドを決めますぅ。その後3日間は、各ギルドでの研修となりますね~。1週間かけて晴れて、冒険者となるわけですぅ。その1週間にかかる金額が、銀貨10枚なのですよ~」


 一瞬6日しかないじゃんツッコミかけたが、この世界では6日で一週間な事を思い出して思いとどまる。


 6日で銀貨10枚か、くそたけー。つうか1週間、無給ってことだろそれ。残りの、実質銀貨1枚ちょい(小銀貨10枚+銅貨10枚)で、6日過ごせんのか?

 あ、あと職能ギルドってのが何なのかも、聞いとかないと……。



 その後も少女は、俺の片言の質問に嫌な顔一つせず、一つ一つ丁寧にゆっくりと答えてくれた。

 

 食事と宿については、ギルドの仮眠室が使え、簡単な食事程度なら出してくれるらしい、それも料金の内だそうだ。


 あと、ギルドには統括ギルドと職能ギルドの2種類が存在するそうだ。

 冒険者ギルドは統括ギルドの一つらしく、統括ギルドは他に、傭兵ギルド、労働者ギルド、商人ギルド、職人ギルドなどがあるそうだ。統括ギルドでは主に仕事の斡旋をしているとのことだ。

 対して職能ギルドは、戦士ギルドや魔術師ギルド、鍛冶師ギルドや薬剤師ギルドと、様々なギルドが存在している。そこでは技能を教えたり、互いに研鑽し合ったりしているとのこと。


 そのため、統括ギルドと職能ギルド、合わせて2つのギルドに加入するのが一般的なのだとか。職能ギルドで技術を磨き、統括ギルドで仕事を受けるといった流れだ。


 ちなみに、この街の人口は約10万人で、そのうち6万人以上が、なんらかの統括ギルドに加入しているのだそうな。その内訳は、半分以上が労働者ギルドで、残りを各ギルドで分け合ってるのが現状とのこと。冒険者ギルドの加入者は、約5000人ほどと言っていた。



 でだ、俺がどのギルドへ加入するのが良いかと言えば。結果から言えば、冒険者ギルドであった。理由が分かれば、門番さんが他のギルドでなく、冒険者ギルドへ行けと言ったのも頷けた。


 まず、労働者、商人、職人ギルドは、街の中の仕事が主だ。何の伝手も無い余所者の俺が、そうそう登録できる物でも無いらしい。一応、労働者ギルドなら登録できるだろうが、割のいい仕事は貰えないだろうとのことだ。

 次に傭兵ギルド、これは街の警備や、街道での護衛が主な仕事だ。警備のような仕事は、見た目の厳つさではったりを利かせるのも重要だ。俺のようなヒョロヒョロな男には向いていないそうだ。 


 そんなヒョロヒョロな男が、何故冒険者に向いているかと言えば、俺がヤマト人(ほんとは違うけど)であることが要因となる。ヤマト人は魔力適正が高く、優秀な魔術師が多いらしい。魔物を討伐する機会の多い冒険者にとって、強力な一撃を持つ魔術師は重宝されるとのことだ。



 この俺が魔術師か、これはチート魔術師誕生の予感がするな! なにせ俺は前世でも魔法使、ゲフンゲフン。いや、これは忘れてくれ。


 冒険者ギルドに加入することを決め、少女に伝える。


「セツメイ、アリガト、オレ、ボウケンシャ、ナル」


「ありがとうございます! それではこちらに、必要事項の記載を、お願いしま~す」


 渡された用紙には、名前と住所、特技等の項目があった。


 名前を書こうとして気づく。クルスってどう書くんだ?と。

 読むのなら簡単だが、実際に書こうとすると難しい。ぼんやりとは思い出せるのだが、確信を持てない感じだ。

 あれだ。薔薇という漢字は読めても、書くことはできないのと少し似ている。


 この調子だと、文字を書くには練習が必要そうだ。小学校の時にした、漢字の書き取り練習を思い出してげんなりした。


「あっ、よろしければ、代筆しますよ~」


 俺が気落ちした様子なのを察して、少女がそう申し出てくれる。


「アリガト、オレ、クルス」


「はい! クルスさんですね~、どこに住んでますか~?」


「イエ、ナイ」


「それは失礼しました……では、特技などはどうですぅ?」


 不味い事聞いちゃったなぁという顔をした後、気を取り直して訊く。


「トクギ……ナイ……」


「だっ、大丈夫ですよ……元気出してください! これからです。作れば良いんですよ!」


 俺が言い淀むと、少女が元気づけてくれた。

 いや別に、特技が無いから言い淀んだのではないんだ。トランプとかのカードゲーム全般は得意なんだが、こっちの世界じゃ通じないだろうなぁと言い換えたためだ。

 そんなん特技の内に入らんだろと言うのは、行っちゃダメなやつだ。涙が出てきてしまうから。


「アリガト、オレ、ガンバル」


「はい、頑張ってください! あっ、ちょっと待ってくださいね~…………よしっと、これで登録はできました。ようこそ冒険者ギルドへ!」


 こうして俺は、冒険者への第一歩を踏み出した。


 しかしこの時の俺は気づいてなかった。冒険者がブラック企業顔負けの3K(キツイ、汚い、危険)であることを。

 やばい企業ほど、受付の女性が可愛いかったりするのだ。



どうでもいいですが、異世界物で言語ネタは入れにくいですね……。

住所を聞かれた時に、↓のような聞き間違いネタを入れようとして、却下しました。


「イエ、ナイ」

「むむっ、何かご事情があって、言えないのですか?」


日本語なら出来ますが、実際は異世界語の会話のつもりですからね。


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